玉石の錬金術師






「ねぇ、エド」
「…………」
「エドってば!」
「……あ?」

ようやくエドは読みふけっていた本から目を放した。
机越しにエドの顔を覗き込んだ。

「今ね、そこの通りで何かのバザーやってるの!……行かない?」

ご丁寧に窓の方に指を差してフェリアが言う。

「……行かねぇ」

興味なさげに本に視線を戻した。

「いいじゃない兄さん、たまには気晴らしにさ」
「…………」

アルが気を揉んで説得してくれたのにもうすでにエドは耳を貸さない。

「行こうよエド!」
「……1人で行ってこい」

鬱陶しいって声だった。


むぅ……!


「……もういいよ!」


バタン!


フェリアは頬を膨らませて出て行ってしまった。

その騒音にエドがはっと我に返った。

「何だ今の音?あれ?フェリアは?」

本に熱中するのもいい加減にしなさい。

「僕知~らない」
「……で、何処行った?」
「知らないよ僕は。兄さんに言ってたんだから」
「え?俺また何かした?!」

頭をこづいて思い出しても記憶にない。
いやいや、何となくさっきの会話がぼや~っと浮かんできた。

「えっと……バザー……だっけか?んで……」


バタン!!


さっきの怒りの音がリプレイされた。

「…………」


マジィ……


「……あいつ怒ってたか?」
「そりゃもうカンカンに」

顔面中が汗まみれになった。

「……やっぱ……俺が悪いのか?」

アルは鼻歌まじりに楽しそうに部屋から出て行った。











バザーは結構盛んだった。
新鮮な果物からミリ単位のネジまで何から何まで売られていた。

最初は大股で歩いていたフェリアもいつしかその活気に気をとられていた。

「あ!石まで売ってるぅ~!」

そこはそれ、なにぶんフェリアは「玉石」の錬金術師ですから石には目がない。
キラキラ目を輝かせて見入った。

「これとこれとこれと……!」

国家錬金術師はお金だけはたんまりあるからね。

「きゃあああああ!!!」
「!!」

突如、絹を裂くような女性の悲鳴が通りに響いた。

声のした方を見ると男達が銃を空に掲げていた。
どうやら強盗の類のようなものらしい。

「どこにでもいるんだね……」

フェリアは溜息を付いて男達を眺めた。
エドの影響かあんまりこんな事では驚かなくなった。


あ!そうだった!エドなんか本ばっかりに熱中しちゃってさ……!


さっきの怒りがふつふつと蘇ってきた。

「エドの馬鹿……!」

そんな事を思っていたもんだから、フェリアは男達がこっちに走ってくるのを見落とした。

「どけ女ぁ!!!」

ごつい銃がフェリアに向けられる。

フェリアは慌てて何か錬成しようとポケットに手を突っ込んだが何もなかった。

「しまった!錬成陣の紙置いて来ちゃったんだ……!」

汗がぶわっと出てくる間も男達は来る。
そして邪魔な位置にいるフェリアに銃口が向けられた。


やられる……!!


フェリアは目をつむった。


バァン!!!

「…………?」

銃声はあったのに、全然痛くない。
あれ?と思って顔を上げると、目の前には大きな壁があった。

その隣にはエドがいた。

「……エド!」

「この辺の街は盛んだけど治安がよくないんだよ……気をつけろ」
「あ……ごめん」

怒ったように言われて、助けられた嬉しさはふっとんでいった。











ガチャ……


フェリアが何かの器を大事そうに持って入ってきた。

ノックもないのは俺が返事をしない事を知っているからだ。
だが今日は違う。

「……エド」
「ん?」

エドは本を閉じてフェリアを見た。


いつもは私に気付きもしないで読み続けているのに……


「これ……飲んで」
「何だコレ?」

器に入っていたのは透明な水のようだったが、その中の小さな粒がキラキラ光っていた。
ロウソクの明かりでよけいに光っていた事もあったが。

「クリスタルの水。体がリラックスするの」
「ふ~ん……」

フェリアは天然石や宝石やらの構造を理解し、薬のような作用を引き出す錬金術に長けている。
石の種類それぞれに独特な力があって、それが薬とかになるらしい。

俺はそんな非科学的なもん信じないが、これが効くんだからしょうがない。

「今日……助けてくれたお礼」
「……そうか」

それ以上言う言葉が見つからなくてチカチカ光る水を飲み干した。

「だいたい何で錬成陣の本置いてったんだよ」
「しょうがないじゃない。怒って出てったんだから……」
「だからってなあ……お前アレないと困るだろ。戦い向きじゃないし」

フェリアは自分作成の錬成陣の本を持ち歩いていた。
これがあればすぐ錬成ができるし、わざわざ錬成陣を書く手間もいらない。

「……だって、エドも来ると思ったから」

フェリアは膨れた顔をする。
上目遣いにエドは少し鼓動を早くする。

「だからぁ~……あれは……悪かったよ」

乱暴に頭を掻くエドを見てフェリアは笑った。

「本当だね!じゃあ今度は一緒に行ってね!」

エドの視界いっぱいにフェリアの嬉しそうな顔が映った。

「じゃあ……そろそろ夕飯の時間だと思うから下に―――」

フェリアは言葉を止めた。
振り向くと腕が掴まれていた。

「?何、エド?」

ひょいひょいとエドが手招きをした。

「何よ~」

エドの椅子の近くまで来ると「しゃがめ」という動作をされた。

「?」

見上げる形になったと思ったらエドの顔が近づいてきた。

唇に軽く触れる、キス。

他には誰もいないのに机の影で隠れるようにされた。

「……これで昼間の事は許せよ」

エドの顔が少し赤くなってる。


「……もっと」
「あ?!」
「もっと……じゃないと許してあげない」

エドのこめかみがピクピクいった。

「このヤロ……調子のってんじゃねえよ……!」

強く抱き寄せられてまた唇が塞がれた。
今度は何度も、激しくそれでいて優しく。


ガタッという衝撃で本が落ちた。

本はパラパラとめくれて、2人を見ていた。
この位置からは影になるから、物音だけで2人を聞いていた。











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相手がエドならいくらでも甘々できるのにぃ。
ほのぼのは意味不明に進むのがいいんです(え?)
王道っぽく、ね。