突然病室に現れた人影に、あすかとハヤトは驚きを隠せなかった。
琉奈もハヤトの状態に愕然とし、どう切り出したらいいかわからずただ見下ろすばかり。
「ハヤト……」
痛々しい姿は思わず顔をしかめてしまうほどだったが、彼は歓迎するように優しい目で笑った。
「おかえりなさい、琉奈さん……」
「……ただいま」
何故琉奈が戻ってきたのかわかっているかのような落ち着きぶり。
言葉もでないといった風情で立ち尽くすあすかを余所に、2人は静かに笑い合う。
ああ、変わらないと思った。
色んな事があっただろう、まだ若いから周囲に当たり散らすような事もあっただろう。
それでもハヤトは満身創痍の体で、笑って迎えてくれる。
だから今度こそ私はハヤトの為に尽くそうと、戻ってきた。
……小声で「ありがとう」と「ごめんなさい」とハヤトが呟いた意味を、この時の私はまだわからなかったけど。
2・重なる想い
既にアスラーダのノウハウについては、
ハヤトがデビューした当初からアスラーダを整備していたという城之内みきの方がよく知っていた。
「いいマシンだね、きっとメンバーの気持ちがこもってるんだね」
ハヤトにスゴウ入りを誘われた時も、このメンバーがいるのなら私は必要ないなって感じていたから断った。
みんな誰よりもハヤトを信頼し、ハヤトに夢を託してアスラーダを直す。
今まで経験したどのチームとは違い、ほのぼのとして明るくて、
だけど強い絆で結ばれているのが少し羨ましいなと思った。
アスラーダを直したいと集まったスゴウメンバーの為にも、
琉奈はみきのサポートという形で修理の手伝いをする事にした。
特に女同士のメカニックという事で、みきとは次第に仲良くなっていった。
「へぇ~、みきって新条直輝と付き合ってるんだ」
「ち、違いますよ!そんなんじゃないですってば!」
「聞いたよ、新条さんのヘルメットとみきの帽子を交換したんだって?」
「~~~!!ペイ!あんた琉奈さんにバラしたね!!」
「うわあああ、すいません!!」
工具を持って追いかけるみきから必死に逃げようとする良平。
「いいねぇ、そういうの」
「え?」
それを和やかに見届けつつ、琉奈はレンチを回しながら呟いた。
「新条さんと付き合ってるのに、みきはハヤトのサポートがしたかったんでしょ?それって結構難しい事だよね」
「だから付き合ってないです……うう、もうなんでもいいです」
「あはは、ごめんね。でも誰だって、自分が本当に整備したい人のマシンを整備したいと思うじゃない。
嫌いな人のマシンなんか整備したくないってね。でも、みきはハヤトを選んだ」
「そりゃあ、ハヤトはなんていうか……私の夢を叶えてくれた大事な弟っていうか……」
否定しても無駄だと判断したみきは、大人しく作業に戻って自分のハヤトに対する気持ちを考える。
「ハヤトはもしかしたらもう戻っては来ないかもしれない、それだけの大怪我をしたんだし。
……でもハヤトはそんなに弱くない、きっと帰ってくる」
みきはとても強い瞳で、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
彼女は本当にハヤトの為に何かをする事が幸せだと感じているんだろう。
「だから私はハヤトが復帰したいと言った時に、走れる環境を作っておいてやりたい。
そしてもう一度ハヤトに夢を叶えさせてあげたい」
「……そうだね」
「それが終わったら……その時は…」
「………」
最後にみきは琉奈以外の誰にも聞こえないぐらいの声量で呟いた。
おそらく彼女はハヤトが復活を遂げたら、本当に自分を必要としている人の所へ行くのだろう。
年下の彼女は、自分よりもずっと大人だと思った。
「それよりも琉奈さんはいないの?」
「何が?」
「恋人」
「…………」
ハヤトや修さん、みきといい、スゴウは嫌にカップル率が多い。
確かにこの中では年長の自分にも誰かいるのだろうと予想してくれるのは有り難いけど、
意外とこの話題に余計な返答をすると根掘り葉掘り聞かれたりするから注意が必要だ。
「私の恋人はあれ」
琉奈は駐輪場にとめてあるバイクを指さした。
「バイク?あれって、もしかして琉奈さんが作ったの?」
「そう、設計から部品集めまで全部。私の愛がこもったバイク」
そういう事じゃなくて、と言いたげな表情でみきが睨む。
しょうがなく琉奈は肩を持ち上げて苦笑した。
「私は、整備をするなら恋愛はしないって決めたから」
琉奈は何とかそれだけ言うとその後は強引に乗り切った。
そうしてあらかたアスラーダの修理が終わった所で残りをみきに任せ、自分はガーランドの制作に参加した。
これが復帰絶望的だと囁かれているハヤトの代わりにスゴウで走るドライバーのマシンとなる。
私を待っていてくれた人達の為にも、自分は自分ができる事を精一杯やろうと決めた。
――そしてスゴウのいない今期のレースが終わった。
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出会いの話なので短め。
みきとはまだ敬語だけど、次第に仲良くなっていきます。