戦争には必要ないはずだった歌。
だが統合軍では敵に太刀打ちできず、逆にプロトデビルンを退け、
兵達のマインドコントロールを解く事ができたのが皮肉にもバサラの歌だった。
それは必然的に軍や民衆がバサラを――歌という力を必要とするようになった。
戦う為の手段として歌が利用されている事実を彼はどう思うのだろうか。
区別も垣根もなく、シビルを目覚めさせようとしていたバサラは、
一体歌にどんな思いを込めていたのだろう―――
13・君のその深淵
「え……軍が球体を運んでいった!?しかもミレーヌちゃんが人質!?」
植物プラントにあった球体といえばシビルの事だろう。
でもどうしてあの場所を軍が把握できたのだろうか。
様々な疑問を抱えながらダイアモンドフォースは敵機を追いかけてバトル7まで飛んだ。
敵機を先導するのは赤いバルキリー、バサラも球体を探しているようだった。
「シビルはどこだ!」
艦内に入ると、敵機は銃口を方々に向けながら叫び続けていた。
「今すぐシビルを返せ!!」
ミレーヌを人質にして、我を忘れたように"シビルを返せ"の一点張り。
「シビルーー!!」
(あの敵……そうまでして"シビル"が大事なんだ……)
人質が危険な状態だという事は百も承知だ、いつ発砲してもおかしくない状況だ。
だがあんなにも必死にシビルの名を呼ぶ男の姿に、リュシアは微かに胸が痛んだ。
確かに彼らは敵だ、安全の為には倒さなければいけない敵なのだけれど。
大事なものを守りたいという気持ちを持つのは、敵も味方も関係ないのだと思った。
プロトデビルンという集団に仲間意識があるのかはわからないが、
何だか可哀想に思えてしまうほど、男は"シビル"を求めていた。
その一方で、敵と対峙するバートン大佐は少しも顔色を変えなかった。
「統合軍としては簡単に捕虜を渡すべきではない」
球体を捕獲したのはバートン大佐だったらしい。
バートンはサウンドフォース結成にも関わっている一連の計画の監督者だ。
彼は生粋の軍人で、軍の為にという思いが強い人だとは知っていたが。
彼はあろう事か多少の犠牲は仕方ないと、人質になっているミレーヌを見捨てると言ってのけたのだ。
(そんな……それでは本末転倒だ!)
市民を守る為の軍隊なのに市民を犠牲にしては意味がない。
それで敵を殲滅して平和になったとして、はたしてそれは本物なのだろうか。
「構わん、撃て!」
「な……っ!」
バルキリーのガンポッドがミレーヌめがけて発砲される。
幸い弾はミレーヌには当たらず、マックスの判断により球体の部屋へ敵機を導いた。
部屋では今も球体の結界を破る為のビームが当てられ続けていた。
「シビルーー!!!」
(これでは、どっちが悪者だかわからない……!)
眠るシビルを暴こうとする軍、そして必死に名を呼びビームを次々破壊していく敵。
これが正義であろうか、それともこんな事を思う自分がおかしいのだろうか。
なおもミレーヌを離そうとせず興奮状態の敵と距離をとりながら、リュシアは呆然と立ち尽くしていた。
そんな時、突然バサラが歌い出した。
「バサラ……」
彼を包むオーラは男とシビルに向かっていた。
彼が何の為に歌うのかわからない、それでも男の興奮は少しだけ鎮まっていた。
だが、歌を遮るようにバートンの銃口が男に向かったのに気付いて、リュシアは思わず走り出していた。
一発目は、男に致命傷を与えなかった。
「バートン大佐!何をなさるおつもりですか!」
「邪魔をするな大尉!」
「彼女に当たります!」
軍規に反するだとか、そんな事は頭になかった。
ただ、こんな状況で発砲するなんて、
ましてや歌を聴いて落ち着いていた男を狙うなんてのは、軍規の前に人道に反する。
「コオオオオオオ!!!」
「っ、……シビル……?」
男が用意していたエネルギーらしきものを照射された球体が眩しいくらいに光を放っていた。
その中に、一際甲高い覚醒の声をあげる人型の女を見つけた。
それが、バサラがずっと歌で目覚めさせようとしていた"シビル"だった。
実際に目覚めを促したのは歌ではなくエネルギー波であったが。
バサラを見遣れば彼は唇を噛みしめて、逃亡してしまったシビルと男を見上げていた。
悔しいだろう、あんなにも歌を届けようとしていたのに。
「……バサラ……」
「どきたまえ大尉」
「っ!」
手を伸ばそうとしたリュシアを今度はバートンが押しのけてバサラの前に立ちはだかる。
「捕虜を失ったのは貴様達のせいだぞ!」
(この人は……っ、戦争に勝つ為なら何をしてもいい訳ではないのに!)
「どう責任を―――ぐっ!」
怒りに震えた拳を振り上げようとする前に、駆け寄ったガムリンがバートンを殴り飛ばしていた。
規則に忠実で、良く言えば生真面目、悪く言えば堅物な人間がまさか上官を殴るなんて。
思いも寄らない事態にリュシアも、バサラすらも放心したようにガムリンを見つめた。
やりきれない、複雑な気持ちを抱えていたのはリュシアだけではなかった。
そして、バサラはシティ7から姿を消した。
「軍を辞めるのね、市長から聞いたわ」
「ええ……」
出立の前にと、挨拶に来たガムリンは後ろめたいのか俯き加減だった。
まだ迷っているのか、逡巡が見え隠れする表情にリュシアはくすりと微笑んだ。
「バサラを追いかけるそうだけど?」
「はい……ミレーヌさんも出て行ってしまったそうで、市長から要請がありました」
だがそれを決断したのは本人の意思からだろう。
今回の一件で、軍一筋の彼は初めて自分の道に疑問を持ち、正しい道を模索しようとしていた。
歌に憤慨していた以前では、上官を殴る事など考えられなかっただろう。
(ガムリンをここまで変えたのは、バサラとミレーヌね……)
「申し訳ありません大尉……その……」
「いいのよ、ダイアモンドフォースは私が守っていくから。貴方は好きに動くといい」
部下の行動の責任は上官がとる。
リュシアの代わりにバートンを殴ってくれた事へのせめてもの礼だ。
ガムリンはようやく決意したのかリュシアの目を見据えると、最後とばかりに正式な敬礼を見せた。
「今まで、お世話になりました」
それは、リュシアへの想いに対する決定的な言葉だったように思う。
これからは彼はリュシアに対してただの上官として接するのだろう、彼にはもう大切な人がいる。
これでよかったのだと、リュシアは微かな寂しさを隠すように苦笑してみせた。
「そんな風に辞められる貴方が羨ましい」
「……え?」
「驚くほど真っ直ぐなんだから」
真意を探るようにガムリンは首を傾げたがリュシアが答える事はなかった。
代わりに、リュシアの表情からは上官としての色が消えていた。
「……バサラをお願い」
「リュシア大尉……」
一言でわかった、彼女はバサラに特別な感情を抱いているのだと。
「バサラは傷ついてた。だから……一人で考えたかったのかも知れないね」
届けたい相手には届かず、そして意図しない所では武器にされ。
歌い手の思いは伝わらず、聞き手によって変容してく歌。
歌とは何なのか、リュシアにもわからなくなっていた。
「……大尉は、その……」
「私はバサラの歌に惹かれた人間の一人なだけだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
自分では彼を支える事はできないのだ。
彼の世界には、いつだって入れない。
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タイトル配布元――ジャベリン
状況描写が多くてすいません。