「ごめんなさいジェリーさん、厨房使わせてもらっちゃって……」

アリィンは小切れよい音を立てながら包丁を慣れた手付きで扱う。

「いいのよ~!アリィンちゃんの頼みとあればねっ!」

ジェリーはフライパンを手早く回し、炒めた料理を皿に盛る。

「でも本当に優しいわね~、わざわざアリィンちゃんが夜食を作ってあげるなんてね」
「科学班のみんな、あまりまともなもの食べてないでしょうから」
「も~アリィンちゃんの手料理なんて贅沢だわ~!」
「炒めてるのはジェリーさんなんだから、ジェリーさんの手料理でしょう?」

アリィンはくすくすと笑い、みじん切りされた野菜をボールに移す。

「それにしたってアリィンちゃんのが詰まってるじゃないの~!」
「ふふ……ありがとうございます」
「科学班が羨ましいわ~~~~!」

ジェリーはフライパンを振り回しながら羨ましさの度合いを体で表現した。
そうこうしているうちに野菜を全て切り終え、今度はアリィンが炒め始める。

「……アリィンちゃん料理上手いわね~………!」
「ずっと自炊してましたから」
アリィンちゃんならきっといい奥さんになれるわよ~!」
「……ありがとうございます」


……素直に喜べたのは、いつまでだったかな……




ドォォン!!!!




地震と共に、大きな破壊音が響いてきた。

「な、なになに?!何なの……?!」






8・Transplant






「……な、何アレ?!」

アリィンは巨大な物体の前で茫然と立ち尽くしていた。
何かの昆虫のような形をしたロボットが城内を破壊し尽くしている。
手すりから乗り出すように中心ホールを覗くと既に多数の穴ができあがっていた。


ベレー帽かぶってるし……!


「あ、リーバーくん!」
アリィンさん!」
「アレンくんも帰ってたんだ、おかえり!」
「た、ただいまですアリィンさん……!」

アリィンはリーバー達の方へ駆け寄る。

「何が起こってるの?!」
「それが大変なんです!コムリンが暴走して……!」
「……はい?」

アリィンは一瞬自身の耳を疑った。

「コムイ室長が作ったロボットなんですけど、見てのとおり暴走してて……!」
「そ、そう、だから『コムリン』……」
「室長の頭脳と人格を完全にコピーしてあるらしいから余計に行動が予測できないッス!」


今度は何やらかしたのコムイ……


何かに熱中する事はいいが、周りの迷惑を考えてほしいものであるとアリィンは切に思った。


「おおーい無事かー!!」

科学班の皆さんが中心ホールの浮遊塔から呼びかけてくる。

「リナリィーまだスリムかいーーーー!?」

多数の人を押しのけてコムイが何やら騒いでいる。

「コムイ!何がどうなってるの!?どうして暴走してるの!?」
アリィンーー!コムリンは悪くないんだ!悪いのはコーヒーなんだ!!」
「……よ、よく事情が掴めないんだけど―――!」

「来たぁ!!!」

アリィンの言葉を遮ってコムリンが上から下りてくる。
それと同時に浮遊塔から巨大な大砲が姿を現し、コムリンに銃口が向けられる。

「!!ボクのコムリンを撃つなぁ!!!」


ドルルルルルルルルル!!!


「どわわわわわっ!!!」
「きゃああああ!!」

アリィン達は慌てて銃弾の雨をやり過ごした。
その銃弾がコムリンに当たることはなく、全て城内に新たな穴を作る要因となった。

「何してんだお前ら!!殺す気か!!」
「は、反逆者がいて……」

どうやら浮遊塔内で内部抗争が勃発しているらしい。
……しかし発言内容で誰が『主犯』なのかは明らかであるが。


ホ、ホントに死ぬところだったんだけど……!!


ぜぇぜぇと荒い息を落ち着かせながらも、アリィンは段々と怒りが隠せなくなっている。
しかし縄でぐるぐる巻きにされたコムイは諦めようとせず、大砲を伝って泣きながらコムリンに近づく。

「コムリン………アレンくんの対アクマ武器が損傷してるんだって。治してあげなさい」
「え゛!?」

その言葉通り、コムリンはアレンへと向き直った。

「優先順位設定!アレン・ウォーカー重傷ニヨリ最優先ニ処置スベシ!!」
「わっ!!」
「アレン!」
「アレンくん!」

コムリンから伸びた細い腕がアレンの足を掴み、一気に引き寄せる。
アレンは引きずられながら泣き叫ぶ。

「アレンを手術室へ連行ーーー!!」
「ぎゃああああ何あの入口!!!」
「さあコムリンがエサに食い付いてるスキにリナリーをこっちへ!!」
「あんたどこまで鬼畜なんだ!!!」
「コムイ!!アレンくんを身代わりにする気!?」

リーバーとアリィンが怒り心頭でいても、コムイはどこふく風。

「リナリーちゃんが大切なのわかるけどやり過ぎだってば!!」
アリィン!リナリーを早くこっちに!」

そうこうしているウチにアレンはどんどん引きずられ、『手術中』と書かれたドアがゆっくりと開いていく。
奥に何があったかわからないが、アレンは青い顔でイノセンスを発動させた。

……しかし、コムイが放った吹き矢がアレンの首に見事に命中した。

「ふにゅら……?……しびれるるぅぅ~……」
「アレンーーー!」
「アレンくんーーー!」

そしてアレンは弱々しく倒れ込んだ。

「室長ぉーーーーっ!!!」
「コムイーーーーーっ!!!」

極悪非道なコムイに、2人の罵声がぴったりハモる。


何て事するのーーーーー!!!


抵抗する事もできず、アレンは終にヘブンズドアまで到達する。

アリィンさん、リナリーを見ていてください!」
「え、ええ……わかった!」
「リ、リーバーしゃん……リナリーをちゅれて逃げてくらしゃい……」

微かに残った力でアレンはそう呟く。
リーバーは最後の最後でアレンの団服の端っこを掴んだが、無情にもアレンは扉の向こうに消えた。

「アレンーーーーー!!!」


一方ターゲットを無事収容したコムリンは、初期の目的に戻る。

「エクソシスト、リナリー・リー………手術シマス」
「キャアアアアア!!リナリー!!ボクのリナリー!!」

非道な策略を駆使するも、どれも失敗に終わってコムイは悲鳴を上げる。
だけど麻酔を打たれているらしいリナリーは一向に目を覚まさない。

「しょうがない……コムリン!エクソシストはこっちにもいるわよ!」

アリィンはリナリーの前に立ち塞がり、両手を広げてコムリンのレンズを見上げる。

アリィンファルーシュ……エクソシスト一名発見……マッチョにすべし!!」
「そう簡単にやられないわよ!」

アリィンは棍を振り回し、どこからともなく伸びてくる細い手をやり過ごしていた。
だけど何故かコムリンの戦闘能力は並ではなかった。

「きゃあっ!」
アリィンーー!!」

細い手にグルグル巻きにされ身動きが取れなくなるアリィン

アリィンファルーシュ……エクソシスト捕獲…」
「……っ!!」

身の危険を感じてアリィンはイノセンスを発動させようとするが、そこでコムリンの様子がおかしい事に気がついた。

「……アリィン……アリィン……」
「………??」

動きが鈍って拘束する力を弱くなり、ただアリィンの名を連呼するだけのコムリン。

「………!」

コムイだけがその理由を理解した。



「し、室長、あれ!大砲の先……」

指さした先には、フラフラしながら立っているリナリーの姿が。


目が覚めたんだリナリーちゃん!!


「リナリー!!」
「アレンくんの声が聞こえた……帰ってきてるの……?」

そしてリナリーのオーバーニーが変容し、一瞬でブーツのような形になる。
目にも止まらぬ速さでコムリンの捕獲攻撃を避け、舞うようにコムリンのボディーを蹴り上げる。

「あれがリナリーちゃんの対アクマ武器、『黒い靴』……」

アリィンは千切れて動かなくなった手から逃れ、リナリーの舞いに見惚れていた。
周りからも、ブッ壊せ~♪なんて大合唱が聞こえる。


綺麗だな……


アリィンは素直にそう思った。

高く跳び上がって旋回したリナリーは勢いよく蹴り落とし、コムリンは真っ二つに分かれた。
そこで包帯グルグル巻きにされたアレン(とティムキャンピー)が助け出される。


もう勝ったも同然……と思いきや。


「待つんだリナリー!」

コムイは半分になったコムリンを必死で庇う。

「コムリンは悪くない!悪いのはコーヒーだよ!!」

罪を憎んで人を憎まず、コーヒーを憎んでコムリンを憎まずだ、なんてヤケにキラキラした瞳で訴えかける。
……しかし、もうそれで引き下がるようなリナリー&被害者一同ではなかった。

「兄さん……ちょっと反省してきて」


ドゴォ!!


妹に蹴り落とされ、コムイとコムリンは仲良く爆発した。














「フガ……フガフガフガフガ!」

極悪非道でもとりあえず室長なのでコムイは治療を受け、グラついたソファーに寝かされていた。
……全身ミイラのような包帯に、誰も看病する人などいなかったが。

「ホ……ホムヒン……(コ……コムリン……)」

ぐずぐずと鼻をすするコムイ。


……ふと、視界が暗くなった。

「……もう……何やってるのよ……」

アリィンの顔が逆さまで現れた。


……アリィン……


アリィンはソファーの横に回り、同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。

「全く、城内メチャクチャよ……?」
「フ……フガフガフガフガ……!」
「……口の回りの包帯ぐらい取ってよ」
「……コ……コムリンは悪くないんだ……っ!」
「はいはい、それはわかったから」

アリィンが溜息をつくと、コムイは起きあがってソファーに座るような体勢をとる。

「みんなは?」
「城内の修理中。ジェリーさん達も手伝ってくれてるのよ」
「………………」


コムイはいつになくシュンと肩を落とした。


「……みんなの責務を和らげてあげたかったんだよね?」

顔を上げると、アリィンは柔らかく微笑んでいた。

「コムイらしいね」


しょうがないな、とでも言いたそうな顔でアリィンは理解してくれている。


「でもリナリーちゃんが大切なのわかるけど、アレンくんを身代わりにした事は反省点」
「……ああ」
「それから、コーヒーあげる事も禁止」
「……ああ……」


どうしてそれだけでこんなに嬉しいのだろうか。


「……ごめん、アリィン……」
「何言ってるのよ、コムイが開発とかしなくなったらそれこそコムイらしくないし」

アリィンは立ち上がって、近くのテーブルに置いてあったトレイをコムイの前に差し出す。

「は夜食。どうせコーヒーしか飲んでないんでしょ?」
「………ああ……」
「じゃあ私はみんなの手伝いしてくるから。コムイはヘブラスカの所行くんでしょ?」
「……アレンくんの目が覚めたらね」

軽く返事をしてコムイにトレイを渡し、アリィンはボロボロのドアを開けた。


アリィン
「何?」
「……ありがとう……ごめん……」


……ホント、弱いよなぁこの顔に………だから許しちゃうんだろうな……


「どっちが言いたいのよ」

言葉とは裏腹にアリィンは嬉しそうに微笑んでいた。



一人残されたコムイは、目の前の温かい料理を口に運んだ。


「……美味い……」


それは昔、何度も味わったアリィンの得意料理だった。











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原作沿いなのでやはりスピードアップ。
コムリンが何故ヒロインを見て動きが鈍くなったのか………
頭脳と人格が完璧にコピーされてるならそりゃねぇ~(笑)

しかしここから原作とは大きく違ってきます。
なにせ神田が帰ってきますから(笑)