「アーマードパック接続完了、チェック項目205まで終了」
電子音の間に静かな声が重なる。
右の操縦桿、左のスロットルレバー。
握り締めると、張り詰めた意識の中で浮かぶかつての情景。
「エンジン始動」
正面モニターに入れ替わりに表示されていく無数の情報を、リチェルは一つも見落とさないように正確に読み込んでいく。
『リチェル、気負うなよ。生きて帰るんだぞ』
「……はい」
無感情に口から返事が漏れる。
『リチェル中尉、あまり見えない所まで先に行かないでくださいね。援護ができなくなりますから』
「私は自分の任務を全うするだけ。余計な心配は無用よ」
素っ気ない言葉で返してしまったが、言い過ぎたかもしれないとリチェルは再び通信を開いた。
「……小隊は連携が命、気を引き締めてミハエル、アルトも」
不器用な上官だと、ミハエルは微笑んだ。
『了解しました、中尉殿』
『……わかってる』
リチェルにはこれに乗るしかない。
それが自分の全てだったから、それが全ての償いだから。
無機質な世界でリチェルは駆け抜ける。
6・約束の地
『リチェルは単機先行しカイトスを守れ。こちらの敵の掃討が済み次第、すぐに合流する!』
「了解」
『全機、プラネットダンス!』
瞳を開き、闇の海を見据えるとリチェルはスロットルを押し倒した。
エンジンが噴かされ漆黒のバルキリーは遙か彼方に流星のごとく消えた。
『先に行くぞミシェル!私が見えないからって、また泣くんじゃないぞ』
『っさいんだよクラン!ガキの頃の話をいつまでも!』
そんな会話を心の遠くで聞いた。
カイトスは損傷が酷く戦線から抜け出すのも困難な状況だった。
フォールド断層さえ越えればフォールドができる。
リチェルはカイトスの背後に回り、追撃してくるバジュラ達の正面から立ち塞がった。
「ファントム1からカイトスへ、援護します」
『カイトス了解、頼むぞ!』
リチェルはガウォーク形態でミサイルを全方位へ撃ち込んだ。
無数に閃光が走る中で生き残った赤いバジュラ達がまっすぐにこちらへ迫ってくる。
ファイター形態に戻ったリチェルは左右翼の素早い旋回で攻撃を避け、
そのまま一体のバジュラに取り付くとバトロイド形態でガンポッドを急所に打ち付けた。
「殲滅、次」
目の前の爆発が収まりきらないうちから数体が味方の仇とでも言わんばかりに飛び込んでくる。
リチェルはアフターバーナーを噴かすと急旋回し、周辺の敵にはミサイルを、正面にはガンポッドで対抗した。
「す、すごい……」
戦況を分析していたルカはリチェルの流星のような動きに驚くばかりであった。
"ファントム"のバーニアと敵の追撃が螺旋を描き宇宙を彩る。
リチェルには全方位に目があるんじゃないかと思うほど、全ての攻撃をすり抜けては敵の隙をつき確実に撃墜していく。
キラキラと輝く閃光の間を、淡い光をまとった漆黒の闇が駆け抜ける。
それは彼女の異名の通り、"星の亡霊"のようだった。
『リチェルさん、もうすぐオズマ隊長達が来ます!それまで持ちこたえてください!』
「了解」
何が怖いって、彼女はこれほどの激戦ぶりをおそらく無表情で切り抜けているだろうから。
こちらがどれほど声を荒くして叫んでも、彼女はいつだって静かに簡潔に答えるだけ。
そこに感情など存在しない、あの黒い光が冷徹な鬼に見えるほど。
「こんなフォールド断層がなければ、もっと早く逃がせたのに……っ!」
もうすぐだと焦る思いで見つめるモニターに、突如渦のような穴が生まれた。
「っ!」
リチェルのコックピットに警報が鳴り響き、とっさに機首の方向を変えた。
巨大なデフォールド反応の後、現れたのは見た事のない生物のような戦艦だった。
『リチェルさん逃げて!!』
「!!……カイトスが……」
戦艦からの一発の砲撃でカイトスは沈んだ。
「く……っ!」
一瞬で変わった戦況に、リチェルは僅かに顔をしかめると新たに現れたバジュラの応戦に追われた。
ルカ機は激しい段幕の中を単機で突き進み、敵戦艦の情報収集を続ける。
だが隙をついてルカ機はバジュラに捕らわれ、戦艦の大きな口のようなものが閉じられた。
『ルカ!!』
激情したアルトがルカを追って猛攻撃の中に飛び込んだ。
『!?アルト!』
『やめろ!お前一人で何ができる!?』
(アルト……!)
ミハエルとオズマが止めるがアルトは聞く耳持たずで闇雲に突進していく。
リチェルは周囲の敵を一掃するとアルトのサイドにつくように加速した。
『アルト!相手はハリネズミみたいな艦なんだぞ!』
『ハリネズミだろうが何だろうが!!中に入っちまえば!!!』
「隊長、私が援護します」
『!危険だ、やめろリチェル!』
「……」
リチェルはアルト機を取り囲むようにして飛ぶと左右のバジュラを撃墜させた。
『あの馬鹿っ!カナリア、ミシェル!』
『中尉までっ!』
カナリアとミシェルの援護射撃を受け、さらにアルトは進む。
リチェルはアルトの盾になるように背後に立つと、攻撃がすべてリチェルに集中した。
「……っ!」
全弾を敵に打ち込むと、アーマードパックを捨て身軽になったリチェル機。
アルトも同じくパックをチャフ代わりに捨て、さらに戦艦へ近づいた。
『うおおおおお!!!』
ガンポッドで戦艦に小さな穴を開け、アルトはそこから艦内に侵入した。
『リチェル、もういい戻れ!』
『中尉、危険です!』
「入ります」
『な……っ、中尉!!』
命令を無視しリチェルはアルトを追った。
艦内は驚くほど静かで、緑色の有機物のようなものに覆われた道を歩いた。
静寂の中で次第に聞こえてくる爆発音に焦りをにじませたリチェルはバトロイドを走らせる。
広まった空間に出ると、そこには吊り上げられた緑のバルキリーと、バジュラに囲まれた赤ラインのバルキリーが。
「アルト……っ」
『!リチェルさん……!』
満身創痍のアルト機を庇うようにしてガンポッドを打ち込んでいくリチェル。
だが狭い空間という事もあって回避効率がグンと下がった黒いバルキリーにも次第に傷が増えていく。
「持ちこたえているから早くルカを……っ」
『わ、わかった!』
「っ!!」
足を撃たれバランスを崩した所へ、一体がアルトの機首に飛び移った。
だけど目の前の敵を相手する事に精一杯で、アルトの援護まで手が回らない。
「アルトっ!」
『く、ぅ……!』
バジュラの腕がキャノピーを握り締め、ヒビが入っていく。
もうすぐで割られてしまう、そう思った時。
――確かに、歌が聞こえた。
「歌……?」
絶望しかけた瞬間に割り込んできた声が、頑張れと言っているようだった。
そしてその歌は、どうしてかバジュラの動きすら止めた。
『うおおおお!!!』
最後の力とばかりにアルトは機首に取り付いたバジュラに弾丸を撃ち込み、EX-ギアの翼を広げてルカ機へ飛んだ。
リチェルも隙を見つけてバジュラに踵落としを食らわせるとナイフで急所を突いた。
「システムは?」
『生きてる!』
外部から緑のバルキリーを操るアルトを助けるように、ルカを拘束している管を打ち落とす。
もう少しで全て取り払える、そう思った矢先にまたしても警報が鳴り響いた。
「!アルトはルカを!」
紫のバルキリーの照準はこちらを向き、リチェルは同じく武器を構えると未確認の機体と対峙する。
ここで狙われたら勝ち目がない、だがやるしかない。
リチェルが操縦桿を握り締めると同時に、
戦闘モードのマクロス・フロンティアが戦艦の口をこじ開け、外の宇宙が姿を見せた。
『スカル3、4、ファントム1応答して!』
『迎えに来たぜぇ、お姫様達ぃぃ!!』
「……こちらファントム1、全員無事です」
紫のバルキリーが離脱したのを見届けてリチェルは肩を撫で下ろした。
3人が脱出後、マクロスの砲撃でバジュラ戦艦は撃沈した。
『ったく、無茶しやがって……中尉も!』
「……わかってる」
少しミハエルの焦ったような声を聞いてようやく安堵の息をついたリチェル。
『後でたっぷり絞ってやる。だがよくやったアルト、リチェル』
恐ろしさを感じるオズマの言葉を聞きながらリチェルは星の海を仰いだ。
目を閉じた先に広がる真空の宙は、いつだって変わらずにリチェルを待っていて、思い知らされる。
求められていた全てのものが、ここにあると。
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さて、しっかりアニメ沿い。
戦闘シーンは好きだけど書き辛い。