最初に感じたのは、バサラの気配が濃くなったなという事だった。
(ああそうか、テレビ局だからか)
軍の車に乗せられて辿り着いたのは、シティ7でも一番の繁華街エリアにあるテレビ局。
人通りも多く、様々な流行の店や商業施設で賑わっているこの辺りは、人気の音楽もどこかで必ずと言っていいほど流れていて。
必然的にFIRE BOMBERの歌が聞こえ、宣伝用の大画面にも彼らの姿が頻繁に映る。
基地にいるより何倍もバサラの姿や声が五感に入ってくるのだから、いつもは嬉しいはずなのに、
どうしてだろう、今は物悲しくなる。
とある番組に特別ゲストとして出演し、インタビューを受ける事が今回のリュシアの仕事だった。
"屈強なる軍人達を導き、戦争を生き抜いた一輪の華!"なんていうサブタイトルがついた番組で、
要は女でありバルキリーのエリート部隊の作戦指揮官であるリュシアが物珍しくて呼ばれたのだろう。
正直テレビに出て注目を浴びるなんて柄ではなかったが、正式にオファーされて上層部も許可してしまったのだから自分に選択権などなかった。
ずっと外出すらできなかったのに、奇しくも仕事の一環でこうやって街中にやってくるとは思いもしなくて何だか笑えてしまったが。
番組の収録は滞りなく終了した。
心配する程、リュシアの立場を面白おかしく演出しようという低レベルな内容ではなく、
いたって真面目にリュシアの考えや将来的な軍のあり方を、純粋に部隊の代表者として尋ねられたので真摯な返答ができたように思う。
放送日がいつになるか教えてもらったが、自分で見返す気も誰かに見せる気もないのですぐに忘れてしまった。
バルキリーに乗る時や、未知なる敵と対峙した時とはまた違う緊張を解き、疲れを隠した足取りでテレビ局の外に出る。
横付けされた迎えの車に視線を遣るよりも先に、少し離れた入口の前で集まっている若者達にふと意識が流れた。
男女比は半分くらいだろうか、期待に満ちた表情で楽しそうにしている彼女達は恐らく芸能人の出待ちをしているのだろう。
(……FIRE BOMBER、の……)
身にまとっている服や持っているグッズのデザインはよく知っているものだった。
そうか今日はテレビ番組の収録だったのか、と今になって思い至る。
元々詳しいスケジュールなんて聞いていないので、リュシアの情報源はもっぱらテレビや雑誌であるから、知らないのも無理はない。
同じビルの中にいたという事も、何だか実感が湧かない。
(本当に芸能人なんだよね、バサラって……)
一目だけでもいいから会いたい、どうにかして自分を知ってもらいたい、そんな願望で彼女達は待ち続けるのだろう。
いつ出てくるのかわからない、出てきたとしてもまともに顔さえ見れないかもしれない、なのにその一瞬に賭けて、ひたすらに時を過ごして。
その一方で自分は彼らを個人的に知っていて、あまつさえ恋人なんていう間柄にまでなっている。
だけど湧き上がる気持ちは、優越感なんかじゃない。
きっと寂しさと、幾分かの嫉妬。
アクショのバサラの部屋に押し掛けなければ、彼は遠い世界の存在で終わっていたのだと思うと、何だか胸がざわつく。
それからリュシアは、今はバサラに振り向いてもらえているが、自分に自信なんてものはない。
だからいつか、バサラの目に止まり彼の懐に入り込めるような女性が現れたら、リュシアは諦めるしかないと思っている。
バサラが他の人を選ぶなら、もうどんなに足掻いても無駄だろうし、引き下がるしかないのだ。
もしかしたらこの集団の中にそういう女性がいるかもしれない、そう思うと怖くなる。
バサラの傍にいられなくなったら、弱くなってしまった自分は一体どうなってしまうのだろうか。
「きゃああ!バサラよ!」
「ミレーヌちゃん!!」
「……!」
立ち尽くして悶々としていた意識が、女性特有の甲高い声で我に返る。
目的の人物が現れて、まるでライブ会場のようにファン達の声が鼓膜を突き抜ける。
ファン達が先を争うようにメンバーを取り囲む、その中央にバサラがいた。
変わらない表情で、ファンの想いが伝わっているのかいないのか適当に相槌を返しながら。
リュシアは自然とその集団に歩み寄っていた。
だけど押しくらまんじゅう状態な塊に混ざる勇気はなくて、遠巻きにその騒ぎを見つめた。
(バサラ……っ)
当たり前のように彼の音楽が街中に溢れていて、テレビで悠々と歌っていた人が、
知らない人はいないぐらいの知名度の人が、駆け寄れば触れる程のすぐ近くにいる。
バサラが、そこにいる。
ずっと、会いたかった。貴方に会いたくて仕方がなかった。
本当は叫んで、飛び付きたかった。
だけどこんな所でそうする訳にはいかない。
恋人だと悟られてもいけない、むしろ顔見知りだと知られても面倒な事になるに違いない。
仮にも自分は今、ルビーフォースの軍服を着ているのだから。
「少佐、どうかなさいましたか?」
「、……いいえ」
中々乗ってこないリュシアに運転手が降りてきて恐る恐る声をかける。
待たせているという事もあり、ようやく自分が何をしようとしていたのかを思い出して、
集団から離れようとしない足を叱咤して動かして踵を返す。
バサラがこっちを見た気がしたけど、きっと気のせいだ。
リュシアとバサラの間に、いったい何人のファンがいるというのか。
「すみません、待たせてしまいましたね。行きましょう」
「は、はい」
(しょうがない、彼はバサラだから)
久しぶりに垣間見れる事ができただけでも良しとしよう。
はち切れそうな衝動を抑えてリュシアはその場から離れて車に乗り込んだ。
車が走り出して、遠かった距離がさらに離れていく。
どうしてだろう、泣いてしまいそうだった。
――「ねえ、さっきのリュシアさんじゃなかった?」
ファン達にもみくちゃにされながらも何とか車に乗り込むと、ミレーヌがそう口を開いた。
「……ああ、そう見えたな」
「やっぱりそうだよね?でも何であんな所にいたんだろう?」
隣に座っているバサラも同意したので見間違いではなかったようだ。
だが軍人とテレビ局とはあまり結び付かない取り合わせのように思えて、
ミレーヌが純粋に疑問に思っているとレイが答えをくれた。
「軍服を着ていたからな。取材とか、そういう撮影の仕事だったのかもしれん」
「ああ、そっか。隊長さんなんだよね、リュシアさんって」
ミレーヌの両親であるミリアやマックスも何かとテレビに出演する事が多い。
出世してバルキリー部隊を束ねる地位になれば、代表者としてそういう仕事もあるのだろうという結論に至った。
「でも来てたなら声かけてくれればよかったのにね、バサラ」
「…………」
「気を遣ったんだろう、多分。ファンもたくさんいたしな」
隣の人物を覗き込んでも、彼は特に何も答えなかった。
最初に返事をした以降は両手を頭の後ろで交差させたまま、流れる外の景色を見ているばかり。
だから必然的にレイが相槌を打つ形になる。
どうやらミレーヌはすぐに去ってしまったリュシアを残念に思っているらしい。
「せっかく久しぶりに会えたのに……」
「ん?ミレーヌが会いたかったのか?いつの間にそんな仲良くなったんだ?」
「だって、最初はリュシアさんがどんな人か知らなかったけど、
パイロットやってるリュシアさんは格好いいんだもん。少しぐらい話したいよ」
いつもはバサラの部屋にいるばっかりであんまり会えないし、と付け加えながら恨めしそうに隣を見遣る。
それでもバサラはミレーヌを一瞥しただけで、また視線を外した。
「確かに、最近はあまり来てなかったようだけどな、バサラ?」
「……あー?ああ」
「さっきの顔を見る限り、忙しいのかこっちに来たくても来られないっていう顔をしてたんじゃないのか。
いつもはリュシアが非番の日にこっちに来るばかりなんだろう?」
「まあ」
前の席に座るレイはチラリと後ろを振り返り、曖昧ながらも返事が戻ってくる事に苦笑する。
「別にもの凄く離れた場所にいる訳でもないし、会おうと思えば会える距離なんだし、
たまには、こっちから迎えに行ってやったらどうだ?」
「…………」
「まあ無理にとは言わんが。あいつは喜ぶとは思うぞ」
お節介に近い言葉を投げかけた。
だが長い付き合いで何を考えているのか何となく理解しているレイはあながち的外れではないと思っている。
返答はもうなかったが、バサラはずっと面白くなさそうな顔で外を眺めていた――
「哨戒任務も兼ねた新マニューバテストを行なう。新しく配備されるVF-22の補助脳波操縦システムにより、
さらに鋭く切り込んだフォーメーションが可能になると期待している」
ブリーフィングルームの前面に映し出された映像を指しながらリュシアは男達の顔を見渡した。
旧知の者も、戦後に補充された新人達も皆真剣な表情の中、やはり一人だけがポツリとぼやく。
「こりゃまたピーキーな代物になりそうだな……」
「反応速度が上昇した分、振り回されやすい。だからそれだけの腕が要求される。それにVF-21よりかは遥かにマシだよ、ドッカー」
「あれは普通の人間には無理っすよ……」
「くれぐれも壊さないように。あれの修理費は高いよ?」
「うへぇ、気を付けよう」
ドッカーが茶化してリュシアがそれを突き放し、からかうアッシュや真面目にやれと怒るガムリン。
本来なら私語すらさせないような厳しい雰囲気にしなければならないのだが、リュシアは今はこれでもいいと思っている。
ハハハと戦時中にはない笑いが混じった和やかな、いつもの光景だった。
バサラに会えなくても、それでも日常は続いていく。
雑務と任務、それから訓練の日々に忙殺されながら。
今の状態を不満に思った事はない、自分で望んだ事なのだから。
どんなにバサラに思いを馳せても、自身の疲労を自覚していても、軍人である事がリュシアの全て。
迷い、辞めようと思った事もあるけど、それでも進もうと決めたから。
「うわっ!」
「ディック、遅れている!」
「す、すみません!」
「アッシュ、ヤクモ、行くよ!」
「はいはいー!」
「了解しました」
ガウォークからバトロイド形態に変形し、バルキリーを回転させながらの攻撃。
そこから素早くファイターに戻り、背後にガンポッドを浴びせて離脱。
重力がある場所だったら確実に失神してしまいそうな加速と逆加速の繰り返し。
それでも体の負担は大きく、訓練終了後には皆フラフラになる程で。
「ああ、疲れたーっ」
「これは慣れるまでキツイなぁ」
「皆、ご苦労様。ドッカーもアッシュも、初めてにしてはよく出来た」
リュシアも全身汗だくで肩で息をしていたが、それでも涼しげな顔で解散を告げる。
「……くそ、俺ら男がこんななのに、何でリュシア少佐だけあんな元気なんだ」
「当たり前だ、少佐はマックス艦長から直接指導を受けた――!」
「ああもううるせえなガムリン、お前のそれは聞き飽きた!」
「なんだと!?」
「いや、あの隊長はやせ我慢だと思う」
「そうなのか、アッシュ?」
「まあ、同じ隊になって長いんでね」
そんな会話がなされているとは露知らず、リュシアはシャワールームに直行し、とりあえず冷水を頭から被る。
そうして重力のなすまま個室の狭い壁にもたれかかる。
「はあ、……」
いくら無茶な飛行も慣れているとはいえ、流石に長時間訓練していれば体はバテる。
部下達のいる手前、人がいなくなるまでは気合いで歩いていられたが、
屈強な男達が根を上げるのだ、体力的にどうしても劣るリュシアの体が悲鳴を上げるのは言うまでもない。
それでも飛んでいる事は楽しくて、この疲れも気持ちの良いもので、気を抜けばそのまま寝てしまいそうだった。
だが、この先もデスクワークが待っているから落ちる訳にはいかない。
冷水で火照った体を洗い、ぼんやりした思考すらも叩き起こしてリュシアはシャワーから出る。
そして何事もなかったかのように、今度は部屋で書類と格闘する。
今回の訓練の報告書や、新装備への要望書など、少しずつ片付けていこうと意気込んだ時。
リュシアを呼び出す内線の音が鳴った。
「リュシア少佐、お客様が見えています」
「客?」
「はい。その……」
今日は来客の予定はないはずなのに。
訝しげな声を出すと、通信の向こうの人物は何だかもの凄く言いづらそうにして。
続けられた客人の名前に、リュシアは飛び出さんばかりの勢いで立ち上がった。
まさかという驚きと、何故という疑問でいっぱいになりながら客が案内されているという部屋に入る。
そうして視界に入ってきた人物に、リュシアは今度こそ声を上げた。
「――バサラ!」
「ああ」
音楽とは縁遠いこの基地で、ライブなんてないのに、彼が一人で悠然とソファーに座っている。
「どうして……っ?」
どうして彼が此処にいるのだろう。
だってバサラは熱気バサラで、FIRE BOMBERで、誰もが知っていて、本当なら手が届かないはずの人。
そんな彼が何故ギターすら持たず手ぶらの状態で、面倒な面会手続きをしてまで基地にやって来たのか。
思い出そうとすればすぐに蘇る、彼の体温と微かな吐息。
だけどそれが夢だったのかもしれないと思えるくらい、時が経っていた。
記憶に残っているのに、どうしてか現実味だけがなくなっているような気がしていた。
自分がバサラの恋人であるという事実すらも、薄れていくようで。
茫然と立ち尽くして動けないリュシアを、見かねて歩み寄ってくるのはかの人。
「お前、何で無視したんだよ」
「え……?」
彼は、どうしてか機嫌がよくなかった。
何の事なのかすぐに理解できないでいるとバサラは少しだけ眉間を寄せた。
細められた双眸の色を眺めながらテレビ局での事だと思い至って、リュシアは困ったように首を傾げる。
「……無視、してないよ?」
「目が合ったのに行っちまっただろ」
「あ、やっぱり目が合ったんだ?気のせいだと思ってた」
ごめん、と控えめに謝ればバサラは諦めたように溜息をついた。
無視したように見えたなら謝るしかないけど、
とてもじゃないが声なんて掛けられるような雰囲気ではなかったのだから仕方ないともリュシアは思う。
例えばガムリンであったなら、純粋に友人の顔をして話しかけるかもしれないが。
噂で軍内がざわついていた事もあり、不用意に近づけなかった。
(違うね……近づくのが怖かったんだ)
遠い存在の人だと実感させられて、不安になったのだ。
彼にとって何の役にも立たない自分が彼の傍にいていいのだろうかと。
「何か言いてぇ事があったんだろ」
「え?」
「んな顔してた」
暗闇にはまってしまいそうな思考を引き上げたのは、やはり彼だった。
俯き加減になっていた顔を上げると、不機嫌ながらも此方を真っ直ぐ見つめてくる目がそこにあった。
「……だから、わざわざ来てくれたの?」
「悪いかよ」
ううん悪くないという返事は、胸が詰まって絞り出すような音になってしまった。
どうしよう、もう泣きそうになっている自分がいる。
バサラがわざわざ基地にまでやってきたのだ、それもどうやらリュシアの為に。
目立ってしょうがないだろうに、一人で。
訴えるような顔してたから来たなんて、どれだけ自分は彼に想われているのだろう。
――私は、彼に想われているのだろうか。
「ねえ、バサラ……飛び付いていい?」
「あん?好きにしろよ」
少しでもそれを感じてしまえば、もう耐え切れなかった。
ずっと欲しかったものが目の前にあるのだから。
バサラは遠い世界の人なんかじゃない。
だって今ここにいるのだから、リュシアだけを見て。
嬉しくて、どうにかなってしまいそうだった。
「っ……バサラ!会いたかった……ずっと、会いたかった!」
「おいおい、何かすげぇ長い間会ってなかったみてぇな言い方すんな」
「そうだけど……会いたかったの!」
両手をバサラの首に絡ませて、胸元に顔を埋めて思い切り息を吸い込む。
着崩したシャツ越しでも感じる温かい体温、それから空に舞う風のような柔らかい匂いがする。
つっけんどんな言い方だったけど、受け止めてくれる腕は優しくて。
涙も零れんばかりにはち切れそうだった想いは、それらによって緩やかに落ち着いていく。
甘い雲に包まれるような感覚で、まるで揺り籠のようだと思った。
このまま自分がバサラに溶けてしまえばいいのに、そんな事まで考えた。
「ありがと、バサラ……会いに来てくれて」
「ああ」
それから口を閉ざすと一心に深呼吸を繰り返した。
リュシアを絆す彼の匂いを、ゆっくり吸い込んで自らの養分にするように。
これはきっと、麻薬だ。
彼の匂いを感じると安心して、どうして最近苛々していたのか、そんな疑問すら霧散していく。
それは逆に、少しでも彼が近くにいないとリュシアの脳内はバサラで埋め尽くされていってしまうのだけど。
中毒だと思った。
でもやめられそうもない、やめる気にすらならない。
思考が溶けていく、体が波に呑まれていく。
強張っていた精神が弛緩して、そういえば私はずっと疲れていたのだと今になって思い出す。
ついさっきまで酷使していた体が急に限界を訴えて、そして意識が薄れていく。
バサラで満たされた海に浸かっている心地でリュシアの瞼は次第に重くなり、力が抜けた。
「、おい……寝るのか?」
「……ううん、寝ない……仕事がある、から…」
「そんな状態でよく言えるな」
途切れ途切れな返事に、仕方ねえなあと呟くとバサラはそのままリュシアを持ち上げた。
数歩進んだ先のソファーにバサラが腰を下ろし、リュシアはその上に抱き上げられている体勢になる。
そうして背中を何度かさすられ、リュシアは僅かな間意識を手放した。
「バサラ……」
「ん?」
「……あったかい」
「ああ」
(……バサラの匂い……)
フワフワと、眠りの境界線から浮上したり沈んだり。
思いついたようにポツリと呟く言葉にもバサラは律儀に返事をして、ずっと抱き締めていてくれた。
胸元に顔を押し付けて思う存分に堪能して、僅かな間だけ眠っていたリュシアはゆっくりと顔を上げる。
離れがたい、離れたくない。
だけどなけなしの理性が本能を留めた。
すなわち軍人として、そもそも勤務中だという事を思い出して、一思いに体を離す。
「……充電。ありがと」
バサラが来てくれたという事実だけで、触れられただけで十分だ。
もっと一緒にいたいけど、これ以上は本当に離れられなくなる。
そう思って距離をとろうとしたが、逆に腕を掴まれて不満そうなバサラの顔が近づいた。
「お前だけ満足してんなよ」
「っ!」
ぼんやりしていた意識が一気に覚醒した。
触れ合ったそこから伝わる熱に、全身の体温が跳ね上がる。
いつも鮮明に思い出していた、バサラの柔らかくも熱い唇を。
歌を口ずさむ為のその場所で、リュシアに触れてくれる瞬間を。
だけどこれは記憶なんかじゃない、ましてや夢でもなく。
有名人だからとかそんな事は関係なく、ただのバサラが今リュシアだけを見ている。
(私……バサラに必要と、されてる……?)
彼もまた、少しは寂しいと思っていてくれたのだろうか。
そうであるなら、幸せだと思った。
好きだと、心が叫んだ。好きで好きで仕方がない。
こんな思いになるのは、きっと後にも先にも彼だけだ。
だってあんなに焦がれて、枯れていた心が、もう嘘のように穏やかに癒えている。
不安も悩みもあるけれど、それらも全て含んで彼が愛おしい。
もう、バサラなしでは生きられない。
「好きだよ、バサラ……っ」
「……また泣いてるのか、お前」
しょうがない奴、そう呟きながら少しだけ笑ってみせたバサラに、また涙が零れた。
――バサラがいるから、生きていける。
明日も、この先も。
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バサラに会いたくて悶々としてる日常を描いたらこんな風になった。
エロさを出さず、でもドキドキするようなベッドシーン描写に挑戦してみました。
基地に行く事を後押ししたのはレイですが、バサラはその気がなければ後押しされても行かないと思います。
この後、またちょっと噂になって、それを一生懸命もみ消したらいいと思います。