君にそう笑ってもらいたい。






ありがとう。






「……よしっと!こんなものかな?」

フェリアはふうっと一息ついた。

今日はエドの誕生日。
各地を転々と旅をする身だけど、せめて誕生パーティーぐらいはやりたい。
そう思って、フェリアはささやかながらも心のこもった料理とケーキを作った。

「……本当は何か贈り物をしたいんだけどね」

朝、エドとアルが図書館に出かける前に念押しをされた。
『プレゼントとか何にもしなくていいから』と一言。

「だけど……料理とケーキぐらいはいいよね」

フェリアはエドが帰ってくる前に作業を終われた事を心の中で褒めた。
台所に並ぶ、色とりどりの料理の皿が満足感に浸らせる。


―――と、


バァン!


フェリア!」
フェリアただいま~!」

エドとアルが勢いよく現れた。

「あれ?早かったね、まだ夕方だよ?」
「まあね。……って、フェリア!何もしなくていいって言っただろ!?」
「え……料理ぐらいはいいじゃない~」

エドは台所に並べられた料理を見るなりそうまくし立てた。
フェリアはキョトンという顔をしている。

困ったように頭を掻いたエドは何か思考を巡らせている。
アルを向くと、アイコンタクトで言いたい事が伝わり、互いに頷き合った。

「あ~……まぁいいや。それよりコレ!」
「え、何?」

突然白い箱を手渡された。
そこまで厚みはないけど、両手で抱えるくらいの大きさはあった。

「開けてみ?」
「開けてみてよフェリア
「う、うん……」

エドとアルに迫られるまま、フェリアはリボンをほどき、箱を開けた。

「……うわぁ……!」

両手で持ち上げると、それは滑らかな手触りだった。
薄い水色のワンピース……というかドレスに近い代物が姿を現した。
上半身はシンプルなデザインなのに、スカートは何重にもレースが重なっている。

「どうしたのこれ……?」
「プレゼント」
「……え!?」

何でエドの誕生日に自分がプレゼントを貰うのか、サッパリ意味がわからない。

「え、えっと……何で私がプレゼントもらうの?」
「んな事はいいから早く着替えて来いよ!」
「はい!?」

益々わからない。

「な、何で?」
「いいから!」
「ほらほらフェリア~!」

アルも嬉しそうにはやし立てた。

フェリアは首をひねりながらも、取りあえず別室に行きドレスに着替えた。


間。


「……どう?」

フェリアがひょこっと部屋に入ってきた。
歩くたびにレースがふわりと揺れる。

……やっぱり街で一目見た時からフェリアに似合うと思っていた。

「うわぁ~!すっごく綺麗だよフェリア!」
「うふふ、ありがとっ」

アルは鎧なはずなのに顔が赤い気がした。

褒められてフェリアはさらに頬を染め、その場でクルリと回転してみせた。
なびくフェリアの金髪が薄い水色に溶け輝いた。
その笑顔はドレスに負けず劣らず優美だった。

「……フェリアが料理作っててよかったかもしんねぇな」
「え、何?」
「なんでもねぇ」

エドはブツブツ言いながら立ち上がり、台所に向かった。
フェリアを余所に、出来上がっていた料理の皿を次々とテーブルに運ぶ。

「……エド?」
「祝ってくれるんだろ?折角作ってくれたんだしな」

エドは優しい表情で笑ってみせた。

「……何よ~、さっきは怒ってたクセに」
「……あれは計画が狂ったからであって……」
「え?計画?」
「わーー!ぼ、僕ちょっと用事があって出かけるね!」

アルがフェリアの疑問を遮るかのように大声を上げた。

「出かけるの?」
「う、うん!大佐に呼ばれてて!」
「そうなの?ならエドは行かなくていいの?」
「に、兄さんは誕生日だから僕が代わりに行くの!」
「?……ふ~ん?」

よく分からない理論に首を傾げながらもフェリアは取りあえず納得した。

……その隅で兄弟が「レストランの予約キャンセルしてくるから」と話してたのは、フェリアの耳には入らず。


じゃあ!と言って慌ただしくアルが出て行った。
頑張るんだよ!という台詞の意味がわかったのも、今の所エドだけ。

途端に部屋に広がる静けさ。
さっきの喧騒とは逆に、やけに2人っきりの部屋が静かに思えた。

「……いつまで突っ立ってんだよ、手伝え」

エドはてきぱきと皿を並べていた。
何処となく顔が赤いのは気のせいかも知れない。

「アルはいいの?」
「兄弟だからな。別に改まって祝うモンでもねぇし」
「兄弟ってそんなものなのかなぁ……?」
「ほら、早くしねぇと料理が冷めるぞ?」
「……私はこの格好のままで?」
「当たり前だろ?その格好でメシ食わなかったら意味ないだろ」

フェリアはキョトンとしていた。

「……何で?」
「何でってそりゃあ……あ~もう!とにかく座る!」
「え!?ち、ちょっと……!」

イライラしてエドは無理矢理椅子に座らせた。

フェリアの前にエドが料理を並べていく。
それはさながらレストランのウェイターのよう。

フェリアはそれをただ感心して見ていた。

「……今日はエドの誕生日なのに」
「まぁまぁ、たまにはいいだろ?」
「何もこの日に『たまには』を使わなくても良いのに……」

テーブルが整えられ、エドが正面に腰を降ろした。

窓の景色はいつの間にか闇に包まれていて、テーブルに飾られた一本のキャンドルが暖かく光る。
宿の一室なのに、もうこの空間だけ別世界のように感じた。

エドはワインの注がれたグラスを手に持った。

「……お決まりのやるんだろ?」
「え?」
「ほら!俺に言いたい事あるんだろ?」

言いたい事?と頭を巡らせて気付いたのか、フェリアも同じようにグラスを前に掲げた。

姿勢を正し、今日のささやかなパーティーの幕開けの言葉を告げる。

「……エド……誕生日おめでとう」
「…………ん」

恥ずかしそうに互いのグラスをチィンと鳴らした。






「どう?おいしい?」
「ん、うまい」

素っ気ないけど、その言葉一つ一つにエドなりの優しさが詰まっている。

「……あ、このシチューめっちゃうまい」
「ホント!?朝からずっと煮込んでたんだよ?」
「ふぅん」

逆に態度は正直だった。
今だってシチューを凄い勢いで掻き込んでいる。

フェリアはそれを嬉しそうに眺めた。

最初はエドの様子が少しおかしかった。
ドレスを買ってくれたり料理を運んでくれたり、いつもはそんな事しないから不思議だった。
グラスを鳴らすなんて事は絶対にしない。

だけど、今この空間はちょっとしたオシャレなレストランのような雰囲気になってて。
それをエドが作ってくれたかと思うと……くすぐったかったけど。

……恋人なんだと改めて感じた。

そして、エドと私の2人っきり。
私の作った料理を、エドがおいしそうに食べてくれる。
口を開けばたわいもない会話ばかりしてるけど。
それは恋人達って言うより……夫婦という感じで。

……ずっと、こうしていたいなと思った。


「……フェリア
「何?」

顔を上げると真面目な表情があった。

「……俺……こんなんだから偉そうに言えねぇけど」
「こんなん……って?」

エドは手袋をしていない鋼の右手を見つめた。

「……俺と一緒にいても辛い事しかない」
「……エド?」
「………やめるなら今の内だぞ?」
「何言って……」

フェリアは悲痛な顔を浮かべた。
その台詞は別れ話としか思えない。

涙がにじんできたフェリアの瞳を見て、エドは頭を横に振った。

「あ~……!そういう事が言いたいんじゃなくて……!」
「エド……?」
「だから……その……」

頬を赤く染めて口籠もった。
いつもと様子が違って落ち着かないエド。

「それでも……俺と一緒にいてくれるか?」

何で、今さらそんな事を聞くんだろう?

「あ……当たり前だよ!ずっとエドと一緒にいるよ!」
「その……俺とアルが元の体に戻ったら……」

濃い金色の瞳に真っ直ぐに見つめられた。

「エド……?」
「…………結婚……しないか?」


フェリアの体が止まった。


え……?

今……何て……?
結婚?誰が?誰と?

私がエドと?

そんな……急に……!
信じられないよ……!
だって……エドがそんな事考えてるなんて思いもしなかったし!
付き合って長いけど……そんな、『結婚』は夢のまた夢っていう感じで……!

嘘じゃないよね?

あぁでも、嘘じゃなかったとしたら……


「……嬉しい……」

フェリアは微笑んだ。

「嬉しい……すっごく嬉しい……!」
「ほんとか!?」
「だって……結婚って!」
「あはは……めっちゃ恥ずかしい」

頬を染めたエドはいつもみたいに笑った。
さっきの言葉が嘘じゃないって思わせてくれる。

「~~~!エドッ!!」
「うわっ!」

フェリアは立ち上がり、回り込んでエドに飛びついた。
その拍子で椅子がけたたましい音を立て、エドごと倒れた。

「嘘じゃないよね!?」
「いてぇ……嘘でこんな事言わねぇって」
「ホントにホント!?」
「ホントだって」
「私でいいの!?」

エドは顔を綻ばせながら、フェリアの頭を撫でた。

「俺はフェリアがいいんだって」

フェリアにのし掛かれた体勢のまま、エドは自分のポケットを探った。

「ほら」
「え……?」

エドと少しだけ距離を取ると、目の前には小さな箱があった。
それが何なのかは、言わなくてもわかる。

「プレゼント」

フェリアの瞳は大きく開かれた。
そして、次第に大粒の涙が溢れた。

「……今日はコロコロと顔を変えるなぁ……」
「だ、だって……!エドがぁ……っ……!」
「何、俺のせい?」
「……うん……エドのせいっ!」

フェリアは自ら唇を重ねた。
それは少ししょっぱい味がした。

「エド……ありがとう……」

満面の笑顔でそう言った。
テーブルで灯るキャンドルのおかげで、フェリアの涙は光り輝いた。

自分の送ったドレスで、言葉で、指輪で、
愛しい人は最高に綺麗で、穏やかに微笑んでくれた。

エドも自然に顔を綻ばせた。 フェリア以外に見せた事のない、柔らかい笑顔で。

「ありがと……」
「な、何でエドが言うの?」
「その顔が俺が一番欲しかったプレゼント」

エドはまだ何か言いかけたフェリアの唇を塞いだ。

「俺が選んだ最高のドレスで、最高の笑顔で俺に笑ってくれるのがプレゼント」
「……だからドレス買ってくれたの?」
「だってプロポーズするんだからそれなりの雰囲気は必要でしょ。……他にも色々計画してたけどな」
「?」

多分、今頃アルがレストランの予約をキャンセルしてるだろう。
本当はそこで2人っきりの夕食を楽しむはずだったけど、フェリアの料理によってその計画は崩れた。

だけど、結果オーライだったと思う。
こんな可愛いフェリアの姿、他の奴等には絶対見せたくないから。


「ま、その話は置いといて。……それに、だ……」
「それに?」

視線の先には、エドに跨っているからか、際どい位置までめくれ上がってるスカート。
そして、そこから色っぽい足が伸びている。

エドはニィと嫌な笑みを浮かべた。

「……脱がしやすい」
「え!?んっ……!」

フェリアの口を割り、舌を入り込ませた。
突然の事に驚いてる隙に、左手はスカートを捲り太股を撫でた。

「んぁ……エ……ド……!」
「……フェリア……子供作ろっか」
「はい!?」

目を見開くが、エドは意地悪く笑っていた。

「だって子供できたら強制的にもフェリアは俺と結婚」
「え!?ちょっと待って……んぅ…!」

エドはさらにフェリアの舌を絡め取る。
歯列をなぞり、激しく優しく、フェリアの力が弱まっていくまで。

「はぁ……っ……エドは……その過程が好きなんでしょ!?」
「まぁね。ま、半分は冗談だから。まだ2人でいたいし」
「……後の半分は本気だったんでしょ」

ジトォと睨まれてもエドは涼しい顔をしていた。
それよりか、太股を撫で続けていた手を下着にあてがった。

「やっ……いきなり……!」
「順番が違うって?順序よくやれば言い訳ね」

そう言って右手はドレスの肩紐を降ろし、直接胸の膨らみを掴んだ。

「ひあっ……!」
「すっげぇいい声」
「バ……カ……!さっきまで……いい雰囲気だったのに……!」
「いい雰囲気だったからここまで発展したんだろ?」
「エドの……っ……馬鹿……!」


どこまでも愛しい女。

笑った顔も、泣いてる顔も、怒ってる顔も、恥ずかしがってる顔も、
全部俺のもの。


「……じゃあ、今年のプレゼント貰うな」
「……何?」

エドは予想していた通りの答えを返した。

フェリア自身」

フェリアはバカ、とまた俺を睨んだ。


嘘は言っていない。


だって、フェリアが俺のものになるって言ったんだ。
その左手の薬指に輝く指輪がその証。

だから、今年の誕生日プレゼントは……フェリア


……ありがとう、フェリア

一生大事にするから。












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うわ~!めっちゃ甘い!!
ワイングラスを傾けるエド!!めっちゃありえない!!

ちょっと甘くしすぎて、砂糖に埋もれてます。