信じられなかった。
「……ハヤトが、ガーランドを……?」
「ええ……なので、急遽ガーランドをもう一台用意します」
琉奈は思わず立ち上がって声を荒げた。
「そんな……アスラーダはもうすぐ出来上がるのに!?」
「……少し、遅かったかも知れないわね」
「どうして……っ」
ソフト面でも解決していない問題はあったけど、
自分がレアメタルを採用しようと言い出したから完成が遅れた事は確かだった。
「ハヤト君の言い分はもっともだったわ。ハヤト君にはアスラーダでなくてはならない、なんて事はないのよ」
「でも……ハヤトには、アスラーダじゃないと……!」
「それを決めるのは私達じゃないのよ?」
「………」
少なくとも琉奈は、風見氏と父が残した「アスラーダ」という理論の為、
それが勝利には不可欠だと思っている。
アスラーダは学習型コンピュータだ、ハヤトの意思次第でいくらでも思考パターンが変わる。
今までは性能不足で負け続けだったけど、速くなればきっと勝てるというのに。
「ハヤトでなくちゃ、アスラーダは動かせないのに……」
琉奈の呟きに、クレアは目を伏せた。
「私達はアスラーダという理論と特性を知ってるという事もあって、アスラーダに固執していたのかもしれないわね。
本当にハヤト君の事を思うなら、何もアスラーダじゃなくてもいいのよ?」
「………」
(本当にハヤトの事を思うなら、アスラーダでないといけないのに……)
「琉奈さんが納得できないのもわかるわ。でも走るのはハヤト君。
ハヤト君がガーランドで走りたいと言うなら、私達はガーランドに全力を注がなくてはいけないのよ?」
「…………はい」
未だ状況を整理しきれていない顔の琉奈。
それを見越してクレアは琉奈を一転させるような事を言ってのけた。
「でも、私達は信じる事と、選択肢を残してあげる事はできるわ」
「え……それじゃあ……」
「ええ、ガーランドが完成して準備でき次第、引き続きアスラーダの調整を行います」
琉奈は花を咲かせたように顔を上げた。
「もしかしたらハヤト君はもうアスラーダには乗らないかも知れない。
でも乗りたいと言った時には、私達の力を尽くしたマシンをいつでも差し出せるようにしてあげたいでしょう?」
「はい、それでもいいです……ハヤトの為にガーランドと、そしてアスラーダも完成させます」
そうだ、ハヤトの為の思うならガーランドとアスラーダを2台とも上げればいいんだ。
ハヤトの為なら自分の体調など構っていられない。
「2台同時に調整していく事になるから忙しくなるわよ?
最終調整の段階になると、おそらくレースにも参加できなくなるかもしれないわ」
「覚悟の上です。私は、ハヤトの選択肢の為にアスラーダを作ります」
「私は父のような……いえ、父以上のものを作ってみせます!」
アスラーダに全てを賭けると、琉奈は強く頷いた。
1・越えられない限界
「頑張ってね、アンリ」
「はい、頑張りますけど……」
「けど?」
アンリは拗ねた顔で琉奈を見上げた。
「琉奈さんにガーランドを見てもらいたかったのに、風見先輩の方に行っちゃったから……」
「何言ってるの、ピットの中ならすぐ隣じゃない。
それにガーランドの扱いはアンリの方が先輩なんだから、大事に走るんだよ?」
「はい……」
開幕まであと一ヶ月。
ハヤトのガーランドも仕上がり、もう最終調整の段階まで進んでいた。
忙しくセッティングしている琉奈に、何故かいつもアンリがちょこちょこ付いてくる。
自分がアンリのガーランドを担当しないのが寂しいのだろう。
懐いてくれるのは嬉しいが、ちょっとやりにくい気がしないでもない。
「でも……風見先輩もガーランドなんて、ちょっと変な感じです」
「どうして?」
「だって、やっぱり風見先輩はアスラーダの方が合ってるっていうか、何て言うか……」
アンリはアンリなりに、ハヤトの事ちゃんと見てるんだという事が嬉しかった。
「それにこの間、風見先輩……変な事を言っていたんです」
「変な事?」
今日はよく喋るアンリ。
ちょっかいかけてもらいたいのかもしれないけど、それよりもアンリに言った言葉の方が気になった。
「アスラーダは自分がこう思ったとしても、アスラーダの同意が必要だから厄介だって。
でもガーランドはこちらの指示に従う為に全てがあるって……」
「え……」
「僕はよくわからないんですけど、それってどういう事なんでしょうかね?」
(ハヤト……それは、パートナーをいらないって言っている事と同じなんだよ……?)
あれだけ一緒に戦ってきた戦友を、意見が食い違っただけで見捨てるというのか。
「……さん?琉奈さん?」
「あ、ごめんね……」
それきり琉奈は黙り込んでしまった。
アンリが何か言おうとした時に、ようやく席を外していたハヤトが帰ってきた。
「ごめんなさい琉奈さん。どうでした?」
「あ、うん……少しレベルを下げておいたから、次走ればたぶん違和感はなくなると思うよ」
「ありがとうございます」
「…………」
ヘルメットを被り、ベルトをしていくハヤトを茫然と見下ろしていた。
貴方は……何も喋らない、ただ自分に従うだけの機械が欲しいって言うの?
それは危険だよハヤト……一歩間違えたら、その考えはあの男の―――
「ハヤト」
修が出張から帰ってきた。
それはドライバーを労うものではなく、どこか険しい表情で。
「ハヤト、アオイのオーナーが変わった。それに伴い、新条は解雇だそうだ」
「え……?」
「どういう事ですか?」
ハヤトはエンジンをかける手を止めて修を仰ぎ見た。
「どうやら次のアオイは新人と、加賀でグランプリに臨むつもりらしい」
「そんな、そしたら今日子さんは!?」
「降格という事だな。新しくアオイを指揮するのは、名雲京志郎という男だそうだ」
「え…………」
カラン―――
琉奈は今度こそ工具を落とした。
2章
探していたのは贖罪
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短め。
さあやっとSAGA編突入です。
いよいよ、本当にいよいよです。