惑星ラクス。
そこは新たな移住の地を求めて宇宙を彷徨う船団が見つけた、未開の星。

マクロス5船団からの通信を受けて惑星に立ち寄ったマクロス7船団だったが、
そこには誰1人として生存していない艦隊の残骸ばかりが散らばっていた。

どうして壊滅しているのか、どうして遺体すら全く見当たらないのか。

此処で一体何が起こったのか、マクロス7船団は休養する間もなく調査に乗り出した―――






10・涙葬






リュシア、お前には重い荷を背負わせてしまったようだな」
「そんな……私は当然の事をしているまでです」

金竜のベッドサイドの椅子に腰掛け、リュシアは緩く微笑んだ。
生気を抜かれたような症状だった金竜は既に起き上がって喋れる程に回復していた。
その傍らにはまるで点滴のように、常時FIRE BOMBERの歌が流れている。

「ですがダイアモンドフォースは隊長の部隊です。
一刻も早く復帰していただき、隊長の任をお返ししたいと思っています」
「何言ってんだ。お前も充分隊を率いるだけの力がある、そろそろ独立した別の隊を持ってもいい頃だぞ」
「どうでしょうか、私は出世街道から外れた身ですから」
「ふん、俺が復帰したらそうも言ってられんくらいに暴れ回ってやるよ」
「……楽しみにしています」

会話が途切れると途端に意識に入り込む歌声。
今では何処に行っても聞こえるなぁと、リュシアはしみじみ思った。

「なあリュシア。あの熱気バサラという奴の歌は……不思議な力があるな」
「……隊長?」

まさかそんな事を言うとは予想だにしていなかった。
どちらかというと軍に所属している人間は物理的で理論的に物事を解決しようとする反面、精神論を嫌う傾向にある。
戦場で信じられるのは己の力だけ。負ければ死ぬ、そんな世界に生きているから、
"歌の力"なんていう曖昧な存在は上層部だって素直に認めたくはないだろう。

「沸き上がってくる熱を感じる。"頑張れ、お前は無敵だ"と、そう言われている気がするんだ」
「…………」
「あの歌があれば戦争すら勝てる気がしてくるよ、俺達軍の手によってではなくてな」

生死を彷徨いながら歌を聴き続けてきた彼だから言える台詞だろう。
軍というものが必要でなくなる世界が来るのなら見てみたい、この頃リュシアはそう思うようになった。

「……そうですね、私もそう思います」
「だがまだ俺達の力が必要な世界だ。すぐに俺も出るからな」
「はい」




――そうして消えていく、命の炎が。




「ガムリン、リュシア!後方を支援しろ!」

狩り場に現れたマクロス7を捕食しにきたと言わんばかりの敵艦隊が上空に現れた。
緊急事態によりダイアモンドフォースも前線に出る事を命じられたが。

「金竜隊長!まだ出撃できるお体では……っ!」
「時間を稼がねばならんのだ、ガムリン!」

病室から飛び出しただろう金竜がリュシア達の機体の前に立つ。
気迫は十分だったが、明らかに無理をしている表情がモニターに映っていた。
だが彼は前に進む事をやめない。

リュシアも行けるな!」
「、っ……はい!ヤクモ、アッシュ!」
「了解!」
「全く……言い出したらきかないんだよな、金竜隊長は!」

逆らえないリュシアは渋々了承して、隊員達を呼び寄せる。

第1小隊と第2小隊、久しぶりにダイアモンドフォースが揃った。
こんな状況ではあるが、金竜と肩を並べる陣形は懐かしかった。

「敵母艦がバトル7を狙っている!阻止しろ!」

しかし敵の数が多すぎて母艦に近づけそうにない。
集中砲火がリュシアにも、そして金竜にも浴びせられた。

「く……っ、バトル7が撃たれようとしているのに!」
「うおおおおお!!」


――俺の歌を聴いて パワーを出せよ


バサラの歌がずっと聞こえている、自分達を奮い立たせるように。

「っ!金竜隊長、ダメです!」
「あの戦艦を落とせば時間が稼げる!」
「危険です!戻って下さい……!」


――最後まで 諦めちゃいけないぜ


アーマードパックすら捨て去って、彼は飛んでいく。
追いかけたくてもできなくて、手を伸ばそうとしても届かない。
どれだけ制止の声をあげても、バサラの歌に合わせて歌うだけでもう答えない。

そう、彼は楽しそうに歌っていたのだ、その音を武器にするように。

「隊長が艦内に飛び込んだ!……アッシュ、ヤクモ、先に行くよ!」
「ちょ、待って下さい!」
「隊長!」

嫌な予感がした。
バサラの歌声すら消え去ってしまうほど、世界から音が消えた。

「金竜隊長!!!」



――「"頑張れ、お前は無敵だ"、そう言われている気がするんだ」――



戦艦の爆発に巻き込まれるように、金竜はその身を散らした。
















夜中に聞こえた律儀なノックの音に体を起き上がらせて入室を促すと、
バサラの部屋に気まぐれにやってくる人間が躊躇いがちに姿を見せた。

リュシア
「……入っても、いい?」
「いつも遠慮せずに入ってるだろ」
「うん……」

少しだけ笑っているリュシアが痛々しい。
梯子を登り、ベッドサイドまで寄るとまた伺うように首を傾げてからモゾモゾとバサラの隣に入り込んだ。

「……あったかい」

何があったとは彼女は言わない。
いつか突然来て背中で泣いていた時も、泣き顔すら見せないようにしていた。
だけど今回ばかりは原因はわかっていた、彼女と同じ隊の人間が戦死したからだ。
どれだけ親しかったかは知らないが、彼女の様子からそれは一目瞭然だった。

何故だろう、今は歌を聴かせても意味がないような気がした。
また、泣いてしまうだろうから。

「寒いのか?」
「え?」

リュシアは震えていた。
どれだけシーツにくるまっても温もりは手の先から逃げていくようで。
バサラの体温で温かいはず、なのに寒くて凍えてしまいそう。

「……うん」
「しゃあねぇなあ」

軽く溜息をつくと、リュシアの体を強引に引き寄せた。
広い胸で抱き込み、背中まで腕を伸ばしてあやすように数回その身を叩いた。

だがそれがいけなかったのか、リュシアの瞳からは堰が切れたように涙が零れだした。

「ふ……っ、…ぅ…!」
「…………」

結局、泣かせてしまった。
指で拭っても熱い雫は止まろうとしない。
顔を歪めて、バサラの服にしがみついて泣き続けるリュシアは、
隊を率いている人間には見えない程に脆く壊れそうだった。

初めて会った時も彼女はこうやって泣いていた。
弦の切れた楽器のようにただハラハラと、だけど心の底からの感謝の言葉を呟きながら。
思えばあの時だった、意識を途切れさせた彼女を抱き上げて自らベッドに寝かせたのは。

リュシア……」
「…た、いちょう…、…ッ!」

リュシアは呼びかけに応えない。
泣き止ませる方法を模索しながらバサラは、歯を食いしばって嗚咽ばかり漏らす唇を見つめた。


――この時悟った、自分にはやはり"歌"しかないのだと。


赤く引き結ぶリュシアの唇を一度だけ指でなぞると、自らの唇と触れ合わせた。

無言の歌を送り込むように、吐息に消える歌詞を伝えるように何度も。
少しでも分け与えられたらいいと、ゆっくりと舐めとりながらさらに深く。
今までだってキスはしてきた、だけどこんなにも熱いものなのかと初めて知った。

気がつけばリュシアの瞳は泣く事をやめ、驚いたように一心にバサラを見返している。
歌は届いただろうか、彼女の心に響いただろうか。

少女のようにか弱く見上げてくるリュシアに少しだけ笑って見せ、再びバサラは唇を寄せた。


そして体で歌い上げるように、全身へ。
華奢なリュシアの体に刻ませるように、どこにいても歌声が全身を包み込むように。
隅々まで行き届けばいい、何も考えられなくなってただ歌だけ聴けばいい。


バサラの歌は優しくて、驚くほど熱かった。











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タイトル配布元――ジャベリン


珍しくバサラ視点気味。