――「報われない恋なんて嫌よ」――





「……チッ…!」

あの女の泣き声が頭から離れない。


……腹が立つ……何で俺がムカつかなきゃいけねぇんだよ……!


「……神田どうした?」
「なんかあったのか?」
「なんもねぇよ」

移動中も怒りオーラを吹き出したままの神田。
時間が経てば治まると考えて黙っていた同行者2人だが、益々眉間の皺は深くなるばかりだった。
恐る恐る様子を窺ってみたらもの凄い形相で睨まれて2人は顔を見合わせた。


……ってか訳わかんねぇあの女!泣きたいクセに無理して……


笑顔を貼り付けて本音を表に出さねぇし。




――「……そういう約束だったからだよ」――


「……あの野郎……ッ…!」


あの女もコムイも本当の事を言おうとしねぇ……!
腹ん中探り合って、顔を取り繕って……


自分で笑って、泣いてやがる……ただのバカだ……






14・Disgust






「あ、おはようございますアリィンさん!」
「おはようアレンくん、昨日の夜帰ってきたんだ?」

カツカツと、かかとの高いブーツを履き鳴らしながらアリィンはにっこりと微笑んだ。
アレンは花が咲いたみたいに頬を桜色に染め、嬉しそうに駆け寄ってくる。

「はい!あ、アリィンさんも朝食ですか?」
「遅い朝食だけどね。じゃあ一緒に行かない?」
「はいっ!」


可愛いなぁアレンくんは……


こう……前途有望な少年の成長を目の当たりにするのは何とも言えない楽しさがある。
いや、可愛い少年が好きな趣味はないんだけど。
見ているとこっちまで口元が緩んでしまう。


「おはようございますジェリーさん」
「あらおはようアレンくんにアリィンちゃん!」

食堂でいつもの朝食を注文する。

「よかった~アリィンちゃんが元気になって~!」
「ええ、心配かけてごめんなさい」

涙の水の効果は完全に消えたようで、アリィンの感情は現代へと帰ってきた。
以前に『今を生きていた』時よりも幾ばくか気持ちは落ち着いていて。
……そういう言い方はおかしいのかもしれないが、以前よりもしっかりした笑顔が作れるのだ。

それはやはり、冷めた現実をまた一つ知る事に繋がったのかもしれない。
結局、何もかも押し込めて笑っているだけの自分が戻ってきただけなのだと思う。


「え?ど、どうかしたんですかアリィンさん?」
「……ちょっとね」

2人だけの内緒話、とでも言いそうな勢いでアリィンはにっこり笑っただけで何も教えなかった。

「ずっとアリィンちゃん落ち込んでたから心配してたのよ~?」
「もう大丈夫です、ありがとうございますジェリーさん……」


……僕は話を聞いている間も、アリィンさんが落ち込んだ顔を想像する事ができなかった。






「おはようリーバーくん」
「あ、おはようございますアリィンさん」
「何か手伝う事ある?」
「久しぶりですね!科学班一同アリィンさんが来てくれるのを待ってたんスよ?」
「またこれからちょくちょく来るからよろしくね?」

アリィンのスマイルに、さっきまでゾンビのようにはい回っていた男達は一斉に沸き上がった。
ガッツポーズをする者や、泣いてる者なんかもいた。

「(やったぁぁぁ!アリィンさんが帰ってきたぁぁ!)」
「(やっぱり綺麗だなぁアリィンさん……!)」
「(ああ、これでまだ俺生きていけるよぉぉ!)」

私が来て喜んでくれるのね……

久しぶりに歓迎された事が素直に嬉しくて、
ウキウキした気分でアリィンは書類が山になってる一角を目指した。


「……おはよう、コムイ」
「ああ、おはよう」

自分でできる最高の笑顔を向けたら、コムイからも微笑みが返ってきた。

「色々と迷惑をかけてごめんなさい。これからはしっかりと役目を果たさせていただきますので」
「……よかったよ、元気になって」

そう言うとコムイは一束の資料をアリィンに手渡した。

「さっそくで悪いけど、君に任務がある」
「……はい」

アリィンも真剣な目でそれを読み始める。

「簡単な任務だから1人で充分だと思う」
「……ええ」


貴方がそう言ってくれるなら、私は頑張るから。
貴方の期待通りにエクソシストとなってくるから。

甘えは許されない。
それが、私達2人の間で生まれた新しい約束だと思うから。


「それじゃあすぐにでも出発だよ」
「わかったわ、行ってきます」
「……行ってらっしゃい」


今はそういう仲間。
でも、帰ってきたら……私達は『友達』だよね?

変な感傷に浸ったり、昔を思い出したりしないから。
そういう事抜きで……貴方の傍にいるから。


ずっと……貴方を支えられるような友達になるから。

どんな関係でも……私の想いは変わらないのだから。











「あ、おかえり神田くん」
「…………」

地下の船着き場に行く途中、任務から戻ってきた神田達とすれ違った。
にっこりと微笑んでも神田はこっちを睨み付けただけで何も答えない。

「早かったね任務、どうだった?」
「…………」
「……神田くん?……っ……て、ちょっと……!」

ひとしきりアリィンをガンつけ、不機嫌オーラを背負いながらアリィンの横を通りすがる。

「だめですよアリィンさん、今凄く機嫌悪いですから」
「え、そうなの?」
「何かしらねぇけどずっとあの調子なんだよ」

取り巻きの2人がアリィンにコソコソと耳打ちをした。

「何してんだよ早く行くぞ!!」

遠くの方で神田が激しく吠えてる。
意味不明な怒りに、3人は顔を見合わせて首をひねった。


ふと、神田と目が合う。
やはりじいっと見つめられ、そしてコートを翻して行ってしまった。

アリィンさんはこれから任務?」
「ええ、でも1人で充分な任務だけどね」
「気をつけて」
「ありがとう、行ってきます」



……何笑ってんだよ……


神田はアリィンのやりとりを面白くない顔で見つめていた。
もともと虫の居所が悪かったが、アリィンの笑顔を見ると更に苛々が募る。

「……本当は笑いたくない癖に……」


お前……そんなに強かねぇだろ……


ここ数日、どうしてこんなに落ち着かないのかわからない。
……ただ一つ、アリィンの顔を見てると無性に腹立たしくなる。

アリィンの笑顔を見ていても、奥には泣きたいような気持ちを抱えていると思うと。
表面だけの笑顔に素直に受け答えができない。


俺は……そんなのと話したくねぇんだよ。











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ヒロインが元気になった話が書きたかったので今回は短め。
神田くんが、段々と………ムフフv(帰れ)

そういえばサブタイトルの英語はわざとわかりにくいような単語を選んでます(笑)
簡単なのもありますが、副詞があったりバラバラ………
意味を知るとより読み込む事ができると思います。