――散る桜

秘むるや永遠に をちの君

友と共にぞ いかで奏づる――






friends end






「俺……俺……っ……!ずっとお前に言えなかった事があるんだ!!」

エドは息を切らせてそう叫んだ。
雨に濡れた髪から金の雫がこぼれ落ちる。

「エ、エド……!?」

フェリアは近くにあったタオルでエドの髪を拭こうとしたが、その腕を強く掴まれた。
つり上がった目が一瞬も反らされずフェリアを見つめる。

「わかってる……わかってるんだ……俺がフェリアを振り回している事は……!」
「どうしたのエ――」
「わかってる!わかってるんだ……!俺じゃ駄目なんだって事も!」
「な、何言って……?」

数時間前に悲しみに満ちた表情で出ていったエドとは全然違っていた。
しきりに頭を振り、だけど強い瞳だけは真っ直ぐに見据えてくる。
長年の付き合いでわかっていた、大きな意思を秘めた顔だった。

「だけど!……これだけは言いたかったんだ!!」


こんな言葉で、フェリアは振り返ってくれるだろうか。


「俺は……フェリアと別れたくなんかない!」

フェリアはゆっくり首を振る。
その拒絶を意味するものなんか、見たくなかった。

「……でももう決めて―――」
「俺はフェリアが嫌いなんかじゃない!苦手なんかじゃない!」
「…………え……?」
「そんなの今まで一度も思った事なんかない!」


……その原因を作ったのは俺……


「本当は……いつでも話したかった!普通に友達をやりたかった!」


だけど直そうと思った時にはもう遅くて、フェリアの笑顔はアルのものだったから……


エドは雨のシミが広がる床とフェリアを見比べた。
微かに残る逡巡を消し去るため、金の髪が遠心力で円を描く。

「俺は……っ……フェリアといると……どうしていいかわからなくなって……!」

こんな風に捲し立てるエドは見たことがなくて、フェリアの全身が硬直した。
初めて聞かされる言葉達ばかりで、自然と胸が高鳴り、色んな感情が入り交じった表情を見せる。

「だけどそれは!苦手とかそういうんじゃなくてっ!!」


独りにしてごめん。


「だから……っ…仲間外れみたいな事もしたけど!それは……フェリアがいると自分が自分じゃなくなる気がして!」


仲間外れにしてごめん。


「どう接していいかわからなくなって!」


ちゃんと幼なじみできなくてごめん。


「どう話していいかわからなくなって!」


この続きは、お前が望む言葉じゃないんだろうな。望んでいる訳がない。

彼女は弟が好きで。弟は彼女が好きで。
俺は幼なじみなんだ。

だけど……たとえ他の男を見ているのだとしても、迷惑なんだとしても。
振り回しているのだとしても。

続きが言いたい。


「俺は……っ……俺はずっと……!」






―――ただ1人の人に振り向いてもらえなければ……意味がないよ……―――


期待してはいけない。
この続きに、私が望む言葉は来ない。来るはずがない。

彼は彼女が好きで、彼女も彼が好きで。
私は幼なじみなんだ。

期待させないで。
その言葉で、私はもう泣きそうなほど嬉しいんだから。


……でも、続きが知りたい。


「俺は……初めて会った時から……フェリアが好きだった!!」
「!!!」
「ずっと好きだった!だから……俺はフェリアを見ると気が動転して!」

フェリアは自分の耳を疑った。

「エドが……私を……?」

もう一度聞き直してみるとエドは真っ赤な顔をして頷いた。


信じられなくて、フェリアは黒い瞳を溢れんばかりに見開いて立ち尽くした。
言葉を発する事ができなくなって、全身は微かに震えた。
残された感覚の視覚が映すのは、眉をしかめて俯いた金色の髪と瞳。


何も返答が返ってこないので、ようやくエドが顔をゆっくり上げた。

「!…………フェリア……」

一瞬、胸が締め付けられるほどの鼓動がエドを襲った。
棒立ちになっているフェリアからは、透明な雫だけが生きているかのように溢れ続けていた。
エドまでも言葉を失い、黒真珠の揺らめきを見つめた。


一生とも思える長い沈黙の後、フェリアは初めて睫毛を上下させた。






「ダメよ…………そんなのダメ……」
「え………?」


私は涙の意味とは裏腹の言葉を口にしていた。


「何で……何で私なの……?」
「な、何でって言われても……俺は……初めて会った時からずっと……」


嬉しさと喜びと幸せの涙とは逆に、首は左右に振っていた。
自分の心に反して、自分を押さえつけるようにゆっくり首は速さを増していく。


「ダメだよ……私じゃ…ダメだよ……!」
「……わかってる!だけど、俺の気持ちだけは伝えたかったんだ……!」
「そんな……そんなの今まで一言も……!」
「……わかってる……フェリアがいなくなるっていう最後の最後になるまで、俺は逃げてたんだ……」

エドの顔が段々曇っていく。

「でも……別れたくない!行ってほしくないんだ!」


最後の最後で、貴方はほしかった言葉をくれるんだ。
涙は止まらない、だけど首は縦には振れないんだ。


その姿を見て、エドが叫んだ台詞は沈黙の空間に散らばって消えた。
それと共に、部屋に入ってきた時の勢いが嘘のように弱まっていく。

「……ごめん……混乱させて……こんな事で俺はまたフェリアを縛り付けようとしてる。
俺の気持ちなんか伝えたって……フェリアが出ていかなくなる訳ないのにな……」


そんな訳ない。
貴方の言葉を聞いて揺らがない訳がないのに。
この涙は拒絶の意味なんかじゃない、私の本当の気持ちなんだよ。
だけど、溢れる雫では想いは伝えられない。

本当は今すぐにでも言いたい、貴方が好きだって。
でもそれを言ってはダメなんだよ。


エドが悲しそうな顔をしてる。傷ついた目をしてる。
握りしめた拳を力なく垂らして、俯いて。
諦めの笑顔を無理して繕って。


……ごめんねエド……ごめん……


また涙が頬を伝った。


「……迷惑だよな、ごめん……フェリアはアルが好きなのに……」
「え………?」

思ってもみなかった言葉が返ってきた。

「わ、私が……アルを好きって……?」
「そうだろ?んなの、見てればわかる事だし……」


わかっているはずだった、エドもウィンリィも私とアルをくっつけさせようとしている事は。
わかっているはずだった、好きな人に応援されている事は。

だけど、だけど……

本当の気持ちを知ってくれているのがアルだけなんて……そんなの悲しいよ。
私の想いが……可哀想だよ、エド。
報われないのはわかっているの。
記憶と月日に消去されるまで、決して見せてはいけない気持ち。
そして、本当に伝えたい人には気付いてもらえない。

そう心に決めたはずなのに、芽生えた報われない想いに存在価値がないなんて……そんなの悲しすぎるよ。


「…………違うよ……」
「……え?」


涙が止まらない。
気付いて……と心が悲鳴を上げている。


「違う……アルは好きだよ、だけどそれは幼なじみとして……!」


気がついて……私の想いを。
このまま消されてしまうのは、あまりにも可哀想だから。


「本当に好きなのは……違う人……!」
「え……じゃあ、誰?……俺の知らないやつ……?」
「…………!!」

躊躇いながらエドは尋ねる。


私の気も知らないで残酷に聞き返してくるんだ、エドは……


「……違う……エドは何にもわかってない……!」


わかるはずがないのに、わかってほしいと願う矛盾した私。


「私が好きなのは……私がずっと好きだったのは……っ……!」


エドに詰め寄り、見開いた漆黒の瞳で太陽のような瞳を見上げた。
袖を強く掴まれた事に最初は驚いていたけど、私の台詞を一つ一つ噛みしめながらその金の輝きは揺らめいていく。


気がついて……でも気がつかないで。
気がついたら、もう後には戻れない。






エドはすすり泣くフェリアを見下ろしながら、全神経で考えをまとめていた。
フェリアの涙の意味を、袖を掴んできた意味を汲み取るように。

自分の好きな人が想いを寄せる人……その選択肢に自分は真っ先に消える。
自分であってほしいという願望が強いほど、選択肢に上げる勇気はなくなる。
自分であるはずがない、自分な訳がない……そう、何度心に言い聞かせた事か。
いくら諦めを決心しても溢れ出す願いは止まらないから。

自分である訳がないんだ、自分を好きになってくれる訳がないんだ。
相手の拒絶という反動は……何よりも怖いから。


その抑え込んだ願望が、フェリアの涙でこみ上がる。

「…………俺……?」

震える口を恐る恐る開くと、フェリアの肩がぴくっと反応した。

「……俺、なのか……?」

フェリアは何も答えない。
だけど微かに桃色を帯びた頬に加え、今はそれが肯定の意味だと理解した。

「ほ、ホントに俺……?」

一度は伏せた睫を持ち上げて金色の瞳を見つめた。
涙で濡れたフェリアの顔がひどく色っぽくて、エドは急激に顔を真っ赤に染めた。


こんな間近で見られるエドの瞳はとても綺麗で、強い意志が秘められた真っ直ぐな光だった。
ずっと……こんな風に見つめ合えたらいいのに。

俗に言う「いいムード」というのは今のような事を指すのだろうか。
想いを交わらせたこの瞬間が永遠にも思えた。


しかし、フェリアの首はまたしても左右に揺れた。

「……でもダメなの……エドの気持ちは受け入れられないの」

互いの間には暗い影が生まれた。

「え……?だ、だって今俺のことを―――」
「ダメなの……それじゃダメなのよ……!」
「何が……!?何がダメなんだよ……?」


フェリアは俺を好きだと言う。
俺もフェリアが好きだ。
そこに何の問題がある……?


状況が理解できなくてエドはフェリアの肩を掴んだ。
眉をしかめたフェリアの両目から、またボロボロと雫が溢れる。


フェリアっ……!!」

エドとしてもこのままでは引き下がれなかった。
長年想い続けた人に気持ちを打ち明けられて、そして奇跡だと思えるくらいフェリアの言葉が嬉しかった。
だから『ダメ』と言われて余計に頭に血が上る。

掴んだ手に無意識に力が入り、フェリアの微かな呻き声が聞こえた。
慌ててエドが手を離すと、フェリアは数歩後ろに下がった。

「…………ウィンリィがエドを好きだから……」
「え…………?」
「ウィンリィもエドが好きだから……ダメなの……」


太陽のような存在だったエドがいて。
そして太陽のような笑顔をくれるウィンリィがいる。


「……そ、それと何の関係があるんだよ……!」
「わからない?私がエドの気持ちを受け入れたら、傷つくのはウィンリィなんだよ?」


――ずっと前から……エドが……好き――

そう言った友達にも私と同じ想いがあって。
同じ不安や辛さ、悲しみを経験する。


「……それは……知ってるけど!俺はずっとフェリアが―――!」
「言わないで!」


言わないで。
それ以上聞いてしまったら……私は自分を抑えきれない。
ウィンリィより……エドを選んでしまう。


「嫌だ!俺はフェリアが好きだ!ずっと……ずっと!」
「ウィンリィは?ウィンリィの気持ちは?!」
「それは……」

エドは返答に困った様子で言葉を詰まらせる。

「私はウィンリィがどれだけエドを好きか知ってる……ウィンリィがどれだけエドの役に立とうとしてたか知ってる!
私より……ずっとウィンリィはエドに好かれようと努力してた!」


私なんかよりずっと努力していたウィンリィ。
幸せになるのは彼女でないといけないのに、何故エドは私を選んだの?
……私は臆病で、弱くて、彼女には到底勝てっこないのに。


「でもそれは……仕方ない事だろ……?」


誰かが幸せになる分、誰かが不幸になる。
誰かの想いが叶う分、誰かの想いは行き場を失う。

誰もが幸せになれる方法などない、それが恋愛なはず。


だけど……そんなに簡単に受け入れられるものじゃない。


「『仕方ない』でウィンリィの気持ちはそんなにもあっさり捨てられるものなの?!」
「……じゃあ……俺の気持ちはどうなるんだよ?!」

エドにも選ぶ権利はある。
だから世の中は上手くいかなくて、悲しい出来事ばかりが胸を占める。

彼女が傷つくと言って俺を拒むフェリア
だけど……フェリアが好きだという想いが拒まれた俺はどうなる……?
俺の想いは行き場を失って……それからどうすればいい?


「私はウィンリィの友達なの!」
「それがどう―――」
「ウィンリィにもこの辛い気持ちを味あわせるつもり?!
胸が痛い思いを、好きな人が他の人を好きだっていう辛さを……ウィンリィに味あわせるの?!」
「それは……」
「私にはできない!こんな思い……私だけで十分よ!」


確かに、ウィンリィから告白された時……エドははっきりと断る事ができなかった。
ウィンリィの悲しそうな表情を見て、それ以上傷付ける事なんかできなかった。
潤んだ瞳の奥には自分と同じような、胸を掻き乱すほどの想いがあるかもしれないと思うと、
……絶望の一言だけは口に出せなかった。

そんな事が頭をよぎる一方で、フェリアが今までそんな思いをしてきたという事がエドの心を占めていた。


ウィンリィには悪いと思いながらも、エドが求める願望はただ一つであった。


「っ……でも……俺は!」
「私よりずっと頑張ってきたのに……エドが私の方を好きってだけで、それを受け入れるなんて……できない」
「……まさか……俺達と別れる本当の理由って……」


頑なに出ていこうと声を荒げたフェリア
頑なに俺の想いを拒もうと泣き叫ぶフェリア
ふとこの2つが結びついた。

予期していたようにフェリアは笑っていた。
『それ以上言わないで』と懇願するように必死に笑顔を取り繕って。


「エドは友達……だけどずっと前から友達じゃないの。私がエドを好きになった瞬間から……」
「…………」
「嬉しかった、私の想いが通じて、エドが私を好きになってくれて。
……これ以上進んだら、エドとは本当に友達ではいられなくなる」


友達ではなく、『男』として。


「それでもウィンリィは友達だから……ウィンリィの悲しむ顔は、見たくないの……」


彼女はいつまでも一生『友達』だから。
彼女を裏切る事はできない。


「私……もう幸せだから。これだけで幸せ……」


エドと想いが通じた、それだけで。


「ウィンリィにはこれから幸せになってほしいの。わかるでしょ?」
「……俺に……ウィンリィと付き合えって事か?」
「そこまでは言わない。……でもずっと一緒にいてあげて。幼なじみなんだから……」
「……お前は?」
「私は幼なじみだけど……エドとはもうただの幼なじみではいられないから……」


自分で決めた事だけど、エドとウィンリィが並んで歩く姿は見ていられないから。


「だから……みんなとは別の道をすす―――」
「……んなんで……」
「……え……?」
「そんなんで、納得できる訳ないだろ……?」

俯いて黙っていたエドが至極低い声で吐き出した。
諦めたような口調じゃなく、低くゆっくり、だけど言葉の一つ一つに重みがある喋り方。
穏やかな、だけど重く深い色を宿した瞳に、フェリアは思わず射抜かれたように動けなくなった。

「俺は嫌だ……」
「……わかって、エド……」
「わからない……」

フェリアは後ろに下がって間合いを取ろうとするが、エドは少しずつ少しずつ近づいてくる。
エドの雰囲気が怖いんじゃなくて、近づいたら戻れなくなるという怖さがほとんどだった。

「何で俺達が別れないといけないんだ……」
「だからそれは―――」
「……やっと分かり合えたんじゃねぇか……」
「…………」

エドの言葉が胸に浸透していき、思い出させるのは幼い恋心。


小さな頃初めて会って、そこで生まれた小さな溝。
振り返っても金糸のなびく後ろ姿、振り返っても笑顔が見えない後ろ姿。

大きく歪んだひずみの間に、ようやく橋が取り付けられたというのに。
私はそれを渡ってはいけない。


「俺達……やっと誤解が解けて、やり直せるんじゃねぇか……」


何度諦めようと思っただろうか、何度忘れようと思っただろうか。
彼は彼女のもので、彼女は彼を支えていて。
だけどその度にエドの優しげな表情が頭に浮かんで、涙しか流せなかったあの頃。

ずっと、彼の一番になりたかった。


フェリアの背後にベッドが迫ってきた所でエドはピタッと止まり、金色の瞳はまっすぐフェリアを見つめた。


「俺は……お前がいてくれたから……一番傍にはいられなかったけど、
一緒にいてくれたから今まで頑張って来れたんだ……」


ずっと……彼の一番傍に行きたかった。
今、エドの手を取れば……私は一番近くの存在になれるんだ。
恋い焦がれて、おかしくなりそうなほど望んだその関係が、目の前にあるんだ。


「……やめて」
「俺は離れたくない」
「やめて……これ以上言わないで……」


このままじゃぁ……私は友達より貴方を選んでしまう。


「何度でも言ってやる……ずっと傍にいてほしい……」
「いや……私は……ウィンリィを……!」


ウィンリィを裏切る事はできない……!


静かに佇んでじっとこちらを見つめる瞳は……良く言えば、色っぽくて。
これまで見たことがないエドの表情達にフェリアは心底狼狽する。


「これからじゃないか……出て行くって言うなよ……」
「!!」

囁くように聞こえたのは、エドに柔らかく抱きしめられて互いの距離がゼロになったからだろうか。
少しの躊躇いを含ませたエドの腕は、触れるか触れないかのギリギリの位置を保ちながらフェリアの体を包んだ。

何もかもが初めてで石のようにしながら感じたものは、しっかりした肉付きとゴツゴツした片腕。
初めて感じた……これが男の人の匂いなんだって。


「これからもっとフェリアの事を知りたい。フェリアに俺の事もよく知ってもらいたい」


エドの吐息が心に染みこんでいく。


「ウィンリィには辛い想いさせるかもしれない……だけど、お前も十分辛い思いしてきたんだろ?」


わかってよエド……今こうしてるだけでウィンリィは幸せじゃなくなっていってる。


「『これだけで幸せ』なんて言うなよ、もっと……幸せな思いさせてやりたいよ」


辛いよエド……今こうしてるだけで私はこんなにも涙が出るんだ。
悲しみの涙以外のものなんてないと思ってたけど……この溢れ出るものは悲しみではないよ。


「……好きだ、フェリア。初めて会った時から、お前の笑顔を見ると幸せな気分になる」


ウィンリィの幸せ、私の幸せ……どっちを選んでも辛いよ……


「初めて会ったときから、ずっと好きだった……」


私だって好きだった。
初めて会ったとき、一番笑顔で迎えてほしかったのは貴方だった。


「……ひっ……ぅ……エド……私、どうしたらいい……?」


どうして誰もが幸せになれる方法がないんだろうか……?


「……そんなのわかんねぇよ……だけど……」


ギュッと、エドは私を強く抱きしめた。


「もう自分の気持ちには嘘を付きたくないんだ……!」
「…………!」


私の気持ち……私の気持ちは?

私は……どうしたい?

本当は……どうしたい……?



「まだ本当は俺……夢なんじゃないかって気がしてて……」


私もそう思う……これが全て夢だったら……?


「夜が来て、朝起きたら……また俺はフェリアを遠くから見てる生活に戻ってるんじゃないかって……」


夢の中で何度も現実であることを祈って……だけど目が覚めてしまって。
毎日が何も変わってないことに、また涙するんだ。
毎晩毎晩同じ夢を、幸せな夢を、最高な夢を。
しばらくその夢を見ないな、なんて油断してるとまた現れる無限のループ。

夢の中で生きられたら、なんてあながち冗談でもない願望を持ってた。


「また……なくしてしまう気がして……」


……もう、夢なのは嫌……幻は嫌……


私は何もしていない、何も役に立てない。
遠くから見ているだけだった、後悔してばかりだった。
話しかけても都合いい話題なんかなくてすぐ会話はなくなって。

彼女には永遠に勝てない。
彼女のようにはなれない。

それが現実だけど。
この先には何が待っているのか知りたい。
この夢の続きはどうなっているのか知りたい。


エドの事……もっと知りたい。

エドの傍にいたい。

エドと一緒にいたい。


「……フェリアの気持ち、本当の気持ち……教えてくれないか?」


ごめんなさい。


ごめんなさい。


どうか……………私に覚めない夢を下さい。




「………好き……ずっと……っ……エドが好きだった!!」


嗚咽を漏らしながら叫び、エドの背中に腕を回した。
フェリアの涙でぐしゃぐしゃな顔を、エドは自分の袖で拭ってやった。


さっきまでの不安が吹き飛び、エドは心から嬉しそうに微笑んだ。
昔、雨の頃に見た時と変わらず、エドの笑顔は優しかった。

互いに頬の紅潮が高ぶり、見つめ合いながら思わず吹き出した。

我に返ったエドは慌ててフェリアから離れて距離をとった。
そんな一連の行動がおかしくてフェリアはクスクスと微笑んだ。
軽く細められた瞳からは眩しい涙が零れた。

高揚した心が突き動かすまま、エドは赤く発色した唇に自分のそれをのせた。

微かに触れただけの一瞬のキス。

目を丸くさせるフェリアを見て、すぐさま距離がおかれた。
だけど……もう止まらなかった。

抱きしめるのもキスをするのも初めての事ばかりで。
恥ずかしいけど胸を高鳴らせる……恋人たちの証。

今度はゆっくり唇に触れた。
柔らかくて熱くてしっとりと吸い付くような感触。

今度はもっと長く。

次はもっともっと長く。


夢の続きは甘くて、熱くて……言葉では言い尽くせない世界が広がっていて。

ただ相手の背中に腕を回して引き寄せてギュッとしているだけなのに。
どうしてこんなに夜は短いのだろう。

白いシーツに落ちた幸せのシミは乾いて跡が残った。











――――「―――あなたが新しくひっこしてきたフェリアちゃん?」

「わたしウィンリィ!よろしくねフェリアちゃん!」


フェリアちゃん、わたしの家にあそびにこない?ばっちゃんのシチューすごくおいしいんだよ~!」

フェリアちゃんあのね、わたしの友達をしょうかいするよ!兄弟なんだけどね、きっと仲良くなれるよ!」

フェリアちゃん、学校にはもうなれた?」

フェリアちゃん、裏山にたくさん花が咲いたの!おやつ持ってお花見しない~?」


フェリアちゃん、フェリアちゃん!」


彼女は新しい土地で戸惑う私に何の躊躇いもなく話し掛けてくれた。

たぶん無意識なんだろうけど、すっと彼女は手を繋いでくれた。
すこし強く私の手を引いて、だけど心地よくて温かい。

繋いだ手を見つめて、彼女には一生頭が上がらないと思った。


フェリアー!」


「もう~フェリアはいつも自分の気持ちを押し込めちゃうんだから~」

「私………フェリアには幸せになってもらいたいな……」


フェリアと会えてよかった……」


「えへへ……フェリア大好き~~!」


フェリア~~!」


私を幸せにしてくれた彼女こそ、幸せになってもらいたかった。
手を差し伸べてくれたあの時からずっと、私は彼女を見上げていた。
太陽のような彼女。


「私たち、いつまでも友達だよね……!」―――――











朝の光が窓から差し込む。


「……んん……」

ゴツゴツした上着を着たままベッドに寝転がり、気がついたら寝てしまっていたようだ。

「……俺……いつのまに……」

エドはむくっと起きあがりながら寝る前の事を思い出した。


あのままキスを何度も交わして、互いに抱きしめ合ったまま幸せの瞬間に浸っていた。
男としての欲望が姿を見せるよりも、ただ純粋に彼女を近くに感じていたかった。


ふと昨日の事が蘇って、恥ずかしい気持ちに駆られつつ隣に寝ているだろう彼女の寝顔を―――



「…………フェリア……?」


隣に愛おしい彼女はいなかった。


代わりに、テーブルには紙切れが置かれていた。











「……はぁっ……はっ……っ…!!」


頬にしたたる汗を塩辛いと感じながらもエドは走る事をやめなかった。
心臓が悲鳴を上げても、いたわる気持ちなど一切なかった。

右手には、グシャグシャに握られた紙切れが。


【――――エド、幸せな気持ちをありがとう。

これからは、私の友達と仲良くね……


ごめんなさい

さよなら      フェリア




「……っは……くそ……!」


フェリアが向かう先はただ一つ。


「何でだよフェリア……何でだよ……っ…!!」


駅のホームにはすでに列車が煙を立てていた。
合図のベルが鳴り響き、列車は少しずつ加速していった。


「……っ……フェリアっ!!!!」


人々が振り返って見る事なんかどうだっていい。
自分の体が壊れてもどうだっていい。

名前を呼びながら、夢中で列車を追いかけた。


フェリアーーーっ!!!」


スピードを上げた列車の彼方の窓から、長い黒髪が流れた。


「……エドっ……!」


彼女はまた泣いていた。
涙が風に乗せられて空に飛んだ。


「待てよフェリア……!!行くなよ!!俺から離れていくなよ……!!!」


「ごめんエド……ごめんなさいっ……!!」


非情にも彼女との距離がどんどん遠ざかってゆく。


フェリアっ……フェリア……!!!」


ホームは足元で切れ、固いフェンスがエドとフェリアを遮った。


フェリアーーーーーっっ!!!!」


行き場を失った愛しい彼女の名前を共に、一つの雫がエドの頬を伝って落ちた。











どんどん小さくなっていく。
どんどん見えなくなる。


ごめん……ごめんね、エド……


貴方はもう、友達ではないんです。


それでも彼女は友達だから。



だから…………さよなら、エド……



さよなら、私の好きな人。



私の友達と……幸せに…………











<完>






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……すいません、バッドエンディングですね(ここまで引っ張っておいて!)

ごめんなさい!
ハッピーエンドにしてください!って要望も多々あったんですが、これは元々バッドエンディングの予定でした!
ネタバレになるので言えずにすいません。
……私もバッドエンディング嫌いなんです………だって、ねぇ、お話なんだから救ってやろうよ、とか思いますよね。
今回は、どうやってもハッピーにできなかったってのが本音でしょうか?

ハッピーにする方法も考えました。
だけど、ウィンリィは幸せにはならないんです。
アンチウィンリィ派の方もいらっしゃるでしょうが、ヒロインの立場で「友達」として考えてください。
「誰かの願いが叶う頃、誰かが泣いてる」なんて歌ありましたが(笑)、
誰もが幸せになる方法って本当に少ないんですよね(むしろないかも)

ヒロインが幸せになれば、ウィンリィが幸せにならない。
ウィンリィが幸せになれば、ヒロインが幸せにならない。
これはエド夢なんだから前者を選べ!と仰られるかもしれませんが……

この話は「誰もが主人公」を目指して書きました。
マンガでよくある(?)話なんですが、友達との三角関係の末に主人公が幸せになる。
友達は辛そうな顔をしながら、温かく2人を見守ってる……
……って、んなのあるわけないじゃないですか!
友達だって、主人公が全巻で思ってきた悲しみや苦しみ、醜い感情を持ってるんです!
友達の想いが疎かにされたのに、何故それがハッピーといえる!?

……すいません、取り乱しました。

「やっぱり彼には彼女が一番ふさわしい」とかも、そう思いながらも自分の中では悲しみでいっぱいなんです。
なぜ私ではダメなの?とか考えないのでしょうか。


今回、ヒロインが主人公なので(というかあまりウィンリィの心情は書きたくなかったので/え?)、
ウィンリィの心情は書いてないですが、エドもアルも、誰もが主人公となれるだけの心情展開したつもりです。

ヒロインはウィンリィに負い目(?)を感じてます。
ウィンリィは一番に友達になってくれた人で、絶対に裏切ってはいけない人なんです。
何もかも完璧で憧れてしまう、ヒロインには光のような存在なんです。
ウィンリィはヒロインを心から信頼してるし、ヒロインもまたウィンリィを心から信頼してる。
だからこそ自分の気持ちを抑えてまでウィンリィを幸せにしなくては、というある種の義務感が働いたと思われ。

エドを選んだとしても、ヒロインは完全には幸せにはなれないでしょう。
人一倍、相手の気持ちを思いやる性格のヒロインでは、
すぐそばに、無理して笑うであろう親友の顔など耐えられないかもしれません。


……じつはコレ、誰も報われてないんですが(ウィンリィ以外……)


……ってか、これエド夢じゃないよね!?
こんなんでいいのかーーーーー!!
よろしかったら色々感想下さい!
「こんな終わり嫌だーーー!」とか何でもどうぞ(笑)