―――ねえ、バサラ。
貴方はいつも、私達が予想もしないような事をやってのける。
歌だけで人と繋がり、その心に偏見や境界なんてものは存在しない。
いつだって、私は貴方に敵わない。
だからこそ、貴方はそうやって貴方らしく生きて欲しい。
何にも縛られる事なく自由気ままに、歌だけを身につけて。
でも願うなら、そんな貴方を見ていられる傍にいさせて欲しい。
何もできないけど、歌も歌えないけど、愛だけはある。
貴方の声を聴くだけで私は幸せになれる。
歌を愛しているバサラを、愛してるから―――
Sequel 2
第67惑星、通称・惑星ゾラ。
地球に似た環境のこの星には、横に尖った耳が特徴の原住民族ゾラ人が住み、
ほぼ全ての住民がキャットスネーキーと呼ばれる小動物と共生している。
暮らしの中に機械的な技術はあまり浸透しておらず、
たくさんの自然に囲まれ緩やかに時間が流れていく土地に降り立った2人は、
直感でバサラが此処にいるだろうと予感していた。
風が気持ちいい、それをマクロス7内で感じるのは難しい。
人工物ではない潮風や見た事のない動植物を眺めているだけで心に訴えてくるものがある、
彼が惹かれるのも無理はない。
「ああ、この人ならウチに来たよ。
エルマっていうちょっと変わった女の子がいるんだけどね、その子といたよ」
写真を見せると楽器屋らしい店の男性が教えてくれた。
"女の子"にガムリンは異常な反応を示していたが、リュシアとしてはそこまで心配していなかった。
無意識に女に好かれる彼には慣れている、それが正直な気持ちだったが。
だが結局バサラも女の子も見つからなかった。
訪ねていった家には誰もおらず、そうなればいよいよ居場所の見当はつかない。
住人が戻ってくる時間を取り計らってまた来よう、そう決めると2人は軽く観光のような気分で街を散策した。
「何だか楽しそうですね、少佐」
心なしか浮き足立っていた様子を悟ってガムリンは笑った。
露店で買った、フラスコのような容器に入ったドリンクを飲みながら答える。
「楽しいでしょう?バサラの歩いた後を追うなんて」
使命感に駆られて探しているからであって、
勝手な奴だとは思うが喜んでやっている訳ではないガムリンには理解できなくて首を傾げるばかり。
宝探しのような感覚でいるらしいリュシアは軍人である事を忘れているかのように笑っていた。
不安も心配もあるだろう、だけどバサラを想っているからこそ浮かんだ優しい微笑みは輝いていて、
彼女は今幸せなのだろうとガムリンは思った。
そんな時、突然上空からの飛来物がリュシア達の目に入った。
緊急放送によればそれは"銀河クジラ"と呼ばれるものらしく、何処か地表に降下するという事だった。
住民達は建物の中に消え、吹き飛ばされそうな突風に煽られた2人はバルキリーに乗り込んで驚いた。
通信に割り込んで聴こえてきたのは、はるばる探しにやってきたバサラの歌。
バサラは宇宙にいる、そして歌っている。
リュシアはクジラの群れが目視できる空を振り仰ぎ、彼の名を呼んだ―――
「クジラァ!!俺の歌を聴けぇぇ!!」
白く光る巨大なクジラの目の前で、バサラが歌い出す。
それを中心にして光る物体の群れ全てが銀河クジラであり、一番大きな白い光がボスのような存在なのだろう。
リュシアはバサラが乗っているであろうバルキリーの背後に迷わず立つとガンポッドを構えた。
「バサラ……あの白いクジラが、聴かせる相手らしいね」
どうやらクジラを狙う密漁団と、それを阻止するパトロール隊の戦闘らしい。
それならばと、リュシアはクジラとバサラを狙おうとする者を無力化させる事に決めた。
(バサラのステージを守るのが私の本懐だから!)
ギターの爪弾く音が聴こえる、久しぶりに耳にするバサラの音。
思わず頬を緩めて聞き入るリュシアに賛同するようにガムリン機も武器を手に取った。
「何だかよくわからんが、今はバサラの歌を聴け!」
攻撃を避け、敵機の機関部や武装だけを撃っては沈黙させていく。
密漁団も皆、彼の歌を聴けばいい。ハートに届けばいい。
(……何処に行っても、変わらないなぁバサラは)
普通だったらクジラに歌を聴かせようなんて思わない。
光を帯びて宇宙を浮遊する銀河クジラが生物なのかも疑わしいというのに。
彼は迷わず歌う、がむしゃらにただ歌を聴かせる事だけを望む。
(そうやってバサラは歌っていればいい、そのバサラを私が全て守れたらいいのに)
だけどそれは無理なのだ、彼はリュシアに守られているような存在ではない。
そればかりか掴まえる事すらできないほど、彼は一つの場所に留まらない。
(だからせめて……休む場所になれたら、いいのに)
バサラの歌を聴くたびに、何もできない自分が少しだけ悲しくなる。
だけど歌が聴こえるたびに、前を歩くバサラに追いつけた気がして嬉しくなる。
「戦闘をやめなさい、そして歌を聴け!」
バサラのサウンドを感じながら、リュシアはミサイルを放った。
大方密漁団を沈黙させ、ふと後ろを振り向いた時。
―――白いクジラが鳴いていた、何度も。
「う、歌って…る……?」
大きく口を開け、バサラの歌に合わせて声を上げるクジラ。
咆吼に似た、だけどそれは確かに歌だった。
「バサラと、歌ってる……!」
その光景に体が震えた。
クジラは歌に応えただけではなく、相手を確かめ合うように一緒に旋律に乗ったのだ。
ハートが届いたのだ、感動せずにはいられなかった。
―――奇跡のような出来事、それは全てバサラの歌。
クジラの群れは惑星ゾラから離れ、密漁団も逮捕された後、
夜明けを臨みながらリュシア達は地表に降り立った。
「ご協力ありがとうございましたガムリン大尉、リュシア少佐」
「あーいやぁ、当たり前の事をしたまでです!」
「ええ、私は特に何もしていませんよ」
ただバサラの歌が聴きたかった、それだけだったのだから。
リュシアは走り出し、バサラのいるコックピットに登ると笑って見せた。
久しぶりに会えた想い人は、リュシアを視界に入れると自慢げに口角を上げている。
「よかったよ、バサラの歌。一人で旅して、楽しめたみたいだね?」
「ああ、当たり前じゃねえかリュシア!」
「―――っ!?」
バサラは突然リュシアの腕を引くとそのまま唇を奪った。
まさかそんな事をされるとは思ってもいなかったリュシアは驚きに息を止め、
さらには下から見ていたガムリン達も言葉を失った。
腕の力や唇から伝わるのは、バサラもあの奇跡に興奮しているという事。
嬉しさのあまりこういう行為にでたのだろうが。
「バ、バサラ……な、何!?いきなり……っ」
狼狽しきるリュシアとは反対に涼しい顔。
ガムリンは開いた口が塞がらないようだし、
近くにいた女の子――たぶん彼女がエルマだ――なんて目を輝かせてこちらを凝視していた。
よく意味がわからない、だけどバサラはリュシアを膝に乗せたままギターを弾き始める。
余韻に浸るような優しい音色に、恥ずかしながらもリュシアは綻んだ。
「もう……やっと追いついた。いつも何処か飛んでっちゃうんだから……」
「あ?行くって言っただろ?」
「言ったけどさ……そりゃ、ちょっとは寂しいじゃない」
待たされている方は心配なんだよ、そう告げるとバサラは何故かニヤッと笑う。
「ならお前も来るか?」
「へ……?」
突然ギターの手を止め、バルキリーのエンジンを始動させた。
リュシアが乗り込んだままどんどん発進の準備をしていくバサラ。
「え、ちょっ……バサラ!?」
「バサラちょっと待て!リュシア少佐っ!?」
眼下でガムリンが慌てているのが見えたが、バルキリーはそのまま飛翔してしまう。
「ねえ、わ、私の機体が……!」
「んなもんガムリンが何とかしてくれるだろ」
「そ、そうかもしれないけど……私、一応任務で……!」
リュシアが抵抗する間に景色はもう闇色に変わり、様々な事が頭をよぎった。
バサラが今から大人しくマクロス7へ戻るようには見えないし、何処へ行くつもりなのかもわからない。
(っていうか、何で私まで出てきちゃったの!?)
今頃ガムリンは大慌てだろう。
背後の惑星ゾラを名残惜しそうに見つめていると、バサラが溜息をついた。
「任務なんかくだらねぇ。俺といたいんだろ?」
「っ、…………うん」
さらりと凄い事を言われた気がして、リュシアは胸を躍らせたまま導かれるように頷いた。
マックスから長期休暇を半強制的に取らされたおかげで、少しぐらいなら休みを謳歌してもいいのかもしれない。
狭いコックピットの中、バサラとギターの間に密着する位置から、
モゾモゾと動いてリュシアは操縦桿を握り締めた。
「じゃあ、バサラは弾いてて。私が動かすから」
「ああ」
「しばらくしたら……一度はマクロス7に帰ってね?」
「わかったよ」
エンジンを噴かすと同時に聴こえるギターの音と、すぐ後ろから囁かれる声。
こんな特等席は他にないなと、くすぐったさに身をよじりながらもリュシアは満足感に浸っていた。
「……お前がいると、何か帰ってきたって気がする」
「…………え?」
――それは、最高の口説き文句ではないだろうか。
バサラの心が落ち着く場所を作りたいと願っていた。
バサラは……私といて落ち着くのだろうか。
「……バサラは一つの場所に留まらないんだから。
でも、ちょっとくらい休憩する場所があってもいいんじゃない?」
「ああ……充分だ」
ゆっくりと呟かれたその声に、リュシアは思わず振り返って抱きついた。
想いが届く、こんなにも幸せな事だなんてバサラに出会うまで気付かなかった。
「お帰り、バサラ」
「…………ただいま」
貴方の歌が聴こえる傍で、貴方に抱かれながら生きて。
私の想いが届くなら、私の愛を受け入れてくれる限り。
ずっといよう、バサラ。
―――貴方は、天使の声なのだから。
貴方が還る海
そんな海に、私はなりたい―――
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タイトル配布元――ジャベリン
迎えに行きたかっただけ。