「今回はアリィンと神田くんのコンビで行ってもらうから」

コムイは真面目な顔付きで資料をくれた。
アリィンが横目で隣をチラリと見ると目があったけど、やはりあからさまに反らされた。

「……神田くんわかったかい?」
「あぁ」
アリィンもOK?」
「ええ」

「それじゃあすぐに出発、現地で探索部隊が待ってるから」


地下のボートに乗っていよいよ出発。
皆、自然と口数が少なくなり、妙な緊張感を漂わせた船着き場まで辿り着く。


「……行ってらっしゃい」

少し、コムイの表情が険しかった。

「行ってきます」

大丈夫だよ、という意味を込めてアリィンも挨拶を交わした。
私だってエクソシストなんだからちゃんと任務を果たしてくるよ、そう念を送ったけど伝わったかな。




一方のコムイはボートが見えなくなるまで、並ぶ2つの黒い長髪を見つめていた。


「……僕が本当の悪魔かもしれないな」


平気で彼女を危険な場所に送り出すのだから。






5・Nevertheless






「……………」
「……………」

列車内で用意された場所に座って窓を眺めるけど、会話は全くない。
地を走る振動だけが座席を伝わり周期的な揺れを起こす。

ずっと俯いていた目を、アリィンはそっと持ち上げてみる。
神田は眉間に皺を寄せたまま肘をついて窓の外を見たり、 手に持った任務概要を読み返したりしていた。
何となく微妙な空気が流れていて、探索部隊の人も居心地が悪そうだった。


「……あの、神田くん?」
「…………」

アリィンとしてもこのままってのはさすがに我慢できなかった。

「仲良くしよう、とかは言わないけど……せめて任務の時ぐらいは協力してくれると嬉しいんだけど……」

遠回しに優しくそれとなく伝える。
すると神田はまたバカにしたように鼻で笑った。

「はっ、馴れ合いなんざご免だ。正義の味方ごっこやってんじゃねぇよ」
「……でも、このままじゃ任務にも支障がでるでしょ?」
「でねぇよ、お前が役に立たねぇと思ったら見殺しにするから」
「…………」

さらりと物騒な事を言ってのけた神田に、アリィンの開いた口が塞がらない。
段々と笑顔が引きつってくる。

「その作り笑いやめろっつってんだろ」

さらに追い打ちが掛かる。
アリィンは意地になって笑顔にし続けたが、胸の奥では暴れ出したいほど苛立ちが募っていた。
その怒りが表に出す事はないが、よく見るとこめかみに青筋が立っている。

「……あのね、私はいつもこういう顔なんです」
「思ってる事と言ってる事が全然違うだろ」
「……神田くんに私の思ってる事がわかる?」
「全部笑顔で隠してるだろ」
「…………」


……変な所で敏感な人だなあ……


「誰とも仲良くしようとか、そういう人当たりのよさそうなフリしてるのが一番気にくわねぇ」


……別に人当たりのいいフリしてる訳じゃないけど。

……でも、フリしてるのかも……


「あんたらみたいな上から物を言ってくるやつは大抵そうだ」


決めつけられても困るけど……結構本当の事かもしれない。


「……人より少し経験が多いとね、人と付き合うのに色々と便利な方法を知っていくの」


余計ないざこざは起こしたくない。


「そうやって人は、大人になるにつれて殻を厚くしていくの」


それが大人になるということ。
なりたくてなった訳じゃない。

ふと気付いてしまうだけだ、『本当の自分』の周りに何重もの壁が生み出されている事に。
ものわかりのいいフリして、余裕ぶってる自分に。


そして……そこまで言われても、私はこの笑顔の仮面をはずせない。

……はずしたら、私はまたおかしくなってしまうから。


「直せって言われても、もう無理かな……」


長年の間に作り出してしまったこの殻は。


「そりゃあ私だって、わざわざ人と仲良くしようなんて思わないわよ。
だけど任務だから仕方がないし、その方が色々と便利でしょ?」
「はっ、結局それが本音か」
「……そうよ、悪い?」

アリィンは少々ムッとした顔で窓の外を向いた。
初めて笑顔以外の一面を見た。

「……別に、悪くねぇよ」
「そう、なら仲良くしてね、神田くん?」

にっこりと満面の笑顔で首を傾げられる。
さっきまではよく見ていなかったけど、睫毛が長い。
赤褐色の瞳は、光が射すと宝石のように鮮やかに発色する。

何故かグッと詰まり、悪態をつく気が失せてしまった。

「……仲良くはしねぇよ」


……もう見殺しにする気はなくなってくれたかな……?


口の悪いらしい神田がちゃんとした返答をした、とりあえず今回はこのくらいで満足しようと思う。


「……私は神田くんみたいに、思った事が全部言えない」


私は弱い人間だから。


「衝突だって少なくないと思うのに、それでも自分を貫き通してる」


神田くんは、こうやって真っ正面から人と向き合う。
裏の駆け引きなんかしないで、本音で人とぶつかりあう。

言葉の武器なんか、ものともしないで。


「……少し、羨ましいな……」


心が強くないと、そんな事できないよ。


アリィンがポツリと呟く横顔に引き込まれるように、神田は何となく言葉を返す事ができなかった。

作り笑顔じゃない、どことなく悲しそうな目だったから。











今回の任務はレベル2のアクマの破壊だった。
まだ任務に慣れてないアリィンの為に、ベテランの神田が付いていく事になったんだと思う。
もしくは慣れている神田のサポートとして、単にアリィンが選ばれただけかもしれないが。


「レベル2か……」

目的の街に着いてアリィンは一言漏らした。

「お前一度もレベル2と戦った事ないのか?」
「ええ……」
「……チッ……」


……今、この人舌打ちしたよね……?


「レベル2は自我を持ってる。人間だと思って油断するなよ」
「わかった、神田くんに見殺しにされないように頑張る」
「……お前、結構根に持つタイプだな」

「では、こちらです」

現地の探索部隊と合流して、そのアクマがいるという場所へ向かう。
今が夜だとはいっても、大きな街のはずなのに人通りがまるでない。
むしろ、街に人がいない気がした。

「ここの住人のほとんどがアクマに殺されました。残った人は次々と街を逃げ出してこのありさまです」
「そう……」
「下手に人間がいるよりましだ。アクマと戦いやすくなる」
「……あまり賛同したくないけど、確かにそうね」

アクマと人間は見分けがつかない。
人間はいないでくれたほうが間違えないですむ。


「ここです」

街の奥を進み、とある民家の前で探索部隊は足を止めた。

「普通の民家ね」
「当たり前だろ。でかい城とかにいたらアクマだって丸わかりじゃねぇか」
「……何よ、いいじゃないの何を思ったって」
「お前の考えは短絡的すぎんだよ」

さっくりと切られ、アリィンはギギギと音がしそうなスピードで神田を睨んだが当の本人は平然と家を見つめている。
もちろん笑顔だったが目は笑っていない。

「……神田くん?貴方には私の心が読めるのかな?」
「バカじゃねぇのか、読める訳ないだろ」
「そうじゃなくて、勝手に『短絡的』とか決めつけないでよ」
「ならもっと高尚な発言しろよ。『普通の民家だ』なんてお前バカだろ?」
「~~~~~っ!11歳も年上の人に『お前』『お前』って連呼しないでくれる?!」
「ババァ」
「!!」

ガンッ!という効果音がアリィンの頭上に降り注いだ。
アリィンは相当ショックだったのか、フラフラとよろめいている。


……こいつ結構バカだ……


だなんて神田は内心ほくそ笑んだ。


「!お2人とも……!」

探索部隊の声でハッと我に返り、物陰から家の玄関を見遣る。
若い男女が揃って外に出ていく。

「あの女性の方がアクマです」
「え……?」

女は金髪の可愛らしい容姿で、隣の男に笑顔を振りまいていた。
そして、男は嬉しそうに女の手を握る。

「男は?」
「そちらはよくわかりません……女性の方は確実ですが」

神田の問いに探索部隊は言葉を濁した。
アクマといっても外見は人間と変わらないので、確たる証拠がなければアクマだと断定できない。

アリィンと神田はこっそりと男女の後を追った。











「……おいしいかい、エリー?」

男は心底嬉しそうにエリーの食事風景を眺めていた。
エリーと呼ばれた女が食らいついているのは、大量の血を流す人間であった物体。


「化けの皮を剥がせよ、このアクマ」


部屋のドアが乱暴に開けられ、神田は剣を構えながらそこにたたずんでいた。
隣にはアリィンが棍をぎゅっと握りしめて、部屋の中の光景に眉を潜めた。

無惨にも血が飛び散って死んでいる人間に、かぶりつく可愛らしい少女。
そしてさっきまで生きていたであろう人間の塊。

「……誰?」
「見やわかんだろ、テメェらをぶっ潰しに来たんだよ」

男が静かにこちらを振り向いて、冷たい目でアリィン達を睨む。

「……僕は人間です」
「その後ろの女はアクマだろ?さっさと掛かって来いよ」

散々威嚇したからか、口に赤い跡を残す女は目を思いっきり見開いて立ち上がった。
しかし、その肩を持って男は女を制する。

「いいよエリー、大丈夫だから」

エリーににっこり笑って、こちらを振り返る男。

「……帰ってください」
「帰ってと言われて大人しく帰る訳ないだろ」
「エリーは何もしてません……お願いですから……」

神田とアリィンは気がついていた。
エリーと呼ばれた少女の目が異常に殺気立っていた事を。
アリィンは棍を構えて臨戦態勢をとった。

「アクマの片棒をかついでるならテメェも殺す!」
「お願いです……エリーは、エリーは悪くないんです……」
「そのエリーとかいう女はアクマだろ!!」


「……エクソシストォォォ!!!!」


突然エリーが雄叫びを上げ、窓を蹴破り外に逃げていった。

「エリー!!」

男は慌てて後を追おうとするが……喉元に剣が煌めいていて動けなかった。

「あなたは……人間なの?」

殺気立つ神田が男を殺す前にアリィンは口を出した。
男は観念したのか、暴れるのを止めて静かに喋り出した。

「……僕は…人間です……」






この街にはアルドとエリーという恋人がいた。

「僕はアッシュ……3人とも幼なじみだったんです……」

広場の水の出ない噴水に腰掛けさせ、アリィンはしゃがみ込んでアッシュの顔を覗き込んでいた。
神田はあまり近くない所で壁によりかかり、苛立ったようすで空を見上げている。

「僕はエリーが好きだった、だけど告白する気はなかった。2人は幸せそうだったから……それを壊してはいけないと」
「………」
「だけど……事故でエリーの恋人……アルドが死んで……っ…!」


エリーは狂いそうなほど泣き叫んで、誰の耳も貸さなくなって。
そんなある日、アクマの製造者・千年伯爵が現れた。

エリーは無我夢中でアルドを蘇らせ、そしてアルドに殺された。

アッシュが気付いた時にはエリーの皮を被ったアクマ、アルドが誕生していた。



――「アルド……エリー……2人は一緒になれたんだね……?」

「アルド……いや、エリー……僕が守ってあげる」

「君がアクマとして暴れないように……僕がご飯を持ってきてあげる」

「僕が守ってあげる……」―――



「……下手をすれば貴方も殺されていたかもしれないんだよ?」

アリィンは嗚咽を漏らすアッシュの震える肩を持った。

「エリーは……僕を殺さないでくれたんです。そして、笑ってくれた……」


――「アリガトウ、アッシュ……」――


「……このままじゃいけない事も、アクマを生かせておいちゃいけないって事もわかってます……」

膝に置かれた拳に、透明な雫がポタポタと落ちる。

「でも……あれはエリーとアルドなんです!僕の幼なじみなんです……!」

顔を上げたので、涙でグシャグシャになったアッシュの顔が目の前にくる。

「わかっていた…っ…わかっているんです……!!でも……っ!!」
「……愛してしまったのね、エリーさんを……」

たとえエリーの皮を被った親友だったとしても。


アリィンは苦しそうな表情で震える背中を撫でた。
アッシュは余計に息を荒くさせて大声で泣き出した。





……わかっていた。


ダメだとわかっていても、どうしようもなく彼を愛してしまった。




――「僕は……君にいつか別れを告げる……だから、僕を愛してはいけないよ…?」――




随分昔の事なのに、アリィンは胸が締め付けられるのを感じた。



「!!来るぞ!!」

神田の声と共に、アリィンは立ち上がって辺りを見渡す。
ピンと張りつめた空気が緊張感を高める。

「……行くぞ、六幻」

神田が剣に2本指を立て横に滑らせていくと、輝く刀身が姿を見せる。
イノセンスが発動した、神田の『六幻』という名の武器。


アリィンも背中から棍を抜き取る。
そして片手で棍をクルクルと回転させ、両手で構える。


発動!!


その意思と共に、黒い棍の両端から光が溢れる。
それは一瞬で収束し、光る刀身を形作る。
アリィンの正面側の刀身は大きくて2股に別れながら曲線を描き、もう一方は槍のように小さめの細い形に。


少しの静寂が訪れる。


「…………」

「…………」



ガサッ!!



「!!」

空から黒い針が降り注ぐ。

「アッシュさん!」

アリィンはアッシュの肩を抱き、棍を高速に回転させて針を弾く。

「!テメェ何やってんだよ!!そんな男なんか庇ってんじゃねぇよ!!」
「大丈夫!神田くんはアクマを!!」

神田の罵声にも耳を貸さずに空を見上げる。
こんな騒ぎの中でも神田の舌打ちはよく聞こえた。

「甘い考えで生きられると思うなよ!!!
その男のせいでアクマがレベル2になってんだろ!?」


神田は、犠牲はやむを得ないと思っている。
それはわかる、私達はエクソシストで任務第一でないといけない。

アッシュのせいで多くの人が殺されて、そしてアクマは進化を遂げている。

でも、この人のような人間的な感情を、全て責めることはできないから。


「私は人間だから……この人の気持ちわかるから!」
「はっ!お前はエクソシストだ!そんな感情はいらねぇんだよ!!」


「……アッシュ…」
「!!」

空から柔らかそうな髪を靡かせて少女が下りてくる。

「ありがとうアッシュ、あなたには感謝しているわ」
「エ、エリー……!」
「だから……あなたは殺さないであげるわ。あなたはご飯をたくさんくれたから」

アッシュが泣きながらエリーと呼ばれるアクマに手を伸ばす。
アクマはにっこりと笑いながらじりじりとこちらに歩いてくる。

「……チッ!」

神田は六幻を構えアクマに飛びかかる。
空中で六幻を薙ぎはらうと、旋風と共にそこから奇妙な生物が飛び出す。
そしてアクマに向かい轟音とともに爆発が巻き起こる。

「エリー!!!!」

アリィンの腕を無我夢中で振り払い、煙の上がるアクマのいた場所に這っていくアッシュ。

「アッシュさん危ない!!……っく…!」

煙の中から大きな手が伸び、アリィンに攻撃を繰り返す。
アリィンは器用にそれを避けては刀身を振り回す。

じきに視界が晴れアクマが姿を見せる。
しかしそれはさっきまでの可愛らしいエリーではなく、口角を異常に上げたまさしく『アクマ』だった。
気持ち悪い笑顔を浮かべて、アクマは両手を使って神田にも攻撃をする。

その傍で、アッシュは必死に説得をする。

「やめてくれエリー!その人達を殺しちゃだめだ!」
「どうして?アッシュはいつもご飯をくれたじゃない」
「だめだ!アクマになっちゃいけない!」
「何言ってるの?貴方がくれた能力じゃない」

アクマの体が裂け、新しく一対の鋭い爪が神田とアリィン同時に襲いかかる。

「エクソシストは殺すの」


「いい加減………戯れ言に付き合ってる暇はねぇんだよ!!」

神田は2つの爪を避けながらアクマとの距離を一気に縮める。
まだアクマはレベル2の能力に目覚めたばかりらしく、剣を薙げば簡単に腕は本体と切り離される。

「あぅっ……!!」
「エリー!!」

痛がるフリをするアクマの前でアッシュは両手を広げる。


「お願いだ!エリーを殺さないで!!」



「……ダメよ、アッシュさん」

腕を切り落とし、荒い息でアッシュを見据えるアリィン
酷く悲しげだったけど、赤い瞳は鋭くアクマを見上げていた。

「エリーさんはもうアクマになってしまった、アクマは倒さないといけないのよ」
「やめてくださいアリィンさん!エリーは……エリーは悪くないんです!!」
「……アッシュさん、エリーさんとアルドさんを縛り付けたままでいいの?」
「エリーは人を殺したりしません!!お願いですから!!」
「貴方は、本当にアクマのまま生きていけばいいと思っているの?」

ぐっとアッシュは息を詰まらせる。

よくない、とはアッシュも思っているだろうが、おそらく感情がついて行ってないのだろう。

「そいつ庇うならテメェも殺すぞ!!」

神田は苛々しながらアッシュに威嚇……むしろ斬り付けてる。
傷つける一歩手前まできている。

「お願いです!お願いですから!!」

半ば狂乱した様子で両手を広げて庇い続けるアッシュ。
これまでと思ったアリィンは、地を蹴りアクマに飛びかかる。


「エリーさんとアルドさんを救ってあげるには、倒すしかないんだよ……」


アッシュがいない後ろに回り込み、アリィンは刀身を向ける。

「どけ!!」

神田はアッシュの胸ぐらをつかみ遠くに投げ飛ばす。
そしてアクマを挟んで後ろにいるだろうアリィンに叫ぶ。

「おい!後ろにいて巻き込まれてもしらねぇぞ!!」
「わかってるわ!!」


神田は高く跳び上がり、頭上から真っ二つに切り下ろす。
同時にアリィンも下から突き上げるように棍を薙ぐと、光の衝撃は弧を描きながら地面を削りアクマを襲う。

「……カオスに還れ……哀れな魂達……!」

防御をする暇もなく、前後上下からの攻撃がアクマの中心で一つになり爆風を引き起こす。


「……さよならエリーさん、アルドさん……」



女の子の悲鳴を上げてアクマは消滅した。













帰りの列車ではまたしても沈黙が漂っていた。


―――あの後、アッシュは地に跪いて泣き叫んだ。

「ごめんなさい……ごめんっ……エリー……アルド…っ!!」

いけない事だとはわかっていた、だけどエリーを愛していたからアクマでも守ってやりたかった。
それが痛いほどわかったアリィンはアッシュの肩を抱き、優しく囁いた。

「……それでも、貴方は生きていくのよ?」


その時のアリィンの辛そうな笑顔が神田の目に焼き付いた―――


「…………」
「…………」

ガタンゴトンという規則正しい振動が背中に伝わる。
今回は、アリィンから神田に話し掛ける気はなかった。


「……あの男、殺しておいた方が幸せだったんじゃねぇのか?」

ポツリと神田が呟いた。

「……あら珍しいね、神田くんが興味を持つなんて」
「うるせぇ」
「何が幸せかなんて……その人が決める事でしょ?」
「………」
「だけど……死んではダメだから……」


神田にはよく理解できなかった。

あれだけ男を庇っておきながら、すっぱりとアクマを倒したアリィンが。
そしてその後を世話してやることもなく、一言だけ囁いて帰ってきてしまったのだ。


「……何であの男を庇った?」
「あの人の気持ちはわかるから……それと、多くの人を殺してしまった事を償なければならないから」

淡々と言葉を連ねながら窓の外の景色を眺めるアリィン

「アクマは倒さなければ救われない。
でもあの人は生きてるから……2人の分まで生きてほしい。
でもそれは人に言われて気付く事じゃなくて、自分で導き出すものだから」
「……よくわかんねぇ」

時々、何もかも悟ったように冷めた目をするアリィン
その理由は神田には全然見当もつかない。

神田が先に聞いてきたのに、当の本人は疲れた表情であさってを向くのでアリィンは苦笑した。

「も~……神田くん、本気で誰かを好きになった事ないでしょ?」
「んなもん別にいらねぇよ」
「……それは負け惜しみ?」
「なんだよ!ならお前にはあるのかよ!?」
「……あるよ」

神田は目を見開いた。

「あるよ、世紀の大恋愛……あ、向こうはどう思ってたか知らないけどね」

決して作った表情でなく、少し憂いを含んだ微笑みが遠くを見ていた。
長い睫毛が赤い瞳に被り、神田の目の前で大きく上下する。

「は……はは、それでその大恋愛はどうなったんだよ。どうせ振られたんだろ?」
「……うん、振られちゃった」

怒る訳でもなく、今度は舌を出しそうな勢いでおどけて見せたアリィン
少し、自分の言った事を後悔した。


また、会話はなくなってしまった。











「おかえり」

コムイはコーヒー片手に2人を出迎え、アリィンもお決まりの笑顔を見せた。

「ただいま」
「…………」

神田は隣で無表情。
なんとなく不機嫌なのは気のせいだろうか。

「どうだった?」
「……ってか、あの程度のアクマ退治を俺にさせるなよ」
「今は人手が足りなくてね」

肩をすくめてみせたコムイはそう言い、次にアリィンを向いた。

「ご苦労様、今日はゆっくり休んで」
「そうさせてもらうね、ちょっと疲れたし……報告書は後でいい?」
「ああ、いいよ」
「じゃあ、おやすみね……行こう神田くん」
「………」

アリィンは疲れたようにほうっと息を吐いて、神田に声をかけて司令室を出た。




「……作り笑顔やめろって言ってるだろ」
「え?また作ってた?」
「当たり前だろ、わかりやすいんだよ」
「……いいじゃない、神田くんにやった訳じゃないんだから」

神田はアリィンに悪態を付こうと隣を向いたが、アリィンはさっきまでの笑顔を貼り付かせたまま。
明らかに奥で何かを考えている表情に、ふと何も言えなくなった。



――それでも人は生きていく――




どうしてかアリィンの言った言葉が頭から離れなかった。











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さて、初戦闘シーンです。
レベル2をどうしようか悩みましたが、最初という事で簡単にしてみました(笑)

オリキャラ勢揃い。読みにくくてスイマセン……
っていうか、よく考えると外面は少女だけど喋ってるのは男なんですよね……(汗)
よく好きになれましたな、親友(ポンと肩に手をおく)