油断大敵
立ち昇る煙と赤らんだ炭の匂い、肉が焼けていく美味しそうな音。
食べ頃になった肉を皿に取り分け、次に何を焼こうかと足りなくなりそうなものを考えて野菜を網に乗せる。
上手い具合に場が回っていると満足感を覚えるあたり、自分はこういう事が好きなんだなとしみじみと感じた。
「ごめんねー橘ちゃん、焼いてもらっちゃって」
「ううん、焼くの楽しいから大丈夫だよ」
それぞれ何となく出来上がってるグループが盛り上がるなか、同僚が様子を窺いに此方に戻ってくる。
よく気が付く同僚もまた、パタパタと色々な所に動き回っては世話を焼いている。
「代わろうか?ちゃんと食べてる?」
「うん、食べながらやってるよ」
社内の親睦会に出るのは久しぶりだ。
少し前だったら精神的に行けてなかっただろうけど、今はたまにはいいかと思えるくらいになった。
それに、周囲には言っていないけどいつまでこの会社にいられるかわからないので、こういうのにも参加しておきたいと思ったのだ。
親睦会も全社員対象のものでなく小規模で、集まってワイワイするのが好きな人達が率先して企画したもので。
同じ部署の女子達が行こうかという話をしていて、一緒にどう?と誘われたらやっぱり嬉しくなるものだ。
手ぶらで行けるおしゃれなバーベキュー施設は初めてで、海も見えて景色も良い。
焼く事ばかりに専念しているけれど、雰囲気も相まって美弥なりに楽しんでいる。
「ねえねえ、聞いた?あそこの二人付き合い始めたんだって」
「えっそうなの?」
同僚に言われて視線の先にいる男女を見つけて驚く。
同じ部署の後輩と、あの女性は確か違う部署の子だったと思う。
「知らなかった……」
「それ知った周りが自分も出会いがほしい!ってなって今日のバーベキューになったんだって」
「ああ、なるほど」
周囲をよく見れば違う部署の男女が入り混じって喋っている。
美弥は知らなかったが、この親睦会はある意味合コンの場であるらしい。
けれど違う会社に彼氏がいる同僚と、その気がない美弥の二人にはあまり関係がない話だった。
「まぁあたしらは肉が食べれればそれでいいけどね」
「あはは、一緒にいてくれる人がいて嬉しいよ」
「何言ってんのー、橘ちゃんも別に次に進んでもいいとは思うけどねぇ。無理にとは言わないけど」
「んー……今の所はいいかなぁ」
「そっか。じゃあいっぱい食べて飲もう!ほら乾杯ー!」
「あ、ちょっと待って、乾杯!」
明るくて気遣いのできる同僚に感謝しながら、二人で缶を合わせてアルコールを口にした。
こうやって笑っていられるだけで此処に来てよかったなと思った。
「お疲れ様」
やって来たのはいつも気にかけてくれる先輩だった。
先輩は此処に乗り合わせて来る時に車を出してくれた一人なので、ノンアルコールの缶を持ってにこやかに笑っている。
「すみません、私だけお酒頂いちゃって」
「気にしなくていいよ。今日橘さん来てくれて嬉しい」
「え、そうですか?」
「前はあんまりそういう気分になれなかったみたいだけど、少しは元気になれたのかなって」
「……そうですね」
以前にもこんな会話があったけれど、確かにあの時とは心境が変わっている。
元気になったのは、結局はあの人のおかげだ。
一匹狼そうな雰囲気のくせして、ストレートな愛の言葉を頻繁に口にする彼に絆されてしまった。
アメリカ人である所以なのか、彼本来の性格なのかはわからないけど、典型的な日本人である美弥はあれに弱い。
ただ口が軽い訳じゃないのは彼を見ていればわかる。
愛されている、それがはっきりと伝わってくるのは今までになかった感覚だった。
「あれ、もしかして良い出会いとかあった?」
「えっ、いえ、ないですよ」
「そっか。確かに明るくなったような気はするけどね」
「あはは……」
頬が緩んでいただろうかと美弥は首を振りながら慌てて表情を元に戻した。
嘘を言った事になってしまったけど、ここで迂闊な事を口にすれば聞きつけた皆からの質問攻めにあい、全て白状する羽目になるのはわかりきっている。
ただでさえどこの人だと言いづらい相手だ、下手に情報を漏らさないようにするには否定しておくのが一番よかった。
(いつかは、ちゃんと言わないといけないな)
同僚も心配してくれているし、美弥が落ち込んでいた時期にも付かず離れずの距離で見守ってくれた人達だから、言える時がきたらちゃんと報告しようと思った。
「でも実際どう?良い人がいたら仲良くなりたいとか思ったりする?」
もう既にいる場合はなんて答えたらいいのだろう。
でもそれは言えないもので、結局先輩の質問に曖昧な言葉で返す。
「……そういう機会というか、きっかけがあれば考えてもいいかなとは思います」
「お、橘ちゃんが前向きになった!」
同僚の方が自分の事のように喜んでいる。
「いいと思う!その気持ち大事だよ」
「……うん、ありがとう」
やっぱり、少しだけ罪悪感が積もった。
焼けた肉や野菜を配り、盛り上がってるグループを眺めながら此方では平和な時間を過ごし。
面倒な片付けを終えると、帰り道も同僚と一緒に先輩の車に乗せてもらう事になった。
お酒も飲んだせいか、車の後部座席で緩やかな振動に揺られていると次第に眠気を感じるようになる。
一人だけ寝てしまうのはマズいと、降りてくる瞼と格闘しながら同僚や先輩が仲良く話しているのを聞いていると。
「橘ちゃん」
声をかけられ、ハッと目を覚ます。
その時になって自分が寝ていた事に気付いた。
「先輩が送ってってくれるって言うから、送ってもらったら?」
「いや、そんなっ、駅で大丈夫だよ」
慌てて否定しようと周囲を見渡せば、目の前には見慣れない景色とマンションがある。
「私も送ってもらっちゃったんだよね」
「うん、遠慮しないでいいよ」
どうやらここが同僚の家らしい。
あっけらかんと言われてしまうと強く否定もできなくて。
「じゃあ先輩ありがとうございました!橘ちゃんまたねー!」
「あ、うん……」
結局送ってもらう事になってしまった。
流石にもう眠気は吹き飛び、どうして眠ってしまったんだと走り出した車の中で項垂れるように小さくなる。
「すみません……」
「いいよ、橘さんよく動いてたから疲れたでしょ」
以前にもこんな事があったような気がする。
いつも強く言う事ができないのだと、美弥は不甲斐なさすら感じた。
「でも今日橘さん来たの意外だったな。あんまりこういうのに参加するイメージがなかったから」
それでも先輩は明るく和ませるように話を振ってくれる。
「私自身はあんまり騒げないですけど、参加するのは嫌じゃないですよ」
「そうなんだ。ずっと焼いてくれてたから申し訳なかったね」
「いえいえ、焼くの好きですから苦じゃないです」
「って事は、アウトドアとかも好き?」
「そうですね……好きですよ。自分から積極的に出かけるタイプではないですけど」
「へぇー」
感心するような声が聞こえる。
最近は子供達に誘われて色んな所に行っているなと、楽しく笑っている顔を思い出してくすりと笑う。
「……じゃあ一緒にどこか行こうって言ったら、どう思う?車も出すし」
「えっ」
それは二人でという意味だろうか、いやたぶんそうなのだろう。
窺うようにしながら切り出された誘い文句に美弥は言葉を詰まらせる。
そういうつもりで言った訳ではないのだけど、先輩からしたら話の良いきっかけになったのかもしれない。
(なんて答えたらいいの……)
ただの勢いというかノリで言われているだけかもしれないし、先輩が好意を持っているかもはっきりわからないし、返答に困る。
「…………」
「……って、そんな事いきなり言われても困るよね」
困惑の表情を読み取られたのか、察した先輩が冗談ぽく笑ったのが聞こえた。
「あの……ごめんなさい」
「いや、うん……わかってたから」
どっちの意味かわからず謝罪だけを口にすると、先輩は真面目な顔をしながらも寂しそうな声を出す。
やっぱりこれは軽いノリで言われたものでなく、告白だったのだろうか。
「本当は……前からいいなと思ってたんだ、橘さんの事。でも長く付き合ってる人がいる事も知ってたから、別にどうこうしたいと思ってはなかったんだ」
「…………」
「でも事故の事聞いて……橘さんがやつれていくのを見るのも本当に辛かった。俺じゃダメだろうかとも思ったけど、付け込みたかった訳じゃないんだ」
「……それは、わかってます。先輩はいつも、優しくしてくれたから……」
「ただ元気になってほしくて……それで、俺が笑わせられたらいいなと、ちょっとは思ってたけど……やっぱり駄目だな。彼氏がいなければもしかしたらって、思ってる自分がいる」
それは誰でも考えてしまう事だと思うから、責めるような気持ちにはならない。
ただ先輩の好意を受け止められないのを申し訳なく思う。
(先輩に嘘はつけないな……)
余計な期待をさせて結局傷付ける事になってしまったのは、美弥が嘘をついたからだ。
これだけ打ち明けてもらったのだ、せめて誠実でいなければならないと思った。
「すみません、先輩……私、嘘をついていました」
「え、嘘?」
後ろの座席にいるので正面から対面する事はできないけど、バックミラー越しに目を見て、そして口を開く。
「……今、大切にしたい人がいます」
「え、……そうなの?」
「……はい。あれだけみんなに迷惑かけたのに、こんなに早く新しい人にいけるのかと思われたくなくて……咄嗟に良い人はいないと言ってしまいました……だから、すみません」
「そう、なんだ……」
驚いたような放心したような反応をしたのち、先輩は悲しげに笑った。
「いや、うん……前向きになれたならいいと思う……どのみち、俺では駄目だったって事だけど」
「……すみません」
「そんな、謝らなくていいよ。よかったよ、良い人に出会えて」
「それで、あの……ちゃんと言える時がきたらみんなに打ち明けようと思ってるので、会社では……」
「わかってる。言わないよ」
「……ありがとうございます」
怒る事もなく、よかったと言って此方を気遣ってくれる先輩はやはり素敵な人だと思う。
だから余計に罪悪感が募る。
「そっかー……どんな人って聞いたらまずいかな?あんなにショック受けてた橘さんを立ち直らせた人って、ちょっと気になる」
「……えっと……」
彼をなんて形容すればいいのだろう。
優しい人なのは確かだけど、それだけではない。
包容力とか頼りになるとか精神的なのも含めて、揺るがない絶対的な強さを持っている人。
「……何があっても守ってくれる人、ですかね」
「ええ、なにそれ恰好いい」
先輩が笑ってくれるので、緩んだ雰囲気に助けられて美弥も小さく笑えば、首元のネックレスがチリと音を立てた。
努めて明るく振る舞ってくれる先輩のおかげで気まずさはあまり感じないまま車は走り、美弥は家の近くにまで来た。
「この辺でいいのかな?」
「あ、はい……ありがとうございました」
自宅マンションの前で停めてもらい、さっきの件も含めて頭を下げると車を降りる。
「おや、今お帰りですか」
「っ!?」
低く柔らかい声が背後から聞こえて思わず振り返る。
気が付けば眼鏡をかけた茶髪の沖矢……すなわち赤井が笑顔で立っている。
(ど、どうしてここに?)
「連絡はしましたけど、その様子では気付いてなかったみたいですね」
「えっ」
慌ててバッグからスマホを取り出せば確かに通知がいくつか来ていたようで。
(ホントだ、気付かなかった……っ)
「橘さん、知り合い?」
「え、あ、はい…っ」
車内から心配そうな顔をする先輩、何か言わなければと思うのに背後が気になって仕方ない。
なんだか見られてはいけない場面を見られたようで動揺が隠せない。
加えて沖矢がいつもより何割か増しで丁寧で、うすら恐ろしいくらいの笑顔でいるから、彼がいる事の嬉しさより怖さが勝る。
「家まで送ってもらったんですか?」
「えと、会社の親睦会があって、それで……」
「そうですか。それはわざわざ送っていただいて、ありがとうございます」
丁寧すぎるくらいの口調で車内に笑いかける沖矢。
彼が今日来る事は知らなかった。そして美弥は親睦会の事を言わなかった。
内緒にしていた訳ではないが、忙しそうにしている彼に会社のちょっとした行事を報告するまでもないと思ったのは確か。
だけど、これはもう疑うまでもない。
彼は確実に、怒っている。
「えと……あなたは?」
「申し遅れました。僕は沖矢昴といいます。いつも彼女がお世話になっています」
「もしかして……さっき橘さんが言っていた人?」
先輩の窺うような目は、どちらかというと沖矢が不審者かそうじゃないかを考えあぐねているようで。
だからちゃんと言わなければならないと、美弥は狼狽しながらも小さく頷いた。
「……はい」
「そう、ならいいんだ。じゃあまた会社で」
「あ、はいっ、ありがとうございます」
「遅くまで彼女をお借りしてすみませんでした」
先輩は気分を害した様子はなく、最後に沖矢にも挨拶して帰っていった。
車がいなくなった後の、無言の空気。
もっと何か言ってくるのかと思っていたけれど、隣の沖矢はその場に立ったまま。
「あの……ごめん……」
「…………」
「さ、最初は断ったんだけど……流れで、送ってもらう事になっちゃって……でも何もないよ」
どこからどこまで謝っていいのか、該当するものが多くて全部の意味を込めた謝罪を絞り出す。
ちらりと窺うように彼を覗くと、笑顔を消した沖矢はふうと深く長い溜息をついた。
「迂闊だな。アルコールを飲んだ状態で男の車に乗って、何も起きないと思ったのか?」
「っ……」
「断れない性格も考えものだな」
それだけを呟き、マンションの中に入っていく。
(どうしよう)
やましい事は何もない。だけど彼が言っているのはそういう事ではない。
お酒を飲んで、しかも途中寝てしまってもいて、男性の運転する車から降りてきたのは確かで。
自分がもし逆の立場だとしたら、彼が知らない女性の車に乗り、降りる所を目撃してしまったら嫌だと思う。
怒らせてしまったと、拒絶の気配が強い背中を追いかけながらぐるぐると頭が混乱する。
心臓は音を立てて鳴っているし、指まで小さく震えていく。
謝らなければ。ただそれだけの思いで必死に彼の後を小走りで歩き、合鍵で部屋に入る沖矢に続く。
早々に変装を解いたのに、一向に目が合わないその鋭い瞳に美弥は余計に恐怖を覚える。
ソファのいつもの位置に腰を下ろした赤井の傍に恐る恐る近付いて立ち尽くす。
「シュウ……ごめん」
「……美弥」
「っ」
どんな言葉が投げかけられるのだろうとビクビクしていると、小さなため息が聞こえた。
「すまない。もう怒ってない」
「、え……?」
深い色の瞳がようやく此方を向き、彼の手が隣の空いた場所に置かれる。
座っていい合図だと解釈して美弥も控えめに腰を下ろす。
「さっきは感情的だったが、今はそうでもない」
「そ……う、なの?」
「よく考えれば、その警戒心のなさに付け入った俺が言えた事ではなかったなと思い直した」
「そんな……」
自嘲するように苦笑する赤井に美弥はふるふると首を横に振る。
今回の件は完全に美弥が悪くて、彼が反省する事はないのだ。
「だからこそ心配になる。お前がふらふらと違う男に付いていってしまうのではないかと。お前に自覚がなくとも、連れていかれる事だってある」
「…………」
自分達は出会った最初が酒の席で、そこからはほとんど勢いと成り行きだった。
それがあったから、他の人とそういう事が全く起きないとは言い切れないのが不安の根源なのだろう。
美弥にとっては赤井との出会いこそ特殊な事例で普段はそんな事はないのだけど、それでも彼の脳裏に少しでもよぎらせてしまったのは自分だ。
「ごめん……不安にさせて。確かに迂闊だった。これからは気を付けます」
「ああ、そうしてくれ」
幾分か気持ちが落ち着いたのか切り替える為か、赤井が煙草に火をつけて静かに深呼吸を始める。
怒ってないと言ってはいるけれど、いつもより元気がない様子は変わらない。
彼にしてみれば、今日ここに来るとメッセージを送ったのに返事はなく家にも帰っていなくて、念の為に位置情報も確認した事だろう。
そしてやって来た美弥が男の運転する車から降りてきたのなら穏やかではいられないはずだ。そして心配もしただろう。
ごめんねと、心から思う。
どうやったら安心してくれるだろうと美弥は必死で考えて、おもむろに彼を抱きしめる。
見捨てられるかもしれないと思ったら怖くて仕方がなくて、彼でないといけないのだと改めて思い知らされた。
「好きだよ……たぶんシュウが思ってるより、私はシュウにしか心許せてないよ」
「それはそうだな」
「えっ」
結構な告白のつもりで口にしたのに、意外でもなさそうな返事に美弥の方が驚いてしまった。
顔を上げると、間近から此方を見下ろしてくる少し笑んだ瞳が。
「お前は状況には流されやすい性格だが、人との距離は必要以上に近付こうとせず一定を保っているだろう?」
「……そうなのかな」
そうしている自覚はないけれど、はっきり断定されるとそうなのかもしれないと思えてくる。
「積極的に近付かれるのも好きじゃない。恐らくお前なりの基準があって、認めた人間には自分から距離を詰める。
だからお前を落とすには、お前から此方に近付くように仕向けなければならない」
「……よく、わかるね」
「プロファイリングも仕事のうちだからな」
きっと当たっているのだろう。
なんだか気恥ずかしいのに嫌な気持ちにはならないのは、それは美弥が赤井に心を許しているから。
だけど逆に考えれば、そこまでわかっているのなら他の男にふらふら付いて行ったりしないのもわかっているだろうに。
そう思ったのが顔に出てしまったのか、口角を上げながら彼の腕が美弥の腰に回り、ぐっと引き寄せられる。
「わかってはいるが、他の男に自分の女を狙われて平気な訳ではない」
「……うん」
自分の女と言われている事に僅かに喜びを感じつつ、それに関しては反論のしようがないので美弥は大人しく享受するしかない。
「それで、さっきのは誰だったんだ?」
「え?会社の先輩で……でも」
「何もなかったとは言わないよな?あれは、何とも思っていない男の目ではなかった」
「…………」
これは言わないと離してくれないやつだ。
見透かすように至近距離で瞳を覗かれて、観念した美弥はポツリと言葉を紡ぐ。
「こ、告白、されたんだと思う……」
「ほう?」
「だから、断ったよ。私には、大切にしたい人がいますって……」
赤井の目を見上げて言葉にする。
彼に告白しているようで恥ずかしいけど、自分はちゃんと言ったんだと伝えたかった。
「その大切にしたい人は、俺の事かな?」
「……そうだよ」
深い色合いの瞳が緩やかに細められ、その続きを待っている。
わかってるくせに、と思う。
だけど、美弥にだってわかっている事がある。
彼は、決してユキに関する事は訊いてこないのだ。
どんな人で何をしていたとか、どう一緒に過ごしていたかとか、気にならないという事はないと思うのだけど、訊かれた事は一度もない。
だから、これは戯れだ。ある意味仕返しなのだろう。
当て馬にされてしまった先輩に少し申し訳なく思いながら、美弥は彼の望みに答えるべく唇を寄せた。
「機嫌、なおった?」
「お前から俺を愛してくれるなら安心できるかもしれないな」
「……そう言うと思った」
「お前に想われているという事を実感させてくれ」
美弥だって彼を安心させたいし、知って欲しいのだ。
どれだけ自分が彼の心を必死に繋ぎ止めたいと思っているかを。
こんな事で満足するのならいくらでもするし、自分だって触れたいのだ。
「わかった……けど、私は重いよ?」
「望むところだ」
意を決した美弥は手を伸ばし、ソファの背もたれからズルズルと赤井を押し倒し、下で笑っている唇を深く塞いだ。
Top
その先を書く余力はありませんでした。
元々は二人が喧嘩した所が書きたいなと思っていたのですが、夢主がまず怒らないのでどうしても思い付かず。
迂闊な夢主に赤井さんが怒るパターンならあるだろうなと出来上がった話です。
けどネチネチ引きずるタイプではなさそうなので結局早めに解決してしまう。スパダリ怖い。