―――貴方には空が似合う。
きっと貴方は高く舞い上がって、手の届かない所まで飛べるんだろう。
どうやっても掴めない、それが空色の貴方。
ねぇ、貴方にはこの人工の空で何が見えるの?
金の太陽のような貴方、どうか私を照らして。
偽りでもいい、この世界に意味があるのなら。
だから空色だけは私にちょうだい。
……ただ、それだけ―――
1・嫋やかなる依代
その日、シミュレーター訓練でまたしても惨敗してしまった新入りアルトは、
夜遅くまで説教&再訓練プログラムを受けさせられていた。
S.M.Sに入隊すると決意したもののまだ壁は厚く、それが苛立ちを助長させた。
「ったく、明日も学校だってのに……」
時計を見れば完全に深夜、これからベッドに直行してもロクに休息する事もなく朝を迎えるだろう。
アルトはフラフラと自室の前まで来たが、朦朧とする頭のせいか"大事な合図"を確認する事なくドアを開けた。
「ぅわ」
「な……っ!」
目の前に立っていた人影に驚いたのはアルトの方だった。
何故男2人だけの部屋に女性がいるか理解できなかったし、さらにその人物は予想だにしない人だった。
「リチェル、中尉……?」
「あ、ごめんねアルト。もしかして待ってた?」
「え?」
どういう意味かわからなくて首を傾げていると、奥の2段ベッドの上からヒラヒラと手が振られた。
「おいおいアルト、いきなり入ってくるなんてマナー違反じゃないのか?」
「は?」
「ドアの合図、見ずに入って来ただろう」
「……あ、あー……」
足下に落ちていたのはおそらくドアに挟まっていただろうハンカチ。
それはこういう組織では有名らしい"女を連れ込んでいる"という知らせだった。
どうやら事後らしく、既に衣類を着込んでいたリチェルが部屋を出て行く所だったようだ。
もう少し早く来ていたらきっと繕いきれない空気になっていただろう。
リチェルはそのような雰囲気を一切醸し出さない笑顔でアルトの肩を叩いた。
「オズマ隊長のお説教、遅くまでお疲れ様。それじゃおやすみ」
「おやすみ、リチェルさん」
ミハエルの完璧な微笑が癪に触った。
「……お前とそういう関係だとは思わなかった」
「ま、誰だって人肌が恋しい夜はあるだろ?それを受け止めるのが俺の役目だからな」
「な……」
それは恋人などという関係ではない事を意図しているのか。
確かにこのミハエルという男は超女好きで有名だったが、
その相手であるリチェルがいわゆる"体だけの関係"を享受する事の方が想像が付かなかった。
彼女は軍隊意識を持った厳しい人間達の中で、唯一友達のように接してくる人だった。
訓練教官も何度かしてくれたが、それこそいつも「頑張ろうね!」と笑っている。
年上でさらに上官だとは思えないほど、誰に対しても朗らかに笑っているリチェル。
そういう気質故か、厳しい規律の中のオアシスのような空間を作っていたし、周囲からも慕われていた。
だから、こういう色のある話が似合わない人だと思っていた。
見た目もどこか清純そうだったから、まさかミハエルのような下半身男と懇意にしているとは今ですら少し信じられない。
「………」
「なんだよその目、人には色々あるんだよ」
いずれお前にもわかる、そう語るミハエルの顔が、お前は何も知らないと言われているようで嫌だった。
それがアルトにとっての、彼女との出会いだった。
Sky High
-涙色の空-
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嫋やか=たおやか
ついに始めましたマクロス夢。
ミシェルとは付き合ってる設定です。
でも切なめの話になると思うのでご了承下さい。