「愛してる。僕と結婚してほしい」
昔、そう伝えたかった人がいた。
だけど、僕が口にしたのは
「別れよう」だった―――
Unfinished Souls
「まさか……私がエクソシストになるなんてね……」
アリィンは黒の教団の大きな顔のある門の前で呟いた。
十字架の紋章を胸につけた団服を一様に着た人達に案内され、中に入る。
今アリィンの肩が沈んでいるのは険しい崖を登ってきた所以だけではない。
数日前、私に「黒の教団」と名乗る人達が来た。
ひょんな事から私がずっと前から所持していた武器がイノセンスだと教えられた。
そして、私がその適合者だと。
その辺りには少し知識があったから信じられないという事はなかった。
だけど運命の悪戯っていうのは信じられなかった。
アリィンは手に持っていた手紙の送り主を読み返す。
「……『黒の教団室長』コムイ・リー、か……」
初めてその手紙を見たときは手が震えるほど驚いた。
まさか、また会えるとは思っていなかったから。
会ったら何を話そう?
会ったらまず、何て言おう?
そんな事ばかりが胸を占めて眠れない日もあった。
「………はぁ……」
だけど今はどうしてこんなに憂鬱なんだろうか。
どちらかと言えば会いたくない。
再会したところで過去が返ってくるはずもない。
再会したって、この今がどうなるものでもない。
そんな事なら、会わずに一生を終わらしてしまった方が楽だった。
でもそんな一生も嫌だと考えてしまう自分をわがままだと思った。
「久しぶり」
司令室に入ると、コムイは随分と大きな机に腰かけていた。
他の人達と同じような十字架の紋章が入った団服が目に入る。
部屋中が紙と本だらけだったけど、それよりも部屋の中央で地位を示す椅子の方が目立っていた気がする。
「……うん、久しぶり」
コムイは昔と何一つ変わらない落ち着いた表情だった。
だから私も、大人な雰囲気を出すようにして微笑んだ。
「髪、切った?」
「ああ、結構前にね」
「そう……」
数年前、最後に見た時は私と同じくらいの長髪だった。
だけど今は肩ぐらいの長さになっていて、外側にくるんとカールしていた。
「アレ?2人とも知り合いだったんスか?」
だらしない白衣を着た青年が近寄ってきて互いの顔を見比べる。
「……まぁ、ちょっとね」
…………コムイが『昔付き合ってた』なんて言う訳ないと思ってたけど。
だけどその曖昧な返事は少し寂しかった。
「アリィン・ファルーシュです、よろしくお願いします」
「あ、ども、リーバー・ウェンハムです」
とりあえず簡単に話を逸らそうとアリィンは人当たりのいい笑顔でお辞儀をした。
リーバーもつられて頭を下げる。
「兄さんコーヒーが入ったよ…………あら?」
司令室のドアが静かに開き、東洋系の綺麗な女の子が顔を見せた。
小柄で華奢で、大きな黒い瞳が可愛い。
「リナリー紹介するよ………新しく入団したアリィンで~す♪」
さっきまでの雰囲気とはまるで違ってコムイはニヤついた変な顔で踊り出した。
上から下まで、その様子を舐め回すように見つめていたアリィン。
な、何…………?
「……アリィン、僕の妹だよ」
「え……?」
アリィンは目を見開いてコムイを見上げた。
――妹が待っている――
それが私達の別れた理由だった。
驚きを隠せない顔をするアリィンに、コムイはふっと漆黒の瞳だけで返事をする。
だけど次の瞬間には今度はリナリーを抱きしめて頬ずりしだした。
「!?!?」
「ボクのリナリーちゃ~~~ん♪今日も凄く可愛いねぇ~~vvvv」
「ちょ、ちょっと兄さんってば!」
リナリーは身軽にコムイのアリ地獄から抜け出した。
よろけて倒れ込んだコムイはどこから取り出したのかハンカチの角を噛んで『ヒドい!』なんて泣いてる。
………コ、コムイが馬鹿になってる!?………というか変態に……
アリィンと一緒にいた時は、そんな素振りは一切見せなかった。
むしろここまで壊れたコムイを見たことがなかった。
だけと今のコムイはどこからどう見ても、妹溺愛のバカ兄。
……って、なんで今さら負けた気になってるんだろう。
「……よろしくリナリーちゃん」
頭では全然違う事を考えているのに、言葉と顔は社交的を崩さない。
「コムイみたいなのが兄で大変だね?」
「え?兄さんの事知ってるんですか?」
リナリーは花が咲いたようにアリィンに近寄った。
可愛い………
コムイじゃないけど頬ずりしたくなるのわかる気がする。
こう……見ていて自然と顔が綻んでしまうのだ。
…………この感性が『年をとった』っていう事なんだろうか。
「ええ、だいぶ昔にちょっと仲良くなっただけだけど」
嘘つくな私。
2年半も同棲していたクセに。
「そうなんですか~!その時の話とか色々聞きたいなぁ……」
「そんな、別に何もなかったよ?」
「……リナリー、それじゃあアリィンを部屋に案内してくれるかな?」
折角嘘を嘘で重ねている所をコムイが間に入る。
見上げると、コムイは貼り付けたような笑顔をしていた。
これは絶対、心の奥では違う事を考えている証拠だ。
……コムイだってさっき言わなかったクセに……
そんな事は絶対口にせず、アリィンは笑顔でリナリーの後に付いていった。
「や~~綺麗な人っスね!背も高くてスラっとしてて」
リーバーはぽんやりと頬を染めた。
アリィンは身長170cmはある、結構な長身だ。
「……あれで武術に長けてるから、怒らすと怖いよ?」
「え……!?」
コムイは眼鏡の端を上げながら机の書類を整理して、ふと自嘲ぎみに笑った。
………ちょっと仲良くなっただけ、か……・
「……昔は遠いね」
「は……?」
奇妙な一人言にリーバーは上司を見上げるが、コムイは既に司令室を後にしていた。
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Unfinished 「アンフィニッシュド」……「未完成の」という意味です。
この単語が使いたくてタイトルが決まったという裏設定(笑)
大人になってしまったけど、大人になりきれていない。
だけど大人を自覚している男女です。
現実を知ってしまった大人が過去の幻想に何を見るのか?
そんな少し難しい(?)テーマで進めていきます。
そして、背景に使ってる彼岸花。
彼岸花の花言葉は「悲しい思い出」、そして「想うは貴方一人だけ」です。
すごくこの物語に合ってると思ったので、しっかり背景にさせてもらいました。
……嫌いじゃないです、彼岸花v
……リーバーくんの口調がいまいちわかりません(コムイも/苦笑)