―――「いやあああぁぁ……!!」―――
いつも、あの人に迷惑をかけていた気がする。
「フェリア!!」
「いやぁ!お兄ちゃん!ごめんなさい!!」
「フェリア!夢だ!自分をしっかり持て!!」
毎晩毎晩発作のように錯乱する私を、あの人はいつも抱きしめてくれた。
強く、強く、私が夢から覚めるまで。
「死にたいよぉ……!生きたくない……!私は生きてちゃいけない!!」
「違う!フェリアは生きてていいんだ!それは過去だ!過ぎた事だ!」
「いやああああぁぁぁぁ!!」
「フェリア!!」
「はあっ……はぁっ……!……っ……大佐……?」
「……落ち着いたか?」
あの人は、いつも笑ってくれた。
それが……余計に私の心をえぐる。
「っ……大佐ぁ……私は……お兄ちゃんを殺したよ……」
「わかった。わかったから、もう泣かなくていい」
「大佐……何で死なせてくれないの……?」
「フェリア、生きるんだ。それがフェリアの兄の為にもなる」
「……何で……っ……わからないよ…!」
「少しずつわかればいい。わかるまで……傍にいてやる」
「……大佐……」
10th
エドを守りたい。
エドが守れる。
それだけで……心がすごく満たされる。
穢れてしまった私の手でも……貴方が守れる事がこんなに誇らしい。
こうやって日々を過ごしている事が……何故かとても嬉しかった。
「フェリア!」
でも、貴方は何故そんなに怒っているの?
「フェリア走り回るな!じっとしてろ!」
何で?
だってこんなに太陽が気持ちいいのに。
「……何で?だって……す……ごく……っ……」
「!!フェリア!!」
そういえば頻繁に錬金術を使うようになってから、眩暈がよく起きるようになった。
でも……そんな事気にならないほど、私は嬉しくて仕方がないんだよ?
「だから言ってるだろ!早く部屋に戻れ!」
痛いよエド……そんなにきつく抱きしめないで、ただの貧血なんだから。
私は平気だから……そんなに怒らないでよ、エド。
私は、エドが生きている事……それだけでいいんだから。
「エド……大丈夫だよ」
宿までくらい自分で歩けるよ?
「大丈夫な訳ねぇだろ!?そんな真っ青な顔して!」
「だからこれは―――」
「部屋に戻れ!大人しく寝てろ!」
……何で怒ってるの……?
「……どうして……怒ってるの?」
「な、フェリアが無茶するからに決まってんだろ!?」
「こんなの………どうって事ないよ…?」
「俺がよくないんだよ!」
怒らないで。
「……エド……笑って?」
「フェリア?」
「私……エドが笑ってるのが見たいな……」
その笑顔は、私が守ったんだって思えるから。
私……とても嬉しいんだ。
「…………無理」
「え……?」
「……っ……無理に決まってんだろ!」
エドの顔が怖かった。
私は……やりたい事を見つけたの。
生きて、やりたいと思ったの。
「守りたい」の。
今は、それだけが全てだから。
―――だから……それを禁じないで―――
「俺はっ……フェリアに守ってもらいたくなんかない!」
「え……?」
だって、今もまたトカゲみたいな奴がエドを襲ってたじゃない。
エド……肩に怪我してるのに。
「フェリアは……もう錬金術を使うな!!」
「そ……んな……私……」
何で……私はエドを守りたいのに。
やっと、大切な人の役に立つ事ができたのに……
「二度と使うな!!わかったな!?」
「でも私も……エドと戦いたい……!」
どうして……?
もう私のせいで誰かが死ぬのは嫌なの……
エドが気づくのは見たくないのに。
「戦わなくていい!!お前が出てくると、俺の調子が狂うんだよ!」
私は……また何もできないの?
そんなの嫌だよ。
守りたいよ。
守りたいよ……!
「私……私っ……!」
私の生きる術を……禁じないで。
「うっ……っ……エド……!」
闇が広がる深夜の宿に大きな音が響いた。
フェリアはベッドに突っ伏して溢れる涙を染みこませた。
「どうして……!」
エドを守りたいと思った、ただその一心だった。
自分の体とか痛みとかそんなのを通り越して、それだけが今の私を突き動かす。
それを禁じられたら………私はどうすればいいの?
コンコン……
躊躇いがちにドアがノックされた。
「…………フェリア?」
無骨な鎧とは反対に口調は優しいアルだった。
アルは未だに顔を上げないフェリアの傍で膝を付いた。
「フェリア……ごめんね?兄さん……不器用な所あるから……」
「……アル……」
涙を拭いながらシーツから顔を離してアルを見上げると、表情はわからないのに気遣ってくれるのがわかった。
「……私……っ……!」
「わかってるよ……」
優しく髪を撫でられると、また視界が滲み始める。
「兄さん本当は、フェリアの体を一番心配してるんだよ?」
その時……コンコンとまたしてもノックの音が聞こえた。
「……フェリア……」
「エド…………」
少し濃い金色の瞳を泳がせながら、エドはドアを開けて立ち尽くしていた。
それを見るとアルは立ち上がり、兄を中に入れ自分は外に出た。
すれ違い様に、「うまくやりなよ」という台詞を残して。
静かになった部屋で、エドはゆっくり足を進めた。
「……っ……!」
フェリアは微かに身を固め、潤んだ顔を俯かせた。
「フェリア……ごめん」
「…………」
「その……さっきは言い過ぎた」
顔を合わせようとしないフェリアに、エドは頭を掻きながら傍の椅子に座った。
「でも俺は……間違った事は言ってない」
やっぱりエドは怒気を含んでフェリアを見据えていた。
「俺は、フェリアに守ってもらいたくない」
「…………!」
茫然と肩を震わせるフェリアに、エドは慌てて言い繕う。
「あ、いや……その……俺が……フェリアを守りたいんだよ」
「…………?」
エドは頬を微かに染め、目を背けて続けた。
「何でかよくわかんねぇけど……フェリアは俺が守りたいって思うんだよ」
「エド……?」
守りたい?
……エドが?私を?
「お前は!……自分の体だけ心配してればいいんだよ……!」
よく意味がわからなくて首を傾げているフェリアの頬に触れた。
フェリアの頬は柔らかくて、自分とは全然違って壊れそうだった。
あどけない顔で見上げられ、エドは何かがこみ上げるのを自覚した。
「こんな青い顔しやがって……少しは俺を頼れ」
「でも……私は……エドが守りたい…っ…!」
フェリアがボロボロと涙を零し始めると、それを指で優しく拭った。
「エドが傷付くのは見たくないの……!」
「俺だってお前が倒れる姿なんか見たくない」
「でも……私は……っ……今はこれが全てなの……!私が誇りに思える事なの……!」
「……あ~だから!」
今にも倒れそうな青い顔をしてまで、自分を守りたいと言う。
エドは無意識にフェリアの頭を自分の胸に押し当てた。
フェリアは状況が飲み込めず、暗くい視界の中で身を捩る。
ふっとエドの匂いがしてフェリアは動きを止めた。
「……その気持ちだけで十分だって……」
ポンポンと髪を撫でてくれて、フェリアは違う意味で涙が溢れてきた。
そして左肩に滲んだ血を目の当たりにして、居たたまれなくなってエドの胸に縋り付いた。
「ごめん……ごめんね……っ……!」
「俺こそごめん……フェリアを傷付けた」
「私のせいで……そんな怪我させて……!」
「こんなのどうって事ねぇって……お前が無事なら……」
「でも私は…っ……お兄ちゃんを……お兄ちゃんを……!」
「フェリア……俺は、んな事気にしねぇよ。俺だって……罪を犯した」
「…………!」
「過去がどうだとか、んな事は俺には関係ない」
どこまでも澄んだ金色の瞳が細められて、フェリアを見下ろす。
その眼差しからは、優しさと強さが溢れていた。
エド……
でも私は……まだ貴方に言えない罪があるよ……
「俺がフェリアを守る。フェリアの過去からも、あいつらからも」
それでも……
「……ありがとう……エド………」
『守る』って言ってくれて……嬉しい……
くすぐったいような、エドの瞳をまともに見られない感覚がフェリアを俯かせる。
背中に両手を回すとエドは少し躊躇いながらも、フェリアをしっかり、だけど柔らかく抱きしめ返した。
「エド……温かい……」
エドの傍にいると、どうしてこんなに落ち着くんだろう……?
――フェリア……生きるんだ……――
そういえば、漆黒だったあの人も……こうやって抱きしめてくれた……
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今度はヒロイン視点。
エドに対して違った感情が生まれつつあるかな?
ついでに大佐を少し絡ませますv
本当はそこまで絡まないつもりでしたが、そこは作者の都合で変わります(笑)
次の話は小休止みたいな感じで、ほのぼのちっくに仕上げてみたいと思います。