透明な血 その胸で己さえも背き

罰と裁き その身を幾重も焦がし

辿り着いた 数多の嘘

純白の願い 漆黒の絶望


さあ還ろう 肉体も魂も滅び絶える光の中へ


天上の原始に











それは突然だった。

「はい」

受話器から聞こえる声が震えていた。


嫌な予感がする。

……違う、最初から最悪な事態ばかりが頭をよぎっていたんだ。


「え…………」


――「アリィンさんが……重傷です……」――


目の前が真っ暗になった。






31・Dearest






何も見えない、真っ暗な闇。
だけどどんな時よりも心が安らぐ気がする。

体から力が抜けてフワフワと宇宙に漂っているみたいで。
腕も、足も、頭も、瞼も……全てが重くて、軽い。

……私、これで死ぬのかもしれない。


――っ…………アリィン!!!――


……もう神田くんの声すらも遠くで響いてるだけなんだ。
アリィン、それは私の名前……だけど私はもうすぐいなくなる。

恐怖とか後悔とかは感じないんだ……むしろ、ほっとしてる。

だって生きてたってしょうがないから、捨てて惜しいものなんかなかったから。
結局、意味とか目的とか自分の中に持つことはできなかった。

私は汚れすぎたから。

綺麗なもの、純粋なもの、真っ白な心、そんなものは生きていく上で無くしてしまった。
ただ1人愛した男にさえ、薄汚い女の性でしか接する事ができなかった。
そして涙という意地の悪いわがままを、まだ何も知らない年下の少年にぶちまけた。


……そう、死んだ方がましなくらい私は周りの人間を陥れた……だから悲しくなんかない。


私はエクソシスト、生と死の狭間で闘う者。
戦争に死はつきもの、死は当たり前。

エクソシストとして死ねるのだから……むしろこれが誇り高き事のように思える。


だから恐くない、安心してる、誇りを持ってる。


…………私は死ぬ。




――死にたくない――




死んでもいいのよ。




――死にたくない――




……そこにいるのは誰?今さらそんな我が儘言うのは、誰……?




――死にたくない……――




あんな遠くの闇の中で泣いてるのは、誰?

……ダメよ、もう私は死ぬんだから……もう遅いんだから……




――死にたくない……っ!!――




あれは……私だ……!!!






―――「別れよう」

「ごめん……っ……アリィン!!」
「さようなら……コムイ……」


「お前、もうこんな事やめろ」
「そんな事しても、もうお前の心を満たしてくれるような男はいないんだろ?」


「久しぶり」


「君のせいでどれだけ他のエクソシスト達に負担が掛かっていると思ってるんだ」


「……行ってらっしゃい」


「私とリナリーちゃんと―――」
「!……リナリー!!」


「……振り向かせないで」
「嫌だ。お前……泣いてる」


「……新しい任務があるんだ。ついでに神田くんを呼んできてくれる?」
「……わかった」


「……欲求不満なんでしょ?だったら……解消する?」
アリィン……?」


「ごめん」
「……っ……拒まれちゃった…」


「ここはもういい。君はエクソシストだろ?こんな所で無駄な体力使ってないで、
いざという時の為に待機しておくべきじゃないのか?」―――





……最後の思い出と言わんばかりに、全ての記憶が走馬灯のように目の前をよぎる。

あの時も、この時も、本当は泣いていた。
辛くて、悲しくて、嬉しくて、寂しくて、苦しくて……心は泣いてばかりいた。

いつだって泣き虫で、弱くて脆い私は叫んでいた。





別れたくなかった、離れたくなかった、傍にいたかった

貴方を忘れた事なんてなかった、貴方以外に心を渡した事はなかった

貴方に会えて嬉しかった、貴方にもう一度会えて嬉しかった

傍にいたいよ、もっと私と話をして、もっと私の近くに来て、もう一度私を好きになって

貴方しか見ていない、貴方だけしかいない、貴方じゃなきゃダメ

私と貴方は仲間、そんな関係が欲しいんじゃない

貴方のその残酷な命令が欲しいんじゃない

私が欲しいのは……ずっと、今も、これからも、貴方だけ……



――「必ず生きて帰ってくること」――



私、また約束守れないの?

もう貴方に会えないの?

貴方の声が聞けないの?

貴方のその笑顔が見られないの?



嫌だ……そんなの嫌だ……!



まだ私は貴方の傍にいたい

まだ貴方のその優しい瞳が見たい

まだ貴方のその声を聞いていたい


死にたくない……死にたくないよ……!


だってやっと会えたのに!

もう会えないと思っていたのに!


嫌だ……死にたくないよぉ……!!











アリィンっ!!!」

「なっ……コムイ……!」


白い壁、白い天井、白いベッド、そして黒い髪の女。
体に幾つも伸びるチューブと赤い液体、全てが不安を掻き立てるものばかりだった。

そして乱暴に部屋に飛び込んできたのは、教団にいるはずの室長。

「あんた………!」

任務が第一みたいな事言っていたはずの男が全てを投げ出して今ここにいる。
汗だくのその顔には、もはや司令官としての威厳など存在していなかった。

俺が立ち上がっても、コムイにはアリィン以外目に入っていない。


アリィン……!!!!」


ただの女1人の為に他の責務を捨てていい訳がない。

……だけどただの女1人の為に駆けつけたこの男を、どうしてか可哀想だと思った。


普段の無感情の奥に、そこまでの想いを隠していたのかと……











……ずっと闇しかなかったのに、ふと彼方にぽつんと光が現れる。
あれは何の光……?



……そうか、ホントに死んじゃうんだ私……


はらりはらり


泣いてるね私……当たり前か、だって悲しいんだもん。

1人寂しく死ぬんだから、悔しくて苦しいに決まってる。


結局……貴方に本当の気持ちが何も言えなかった。


迷惑だとしても、もう嫌われていたとしても。

……こんなに早く死んじゃうのなら言っておけばよかったかな………?

約束破ってごめんなさいって、謝る事もできないなんて……


最後に……もう一度だけ貴方の顔が見たかったな……






――アリィン!!!!!!――






……コムイの声だ、聞き間違えるはずがない。


夢かな?幻覚かな?最後にコムイに会わせてくれるの?


……嬉しい、夢でも幻でも最後に貴方に会えた。


「…………コムイ……」



――アリィン……!!!――



綺麗な漆黒の瞳、整った顔立ち。

変わらないね……その顔を見てるだけで幸せで涙が出てくる。


どうして好きかって?

そんなの……真面目で、自分が興味を持ったものはとことん極め尽くして、

1人で責任背負って、気持ちを抱え込んで、何も言ってくれなくて……


そんな貴方が堪らなく好きで、愛おしいんだよ。

理屈なんかない、理由なんかいらない。


過去が好きなんじゃない。

過去があるから、全ての感情合わせて今貴方が愛おしい。



「コムイ……ずっと、愛してた……今も、これからも、ずっと……愛してる……」



冷たくされれば悲しい、拒絶されれば苦しい。

だけど受け入れてくれたときは本当に嬉しくて、幸せで。

貴方を支えたい、貴方を守りたい、貴方の苦悩を和らげてあげたい。


辛い恋だったから燃えた?……違うよ。

『貴方を支える事』に幸せを感じてしまったんだから、他の男で幸せになるはずがない。

『貴方』の代わりなんている訳がない、『貴方』以上の人がいたとしても私は幸せにはならない。


……貴方だったから幸せだったのよ、燃えたのよ。


貴方が長い年月の間に変わってしまっていても関係ない。

貴方が変わろうと変わらなくても、私は貴方しか愛せない。



コムイがコムイであるだけで私は貴方を愛してしまう。



「…………ごめんね……?」



……また約束を破ってしまうね……


だけとこの気持ちだけは変わらない、変われない。


貴方は……私の生涯ただ1人の、愛する人だから……











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お~う、三途の川手前のヒロイン(笑)
死にません、死んだらこの話終わってしまいますて。

さて、夢だと思って気持ちをぶちまけてしまったヒロインですが(笑)
夢じゃありませんね~全然vv

……でもこれで終わると思ったら大間違い(え?)