「すまねえな、わざわざ」
「いいえ、ちょうどこっちに来る用事もありましたから」
それに、と続けて琉奈はふわりと微笑む。
「加賀さんの役に立てるなら、どこからでも飛んできますよ」
「……そりゃ頼もしいけどよ。後が怖ぇな」
彼が何を恐れているのか、暗に挙げられる人物に琉奈は苦笑を返す。
加賀のチームメンバーに混ざって、彼のマシンを弄る。
ああでもないこうでもないと議論しながらセッティングを作り上げ、
テスト走行から戻ってきたマシンをまたさらに修正の繰り返し。
走り終えたばかりのマシンはかなり熱を持っている。
だが冷めるのを待ちきれず琉奈は全身から汗を流しながら工具を回す。
「第3コーナーでリアが結構スライドしますね」
「ああ、もう少し抑えていいかもな」
彼はコーナーを曲がる時はルース気味の方が好みだ。
そのようなセッティングで調整しているが、今の状態ではスライドしすぎてしまうようで、
それでは逆にバランスが保てなくなってスピンの原因になる。
どこまで彼の癖に合わせて、そしてマシンの性格を理解して完成させるか、それがメカニックの腕の見せ所だ。
「もう1レベルほどアジャストしておきますね」
「頼む」
額から目に入って行こうとする汗を拭いながら作業を続ける。
久しぶりの感覚に琉奈は夢中になっていた。
5・切り開いた扉の奥
事の発端は数週間前。
久しぶりにかかってきた加賀からの電話が始まりだった。
フランスでの生活が気になるらしく、元気かという言葉が第一声。
此方での暮らしぶりや名雲の言動やらを報告して、加賀からはアメリカでの近況を聞き。
何気なく今度そっちに旅行に行ってレースを見るのだと伝えたら、
ちょうど予定していた日の翌日に加賀も違うレースに出場するとの事。
まだ詳しい日程も決めていなかったし予定も詰まっていなかったので、せっかくだから見に行きますと言うと。
それがどういう訳か、どうせなら自分のマシンをセッティングしてくれという話になった。
メカニックはいるらしいのだが(今回グレイはいない)、
自分の癖を把握してそれをセッティングに生かせる人材はそんなにいないからと、
おだてられてしまえば琉奈に断る理由はない。
久しぶりにマシンに触れる事が嬉しくて琉奈は二つ返事で了承したのだった。
単身アメリカに渡ってまずはハヤトとあすかの家に顔を出し、その後一人旅のメインであるレースを観戦した。
本当は一昨年のスゴウ慰安旅行の時に行くはずだったのだが、あすかとハヤトのちょっとした喧嘩の加減で見合わせたレースを、
今は仕事もしていなくて余裕もあるし、刺激が欲しくて開幕に合わせた次第だ。
そして翌日にシカゴに飛び、加賀と合流した。
彼の出場するレースはサイバーフォーミュラのような全世界レベルのシリーズではないが、
有名メーカーが主催の、単発としては結構大きなものだ。
優勝すれば知名度もあがるし、何より賞金もそこそこ多い。
加賀は知名度なんてものは元からあるのでそれには興味ないだろうが。
車はいわゆるフォーミュラカーではあるが、サイバーのような最新技術が満載されているようなハイテクマシンではない。
故に皆が同じような性能で、マシンのセッティングやドライバーの腕次第で誰もが勝利を目指せるようなレースだ。
そういうレースを選ぶ所は彼らしいと思うし、琉奈も余計に気合いが入る。
琉奈は予選前にチームに合流し、一緒にマシンを仕上げた。
そこにはフィルもいて、久しぶりの再会に2人で喜んだ。
その他のチームメンバーには、加賀が「腕のいいやつ連れてきたぞ。こいつは去年俺に付いててくれたんだ」と紹介してくれ、
元々友達のようなノリのチームであったのですぐに打ち解けられた。
そして予選は難なくクリアし、上位ポジションで決勝に臨む。
決勝直前、琉奈は最終チェックに余念がない。
テストや予選は短時間で終わってしまうが、実際は長時間のレース。
何週も走る事によってタイヤはすり減るし、路面温度も上昇する。
その影響でマシンバランスは常に変化するので、長時間走行でも耐えられるマシン作りをするのが基本だ。
琉奈はこのマシンと出会って間がないので、その辺りの性格を知らない。
だからどのように走りが変わるか、仲間達と相談しながらセットアップを行なっていく。
そんな中、ふっと背後で加賀が笑う声が聞こえた。
「やっぱお前ぇはそうしてる方が生き生きしてんな」
「……ええ、楽しいですよ」
「職業病だな」
笑い返すと加賀がそう言うので、お互い様ですと琉奈も冗談を交わす。
「はっ、違ぇねえ。こりゃあ優勝しねぇと後で何されるかわかったもんじゃねぇな」
「勝ってくださいね」
勝つ――それは昨年、心も体も限界だった加賀と交わした誓いの言葉。
勝ちたいと望んだ彼に、もうやめて欲しいと何度言おうとしたか、いや実際に口にもした。
それでも彼と自分自身の為に、そして"あの男"の為に、勝ちを獲ろうと突き進んだ。
あの時は本当に様々な事が限界だった、だけど今となっては良い思い出だ。
それはひとえに勝てたから、こうして笑っていられるのだが。
そんな記憶が一瞬にして加賀の脳裏にも蘇ったのだろう、彼は気まずそうに目を反らし。
だけどふっと笑って手を伸ばし、琉奈の頭を撫でる。
「当たり前ぇだろ」
「……はい」
彼は今、吹っ切れたような晴れやかな顔で此処にいる。
ピアスもなく短い黒髪で、穏やかに、そして楽しそうに笑っている。
だから琉奈も、よかったと心から思ったのだ。
(凰呀……ありがとね)
日本のあの屋敷で、役目を終えて眠っている彼にそう呟く。
こんな瞬間を作れたのは、きっと彼のおかげでもあるから。
琉奈は緩んでいた表情を引き締めると、再び作業を始めた。
時間ギリギリまでチェックを行い、そして立ち上がる。
「OKです、加賀さん!」
「おう!」
待っていたぞと言わんばかりに、爆音を立てて走り去っていく彼のマシン。
風が吹きすさび、琉奈の髪が激しく巻き上げられる。
その風がやんだ時には彼はもうそこにいない。
後ろ姿は、遥か彼方。
眩しいそれに目を細め、琉奈は彼の道を見つめた。
この瞬間が大好きだった。
不安も恐怖もあるけれど、それ以上に希望が胸を占める。
皆が託した想いを背負って、ドライバーとマシンは未来へと走っていくから。
何度経験してもしたりない、この感覚。
涙が出る訳でもないのに、喉が熱くて焼けそうになる。
(加賀さん、頑張って……!)
だからメカニックは、やめられない。
「くあああーー!ビールがうめぇなあ!」
叫ぶように息を吐き出し、加賀がドンとジョッキを下ろす。
レース結果は文句なしに加賀が優勝した。
他の出場者もかなり奮闘したのだが、やはり桁違いの強さを持つ彼には誰も勝てなかった。
「サイバーのチャンプがこんな所にいるなんてズルい!」という負け惜しみまで聞こえたが、
それは怒りを覚えるというよりは、加賀と戦う事になってしまった彼らが何となく気の毒に思えた。
引退したからといって彼の力が劣っているなんていう事は全くない、だから不運だったとしか言いようがない。
それに参加条件はきちんと満たしていたし、マシン性能に差なんてないのだからズルではない。
どんなものでも勝利は勝利、気分よく打ち上げに繰り出した仲間達はもうすでに出来上がっている。
「だけど琉奈、よかったのか?今日帰るつもりだったんだろ?」
「そうでしたけど、こんなに気分良いのに私だけ参加しないのは嫌じゃないですか」
「まぁ確かにな。けど、あいつは何も言わねぇのか?」
「構いませんよ」
予定では今夜フランスに帰るつもりだった。
だが加賀にも言った通り、せっかく仲間達と出会って勝利を味わえたのに、
そんな余韻もそこそこにさよならなんてできなかった。
こうやって皆で勝利の盃を酌み交わす事も楽しみの一つなのだから。
だから予定は急遽変更、今夜は近くのホテルに宿をとって明日帰る事にした。
そもそも名雲には帰る日程を何となくでしか伝えてない(別に詳しくも聞かれなかった)ので、
多少日程が延びても大丈夫だろうとの判断だ。
「1日、2日帰らなくたって別にどうという事もないですし、向こうも今頃何してる事やら。
お互い好きにやってますし、連絡とか取り合う仲でもないですから」
いいんですいいんですと、琉奈は片手を振って笑う。
そんな甘さも何もないさっぱりとした返事に加賀は苦笑する。
琉奈の隣にいたフィルもそれには意外そうに振り向いた。
「そんなんで大丈夫なのか~?ほら、浮気の心配とかねぇのか?」
「はっ、あの人の浮気をいちいち気にしてたら心労で倒れますよ。
ある程度の行動は知ってますけど、本当は何処で何してるかなんてわかったもんじゃありませんから」
琉奈は酒が入ってきたのか、鼻で笑うとそう豪語する。
「それに例えば、あっちが浮気するつもりなら私だって好きにやらせてもらいますよ。
別に真面目な恋人の関係だとは思ってませんから、それならそれで見切りつけます」
「素直じゃねぇなあ」
ついにはエスカレートしてそんな事まで言ってのけた。
一応、浮気に関して気にはしているようだ。
だからこその、浮気したらやり返してやるなんていう、負けず嫌いな彼女なりの予防線らしいのだが、
相変わらずの悪態ぶりに加賀はやれやれと軽い溜息をつく。
傍から見れば付き合っているようには到底思えない。
だがこの遠慮ない発言、それこそが心を開いている証だとは、彼女自身気づいていないのだろう。
気を使わない相手、そういうのも良きパートナーになれるという事を教えてやったら、彼女は何と反論するのだろうか。
それを言葉にする前に、静かに話に耳を傾けていたフィルが口を開いた。
「楽しそうだね」
「楽しくないわよ!あの男の傍若無人ぶりには迷惑してるんだから」
心外だとばかりに琉奈は飛び上がる勢いだが、一枚上手なのはフィルの方だったらしい。
笑いながら、悪意のない真っ直ぐな目でじっと琉奈を覗き込む。
「でも、浮気しなければ別れる気はないって事でしょ?」
「……そ、それは」
「手のかかる人、嫌いじゃないんでしょ?」
「っ…………フィル?」
図星だったのか、言い返す言葉をなくしたらしい琉奈がフィルを睨め付ける。
その光景に耐え切れなくなった加賀がついに吹き出した。
「ははは!なかなか良い事言ったなーフィル」
「加賀さんも……!」
「いいじゃねぇか、悪いとは言ってねえんだから。何だかんだ上手くやってるみてぇでよかったって事だ」
「…………」
琉奈は僅かに頬を赤らめて不貞腐れる。
(名雲に関する事だと、感情露わにさせるんだよなー……)
人当りの良い彼女は、本来誰に対しても好意的な態度を崩さない。
不満や負の感情などほとんど出さない、裏を返せばあまり深く関わろうとしないのだ。
別に悪い事ではないかもしれないが、それでは生きる事に疲れてしまうのではないだろうか。
唯一彼女の幼馴染には遠慮がないらしいが、話に聞く限り彼では駄目だ。
否定ばかりする彼では、彼女の背中は押せないと加賀は思っている。
だから子供のように不貞腐れるなんて、普通はしないのだ。
こんな珍しい表情を、きっと名雲はいつもからかって楽しんでいるのだろうと思うと、少しだけ腹が立った。
「いや、でも本当に凄いと思うんだ。あの名雲さんを更生させたって事なんだから」
「更生、したのかな……?」
「だって普通に毎日働いて、琉奈さんの所に帰ってくるんでしょ?」
「それはそうだけど……」
「僕には想像もできない、だからそうさせたのは凄いと思う」
「そうだな、俺達にしてみれば有り得ねぇからなー、そんな名雲なんて」
「……私も意外でしたよ」
フィルは真剣だけど穏やかな表情で、加賀も冗談交じりであったが概ね同意のようで。
どうにも名雲の事を出されると弱い琉奈は、何となく肩身が狭くて身を寄せる。
素直になれず黙り込んでいると、フィルはくすりと笑う。
「そうさせたのは、琉奈さんだよ」
「…………」
「だから僕はよかったと思う。みんなは反対するだろうけど、僕は琉奈さんの味方だ」
「フィル……」
弾かれるように琉奈はハッと顔を上げた。
某幼馴染みは言わずもがな激しく反対しているし、ハヤトやあすかも口には出さないものの不安に思っているのだろう。
琉奈自身も、別に皆に反対されてでも貫こう!なんていう気概でいる訳ではない。
むしろ自分が何故と思っているくらいだ。
だけど、やはり反対され続ければ悲しいものはある。
この自分でも理解できない感情を否定されているような気がするから。
だからフィルの言葉は思いの外胸にジンときた。
「……ありがとう」
わかってもらえた、それはこんなにも嬉しいものなのかと感じた。
「ま、好きにやんな。良くも悪くも、お前の感情を逆撫でる事ができるのはあいつぐらいしかいねぇんだからな」
「……それ、嬉しくないです」
「はは、そうか?」
何だかんだ言っても、加賀も背中を押してくれる。
思わず不満を口にしたが、すぐに琉奈は顔を綻ばせた。
「加賀さんも、ありがとうございます」
「あいつにやるにはホントもったいねぇけどな。
ま、そういう事ならジャンジャン飲めよー。愚痴ならいくらでも聞いてやる!」
「……はい」
そんな加賀に琉奈が微笑むと、再び一同は酒を煽り始める。
本来の目的だった勝利に酔い、深夜まで盛り上がった。
家の玄関の鍵を開け中に入ると、同居している住民が珍しくリビングから出てきた。
「遅かったね」
「あれ?……そっか、今日は休みなんだ」
昼には近いが、まだ朝と呼んでもいい時間帯に何故男が普段着でそこにいるのか。
仕事はどうしたのかと言いかけて、時差の関係で此方はもう休日なのだとようやく合点がいく。
名雲は右手で煙草を咥えながら左半身を壁に寄りかからせ、きょとんとする琉奈を見下ろしている。
「ああ、もう休日さ」
「そうなんだ」
そしていつものように奥に行こうと思うのに、名雲が目の前に立つものだから進めない。
邪魔なんだけど、と暗に訴えたくて視線を上げると、いつもより細められた目がそこにある。
「予定は昨日までだと聞いていたけど?」
「あー、うん。優勝の打ち上げに参加してて、もう一泊してきたか、ら……」
言い終わらないうちに、琉奈はビクリと肩を揺らして硬直した。
まずいと思った時にはもう遅い。
笑みを作っていた口端がさらに吊り上がる一方で、目は完全に笑っていなかった。
これが何か仕掛けてくる時の顔だとはもう嫌というほどわかっていた。
「……それで、加賀君と思う存分語り合ってきたのかい?」
「な、ちょっ…と!」
腕を掴まれ寝室に連れていかれて、そのままベッドに投げられた。
「っ、ごめんって!そんな怒る事ないでしょ!?」
「まさか君の方が先に浮気するとは思わなかったよ」
「はあ!?」
衝撃に顔を歪めながら謝っても既に聞く耳持たず。
ベッドサイドの灰皿で煙草を潰し、琉奈の上に伸し掛かる。
両手もシーツに縫いとめられ、薄ら笑いを浮かべた男は唇が触れるギリギリの至近距離で低く囁いた。
一日遅くなってしまった事は悪いと思っている、連絡をしなかった事も悪かったと思う。
だが何故それが浮気に繋がるのかが理解できない。
加賀のレースを手伝う事は出発の前に言ってあったし、そもそも彼とは何もないというのに。
突拍子もない結論に琉奈は半ば逆ギレの勢いで食って掛かるが、男の力は一向に緩まない。
「そうだろう?一体どうやって加賀君を誘惑したんだ?」
「な、浮気なんてしてない!」
「どうかな。俺がいないのをいい事に随分好き勝手やってくれるね」
「い、っ!」
肌蹴た首筋を思い切り噛まれて、琉奈はか細い悲鳴を上げた。
咄嗟にぎゅっと瞑った目を開けて男を睨んだが、思わず怯んでしまいそうな程の冷徹な双眸が逆に此方を見下ろしていた。
深い闇色を纏わせた色合いが獲物を前に引き絞られて、捕食しようとギラギラ揺れている。
口調はいつものような軽口、だけどその瞳には確かな激情が潜んでいた。
勝利への執念に囚われていた時のような狂気ではない、いや、ある意味では狂気なのかもしれない。
怒りと……恐らく、加賀への嫉妬で。
「携帯電話、叩き壊してしまおうか?」
「し、してないって、言ってるでしょ!」
「ああ、だからそれを今から確かめようとしている」
きっと琉奈が全面的に悪いのだろう、彼を疎かにしていた自覚はある。
別に放っておいてもいいだろうと高を括っていた、それは謝ろう。
だが残念ながら琉奈はそう素直に謝れる性格ではない、特に名雲に対しては。
殊勝な態度をとったら負け、そんな気分にさせられるから。
「っ……なにさ!浮気浮気って、あんたに言われたくない!
あんただって何処で浮気してるかわかったもんじゃないわよ!」
火に油を注いでいる事はわかっていたが、それでも反論せずにはいられなかった。
名雲の方ならともかく、何故自分が疑われなければならないのか。
浮気で言うなら、確実に目の前の男の方が怪しいというのに。
「あんたこそ、いくらでも女なんか抱けるでしょ!?」
「……昔の、君のように?」
「っ!」
ニヤリと、男が愉しそうに笑った。
神経を逆撫でさせる事の得意なこの男に、煽り合いでは絶対に勝てないのだと思い知らされた。
いくら今がこういう関係で丸く収まっているとしても、昔の事を持ち出されると琉奈は弱い。
純粋に好意を見せていた事も思い返したくないくらいには恥ずかしい過去だし、何より男への憎しみが蘇る。
細められた獣の目に反射的に体が固まってしまった隙を逃さず、名雲は琉奈の服の中から肌を撫で上げる。
噛み傷が付いているだろう場所も、今度は熱い舌で柔く執拗に舐める。
「や、め……っ!シャワーも浴びてないし、今は嫌だ……!」
「シャワーを浴びたら浮気調査にならないだろう?」
「っ、ん……ホントに、嫌だって…っ!」
「君はいいかもしれないだろうが、俺は欲求不満なもので」
両手をいとも簡単に拘束されて、空いている手は容赦なく下腹部へと降りていく。
「加賀君の体はどうだった?さぞ満足できただろうね」
「だから何も、ない……い、ぁっ!」
逃げようともがく力を強めるたびに、首筋の傷口に歯が立てられる。
ビリッと全身が痺れたように震え、その後には琉奈の弱い場所を的確に攻められて。
痛みと快楽を交互に与えられて次第に訳がわからなくなっていく。
頭がぼんやりする、大きな波に呑まれてしまいそうになる。
「っあ……ん、…はぁ……、や」
「もう降参かい?ほら、もっと暴れるといい。君がそうやって嫌がる顔をすればするほど、欲情するんだよ」
「この、ドSが……っ!」
「褒め言葉だよ、それは」
片手は琉奈の手首が痣になるほどに束縛して。
それでももう片方の手が、琉奈の肌を滑る指はいっそ優しいぐらいで、奇妙な感覚に思考が溶けていく。
――そして結局この男に囚われて、逃げられなくなるのだ。
抵抗虚しく欲に溺れていけば、いつもより乱暴に抱かれた。
だけどそれすらも彼の嫉妬の裏返しだと考えると、悪くないと思っている自分がいた。
「――もう君しか抱けないというのに」
ほぼ手放している意識の片隅で、男の呟きが聞こえた気がする。
だけど眠りに堕ちていく寸前で、何を言っているのかまでは理解できなかった。
「――だけどそれを知ってしまったら、君はもう抵抗しなくなるだろう?」
何?何て言っている?
わからない、だけどこの声色は嫌いじゃない。
この人にしては珍しい穏やかな音で、聞いていると何だか安心する。
想われている、気がするから。
いや、気のせいじゃない。きっと私は、執着されている。
「――だから、言ってやらないよ」
うん、だから。ごめん。
そう口にできたかは定かではない。
だけど、重い唇を何とか動かして、そうして眠りの海に沈んだ。
Back Top Next
加賀さんに会いたいのと、名雲さんに嫉妬させたいのを合わせたらこんな話になった。
こっそり加賀さんと仲良くしてみる。