敵の戦艦を奪取し、マックスを始めとする隊員達は本拠地から何とか抜け出す事に成功した。
その途中でガムリンが生きていた事もわかり、皆で合流の喜びを分かち合った。

後方に残していたシティ7に戻れたものの、状況は全く良くなっていない。
再び作戦遂行の為に体勢を立て直し、また遠くない未来に出撃の命が下るだろう。

その上層部の決定を待っている間だけでも、隊員達は極度の緊張から解放された。


だが、受けた傷は非常に大きかった―――






19・ミッドナイト・プラットホーム






「アッシュ、調子はどう?」

医務室に運び込まれていた彼は、相変わらず小隊のムードメーカーぶりを発揮するように呑気に帰ってきた。
レーザーライフルによって体に機能障害が残る事なく、元気な姿で退院した。

「もう全快ですよ、隊務に支障がないほどには」
「まだ戦闘には出られないがな」
「……それは私も、だしね」

すかさず突っ込むヤクモにリュシアも苦笑していた。
見下ろす自身の左腕は、未だ固定されたままだ。

「隊長の怪我はまだなんですよね?」
「あと数回治療すれば完治だから、そんなに時間はかからないよ」
「それは良かったです。じゃあ俺もそれまでに鍛えておきますか」
「アッシュのはリハビリだと思うが」
「……言うね、ヤクモ」

2人の睨み合いが何だか懐かしくて、リュシアは頬を緩ませた。

自分達"レッドダイアモンド"は誰も欠ける事なく、ずっとこの3人でやってきた。
バルキリーは基本3機編成、この3人が一番近しい存在となってもう随分経つ。

エリートらしからぬマイペースなアッシュ、そして口数が少ないが真面目で時には激情もするヤクモ。
この3人でいられる今はとても幸せなのだと、リュシアは胸にじくりと熱を感じた。


これまでの戦闘でたくさんの仲間達が散っていった。
ダイアモンドフォースの第1小隊も例外ではなく、フィジカに始まり金竜までも。
絶望的だと思っていたガムリンが無事生還できたおかげで多少は明るい雰囲気だったが、
それ以外の小隊の部屋は見られた者ではなかった。

隊は違えど親しかった人達、彼ら全員の顔が鮮明に甦ってくる。
それは気丈にあろうとするリュシアにじくじくと蝕む痛みに変容した。

(もうどんなに頑張っても、元通りには戻らない……)

彼らに報いる為にもプロトデビルンとの戦争を終わらせ、市民達を生き残らせなくてはならない。
そう強く思うのに、その決意が逆に自分自身に重くのしかかっている事も自覚していた。

(それでも、守らないと……それが私に課せられた役目だから)

重りに沈んでいる場合じゃない、プレッシャーに負けている時間などない。
リュシアが自身の弱さを振り切っていると、ふいにアッシュが指さした。

「で、それは何なんですか隊長」
「え……ああ、これ?」

Dフォースの部屋の隅に取り付けられたスピーカーからはFIRE BOMBERの楽曲が流れ続けている。
軍隊とはおおよそかけ離れた環境だとアッシュは首を傾げた。

「千葉大尉がサウンド療法の一環だから流し続けろってね。
歌で肉体の回復が早まるかどうかの実験をしているらしい」
「へぇ~そうなんですか」

どうりで隊長の雰囲気が柔らかいわけだ、そう呟いた声はヤクモにしか聞こえなかった。

「けどホントに凄いですね、彼は。プロトデビルンにすら通用するなんて」
「……そうだね」


――オペレーション・スターゲイザー時に敵の惑星で見つけたのは、捕らわれていたマクロス5船団の市民達だった。

意識もなく封じ込められていた市民達に歌を聴かせて回復させたものの、
プロトデビルンの装置によってみるみる彼らの生体エネルギーが奪われていくのをリュシア達は目の当たりにした。
そのように永遠にエネルギーを吸い続けるのが敵の目的、誰もが歯がゆい思いだった。

結局プロトデビルンに阻まれて市民を救い出す事もできず、逃げ帰る事で精一杯だった。

(歌が届いたと思ったのにね、バサラ……)

あの後からずっと遠くばかり見ていたバサラの悔しさが伝わってきて、リュシアもまた切ない気持ちに襲われた――


この空間に流れているFIRE BOMBERの歌も、今日は何処か寂しい音に聞こえた。
心を溶かすような曲が流れている中、部屋に入ってきたガムリンがそこに立ち尽くしている。

「ガムリンじゃないか、どうしたんだよ」
「……、アッシュ!」

何も言わずに立っているガムリンにアッシュが近づこうとするが、止めたのはリュシアだった。
何かがおかしい、明らかにいつものガムリンではない。
そもそも彼はリュシアがいる部屋に無断で入る人間ではないのだ。

警戒心の強いヤクモも異変を感じ取ったようで身構える。
仲間に対する目ではない事は一目瞭然だった。

「……貴方、ガムリンではないね?」
「高潔美!」
「っ……!」
「隊長!」

ガムリンは妖しい目を浮かべたままリュシアに迫っていく。
咄嗟に手刀を当ててやろうと身構えた時、彼は苦しむように頭を押さえだした。

「ア、アニマスピリチア!」

(!……バサラの歌か!)

スピーカーの音量を上げるとガムリンはますます悶絶し、耐えきれなくなったのか部屋から逃走した。
あれはガムリンではない、操られているか、もしくは何かが彼に憑依しているのだろうか。

報告と指示を仰ぐ為に、リュシア達は慌てて市長室へ通信を繋いだ。
だが時既に遅く、ミリアも、そしてダイアモンドフォース第1小隊のメンバーも皆生気が抜かれていた後だった。











戦闘を終え、収容されたガムリンに駆け寄ってきたバサラ達にリュシアが声をかけても、
どうしてかバサラだけは良い反応をしなかった。
出撃許可が下りない第2小隊は待機を命じられたが、心配だからとこうやって格納庫で待っていたというのに。

「よかった、ガムリン……」

医療班がプロトデビルンの抜けたガムリンの体を調べている間も、バサラの咎めるような目はリュシアに向いていた。

「お前は自分の心配してろよ」
「え……怪我の事?これでもそんなに酷くないよ?」

固定された左の掌を開閉させてみてもバサラの機嫌は良くならなかった。
どうして不機嫌になる必要があるのか、リュシアは小声で拗ねた。
背後にはアッシュとヤクモもいる、だからあまりくだけた口調は聞かれないように。

「……この程度で済んだんだからよかったじゃない」
「よくねぇ、気持ちが大事なんだよ」

確かにあの時は部下を生き残らせる為なら、少しぐらい体が壊れても構わないと思っていた。
それではダメだと言いたいらしいが。

(……何よ、自分だって歌の為なら命も顧みないくせに)

「お前ならそんなくだらねぇ怪我負わなくても脱出できただろ」
「ぅ……そう言われると、そうかもしれない……」

痛いところを突かれてリュシアは返す言葉をなくした。
ヤクモにも指摘された事だったけど、まさか彼にもとは。
何故わかるのだろう、彼には何でもお見通しなんだと降参するしかない。

リュシア、お前のハートはそんなもんじゃねぇだろ?」

自分のハート、自分の想いは、今どんな色をしているのだろう。
一体自分は何を望んでいるのだろうか。

(バサラには私の"思い"がわかってるのかな……?)

「……そう、だと思う?」
「何だよ、まだわからねぇのか?」
「ううん、何となくわかる。ごめん……ありがと」
「わかりゃいいんだよ」

バサラはふっと顔を緩めるとリュシアの頭を撫でた。
指摘された箇所はもっともな話だったし、許されるような手は温かくて嬉しかった、のだが。

(……私、そんなに子供じゃない)

ミレーヌもいる前で、その行為は気に入らなかった。

しばらくすると診察をしていたドクター千葉は笑いながら立ち上がった。

「静かなもんだ」
「あの……大丈夫なんですか?」
「今、大尉の体はミレーヌの歌エネルギーが充満している。気持ちよく気を失ってるって事さ」

ミレーヌが一人で宇宙空間を飛び出してガムリンに歌を聴かせた事により、憑依していたプロトデビルンは逃げていった。
それは敵を殲滅させるチャンスも失った事になったが、最終手段であった反応弾でミレーヌとガムリン諸共爆破されずに済んだ。

「ミレーヌの思いがガムリンに通じたって事さ、歌に乗っかってな」

レイの言っている意味がわからないらしく、ミレーヌはキョトンと何度も目を瞬かせた。
彼女の歌には、ガムリンに対する確かな感情が乗っていた。
バサラでは防がれてしまったのに、彼女の歌で撃退できたのはそれがあったからだろう。

「へっ、わかってねえな」
「何がよ?」
「何でもねぇよ」

からかいながら帰って行くバサラをミレーヌは追いかける。

「何よ~?ねえ、何がわかってないのよ?」
「知らねぇよ」
「酷い、自分で言い出しておいて!」
「何にも言ってねえよ」
「言ったじゃない!ねえ教えてよ、何がわかってないのか!」

並ぶバサラとミレーヌの背中は、リュシアにとってはあまり見たくないものだった。
衝突して喧嘩ばかりして、だけど彼らは同じ歌い手として心の奥でわかり合っている気がした。

2人にしか共有できないもの、その世界にはリュシアは到底入れない。
信頼と絆、そして歌……どれも勝てるはずがないのだ。

ミレーヌは恋愛感情かどうかは置いておいても、彼を好いているのだろう。
ならばバサラはどうなのだろう、彼の心はどこにあるというのか。

(……やめよう……惨めになるだけだ)

諦めにも似た感情が、浮かんで消えた。











Back Top Next

タイトル配布元――ジャベリン