「これから僕に大人の授業をしてくれませんか?」






「あ、わかった!ここの公式を当てはめればいいんだよね?」
「そうそう、コツがわかれば簡単でしょー?」

久しぶりに見る高校の教科書。
ランカが教えて欲しいと言うので、リチェルは非番を利用して家庭教師の役を買って出た。

「もう忘れちゃったって言ってたのに、できるじゃないリチェルちゃん」
「んーでもあまり自信ないよ?」
「ううん、見てくれるだけで嬉しい!リチェルちゃんとも一緒にいられるしね!」

アイドル業が忙しくなってから、ランカはあまり授業の内容についていけなくなっていた。
それで姉代わりであるリチェルが呼び出されたという訳だった。

元々リチェルもランカに会いたいと思っていた頃だったので、この誘いに喜んで応えた。
ランカが無邪気に笑うのでこちらも自然と頬が緩んでしまい、この妹の為に何でもしてあげたいという気さえする。

「数学と物理以外はあやふやだよ?」
「うん、それだけでも十分!」
「……わかった、頑張って高校数学思い出すね」

リチェルは運ばれてきたジュースを一口飲むと文字記号の羅列との戦闘態勢に入った。


順調にページが進む頃、ふいにリチェルの携帯が着信を知らせた。


「もしもし?」
『ああリチェルさん?今日非番でしたよね、今どこにいます?』
「今はー、外でランカといるよ」
『へぇ、デートですか?』
「……女同士でそれが当てはまるならそうなんじゃない?」
『俺という男がいるのに?』
「うーん……ごめん」

返答に困り適当な返事をするのを、ランカは「誰?」と言いたげな顔で見ていた。

『俺は少しでも長く貴女といたいのに。リチェルさんは?』
「えと……うん、まあそうだよ」
『俺に会いたい?』
「………会いたい、かな」

何故こんな恥ずかしい事を言わされないといけないのか、
首を傾げているとランカが呆けた顔でリチェルの背後を見るので振り返ると、

「俺もだよ、リチェルさん」

右耳にあてた携帯から、そして左耳からじかに囁かれた。

驚いた、だけどそれを悟られないように「……何してるの」と静かに尋ねると、 ミハエルは悪びれもせず「浮気調査」と答えた。











「よく考えればミハエルとアルトに教えてもらえばよかったんだね。校内1位と2位でしょ?」

結局あれからランカの家庭教師は3人に増えた。
ランカ曰く、2人は成績が良すぎるから聞くのが憚られたようで、それなら親しいリチェルの方が良いと思ったらしい。

ランカは最初ばつが悪そうに小さくなっていたが、ミハエルとアルトが献身的に教えた為最後は満足そうに帰って行った。

「あの程度の問題ならアルト姫だけで十分ですよ」
「……ミハエルは?」
「俺はほら、教えるより教えられる側の方が好きですから」
「何言ってんの、ミハエルはアルトにだって……」

言葉途中で腰を引き寄せられ、小悪魔のような笑顔がリチェルに刺さる。

「僕はリチェルさんに色々教えてもらいたいな、手取り足取り」
「……何を?」


「これから僕に大人の授業をしてくれませんか?」


だから私も負けじと満面の笑みで返してやる。


「いいよ、帰ったらシミュレータでみっちり指導してあげるよ」
「……まぁ、そういう事にしておきましょう」

ミハエルは余裕の表情を崩すことなく、リチェルの手を取って歩いた。



……いつか負けてしまうのではないか、リチェルは内心焦っていた。


だけどそれは絶対、ミハエルになんか知られたくない。











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口説いてばかりでミシェルが気持ち悪い(笑)