「バサラ、援護するから好きなだけ歌って!」
「ああ、ハートを響かせてやるぜ!」

ついに開始されたオペレーション・スターゲイザー。

再編成された小隊達で、とにかく敵の本拠地の中心を目指す。
激しい迎撃とプロトデビルンに阻まれて、味方機は次々と墜落していく。

誰か1人が辿り着いて反応弾を撃ち込めればいい、そんな無謀な作戦だったがそれしか方法はない。
リュシアは味方が散っていく炎を奥歯を噛み締めながら振り切って、目的地へと全速力で飛んだ。

それからサウンドフォースを守りたいというガムリンとリュシアの強い希望により、
突撃部隊から少し高度を上げ、最も熾烈な状況下でバサラ達の進路を作る。
2人だけで守りきるつもりだったのだが、それぞれの小隊員達までも賛同して付いてきてしまい、
ダイアモンドフォース全隊がFIRE BOMBERを護衛するような形になっていた。

全ては、バサラの歌を聴かせる為。

不確かな可能性に賭けていられるほど悠長な状況ではないが、それでも信じてみたかった。
駄目だと言い聞かせられていたのに、此処まで付いてきてしまったミレーヌの思いも含めて、
せめて彼らを、プロトデビルン達の所まで送り届けてあげたかった。

ガムリンの第1小隊と平行して飛び、互いの願いを確かめ合うように頷いた。

バサラ達を守る為ならこの身を盾にしてもいいと思っていた。
彼はそういうの嫌がるだろうけど、自分達の未来を託してでも、歌い続けて欲しかった。


――そう……覚悟はできていた、はずなのに。


「ガムリンーー!!!」

垣間見えた、一際大きな爆炎に全身が凍り付いた。

モニターから識別信号が消えた事の意味を、わかりすぎるくらいよく知っていた。
そんなはずないと信じられなくても、それで帰ってきた人はいない。

通信から聞こえる、彼の名を呼び続けるミレーヌの悲痛な叫び。
バルキリーであった残骸だけを残し、一瞬にして散っていく命。

なんて、あまりにも儚くて、こんなに悔しいのだろう。

「く……っ、怯むな!各機、目標地点を目指せ!」

それは恐らく自分に言い聞かせた言葉。
こうしている間にも、どんどん仲間達が消えていく。
ドッカー率いるエメラルドフォースも既に彼しかいない、味方戦力は全滅寸前だった。

だから進むしかないのだ、どんなに叫び出したくとも。

だが、やっとの事で撃ち込んだ反応弾を逆手に取られ、
惑星から離脱し帰還しようとしていた目の前で旗艦スターゲイザーが塵となって消滅した。

リュシア達は還る場所すらも失った。






18・僕らは何度だって終わりをむかえる






「ガムリンさんは……私達を歌わせる為に、死んだの……っ」

泣きながら絞り出されたミレーヌの言葉に、リュシアは人知れず拳を強く握り締めた。

たとえその過程で死が待っていたのだとしても、ガムリンは本望だったと思う。
歌い続けて欲しい、ただそれだけだったのだと、同じ気持ちを共有したリュシアはわかっていた。

この身を削ぐような痛みと悲しみは、きっとミレーヌも感じているのだろうけど。

「もう、終わりか……」と絶望を呟いたドッカーを叱責するマックスの隣で、リュシアは雑念を振り払うように顔を上げた。

旗艦を失い、降伏せざるを得なかったリュシア達生き残りは、殺される事なく此処に監禁された。
元々人間の生体エネルギーを欲していたプロトデビルンだ、養分代わりの家畜にするつもりだろう。
しかし此処で終わるつもりは一切ない、どうにかして抜け出さなくてはならない。

だが、バルキリーから降りた自分達はあまりにも非力だ。
脱出できるかもしれない唯一の希望は、もう歌しかないとリュシアは思った。

「……艦長。歌を聴かせられれば敵を怯ませる事ができるのではないでしょうか。
上手くいけば、操られている兵達も一緒に脱出できるかもしれません」
「ああ、私も考えていた所だ」

プロトデビルン以外の兵士は皆マインドコントロールで操られているだけの者達。
バサラの歌で洗脳が解けると実証されている事から、不可能ではない策だろう。

「で、ですが熱気バサラは別に捕えられ、首に付けられた装置で声も出せなくなっています!」

ガムリンの部下であるモーリーが不安そうな声を上げた。
マックスはそれも見越しているようで静かに頷く。

「まずはこの部屋の鍵と、そしてバサラに付けられた装置を外す方法を探す。
その後バサラに思いっきり歌わせる事ができれば、勝算はあるだろうな」

しばらく口を閉ざし、そして顔を上げた視線の先にはミレーヌがいた。
マックスはこの時ばかりは父として、塞ぎ込んで俯いている娘に向き合った。

諭すような言葉を聞く度にミレーヌからはポロポロと大粒の涙が溢れる。

「ガムリンは戦った、命を賭けて。彼が一体何の為に戦い続けたのか、わかるはずだ」
「………っ」

泣きながら、何度も頷いて。
それを遠巻きに見ていたリュシアだったが、目を閉じて静かに自分に語りかける。

(ガムリン……覚悟を決めなきゃね、私も……っ)

「では作戦を伝える。まずミレーヌに歌ってもらい、
敵の警戒が緩んでいる隙にグババに基地のメインルームに忍び込んでもらう」

鍵を奪取して再びメインルームに突入する者、バサラの居場所を突き止める者、
装置を解除する方法を探る者、少数ながら役割を割り振られていく。

リュシア達第2小隊は脱出ルートの確保にあたれ。歌が届けば戦力が弱まるだろうが、
それまではかなり激しい戦いになると予想できる」

小隊メンバーが3人とも生存しているのはリュシア達以外にはいない。
激戦区である程、より連携がとれている小隊が望ましいと判断したのだろう。

「了解しました。艦長達が来るまで死守しています」

リュシアはかつてない程決意を込めた目で頷いた。


――ミレーヌの歌は、泣きたくなる程切なかった。











「く……っ、次から次へと!」

バルキリーが保管されている格納庫へのルートへは、異常を嗅ぎつけて兵達が集まってきていた。
だが彼らは同じ統合軍のマークを付けた軍人達、殺す訳にはいかないせいで思うように戦えない。

「白兵戦は苦手なんですけどね……!」
「つべこべ言うなアッシュ!」

ヤクモが声を荒げながら兵から奪ったレーザーライフルで応戦する。
銃が死ぬほどの威力ではない事を確認した上で1人ずつ無力化していく。
至近距離まで迫れば物理的に気絶させた。

「もう少しでバサラが来る!」

焦りを滲ませる小隊員を奮い立たせるようにリュシアは叫んだ。
じきに役目を終えたドッカー達もルート確保の為に合流する、そうすれば優勢になるだろう。
押される訳にはいかなかった。

「でも、戦ってるのが、元は味方ばかりなんて……皮肉ですね!」

周囲を確認しながら通路を走り抜け、次の角で再び銃撃戦が始まる。
リュシアは撃ち続けた、味方すら撃って活路を開かなければ自分達は生き残れない。

「本当に…そうだね……っ」

だが一人の兵の向けた照準がアッシュを狙い、レーザーを放った。

「あ゛…っ!!」
「アッシュ!」

声にならない苦悶を漏らしてアッシュはその場に倒れた。
銃の嵐をすり抜けてヤクモが頬を何度も叩くと、アッシュは微かに意識を取り戻す。

「す…い、ません……ドジっ……て…」
「いいから大人しくしていろ」
「……た……い、ちょう…」

ヤクモの制止も振り切ってアッシュは引き攣った顔で口角を持ち上げる。
いつものマイペースで暢気な彼の得意の表情で、それがリュシアに恐怖を呼び起こした。

「おれは、置いて……さきに……」
「馬鹿!!」

撃ち合いながらリュシアは叫んだ。
瞳が潤んでしまう程、体が怒りに震えていた。

その怒りは、自分にだ。

「もう誰も死なせたりしない!これ以上仲間を亡くすものか!
戦って戦って生き抜かなきゃ何の意味もないんだよ!!」


――何の為に戦っているのかわからなくなっていた。
戦いは何も生まないと、戦わなくてもいい方法があるのかもしれないと。


「死んだら……もう二度と歌なんか聴けないんだから!!」


――それでも戦わなければ、大事な人達は死んでいくばかりだから。


「ヤクモ、アッシュを背負える!?」
「ええ、もちろん!」
「なら突入するよ!そのまま援護して!」
「な……っ」

ヤクモの援護射撃の隣から、リュシアは近くに落ちていたライフルを拾うと兵達に投げ付けた。
1人の兵がよろけた隙に、手にしていた銃でヘルメット越しに殴り、とどめとばかりに蹴り上げる。
勢いを殺さないまま走り抜け、武器だけを叩き落とし気絶させていく。

「ぐっ!!」

倒れきらなかった男の拳がリュシアの顎に入る。
ライフルを向けられたがレーザーを発射される事なく、腕を殴り付ける凶器に変わった。

「ぅあ……!!」

衝撃で壁まで吹き飛ばされ、リュシアは思わず顔を歪めた。
左腕の骨が折れた感覚が電流となって襲いかかる。
なおも振りかぶってくる男を最後に仕留めたのはヤクモの放った銃だった。

「隊長!!貴女は死ぬつもりですか!?」
「……そんなつもりは」
「あるでしょう!どうして一人で抱え込んで無茶するんですか!?」
「…………」

こんなにも怒りを露わにするヤクモを見たのは初めてだった。
噛み付くような勢いで迫ってくる部下に、リュシアは思わず放心して見上げた。

「貴女にはまだ俺がいるでしょう!!俺を見くびらないで下さい!」
「……、……ごめん」

アッシュを背負いながら、差し伸べてきた手にリュシアは素直に支えられた。
未だ吃驚して目を彷徨わせていると、同じくポカンとした顔のアッシュと目が合った。

「3人で第2小隊です。アッシュも、諦めようとするな」
「……お、おう」

静かになった空間でリュシアは綻んだように微笑んだ。
何だか安心したのだ、自分にはまだ支えてくれる仲間がいたから。

しばらくするとドッカー達の姿が見えた。

リュシア大尉、そっちは!?」
「ようやく沈静化させたよ」
「………」

ドッカーはおろか、ディックとモーリー達も固まった。
冷徹で部下にも厳しい彼女が、あんなにも柔らかく笑っていたからだ。

心配になってしまうほど、嬉しそうに。

「……な、何かあったん…ですか?」
「いいえ、何にも」
「「「…………」」」

気を取り直して格納庫への道を確保すると、遠くから歌が聞こえた。
バサラの救助が成功した事、さらに本隊が来た事を意味していた。

バサラの歌い声に、リュシアは感動を隠せなかった。
また彼に生きて会えるのだと、ささやかな幸せが胸に満ちて。

「……お前……っ」
「よかった、バサラ」

バサラが目にしたリュシアは満身創痍だった。
血が滲む唇には殴られた跡が痛々しく残り、垂らしたままの左腕は折れているのだと容易に想像できた。

それなのにリュシアは"よかった"と喜ぶばかりで、気に入らなかった。

「……よくねえよ、お前……」











Back Top Next

タイトル配布元――ジャベリン


ここもいろんな場面を割愛。