2019年、第14回大会。
スゴウは前年チャンピオンのアンリ・クレイトー、
そしてダブルワンチャンピオンの風見ハヤトでレースに挑む。
スゴウのチーフメカニックは、城之内みきがアオイへ移籍した為に後任の角良平。
チーフがスゴウウィナーズの担当となる為、スゴウグランプリでのチーム統率は琉奈に任された。
前年はドライバーと色々あった為に数回ピットを外れた事もあったが、
今期はそれは恐らく起こらないだろうという事で、万全の体制が整っていた。
改良型のガーランドを携えて、グリッド上で調整を重ねるのは琉奈。
アンリの意思を確かめ、それを反映させるように最後まで粘る。
「アンリ、頑張ってね」
「はい!」
アンリは琉奈の呼びかけに天使のような笑顔で答えた。
それが偽りのものではない事はわかっていたので、優しく頷くとピットに戻った。
ポールポジションはハヤト。
誰もが、今期こそはハヤトが優勝してほしいと願っていた―――
2・父が遺した翼
「思わしくないな、これは……」
初戦ではアンリは2位と好成績を収めたがしかし、それからは結果が芳しく落ちていく一方。
ポイントが取れない順位になる事もあったし、上位に入ったとしても6位ばかりだった。
最終戦を前にして既にアンリでは優勝できないと確定してしまっている。
新型のガーランドより旧型であるアスラーダの方がまだ激戦を繰り広げている状況。
マスコミなども、「天才が鳴りをひそめてしまった」や「2年目のジンクス」などと囁いている始末。
せっかくアンリが更生したというのに、成績がこれでは少し残念であった。
「前年の走りは執念だけで保たれていたのかもしれないな」
「……そうかもしれないです」
おそらくアンリの走りの秘密はハヤトに勝ちたいという恨みにも似た意地だった。
だけどそれがなくなって少し温厚になったアンリは、あまり勝ちにこだわらなくなった。
本人としては勝ちたいらしいのだが、やはり才能が鳴りをひそめている。
シュンと俯くアンリを見て、あまり勝てと強くは言えない。
前年にあれだけ「勝つ事だけが全てじゃない」と言い続けてきた自分が、
今度は成績が悪いから勝てなんて、それは勝手な話だ。
頑張ろう、とお決まりの言葉を述べてアンリの頭を撫でる、それだけしかできない。
自分はやれる事をやろう、そう思っていても、やはりドライバーが勝ちに喜んでいる姿は見たいものだ。
だけど問題はアンリだけではなかった。
「こちらはどうしたものか……」
第7戦からシュトルムツェンダーはシュティールの新型を採用してきた。
序盤は良い調子でポイントを取ってきたハヤトも、
その金銀のマシンには明らかな性能差が浮き彫りになってしまった。
アスラーダAKF-11はその名の通りダブルワンを経験してきたマシン。
だけどいくらマイナーチェンジを重ねてきたとはいえ所詮は3年前のマシンだ。
大幅に性能アップという事は未だに実現しておらず、
前年も慢性的なエンジン出力不足をユニオンとの技術提携でどうにか解消したという事実がある。
ハヤトがいくら頑張っても、歴然とした性能差に為す術がない。
「ブーストを使ってシュティールのスピードにやっと追い付くなんて……」
「……そんな、時代になってしまった」
シュティールの走りを見た時、誰もが驚きを隠せなかった。
圧倒的なスピードを実現したリニアホイール、
そしてシュトルムツェンダーの特徴でもあるローリングコックピットはコーナーで非常に安定する。
「よくもこんなマシン作ったものですよね」
人は何か新しいものを作ろうと思っても、凝り固まったイメージがあるとどうしても似たものができる。
大袈裟な話だが、宇宙人と聞くと皆目が大きくて背が小さくて色白で……と想像しがちではないだろうか。
宇宙人もヒトと同じ人型をしているとはかぎらないのに。
よくここまで斬新的なマシンを作れるものだ、フランツ・ハイネルというデザイナーは。
アスラーダシステムとはまた違う、勝利へ導くマシンだ。
ライバルチームだから喜べはしないけど、その才能は素晴らしいと思う。
「でも本当にここまで来ると……」
下手をしたら、勝敗がマシンの性能で決まってしまいそうな現状。
ドライバーの腕なんか必要ないくらい、今は高性能になっている。
「応急処置は行いましたけど、おそらく"ダブルワン"ではシュトルムツェンダーのマシンには勝てないわ」
「……そうですね。ハヤトが悔しそうにしているのが辛いですけど」
優勝を諦めない、勝つのを諦めないと何度も言っていたハヤトは、
回を追うごとにどんどん辛そうな顔をして、今では思い詰めた表情ばかりする。
だけど口を開けばやっぱり「諦めない」と。
ハヤトが走りたいというのに存分に走らせてあげられない、勝ちたいと言うのにそれを実現できない。
ドライバーの腕ではなくマシンの性能差という問題では、ドライバーはどうする事もできない。
悔しいんだろう、とても歯がゆいんだと思う。
そしてそれを見ている琉奈もやるせない気持ちになる。
「今日はその話の為に貴女を呼びました」
「え?」
クレアは琉奈の前に一冊のプロジェクトノートを示した。
その表紙には大きくアスラーダの文字が。
「……アスラーダを再設計?」
「ええ。"ダブルワン"をベースアップさせるのではなくて、一から新しいマシンを開発します」
軽くページをめくると、そこには新たな技術が盛り込まれたまさしく新型の設計図があった。
「まだ設計は仮のものであり外装は"ダブルワン"に近いままだけど、中身は誰にも引けをとらないマシンになるわ」
現状から考えて、"ダブルワン"は限界だった。
「開発には、貴女の力が必要になるわ」
「私、ですか……?」
クレアは柔らかく笑った。
「ええ、アスラーダプロジェクトに参加した橘さんの意思と、数々の現場での経験、
そして同じアスラーダの理論を持つ者として、貴女を開発チームのリーダーに指名します」
「…………」
自分にはクレアが買ってくれるほどの才能はない。
そう琉奈は思っていたけれど、ページをめくる手が止まらない。
風見広之と、父が開発したマシンの概要の全て。
ハヤトが存分に走れるだけのマシン性能。
新たに考案される変形パターン。
そして"人とマシンの融合"のもとに作られるサイバーシステム"アスラーダ"。
後継者であるクレアのもと、新たに誕生させる事ができるなんて琉奈には信じられなかった。
遠回りをした、そしてようやく琉奈が目指していた"アスラーダ"が今目の前にある。
(これが本当の、父さんの夢……)
「……はい、やらせて下さい」
琉奈が強い目で返事をすると、クレアも満足そうに頷いた。
「それに伴い、琉奈さんにはハヤト君のチームに回ってもらいます」
「…………はい」
FICCYの規定変更により、チームは全て1チーム2カー制になる。
それによりスゴウはスゴウグランプリに統一、チームマークもユニコーンに統一される。
以前は別々であったメカニックチームも、同じチームの中で担当が変わるという方式になった。
「アンリ君には悪いけど、来期からはハヤト君とアスラーダをよろしくね」
アンリは拗ねるかな、それが少し心配だった。
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短めです。
骨休めかと思いきや一気に一年飛びます。
そりゃ、肝心の人が出るまではサクサクさせませんとね。
そんな感じでハヤト側に付きます。