規則的な振動と共に、列車は揺れる。
次の目的の街は少し遠い。
せっかく仲良くなれた街の人達と別れの挨拶をするのは、何回体験してもやりきれない思いだった。
横目で窓際を見る。
私の隣にはウィンリィが座り、向かい合ってエドとアル。
エドの正面はいつもウィンリィの指定席で、一度もその座をもらった事はない。
ウィンリィとエドは売店で買ったお菓子やら果物やらをを楽しそうに食べていた。
エドも最初は「ガキくせぇ」とか言ってたくせに、時間が経つと食べ物の取り合いを始めた。
……これも、何回繰り返せば気が済むんだろう。
そして、私の胸の疼きもいい加減なくなってほしかった。
列車なんて嫌い。
おしり痛いし、ガタガタ揺れるから眠る事もできない。
friends3
「ねぇねぇ、君可愛いね」
「え……?」
顔を上げるといつの間にか廊下側に男達が集まっていた。
「何処行くの?」
「1人?」
「名前何て言うの?」
「俺らの席来ない?」
口々に言うから受け答えもできやしない。
そしてフェリアが困惑しているのを余所に、幼なじみ3人組はあまり焦っていない。
実はこれも日常茶飯事で、呆れかえる程まできていた。
でも……少しくらい庇ってくれたっていいのにさ。
と、そこにひどく顔が真っ赤で湯気まで出てきそうな男が前に進み出た。
「お、俺……シンっていいます!あ、あの……あなたの名前は?」
ナンパ男の中に珍しく自己紹介してきた人がいる。
もしかしてナンパとかじゃなくて、私の事本気……なのかな?
「あ……フェリアです」
「あ、あああああの!どっ……どちらまで行かれるんですか?」
声が裏返ってる。
そうなんだ。
私の事本気なのね。
……他人の気がしないよ、シン君とかいう人。
「……次の駅で降ります」
「お、俺もそうなんです!う、嬉しいです!そっ……それじゃあ!!」
言い逃げのようにダッ!っと走り去った。
ポカンとあっけにとられた私。
何だったんだろう……
「でもほんと可愛いよね!」
「次の駅なんて言わずにさ~俺らと遊びに行かない?」
変な告白にも動じずナンパ男達は復活した。
いい加減にしてよと思いながら、ナンパ男達のおかげで少し気分が楽になった事を、
フェリアは胸の内でこっそり感謝した。
「……モテモテだね、フェリア」
「…………そうだな」
ナンパ男達に囲まれている間、窓際の男女2人はしみじみとその様子を観察していた。
そんな2ショットはほのぼのと若い者達を見る老夫婦。
「フェリアほんと可愛いもん。大人しいし華奢だし……」
「……うん」
「羨ましいな……私もあれぐらい、なんて贅沢言わないけど……魅力的な女の子に……」
フェリアはウィンリィの憧れだった。
あんな女の子になれたら……いつもそう思う。
「くそぅ。こっちにだって女はいるんだぞ~フェリアばっかりにデレデレしちゃってさ」
少し腹の虫が治まらない。
一方エドは片肘を付いてフェリアを見ていた。
男に囲まれて恥じらい、微笑む姿を。
「…………俺は……別に魅力なんかなくったって、
ただ1人の人が自分を見てくれれば……それでいい……と思う」
ウィンリィは顔を上げた。
「……そう思う?」
「あぁ……それにウィンリィだってそんなに悪くないぞ?」
「……ほんとに?」
「だからそうだって」
ウィンリィは頬を桜色に染めてエドを見つめた。
その相手は未だにウィンリィと目を合わそうとはしない。
しかし呟いた一言は、ウィンリィを輝かせるには十分な言葉だった。
エドは相変わらずフェリアの方角を見ていた。
下心丸出しの態度で図々しく話し掛けてくる男達は尽きない。
だけど、フェリアが目を見開いてこっちを見ていた事に気付いたのはアルだけだった。
「あ、あの……!」
「「?」」
フェリアとアルが振り返ると、列車の中で名前を言ってきた男がいた。
えっと……
「……確か……シン君、でしたよね?」
「は、はい!覚えててくれたなんて嬉しいです!」
フェリアが笑いかけるとシンは嬉しそうに顔を紅潮させた。
「それで……あの……」
シンは男のくせにモジモジと俯いた。
何を言おうとしていたのかはわかっていてた。
「お、俺……フェリアさんが好きになりました!と、友達からでいいので……お願いします!!」
やっぱり……
大声の告白にも動揺せず、フェリアは悲しい目でシンを見た。
「……ごめんなさい」
「…………!」
シンの顔の血の気が一気に引いていった。
それを見てまた胸が痛くなった。
悲しんでいる。
悲しませている。
「私達……色々な所を転々と旅をしてるの。だから……友達になれてもすぐ別れてしまうの」
あぁ、何て言えばいいんだろう……
どんな風に言ったって、シン君の気持ちを踏みにじっている事は確かなのに。
「それに……私には……」
フェリアは俯いた。
続きが言えない。
いつか自分が言われるのかもしれない。
そう思ったら……言えない。
相手の『想い』も受け取れない、しかも諦めきらせないこの『台詞』。
残酷で、自分を最も正当化させる。
そんなの……言えないし、言われたくないよ。
「……わかりました。ごめんなさい、無理させてしまって……それじゃあ!」
「あ……!」
言いづらそうにしている意味を察したのか、男は背を向けて雑踏に紛れていった。
もう、一度も振り返りはしなかった。
その背中が痛かった。
「はっきり断ればよかったのに。『好きな人がいるから』って」
隣にいたアルが意地悪そうに言った。
表情はわからないけど、言い方でそう思った。
たぶん、私がエドを好きだって事、アルは知ってる。
確かめた事も確かめられた事もないけど、アルなら知ってると思う。
とりあえず、シン君とは反対方向に歩き始めた。
「そんなの……言える訳がない」
「……そう?」
「私があの人の気持ちを潰したのには変わりないもん」
いつか、私がああなる。
今の状況で言えば、私がエド。
シン君が私で……『好きな人』っていうのは……ウィンリィかもしれないんだ。
『かもしれない』は、私の最後の望み。
「モテる人の発言は余裕があっていいねぇ」
「……嬉しくないよ」
アルの冗談も今の私には通じない。
「色んな人に声かけられたり、シン君みたいに告白されても……嬉しくない」
今、エドとウィンリィはいない。
ウィンリィが機械鎧の店を見つけたとかでエドを無理矢理連れていった。
無理矢理と言っても、それでも2人で行ってしまったんだ。
私を置いて行ってしまった。
私に背を向けて。
同じ幼なじみの私に。
「ただ1人の人に振り向いてもらえなければ……意味がないよ」
アルは無言で返事をして、それからゆっくりと口を開いた。
「兄さんと同じ事言うんだね。……フェリアも聞いてたんだ?」
「…………」
そう、聞いてしまった。
『ただ1人の人が自分を見てくれればいい』とエドは言った。
それはつまり、ウィンリィさえ自分を好きでいてくれたらいい……そういう事?
あの時の2人はラブラブバカップルにしか見えなかった。
お互いの気持ちを『私』で分かり合って。
もう涙すら出てこない。
「……やっぱりエドは…………」
アルは続きを待ってこっちを向いた。
「……何でもない」
それでも考えたくない。
最後の願いさえ届かないなんて事。
気が付いたら図書館が目の前にあった。
「じゃあ……フェリアはどうする?僕はとりあえず図書館行くけど……」
「……私も行く」
エド達との待ち合わせの場所として宿がとってあったけど、今から行く気はない。
「無理矢理付いてきたんだから、しっかり勉強しとかないとね」
苦笑して見せた。
そう、エド達の旅に無理に付いてきた名目は『錬金術の勉強』。
確かに小さい頃からエド達といたせいか、錬金術には多少なりとも興味はある。
ウィンリィが行くと言うから、私も連れてきてもらったけど……致命的な問題が立ち塞がった。
私には才能がない。
「あ、今日は図書館行くんだ?」
「何よ~。初日はちゃんと行くもん!」
「今日は兄さんもいないし、のんびりいい本を見つけてあげるよ」
「また……見積もってくれる?」
「いいよ。いつもの事だしね」
アルは好き。
いつも私向けの基礎の本を選んでくれる。
私には才能がない、それを知ってるけどアルは熱心に見てくれる。
アルには見せられるのに……こんな駄目な私。
駄目な私の秘めた想い、アルは知ってくれているのに。
「……でも、やっぱりうまくできないんだよね」
駄目な私は上達すらしない。
「錬成?」
「うん……本で読んだ通りにしてるのに」
「う~ん……」
アルはしばらく頭をひねっていた。
「それなら、僕が直接教えてあげるよ」
「え?!……ホントに?!」
「うん。兄さんいないからうるさく言われないし、やっぱり直に体験した方がいいと思うんだ」
「あ……ありがとアルぅ~~~!!」
今度はちょっとウルウルきた。
フェリアはとびっきりの笑顔でアルの手を引っ張って図書館に入っていった。
アルは大好き。
幼なじみで本当に良かったって思える。
「……で、ここをこうするといいんだね?」
「そうそう。イメージを大事にしてね」
「う~ん……えいっ!」
バシッ!
青白い稲妻がフェリアの前に現れた。
「あ!できたできた!!」
「うん。作りも大分細かくなってきたよ」
図書館で本をいくつか借りた後、とっておいた宿の部屋でフェリアとアルの勉強会は始まった。
街でかき集めた鉄くずや何やらで今、床に座り込んで練習の真っ最中。
「やっぱり本見るのとは全然違うね~!ありがと、アル!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
出来上がったおもちゃを見てはしゃぐフェリアにアルは顔を綻ばせた。
……気持ち的にだけど。
フェリアは片っ端からいろんな物で錬成しだした。
よっぽどこの錬成が気に入ったみたいで、目をキラキラさせて錬成陣を書いてばかりいた。
そんなフェリアを見ているうちに、アルはフツフツと悪戯心が湧き上がるのを感じた。
「錬金術なら兄さんに教えてもらえばいいのに」
「…………」
フェリアは兄さんの事になると俯いて無口になる。
だから使える僕だけの技。
「……だってエドは、元の体に戻る事で頭がいっぱいだろうし……第一こんな初歩的な事エドには聞けない……」
「で、僕がいつも駆り出される訳ね」
「……迷惑だった?」
上目使いに見上げてくる。
そんな可愛い顔、兄さんの前では絶対しない。
だから……僕だけの特権。
アルは大きな手でフェリアの頭を柔らかく撫でた。
「そんな事ないよ。フェリアの頼みだもんね」
「ほんと?」
「ほんとだって」
「アハハ……ありがと。アルがいてくれてよかったよ……」
少し申し訳なさそうに、でも嬉しそうにフェリアは笑った。
その笑顔は昔と変わらず、無邪気で綺麗だった。
「じゃあ次はこれやろっか?」
アルは少し応用の利いた錬成式を指差した。
「え~できるかな?」
「結構簡単だよ。今の錬成式のここをね……」
「ふんふん。こうして……イメージを……」
バシッ!!
「あ!また出来た!!」
「でしょ?」
「もう~~アル天才!」
「おだてても何もでないよ」
「おだててないよ、本気だって!」
「それはどうも」
「あ、あんまり真に受けてないな~!」
和やかな雰囲気が流れていた。
それはフェリアの笑顔を見てれば明らか。
2人の世界が出来上がって、他を寄せ付けない結界みたいなのがあった。
だから、少し空いたドアの向こうに誰かいるなんて気が付かなかった。
小さい頃のままの笑顔を弟に向けるフェリア。
鎧となった体で頭をなでる弟。
そう、ベタベタな恋愛ドラマでも見ているようだった。
「……エド?まだ部屋に入ってなかったの?」
ウィンリィがひょいっと後ろから顔を出した。
「ん………」
「どしたの?」
一向に部屋に入ろうとしないエドを不思議に思って、僅かな隙間から中を覗いた。
「あ……あららららっ」
ウィンリィは思わず目を輝かせた。
ドアの前でコソコソしてる2人の姿も十分怪しかったが、今はそれどころではない。
「な~んか、いい雰囲気」
「…………」
「やっぱりフェリア可愛いなぁ~~。どうしたらあんな可愛―――」
「行くぞ」
エドはウィンリィの話もロクに聞かず食堂につながる階段を下りた。
「え?ちょ、ちょっと……何処行くのよ~~?!」
音量小さめで叫んでも、エドは立ち止まっただけで振り向きはしなかった。
俯いた拍子に、エドの金色の髪が淡く揺れた。
「……邪魔しちゃ悪いだろ」
それだけ言うとポケットに手を突っ込んで歩き出した。
ウィンリィがもう一度中を覗くと、また青白い稲妻が走ってはフェリアの笑い声が響いた。
何となく顔がニンマリしてきて、ゆっくりドアを閉めた。
「ウフフッ……それもそうね♪」
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……ぶっちゃけ何角関係?(ぶっちゃけ言うな)
こういう人間関係ごっちゃ煮のドロドロデレデレが大好物です。
表現するのは難しいけど(意味無し)
私にしては展開が早め。