――私はどうして軍人になったのだろう、最近はそればかりを考えていた。
16・望み望まれた檻の中
「……隊長?リュシア隊長?」
「、…ごめん、何ヤクモ?」
「何、じゃありません。ずっと手が止まっています」
手元を見下ろせばさっきから一向に進んでいない報告書があった。
アッシュも同じように笑っているので、痺れを切らせたヤクモが話しかけたらしい。
「最近、上の空ですね隊長」
「……ごめん、少し考え事してて」
「いいですけどね、ここには俺達しかいないし。ディックとモーリーだっていない」
「考え事も構いませんが……心配になる程だったので」
「…………」
リュシアは頭を抱えた、何せ脳を占めていたのは全く隊務とは関係のない事だったから。
もしかしなくても恋煩いだと、腑抜けになっている自分に思わず舌打ちした。
気を抜けば鮮明に浮かぶのは、バサラに抱き締められた感覚と、彼の涙。
―――「何の為に戦っているのか……わからなくなっちゃった」
はっきりと思い出せないが、バサラが船団に戻って来た後の頃だろう。
心が重いと感じるようになって、堪えきれなくて彼にそう吐き出した時があった。
ずっとパイロットが憧れで、がむしゃらに訓練して今の場所をもぎ取った事も。
あの頃の自分にはそれしかなかったのだろう、だから今でも軍人をやっている。
だけど、何故私は此処にいるのだろう、それすらもわからなくなっていた。
だからといって軍を辞めたとして何が自分に残るというのだろう、それを抜いたらきっと何もない。
空っぽでどうしようもない自分……結局、何も踏み出せない。
打ち明けたらバサラは、どうという事もない顔であっさりと言い放った。
「辞めたいんなら辞めればいいじゃねぇか」
彼ならそう言うと思った、そういう人なのだ。
だけど次に笑いながら告げた言葉に、リュシアは放心する事になった。
「でも、飛んでるお前も悪くないぜ。お前の飛び方にはハートを感じるからな」
無性に嬉しかったのを覚えている。
私が飛び続けている事にも、もしかして意味があるのかもしれないと、そう思わせてくれた―――
「ま、でもガムリンも戻ってきたみたいだし、隊長の仕事も少しは減るんですよね?」
「……多少はね」
またしても意識が飛んでいたと、リュシアは軽く頭を振った。
「全く……あいつにも隊長の苦労を少しでもわかって欲しいよ」
「アッシュ、そういう事を言うものじゃない。
ですが確かに、5機から3機編成に戻るのは俺も安気です」
「……そうだね」
5機編成の指揮など今まで経験もなく、それが疲労度を加速させていたのは事実。
上層部には評価されたが、正直な所もうやりたくない。
3人が疲れを共有していると、ようやく市長室から戻ってきたガムリンと、
彼を迎えに行ったディックとモーリーが姿を見せた。
「おかえり、ガムリン」
「勝手を言って申し訳ありませんでした、リュシア大尉」
久しぶりにダイアモンドフォースの制服に身を包み、正式な敬礼でリュシアの前に立った。
生真面目さは変わらないが、新たな決意を抱いているような強い眼差しだった。
軍隊しか知らなかった男が外の世界をその目で見て、
FIRE BOMBERと時間を共有した事が結果良い方向へと繋がったに違いない。
「市長から聞きました。その……色々と便宜を図っていただいたそうで、ご迷惑をおかけしました」
「さあ、貴方は休暇に行っていたのでしょう?私は何もしていないよ」
「……ありがとうございます、大尉」
「収穫はあった?」
「ええ……まだ軍のやり方に疑問は感じますが……自分は何処にいても、やはり軍人でした」
「そう」
肩の荷が下りたとリュシアは思った。
ふ、と微笑むと軍人らしい目付きでガムリンを見据えた。
「ダイアモンドフォースの隊長は貴方よ、ガムリン」
「はい!これからもマクロス7を守る為、邁進していく所存です!」
(……そして、私も考えなくてはいけない……)
「ガムリンが帰ってきたのなら……ダイアモンドフォースを守るという私の役目は済んだ事になる」
「……隊長?」
物思いに耽っていた事を知っているアッシュとヤクモは少しだけ悲しそうな顔をして。
意味のわからないガムリンはその不穏な言葉に首を傾げるしかできなかった。
バサラの危機、それを救ったのは光の球体だった。
「シ、ビル……?」
今回、元々はプロトデビルンを生きたまま捕獲しようという作戦だった。
襲いかかるプロトデビルンを誘き寄せ周囲に回り込み、
FIRE BOMBERであるサウンドフォースの各バルキリーから歌エネルギービームを発し、
結界を作り封じ込めるという、バサラを不機嫌にさせるような内容であったが。
一度は捕らえたのだが、もう一体のプロトデビルンがそれと融合し力を増した事で、
結界は破られてしまい作戦は失敗に終わった。
劣勢に変わった状況で、逆に捕らえられてしまったのはバサラだった。
歌を聞かせ続けてもびくともせず、放たれる攻撃の圧倒的な熱量に襲われたその時に。
現れた姿はまさしく、バサラが目覚めさせ、ギギルが守った女型のプロトデビルン。
彼女はバサラの前に立ち、味方であるはずのプロトデビルンの攻撃を防いだのだ。
そして甲高い咆哮と全身でバリアを張り続け、敵を退却させてしまった。
信じられない光景だった。
いや信じてはいたけど、まさか本当にこんな事が起こるとは思ってもいなかった。
リュシアはバルキリーの操縦桿を握り締めながらも震えを感じていた。
恐怖ではない、彼の歌はちゃんとシビルに届いていたのだというある種の感動からだ。
「シビルが、バサラを守った……」
彼女は力尽きたようにその場で意識を失った。
それをバサラがコクピットから宇宙空間へ飛び出して抱き止める。
何を喋っているかはわからないが、揺り動かされたシビルは目を開ける。
虚ろな表情のままフラフラとバサラに顔を近づけ、そして僅かな光が浮かんだ。
「?……、バサラ!」
だがそれは何度も目の当たりにした、敵が人間から生体エネルギーを引き抜く時の光だった。
バサラを持って行かれる、そんな恐怖に叫んだと同時、シビルがバサラを解放して。
手当たり次第に周囲のパイロットの生体エネルギーを吸い、また宇宙の彼方へ消えていった。
そのシビルの行動と浮かべた表情は、ちぐはぐでとても印象的だった。
エネルギーを吸われ脱力したバサラを離す瞬間、我に返ったように驚愕に目を見開いていた。
飛んで行ってしまう直前にも、シビルは悲しそうな顔でバサラを振り返っていた。
――バ、 サ ラ
あの時、彼女の声が聞こえた気がした。
(どういう事……?バサラのは、吸いたくなかったって事?)
吸いたくて吸ったんじゃないと、言っているようだった。
ごめんと、謝っているようにも見えた。
襲われたパイロット達は生気を抜かれ戦闘不能状態、バサラは体をふらつかせる程度に終わった。
あのシビルが、歌によって変わったのかもしれない、そう思わざるを得なかった。
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タイトル配布元――ジャベリン
描写したい所だけ書いてるので、展開早いです。