―――「おめでとう、君もこれで晴れて国家錬金術師だな」
「…………」

私の錬金術は穢れた。

「……二つ名だが、上層部も粋な名前を付けてくれたものだ」

もう、私の対はいない。

「君は……この名前に耐えきれるかな?」
「……耐える気なんかないです………錬金術はもう使いませんから……」

大勢の軍の人間達を前に、私は痛みの叫びと共に血飛沫をあげた。
もしかしたらあれは夢だったのかもしれない……そんな期待は無惨に打ち砕かれた。
あの驚きの表情と、異物を見る眼差しが私の罪を露呈させる。

「……記憶を忘れるなとは言わない。だが、死のうとは思うな」

大佐にはわからない。

「生きろ……兄の分まで生きろ」

嫌だ……死なせてください。

「生きるんだ……『斬血の錬金術師』フェリアエンディード


……早く私に、安らかではない死を。






12th






「エド……何か怒ってる?」

東方司令部を出ても、フェリアの手首を掴んで離さないエド。
こちらを振り返らず大股で突き進むものだから、フェリアは半分引っ張られるように通りを歩いた。

「ねぇ……エドってば……」
「別に」


全然『別に』っていう言い方じゃない。
振り向いてくれないから見えないけど、どんな顔をしているのかは想像できた。

フェリアは意を決してエドの進路を塞ぎ、顔を覗き込んだ。

「ねぇ……何で怒ってるの?」
「怒ってねぇよ!」
「……怒ってるじゃない」

フェリアが訳が分からないと首を捻っていると、エドは青白い顔をじっと見つめた。
上目遣いで翡翠の瞳が大きく瞬き、それが余計にエドの顔を険悪なものにさせた。

「……お前……た、大佐が好きなのか……?」
「え……私が?」
「他に誰がいるんだよ……!」

エドの鋭い金色の瞳がフェリアを離さない。
思わず俯いて、エドに言われた事を考えた。

「私が……大佐を……好き……?」
「……そうなんだろう?」


いくら頭を捻ってもエドの言葉に対する応えが浮かばない。
エドは私が大佐を好きだって言ってるけど……

好きという感情がどんなものか……思い出せない。


「……よく……わからない……」


ごめんなさい、本当によくわからないの。


「……大佐はね、泣き叫ぶ私をいつも抱きしめてくれた。
夢にうなされた夜は朝まで一緒に寝てくれたし、ご飯を受け付けない私に必死に食べさせようとした」
「……………」
「でも、あの時はその優しさがわからなかった。私を必死に掴まえようとする大佐を憎らしく思う事もあった」


何故死なせてくれないのか。
何故、また私に錬金術を使わせようとするのか。


「……今は?」

エドの金色の瞳でまっすぐに見つめられた。

どう答えたらいいんだろう、私は大佐の事をどう思ってるんだろう……?


「難しい言葉とは逆に……本当に私を心配してくれてるってわかって……」


あの柔らかくて優しい瞳の意味がわかったから。
一緒に寝てくれた時も、さっきの胸も、あの人の体温は変わっていなくて。


「……温かかった……」

フェリアは大佐の瞳を思い出すようにして微笑んだ。
僅かに紅潮した表情は、思いの他エドの想いをえぐるには十分すぎた。

エドは握りしめた手を一度ギュッと強く力をこめた。
俯いてしまったエドの表情は見ることができなかった。


「それを……好きっていうんだよっ……!」
「あ、エド……!?」

バッと手を振り払われ、揺れる赤いコートは直ぐさま雑踏に消えてしまった。

「エド……?」


エドの声が無理に絞り出したように聞こえた。











バタンッ!


「あ、おかえり兄さん……あれ?フェリアは?」
「…………」

鎧の弟が明るい声で振り返るが、ドアに立っていたのは息を切らせた兄のみであった。

「ねぇ、フェリアはどうしたの?」
「……置いてきた」
「え……ええ!?どこに!?」
「……道ばた」
「ええ!?」

少しは後ろめたいのか、エドはボソリと呟いた。
だけど予想通りにアルの反応は大きなものだった。

「な、何でそんな事するのー!?フェリアは狙われてるってのに!」
「……わかってるよ」
「何でフェリア一人にしたの!?」
「わかってるって……!」

アルの叱責がプラスされて、エドは自分の行動を悔やんだ。
エドはその場に座り込み、縮こまるようにして頭を抱えた。

「……何やってんだ俺……」


どんな時も絶対一人にはしなかったのに、大佐との関係知っただけでこのザマ……

しかも俺一人だけウカレて調子乗って……!


「俺はバカか……!」

色々なものに負けた気がして、エドを空しい敗北感が襲った。


「……エド?」
「「!フェリア!」」

兄弟が慌てるのもつかの間、当のフェリア本人が姿を現した。

フェリア大丈夫だった!?変な人に襲われとかしてない!?」
「え?うん……大丈夫だよ?」

フェリアだけが事の重大さにはあまり気付いていなかった。

フェリア……悪い……俺……」

未だに気まずそうにヤンキー座りをするエドの前にフェリアはちょこんと座り込んだ。
エドを覗き込んで首をひねり、躊躇うことなくこう言った。

「私……エドの事好きだよ?」
「えっ、な、な、な……!!」

エドの顔は蒸気が吹き上がるほど一変して真っ赤になった。
いきなりの告白にパニックの兄に、異様な光景に身を固めた弟。
そんな兄弟達を余所にフェリアはへラッとした笑顔のまま。

「だってエド、さっき『そういうのを好きって言う』って言ったでしょ?そしたら、私はエドも好きだよ?」
「…………え?」


『そういうの』とは、先程大佐についてどう思っているかについて、フェリアが答えた感情の事だ。


「エドも大佐も私を心配してくれてるし、温かかったから……2人とも好きっていう事なんでしょ?」
「…………」
「…………」

しばらくの沈黙の後、兄弟は心の底から何かか崩れる音がした。
アルは『び、びっくりした……』と落ち着きを取り戻し、エドに至っては……再起不能なほどガックシと床に手をついた。
アルはちょっとだけ兄に同情した。


……た、大佐も俺も……


「……え?何か変な事言った?」
「う、ううんっ!へ、変じゃないけど……唐突でちょっと驚いただけ」
「…………?」
「……は、はは……」

エドは半分泣きたい気持ちになった。

結局、大佐の事も好きなんだよな……


「エド?」
「……いや、いいよ……ありがとフェリア……」


一応俺は、フェリアの中で大佐と同列らしいから……


エドは微妙に憔悴した表情でフェリアの頭を撫でた。

フェリアはそれに満足しながらも、だけど心のどこかで違和感を感じていた。
それは大佐とエドを交互に思い浮かべ、そこに微かに存在する温度差を。

「……違う……でも違う気がする」
フェリア……?」


『2人とも好き』って言った。
そのはずなんだけど何かが違う。


「わからない……でもどこか違うの……」
「どうしたんだよ急に……?」


エドの赤いコートにキュッと触れてみる。
ほら、やっぱりさっきとは違う。


「大佐の事を考えると、『ありがとう』っていう感謝の気持ちが出てくるんだけど……
エドの事を考えると……感謝だけじゃ言い表せない気持ちになる……」
「……フェリア……」


貴方は私に等身大で感情をくれた。
前に突き進む力は、眩しいのに時々弱くなったり強くなったり。
今度は、手を伸ばせば届く所にある光。


「わからない……わからないけど……!」


守られてるだけじゃ嫌になる。
傍にいて、守りたいと思ってしまう。

錬金術を使ってもいいって、

命を削ってもいいって……そう思わせるんだ。


フェリア、わかったから……もういいって……」

自問自答を繰り返して首を振るフェリアに、エドはもう一度滑らかな髪を撫でた。
でも……!と何かを言いかけたフェリアだったが、エドの優しい笑顔を見て考える事をやめた。

フェリアの言いたい事はわかったから……ありがとな……」
「…………うん」


……ホントはよくわかんねぇけど。

エドの心の奥ではそんな本音があったりしたが、それでもフェリアに見せた笑顔は本物だった。

「エド?」
「何?」
「みんなが私を心配してくれてるって気付かせてくれたのは……エドだから……」
「…………?」
「エドがいてくれたから……エドが温かかったから……今、私は大佐にも感謝できるんだよ……?」
「あ、おう……」
「……それだけ言いたかったから……」

頬を桜色に染めたフェリアは満足したのか柔らかい表情を作って俯いてしまった。
やっぱりフェリアの言いたい事はよくわからなくて。


だけど……少なくとも、フェリアは俺を必要としてくれてるってわかったから、まぁいいか……


小さな嬉しさもあり、優しく抱き寄せるとフェリアは細くて今にも壊れそうだった。

フェリア……俺がお前を守る」
「……え?で、でも……!」
「いいから!この気持ちだけは受け取っとけ!」


俺を守りたい、そうフェリアは言いたいんだろう。
だけどその前に俺が守り通す。


「……俺が守ってやるから……」
「……うん……ありがとう、エド……」

フェリアは最後には笑ってくれた。


大佐が大佐のやり方でフェリアを守るなら、俺は俺のやり方でフェリアを守る。











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ちょっと微妙に甘めを目指しました。
これ以降、シリアスが続くのでたくさんここに詰め込みました(笑)

ヒロインは気付いていないでしょうが、恐らくヒロインはエドを好きでしょう。(え?確定?)
さて、もし大佐がエドのように素直に心配してるという行動を示していたら、
ヒロインは大佐を好きになったか、という疑問なんですが(どこに疑問が……?)
……好きになったでしょうが、エドを好きな気持ちには勝らないでしょう(妄想的解釈)

鋼ファンにはわかると思いますが、大佐とエドには違った魅力があります。
2人が同じ行動をとったとしても、やはり2人には土台が違いますから
その行動に付随する気持ちも違ったものになると思われ。
…………言ってる事わかりますか?何せ作者自身もあまりよくわからないので……(汗)
ヒロインとしては、似たような(?)過去を持つエドが悩み苦しみ、
だけどそれでも力強く前へ行こうとする少年独特な感情の変化に惹かれたのでしょう。
兄を思わせる大佐の優しい光よりも、時には強くまばゆい光の方がヒロインにとっては過去を抜け出す要因になるかと。

………難しくてスイマセン。