―――「国家錬金術師になりなさい」―――
焔のように揺れる漆黒の瞳で……何故、貴方はそう言ったんですか?
「…………何故?」
「君の為だ」
「……嫌です」
「兄を殺した錬金術などもう使いたくない、か?」
「…………」
「だが君は、乗り越えなければならない。君を縛り付ける過去と」
「…………」
貴方は私をどうしたいの?
私はもう全てが嫌なのに……生きる事にも。
「新しい君で国家錬金術師になってこそ、君は本当の意味で過去と対峙できるんだ」
「……対峙など……する気ありません」
貴方は、そうやってよく溜息をついていた。
その次にいつも、貴方は私の頬を撫でるんだ。
「……生きろ……罪も、何もかも抱いて」
「……嫌です…………死なせて下さい」
「『生きる』んだ、フェリア……心の底から……」
貴方は……そうやって難しい事ばかり言う。
もっと……わかりやすく言ってくれればよかったのに。
11th
「あ~~何かやっぱ見慣れた土地だと安心するな」
「そうだね」
列車を降り、エドが背伸びをする後ろで大きなアルも頷いた。
「ま、あんまし慣れたくはねぇけどよ……」
何故エドがこう呟くかと言うと……
「それは兄さんだけでしょ?僕はそんなに東部は嫌いじゃないよ」
そう……エドの天敵とも言える人物がいるイーストシティだからである。
「……イーストシティか……」
「あ、フェリア!荷物は俺が持つって」
「え?あ、うん……ありがとう」
一番後に下車したフェリアを気遣うようにエドは傍につき鞄を持った。
「でも、肩……大丈夫?一昨日だってまた傷が開いたし……」
「鞄持つくらいで傷なんか開かねぇよ。言っただろ?俺を頼れって」
「……うん……じゃあ……頼ります」
「おぅ」
フェリアがほわっと笑うと、エドもそれにつられて顔を綻ばせた。
「いいねぇ、青春だねえ……」
アルが頬をピンク色に染めながら遠くにぼやいた。
フェリアの表情はだいぶ血色がよくなった。
それはあまり敵が来ないから、という理由もあるのだが、一番にエドが無理をさせてくれない。
一日中部屋に籠もらされた事もあったし、レバーを朝昼晩食べさせられた事もあった。
だけど、またいつ敵が襲ってくるかわからない。
その敵についての情報を得る為に、こうやってわざわざ東部まで戻ってきたのだ。
「さてフェリア、どこに行きたい?その辺の市でも覗いてみるか?」
「うん……でも……」
フェリアは何かを言いたそうに俯いた。
兄弟は互いに目を合わせ、アルが問いかけた。
「でも……?どこに行きたいの?」
「私……大佐の所に行きたい……」
「ああいいぜ…………って、え!?」
どことなくウキウキしていたエドの顔が一転して真っ青になった。
アルは『あ~あ……』という眼差しで、平気な様子を装う兄を同情した。
「……だめ?」
「い、いや……だめじゃねぇ……けど……どうせ後から行くつもりだった…し……」
冷や汗をかきながらエドはあさっての方向を見た。
語尾を言い終わらないうちに、だんだん妖しげなオーラが漂う。
「…………?」
そんな少年の心など露知らず、フェリアは首を傾げていた。
「やぁ、久しぶりだな鋼の、それとフェリア」
「…………」
歯でも光らせそうな雰囲気でにこやかに笑う、ロイ・マスタング。
エドはあからさまに嫌そうな顔でそっぽを向いていた。
ちなみにアルは先に宿の予約に行っている。
「今日はどうしたんだ?わざわざ私に顔を見せに来てくれたのか?」
「んな訳あるかよ……。情報をもらいに来たんだよ、フェリアを襲ってくる奴らの!」
「冗談が通じないな、鋼の」
「俺は大佐とほのぼの談話しに来た訳じゃねぇんだよ……!!」
手をわなわな震わせてロイの机の前まで突っかかった。
偉そうに座っているロイが肩を持ち上げて失笑するので、さらに怒りをあおる。
「はぁ……つまらん奴だな」
「つまらなくて結構!」
「……それで?襲ってきたのはどんな奴らだった?」
突然真顔に戻るのでエドは怒りの場所を見失い、溜息をついて落ち着きを取り戻そうとした。
「……普通の人間の身体能力じゃなかった。あれはたぶん……」
「合成獣か?」
「そうだと言った方が説明が付く」
「そうだろうな、君のその傷を見る限りには」
「……っ……うるせえ……」
エドは包帯を巻いてもなお滲んだ上着の血のシミを押さえた。
「陰険な奴ばっかなんだよ……生身ばっか攻撃してくるし」
「他には?」
「フェリアの過去を知ってるみたいだし……フェリアの二つ名も知ってた」
ロイはピクっと眉を反応させ、エドを目をじっと見据えた。
「……ほぅ、奴らは最初から知っていたという事か?」
「ああ……フェリアの錬成を見て……『確認した』って言ってた」
「……そうか」
何故か探るような目付きだったロイは安堵したような顔付きで頷いた。
それを疑問に思いつつも、エドは言葉に出さなかった。
「わかった。こちらでも独自に調査を進めていたのだが、今回の報告を元にまた新たに調べてみる」
「んじゃ、頼んだよ」
早々に出て行こうとするが、何を思ったのかロイがすっと立ち上がりこちらに歩み寄る。
エドの後ろにいる、フェリアの傍に。
「久しぶりだな、フェリア。元気にしているか?」
「……はい」
「それはよかった」
ロイはフェリアの頬に手を添えた。
「顔……ずいぶん青いな」
「これは……錬金術使ったから……」
「そうか、使ったのか……」
「……はい」
さっきのエドとのやり取りとはずいぶんとうって変わって、優しい表情を向けるロイ。
だけどどこか悲しそうな漆黒の瞳を見て、フェリアは何故か申し訳なく思った。
「随分……変わったな、フェリア」
「え……そう、かな……?」
「あぁ……綺麗になったし……生きてる顔になった……」
指で頬を何度もなぞられ、フェリアはくすぐったくて俯いた。
「その顔をさせたのが私ではないのが残念だ」
「え………?」
顔を上げると漆黒の瞳と目があって、離せなくなった。
さっきまでエドと話していた時の鋭いような力はなく、至極穏やかに瞬きをしていた。
……離れてわかった、その眼差しが私以外には向けられていなかった事を。
「……大佐」
「どうした?」
翡翠の瞳は一瞬伏せられて何かを思案しているようだった。
次に見上げられた時には輝く宝石がロイを圧倒させ、目を見開いた。
変に大人びていたはずだったフェリアは、普通のいたいけな少女のようで。
「あの……今まで……ありがとう」
ロイは眉を顰めながら瞳を閉じ、混雑する思惑でフェリアの言葉を噛みしめた。
「……あぁ……いいんだよ」
そして次にフェリアを視界に映した時には、いつものように笑いながら青い頬と金の髪を撫でていた。
「フェリアも、お礼がちゃんと言えるように―――」
ロイが冗談混じりに言おうとした台詞が途中で止まった。
それは背の高いロイの胸に、小さなフェリアが抱き付いていたからだ。
「大佐も……温かい……」
柔らかい光を放ちながらフェリアは大佐の胸で微笑んだ。
しばらく驚き固まっていたロイは、しがみつくフェリアの体温を感じ、もう一度微笑んだ。
「あぁ……フェリア……生きるんだ」
どこまでも、優しい表情で。
「鋼の」
「…………何だよ」
ロイとフェリアの間に流れる想いを感じ、エドは最大限に眉を潜めて床を見つめていた。
「ここから列車で北に行くとレイシナという田舎町がある。
そこに東部でも結構有名な錬金術師達がいるという話だ。ちょっと遠いが君の為になる事があると思うぞ」
「え………っ?」
ロイの提案に一番に反応したのはフェリアだった。
大きな瞳を零れそうなほど見開いて、仕事の顔をしているロイを振り仰いだ。
「フェリア……もう大丈夫だな?」
「……っ……でも……!」
フェリアは声を震わせながら首を横に振り続けた。
微かに振動する肩にぽんと手を置き、ロイは諭すように囁いた。
「今の君なら、大丈夫だ。生きようとしている君ならば」
「…………」
「もう君は……前の君ではないんだ。鋼のもいる」
「……大佐……は?」
フェリアは置いていかれる子供のように不安を表した。
ロイは一瞬動きを止めるが、吹っ切るように首を横に振った。
「私はここを離れる訳にはいかない……だが、私はいつも君の傍にいる」
「…………」
「大丈夫だ。自分がやりたい事をして来ればいい」
「…………はい……」
フェリアが納得しロイの手が離れたのを見計らい、エドはフェリアの腕を掴んだ。
素早く引き寄せ、一秒でも早くロイとの距離を置くつもりで。
「エド………?」
「もういいだろ。帰るぞ」
「え?う、うん……」
「鋼の」
引っ張られるようにしてフェリアがエドの後を追うと、今一番聞きたくない男の声がかかった。
不機嫌極まりなくロイを睨み付けてやろうと振り向いたが、そこでエドは息を呑んだ。
「フェリアを頼む」
その大佐の、何と真っ直ぐな漆黒の瞳か。
あまりにも優しげで、あまりにも苦しげなその表情。
だけど……強くエドを見据えていた。
「……言われなくても……」
消えるような笑顔を、エドは直視できなくて金色の瞳を逸らした。
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ロイ夢?(笑)
これは完全エド夢だったはずなのに、どうしてこうも大佐が出張るのか……。
しかも白大佐って自分では凄く珍しい気がする(笑)
大佐もエドも白いので、たぶんバトルはないと思います(予定だけど……)
色々、伏線ばっかりでゴメンナサイ……。