エドの瞳はいつも私より先に行くの……






貴方との距離





ざわつく街並みの中、私達は歩いていた。

「……ったく、何でこんなに人が多いんだよ……」

エドが私の横で悪態をつく。

「仕方ないよ、今が市場のかき入れ時だからねっ」
「んで、もう買う物はないのか?」
「あとは……さっきのお店の方が値段安かったやつがあるから~それを買って……」
「……お前……オバサンみてぇだな」
「なっ……!主婦みたいな考え方してて悪かったわね!」

私がふいっと顔を逸らすと、エドはクツクツ笑っていた。

「しょうがないでしょー!旅の経費も結構馬鹿にならないんだから~」
「わかってるって、フェリアには感謝してるって」
「……あんまり嬉しくないわよ」

フェリアが恨みっぽく見上げてもエドはまだ笑っていた。
その子供みたいな表情にフェリアもふと顔がほころぶ。


私はずっとエドが好きで、エドも私を好きだと言ってくれて。
ギャアギャア言い合う友達の延長みたいな毎日だけど、私は充実している。
だって、好きな人が傍にいる。
それだけで……私は心が温かい。


ドンッ!


「あっ……ごめんなさ……!」

人と肩がぶつかって私はよろめいた。

フェリア!」
「あ……エド!」

エドが振り向いてくれたけど、人の波で思うように距離が縮まらない。
それよりか、少しずつ離れていってる。

「くそ……フェリア!」

人を掻き分けてこっちに近づいてくるエド。

突然右手に感じる、熱い指先。

「馬鹿。何やってんだよ」
「う……ゴメン……」
「ほら行くぞ」

フェリアは顔が赤く火照るのを感じて、俯いてエドの後ろを歩いた。

繋がれた、手。

ちらっと見上げるとエドの三つ編みと赤いコートが揺れていた。

恋人という関係になって、初めて手を繋いだ。
はぐれないようにと繋いでくれたエドの本当の手は、私と違って大きくて、細くて、ホネホネしてる。

紛れもない男の子の手だった。
感じた事のない熱にフェリアの心臓は勝手に踊り出す。

たわいもない会話は途切れたまま。




エドは時々、私を真剣な瞳で見つめる。






「エド~?お風呂空いたよ~?……って」

部屋に入るとエドはベッドに突っ伏して寝息を立てていた。

「寝てるのか……」

ベッドの傍まで行くと、エドはさっきまで本を読んでいてそのまま寝てしまった……というのがありありと分かった。

「もう……ちゃんと寝ないと風邪ひくよ~?」

でも起きる気配はない。

「エドってば~」

ツンツンとほっぺたを突いても少し目を寄せるだけ。
それが可愛くて、起こす事なんかできなくなった。

「えへへ……エド~」

フェリアは嬉しくなってエドの顔のすぐ近くに自分の顔を置いた。

愛しい人の、傍にいる。
そして想いが通じた今が、一番幸せの絶頂期なんだと思う。

「エド……好きだよ……」

言ってて恥ずかしくなってフェリアは立ち上がった。


―――その瞬間。


フェリアの手首が強く掴まれた。

「エド……?」


ドクン……


振り返ると、飛び上がった心臓の音。

エドが強い目でこちらを見ていた。
真剣なその表情にフェリアは戸惑いを隠せない。

「エ……エド……?起きてたの……?」

平静を装って聞いても、横になったままのエドからは何の返答もない。

ただ、少し濃い金色の瞳がまっすぐ視線を外さない。
いつもの少しおどけた、子供みたいなエドは何処にもいなかった。

「……ど、どうしたの~?そんな怖い顔しちゃって……」

笑っても、もうエドには通じなかった。


本当は知ってた、こんなサインを出すエドを。
二人っきりの時とかに、時々こうやって私を見つめる。

私達は『恋人』という関係になったんだ。

だから、その先にある行為もいつかあるんだって知ってる。
だけど……私にはまだそんな事考える余裕なんかなかった。
私はエドの傍にいられるだけでよかったから。


エドが望んでいる『その先』の事。
恥ずかしかったり怖かったりで……いつもはぐらかしてた。


「……フェリア
「な……何?」

見つめられるのに困って視線を下にやるけど、今度はエドの鎖骨が目に入った。
ラフに来たノースリーブから覗く適度に鍛えられた筋肉、引き締まった体に首筋や腕の筋が浮かび上がる。
無骨な鋼の腕に負ける事はない。

さらにフェリアは真っ赤になって目を泳がせた。

……華奢な女にはない、男の体が目に焼き付く。


「……避けるなよ、俺を」
「え……別に避けてなんか……」
「俺……お前に触れたい」
「えっ……?!」

初めて口を開いた言葉に、フェリアの心臓は爆発寸前だった。

「ふ、触れたいなんて……き、急に……言われても……」
「……ダメか?」
「いや、その……ダメって事は……あ、で、でも……」

しどろもどろになって答えに窮していた。

しかし、理由を考える暇もなくフェリアは掴まれた腕を引き寄せられた。

「え、ちょっとエド……!待……んっ……!!」

待ってとも言えない間にフェリアの唇は塞がれた。

初めての感触にフェリアは目を見開いたまま凍り付いた。
反面、頭と体は火照ったように熱くなる。

目の前にエドの長い睫がある。
しばらく何も考えられなくなって少し皺の寄った眉間なんかを視界に入れていた気がする。

「んん~っ……!エドッ……!」

慌てて離れようとすると、先にエドが唇を解放した。
金色の瞳がゆっくりと開かれていくのを見て、さらに顔を赤くした。


ひどく……色っぽいと感じてしまった。


「ずっと……フェリアとこうしたかった」
「や、そ、その……」

見上げてくる表情はいたずらっぽくて、いつものエドがいた。
でも、胸のドキドキは治まらないどころか、増してばかりだった。


初めて、エドとキスをした。

想像よりもずっと柔らかくて、熱かった。
触れてるだけなのに、唇に一切の血を持ってかれたような感覚が襲った。

恥ずかしいけど……心が温かくて、嬉しくて……


「!な、何泣いてんだよ……」
「泣いてなんか……っ……!」

自分でもわからない内に涙がボロボロと溢れてきた。

「……嫌だったか?」

エドは起きあがると髪を撫でながら涙を拭ってくれた。

困ったような顔付きも、今のフェリアには艶めかしく見えた。

「いっ、嫌じゃ……ない……!」

そのエドの全身に吸い込まれる。


もっと……触れたい。


フェリアはエドの肩に腕を回した。

「あ……でもやっぱり……恥ずかしい……」

そんなに見つめられると、俯くしかなくなる。


そう思っていた矢先、気が付いたら視界は天井とエドでいっぱいだった。

「え……?!……んん……!」

エドの体重が重すぎずのし掛かり、フェリアは押し倒されていた。

掛ける言葉もなく、また触れる唇。


やっぱり、柔らかいなぁと感じた。


「んんっ……?!」

舌が中に侵入してきた。
突然の事に目を開けたが、その激しい舌にまた思わず目を閉じた。

「っは……んぅ……」

頭を押さえられ、もう何も考えられなくなる。
熱くて、中を動き回って、刺激に弱い場所をなぞられる。

「んあっ……エドォ……!」

思わず漏れるフェリアとエドの吐息が、混ざり合って甘く響き渡る。
頭がぼうっとして、舌に酔いしれて、エドの髪を掻き上げた。

「ん………っは……」

長い愛撫を終え唇を離すと、軽く銀糸が2人の間を伝った。

とろんとした目でエドを見上げる。
視線の先では少し顔を赤らめた少年がいた。

「……ゴメン。もう止められない……」


怖い目をしたり、恥ずかしそうな目をしたり、コロコロと表情を変えるエド。
そんな、私が好きになったエドがいる。

フェリアは回した腕を引き寄せてエドの耳元で囁いた。

「……い、いいよ……エド……」

熱っぽく笑うフェリアにエドはもう一度キスをして、そしてその唇は首筋をなぞった。






―――その時。




コンコン……


「兄さん、フェリア知らない~?」
「「!!!!」」

2人はハッと我に返った。
アルが扉の向こうにいる。

今この状態を見られたら、明らかにヤバいよ……!!!


ガチャ。


「兄さんってば~……って、フェリアまで寝てるし……」

アルが見たのはベッドに向き合うようにして寝ている兄とフェリア
散らばった本が、さっきまで読書をしていたと語っていた。

「……もう、似たもの同士なんだから~。だからいつまで経っても子供みたいな付き合い方なんだよ」

アルの溜息にフェリアは内心ビクビクしていた。


その……子供みたいな付き合い方ではなくなった訳で……


アルはきびすを返して、ドアノブに手をかけて一旦動きを止めた。

「……まぁ、そういう事にしといてあげるよ兄さん。早く入りなよ、お風呂……」

フフフと微笑してアルはドアの向こうに消えた。




「バ、バ、バ、バレてるよぉーーアレ!!」

ガバッと起きあがってエドを揺らした。

「……みてぇだな」
「何でそんな呑気なのよー!」
「別に慌てたって何か変わる訳でもねぇし……」

エドは頭を掻きながら起きあがるとフェリアを抱きしめた。

「ひゃ……エ、エド……?!」
「堂々とこうやって出来る訳だし~」
「……馬鹿エド」

見上げるとエドは悪戯っぽく笑っていた。

そんなエドも好きで、ゆっくりと背中に手を回した。

「……続きが出来なかったのが残念だけどな」
「エド!!」

赤い顔で睨み付ける。
そんな本気ではない目付きが余計に可愛くて、唇を塞いだ。

「…………なんだよその目」

フェリアの怒ったような表情。

「だって……は、恥ずかしいもん……」

涙目でウルウルと見上げてくる。

耐えきれなくなったエドはもう一度キスをした。
今度は舌を入れて、柔らかくゆっくりと。

「はぅ……ん………」

「……これは?」
「だ、だから恥ずかしいって……!」
「さっきはあんなに積極的だったのに」
「なっ!あれは……!」
「あれは?」

フェリアが恨みの声を漏らすが、エドは反対に優しく抱きしめた。

「すっげぇ……好き」


少し前までは、ただの友達だったのに。

少し前までは、友達みたいな恋人だったのに。


「うん……私も……大好き……」

フェリアはエドの柔らかい金髪の感触を確かめて抱きしめ返した。


まだ恥ずかしいけど……キスならいいかな……?


「今度また続きしような?」
「絶対嫌」


もうすぐ完全に埋まる。


貴方と私のキョリ。











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ウフフ、微エロっぽくしました。
急にカッコよい攻めエドが書きたくなって突発的に書いたものっす。