「こいつアウトォォォォ!!!!」


どこからともなく大音量の叫びが響いた。


「ひゃぁ!?」

アリィンはその声に驚いてガバッとベッドから起きあがった。

「な、なになに!?何が起こったの!?」

まだ寝ぼけた顔で周りを見渡すが、自分の部屋での事件ではなさそう。

「……ゆ……夢か……眠い……」

それだけでまた倒れるようにベッドに潜った。






6・Hallucinogen






朝、やっとの事でベッドから抜け出して目を擦る。
だんだん意識が覚醒していくと太陽の角度が随分高い事がわかった。


……もしかしてお昼近いかも……


ペタペタと裸足で部屋を歩くが、やっぱりどうもフラフラする。
油断したらまた睡魔が襲ってきそうだった。

「やっぱり朝に弱いなぁ私は……」

低血圧なアリィンには朝は大敵との戦いだった。
格闘家にはあるまじき低血圧だが、眠いものはしょうがない。
一度眠ってしまえばよほどの事がない限り起きない。


……一緒に暮らしてた時は、起こしてくれる人がいたけど。


「……って、何年前の事を思い出してるんだろう……」

顔を洗い、服を着替えながら呟く。
その原因はわかりやすすぎて、思い出に浸ってる自分にまた笑った。


……アレ?そういえば昨日の夜、何かあったような……?


ふと記憶を辿ると、確かに大声で起きたのは確か。
だけど何を言ってるかまではわからなかったし、それ以降は全く覚えていない。


「……ま、いいか…」

アリィンは朝ご飯を食べようと自室を後にした。






「おはようございますジェリーさん」
「あらおはようアリィンちゃん!!聞いて聞いて、今日新しい子が来たのよ~v」
「新しい子?」

ジェリーが指さす方向を辿ると、そこには白い髪の少年が。

「中々可愛いのよぉ~~vv」
「ふふ、ジェリーさんは可愛いものには目がないですね」
「そうなのよ~vvもちろんアリィンちゃんも可愛いわよ~!!」
「……あ、ありがとうございます……」


……『可愛い』という歳ではないです……


アリィンは心の中で泣きながらもいつもの朝ご飯を作ってもらった。
そして少年の前に立ってにっこり微笑んだ。

「……初めまして。アレン・ウォーカーくん、かな?」
「え?!あ、は、初めまして……!」

アレンはびっくりした顔でアリィンを見上げた。

「……ここ、座っていい?」
「あ、は、はいどうぞ……!」


うわぁ……綺麗な人だなぁ……


アレンが最初に思った感想はそれである。
無意識に見惚れてしまうほど、アリィンには言いしれぬ色気というものがあった。

「初めまして、アリィンファルーシュです。私も最近ここに来たばかりだよ」
「ホントですか!?僕は昨日の夜入ったばかりで……色々と大変でした」

あはは、とアレンは苦笑いをした。

「ん?……昨日の夜…?」


ふと何かを思いだしたが、特に気にはしなかった。
それよりもアレンの前にある大量の食事の方が気になってしょうがなかった。


「同じエクソシスト同士頑張ろうね?……仲間意識がない人もいるけど」
「はい、仲良くしてくださいねアリィンさん」

アレンは嬉しそうに微笑んだ。


……よかった、この子は表面的には優しそうだし人当たりもよさそうだ。


「何だとコラァ!!」

ほのぼのとした食事は、突然食堂中に響いた男の罵声によって遮られた。

「うるせぇな……メシ食ってる時に後ろでメソメソ死んだ奴らの追悼されちゃ、味がマズくなんだよ」

探索部隊の団体の後ろで、食事を終えた神田が淡々と口にする。
それに気を悪くした一人の体格のいい男が泣きながら神田に詰め寄る。

「テメェ……それが殉職した同志に言うセリフか!!」

探索部隊達の鋭い視線が全て神田に向く。
だけど当の本人はどこ吹く風といった感じでシカト状態。

「俺達探索部隊はお前らエクソシストの下で命懸けでサポートしてやってるのに……それを……メシがマズくなるだとーーー!!」

ゴツイ男が殴りかかるが、神田はそれを難なくかわして逆に相手の首を絞める。
そして冷たい目で見上げ口角を歪める。

「ぅぐっ……!」
「……サポート『してやってる』だ?違ぇだろ、サポートしかできねぇんだろ。お前らはイノセンスに選ばれなかったハズレ者だ。
死ぬのがイヤなら出てけよ。お前ひとり分の命くらい、いくらでも代わりはいる」


「ストップ」


間にアレンが入り、締まっていた手が緩んだ。

「関係ないとこ悪いですけど、そういう言い方はないと思いますよ」
「…………放せよモヤシ」
「(モヤッ……っ!?)……アレンです」
「はっ!一ヶ月でくたばらなかったら覚えてやるよ。
ここじゃバタバタ死んでく奴が多いからな、こいつらみたいに―――」

言いかけた所に、アレンが想像以上の力で腕を握りしめる。

「だからそういう言い方はないでしょ」
「……早死にするぜお前……キライなタイプだ」
「……そりゃどうも」

ゴゴゴゴという擬音語が似合いそうなオーラが一面に漂いだす。


「はいはい、もうおしまい!」

スッとちょうど両者の掴み合う間に入ったアリィン
神田に向かって諫めるように指をさす。

「も~神田くん!文句言ってる間にせっかく食べた蕎麦の味、忘れちゃうよ?」
「……チッ」

聞こえるように舌打ちをし、神田はアレンの手を振り払いトレイを返却口に返しに行く。
それにすっと後ろに回って話し掛けるアリィン

「自分の気持ちに正直なのはいいけど……あれでは敵を作るだけだよ?」
「うるせぇ、愼気くせぇ所でメシ食いたかねぇんだよ」
「……強いね」
「………は?」


自分の言いたい事を言って、誰かから何を言われてもびくともしない神田。
確かに、内容は神田の方が悪いのだけど。
少し悪口を言われただけで軽くショックを受けてしまうアリィンとは大違いだった。

そこへふと、神田の食事が毎日毎日蕎麦な事に気がついた。
神田はいつも朝早くから修練していると聞いていた。

「……いつもご飯前に鍛えてるのに蕎麦だけで足りるの?」

アリィンは返却口に置かれたトレイを見つめて言う。

「うるせぇ……ほっとけ」
「……神田くんっていつも『うるせぇ』だね」
「…………」
「あ、今度は言わなかった」

また『うるせぇ』と言いそうになって神田は口を噤んだ。
代わりに訴えてくる目を見返して、思わずアリィンは笑った。


「……チッ……もうお前どっか行け!目障りなんだよ!」
「はいはい……うるさいオバサンは消えますよ」


神田とアリィンさんって仲いいんだな……


相手にされない自分を思い、アレンは少し悔しい思いに駆られた。


「お、神田!アレン!10分でメシ食って司令室に来てくれ、任務だ」

リーバーに呼ばれ、先に食事を済ませていた神田はスタスタと行ってしまった。


……まぁ、一緒に行こうとは思わないけどさ……


なんて思いながらアレンは山になってる自分の朝ご飯の前に座った。










「……あれ?寝てるの?」

のんびり食事を済ませたアリィンは司令室のドアを叩いた。
アリィンの呟いた言葉は代わりにリーバーが答えてくれた。

「さっきまで起きてたんスけどね」
「そうなの……」
「いい加減に起こさないと仕事溜まってるんですから」

珍しいものでも見るかのようにアリィンは突っ伏してる室長の机まで近寄った。


ほんとだ、爆睡してる……


アリィンはそっと周期的に動く肩に手をおいた。

「あ、無理ッスよ。室長起こすのにはコツがあ――」
「コムイ……?」

「!!!」

アリィンが優しく囁いたと同時にコムイはもの凄い勢いでガバッと起きあがった。
大きく見開かれた目はアリィンを見上げ、必死で焦点を定めているようであった。

「…っ…あ……アリィン……」

ようやく絞り出された言葉にアリィンは笑った。

「ごめんね、起こしちゃって」
「い、いや……」

動揺しているのかコムイは自分の机の周りを見渡していた。
まるで自分が今生きている場所を再確認するように。



(室長が『リナリーちゃんネタ』以外で起きた!!!!)

リーバーやその他の人達はさらに動揺を見せてどよめいていた。

(お、おい……室長が起きたぞ…!)
(ああ……何をしても起きない室長が……!)
(初めて見た……室長が暴れて起きない所……!)
(これは一大事だぞ……!)

ざわざわと騒がしい周りを見てアリィンは首を傾げた。


「はい、遅くなっちゃったけど報告書」
「あ、ああ……ご苦労様」

書類を渡すと、アリィンは何故か放心しているリーバーの所で軽い会話を始めた。
それを茫然を眺めるコムイ。

頭を占めるのは、遠い昔の記憶。
朝日に照らされた、優しい彼女の囁きと微笑み。


コムイはそれを振り払うように頭を掻き、報告書に目を通した。

「はい、コーヒー」

見上げるとまたしても柔らかい笑顔がそこにあった。

「寝起きだから飲むでしょ?」
「ああ……ありがとう」

温かいコーヒーからは湯気が立ち上る。


……嫌だな、既視感というのは。


また思い出に浸りそうになった頭を現実に引き戻し、そして平静を装ってアリィンを見遣る。


「そういえば昨日新しい子が入ったんだけど、もう会ったかい?」
「あ、アレンくん?会ったわよ、いい子そうだね。
さっきリーバーくんに呼ばれていたけどさっそく任務かなにか?」
「ああ、神田くんとコンビでね」
「え?アレンくんと気が合うかなぁ……あの神田くんが……さっきだって喧嘩になりかけたし」

アリィンが苦笑いをしたので、話のついでに尋ねてみた。

「……神田くんとの任務はどうだった?」
「う~ん、そうだねぇ……中々気難しい人かな」

アリィンはヤケに実感を込めて唸っていた。

「あ、でも……何となくコムイに似てるかも」
「……僕と?」
「うん。わかりにくいんだけど真面目な所、とかね……」
「…………」

くすりと思い出したように笑うアリィン


静かな水面に微かな波紋が広がる。


「……そう、じゃあ神田くんとはうまくやってけそうだね」

僕は笑顔を張り付かせた。


波紋はどんどん広がって大きくなる。


「……そうだね、根は悪くない人だって信じてみるよ」


……だけど、僕は静かな水面で居続けなければならない。











「……カマかけちゃった……」

廊下を歩くアリィンは誰に言うわけでもなく呟いた。
微妙に神田に興味があるフリをしてコムイの反応を窺ってみた。


「……けど失敗だったね」


コムイは笑顔で平然と応えたから。


「……もう本当に終わった事なんだ………」

わかりきった事なのに気持ちが落ち込む。



……って何やってるんだろう私、いつまで過去に縋ってる気なのかな……











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食堂での神田とアレンのエピソードはもろ原作沿いなので一部省略しました。
……というか、この辺しか原作沿いじゃなかったり(汗)

兄さんも、リナリーちゃん以外で起こしました(笑)
リナリー関連で起きるときはそりゃもう大騒ぎなんだろうけど、
ヒロイン関連の時はふっと起きてしまう……そんな感じをイメージしてます。

奥の奥で愛してる、そんな感情を表現できたらいいな。