リュシア、しばらく歌いに行ってくる」

とあるライブ後の夜、バサラは唐突に呟いた。

トロトロと既に深い眠りの底についていたリュシアは、
何とか意識を引き上げようとするも気を抜けばまた海に沈んでしまいそうで。

いつ?とか何処に?とか聞きたい事はたくさんあったのに、
喋る事も億劫な口で発せられたのは「うん」という返事だけ。
もしかしたらあの言葉は夢だったのかもしれない、そう思える程曖昧な記憶だけがリュシアに残った。

だがしばらくして、バサラは置き手紙を残してマクロス7船団から消えた。
この暗くて広すぎる星の海を渡って行ってしまった。

彼は歌いに行ったのだろう、まだ彼の歌を知らない人がいる地へ。
未知なる物が存在しているのなら全力で歌を聴かせる為に。

血相を変えてそれを伝えに来たガムリンに、リュシアは微笑んだ。

「しょうがない、彼は"バサラ"だから」―――






Sequel 1






「R2よりE2、E3へ!それでもエリートで上がってきたのか?」
「そんなんではこの先、生き残れないぞ!」

アッシュとヤクモが相手2機を執拗に追いかけ回す。

「チッ、あいつら新入りばかり狙いやがって……うおっ!」
「統率がとれた部隊ならば、綻びからつついていくものよ、ドッカー」

正面から待ち構えていたのは黒いVF-22。
闇色の機体に映えるのはルビーフォースの証である赤いライン、
花びらのように現れたリュシア機の機銃が容赦なく火を噴く。
ギリギリでそれを避けたドッカーは離れてしまった自小隊の2機へ飛んだ。

「E1からE2、E3!フォーメーションBへ移行しろ!俺のケツから離れるな!」
「あ、相手が速すぎます!」
「組み直す隙を与えてくれなくて……!」

すかさず攻撃の応酬にあったエメラルドフォースは、ついにリュシア達のペイント弾に染められた。

「結構よくやった方さ、俺らかなり本気でやってるし」
「ああ、確実に撃墜までの時間が延びている」
「あ、ありがとうございますヤクモ大尉……」

着替えを終え、アッシュ達は模擬演習を振り返って笑った。
あまり喜べない激励を受け、バルキリー部隊の新入り達は悔しそうに呟いた。

新体制で部隊が運営されてから1年、もう"新入り"と呼べる経歴ではない彼らは確実に力を付けている。
だが、その自信を崩すように何度もこのような演習は行われる。

「さすが戦争を生き抜いたルビーフォースですね、アッシュ大尉……強すぎます」
「そりゃ小隊そのままで残ったのは俺達だけだけど、必要なのは連携と運、あとは……気合い?」
「そうだな、あの時は歌があったからな」

歌のおかげで今こうして笑っていられる、アッシュとヤクモは確かに感じていた。
1年前の事をしみじみ振り返ると、本当に色々な事があったと思う。

一方で、何度も撃墜されながらも何とか生還したドッカーは、報告を終えて開口一番に吼えた。

「おいお前ら、どれだけ俺達を落とせば気が済むんだ!」
「あー、落とされなくなるまで?」
「ペイント弾に当たるうちはまだ駄目だな、実戦だったら死んでいる」
「弱点ばかり狙ってきやがって!」

「敵となり得る存在と、自分達が有利な状態で戦える事はまずない」
「!少佐……っ!」

ブリーフィングルームに顔を見せたリュシアにドッカーはまずいと身を縮めた。
冷たいとも感じられる静かな目のリュシアと、基本盛り上げ役のドッカーの関係性はどれだけ経っても変わらない。

「今回も負けた罰として、エメラルドフォースにはバトル7の建造作業の手伝いを任せる」
「げっ!バトル7なんて一番キツイ仕事場じゃないですか!」
「機体はVF-11で」
「な……余計に重労働……っ」

ガックリと肩を落とすドッカーを見下ろして、さらにリュシアは続ける。

「それからアッシュ、ヤクモ。フォーメーションCでの航行にブレが生じていた」
「え……俺らも、ですか隊長?」
「2人にはシミュレータでの連続演習を行ってもらう」
「マ、マジですかー!?」
「もちろん私も参加するよ、体の反応が鈍くなってるみたいだから」
「…………」

あれで反応が鈍いのか、男達は内心で突っ込んでいた。

「それから新入り2人、あそこでバトロイドに変形し迎撃したのは良い判断だった。
まだ甘いけど、そこをもっと熟成させればいい連携になると思う」
「あ、ありがとうございます!」
「……上手いよなぁ隊長。落としてから持ち上げる、良い上官だよ……」

重いトーンのままアッシュは苦笑した。

この容赦ない態度は本当に変わらない、いや余計に厳しくなった気がする。
公私とも雰囲気は変わったはずなのに"公"の戦闘に関する部分は鬼に違いない。

(ま、確実に生き残る事を目的としてくれているから構わないけどさ)

軽いブリーフィングが終わりメンバーがバラバラと解散していく頃、
顔を見せたのはダイアモンドフォースのガムリンだった。

リュシア少佐!」
「ガムリン、非番じゃなかった?」
「大急ぎで戻ってきました!先程、バサラの歌エネルギーを感知したそうです!」
「……よく感知できたね」

リュシア達の会話に反応したのは残っていたバルキリー部隊のメンバーだった。
アッシュやヤクモは周知の事だが、噂話程度しかしらない者は食い付くように聞き耳を立てた。

「(熱気バサラと付き合ってるって本当だったんだ……)」
「(凄いなぁ少佐、あのバサラとなんて……どうやって知り合ったんだろ)」
「お前らー、一応内緒だからな。マスコミに嗅ぎつけられると面倒だし」

注目されている事に気付いていないリュシアとガムリンは歩きながらも話を続ける。

「ええ、微弱ながら第67惑星空域から反応しているそうです」
「そう……本当に歌ってるんだ……」

バサラらしい、とリュシアは顔を緩ませてくすくす笑った。
戦闘時とはほど遠いその柔らかい微笑に一番驚いたのは新入り達。
反則のような変わりように若い男達は頬を染めるしかできなかった。

「全く……少佐やミレーヌさんの気も知らないで何やってるんですかね!」
「ミレーヌちゃんはどう?ライブでも一人で歌ってるんでしょう?」
「ええ、明るく振る舞ってはいますがやはり不安なんでしょうね……」

メインのボーカルがいないのだから、どうしたって盛り上がりは欠ける。
だけど楽しみにしているファンの為に必死になっているミレーヌの姿は、ガムリンにとっては痛々しく感じられてしまう。

「それで、少佐―――」
「今は作戦行動中でもないし、しばらくは脅威がある訳でもない。
サウンドフォースは軍にとっては大事な戦力だから、じきにバサラの捜索及び連れ戻しを命じられるでしょうね。
その時にガムリンが行けるように進言してみるよ」
「え……」
「ミレーヌちゃんの為にも、探しに行きたいんでしょう?」

スラスラと話すリュシアに、ガムリンは戸惑いを隠せなかった。

「それはリュシア少佐の方が適任なのではないでしょうか?」
「私はここを長期に離れる事はできない、だから貴方に任せる」
「で、ですが心配では……!?」
「もちろん心配してる。バサラは歌う事しか頭にないから多分無茶して危険な目にも遭ってると思う。
異国の地で楽しそうに歌う姿も、見てみたいとも思う」

心のままに歌い上げているだろうバサラを想像して、リュシアは不安を抱えながらも嬉しそうに微笑んだ。

「でも、満足したらそのうち帰ってくるよ。
何だかんだ言って彼のホームグラウンドはマクロス7だろうから」

わざわざリュシアに言付けしたのだ、"しばらく歌ってくる"と。
いつか帰ってくるから心配するな、そんな意味も含まれているような気がするから。

「此処を守る事が私の役目、だから待ってる」

そう言い切られてしまっては反論もできない。
ガムリンは素直に頷くと、彼女の分もバサラを追いかけようと決めた。


だがリュシアの意思とは反して、事態は思わぬ方向へ進んでいく。


「……は?」
「休暇を与えると言っている、ここしばらく長期で休んでいなかっただろう?」

マックスに呼び出され何事かと思いきや、何の前触れもなく"休め"と命じられるとは。
艦長の意図が全く読めないリュシアは言葉に詰まった。

「そ、そうですが……」
「終戦後、ほとんど休みもとらずマクロス7再建に力を尽くしてくれた。
バルキリー小隊も格段に成長し、部下の育成も評価している」
「ありがとうございます……ですが、それで何故休暇の話に……」
「特別に許可を与えるから休みなさいという事だ。
士官になって気負っているのはわかるが、最近の君は働きすぎる。
現在は特に急務もないのだからゆっくり骨休みするといい」
「……命令、ですか?」
「ああ、正式にな」

その気はなかったのだから、突然休みを突きつけられると困る。
頭の中はこれからやらなくてはならない仕事の事でいっぱいだというのに。

だがマックスはニヤリと笑うと付け加えた。

「それから、バルキリーの使用を許可する」
「え……?」
「フォールドブースターも好きに使うといい。それでどの星系に行こうとも構わん」
「それは……っ」

つまり、バサラを探しに行ってもいいという事だ。
遠回しの気遣いに驚いていると、マックスはゴホンと咳払いをした。

「今までの礼だ。……バサラが気になるんだろう?行ってくるといい」
「艦長……っ!」
「私はまだバサラとの仲を全面的に許可している訳ではないがな」
「……ありがとうございます」

待っていると大見得切ったが、心配だったのは確かだ。
リュシアは嬉しさをできるだけ隠しながら敬礼をした。

リュシアアルヴァ少佐、 ガムリン木崎大尉に同行し両名で熱気バサラ捜索に向かいます」


かくして、リュシアは名目を手にして想い人を追う旅に出た。
バサラに会える、それだけでこんなに胸が高鳴っている。


――貴方の歌が聴きたい、そうずっと思っていたんだ。











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タイトル配布元――ジャベリン


ダイナマイト7話。
ただ今回も何という事はない、ぼんやりした展開。