初めての戦闘だった。

未知の機体がマクロス7を襲い仲間達が次々に倒されていく中、ダイアモンドフォースは初陣を迎えた。
だがこれは訓練ではなく、"敵"と認識できるものとの本物の戦闘。
正体不明な攻撃にパイロット達は困惑し、またある者は魂でも抜かれたかのように植物状態に陥った。

そんな時、現れた一機の赤いバルキリーから流れたのは、場違いな歌―――






3・ひずんで沈んだ憂鬱






起こらなければいい、そう思っていた戦争が目の前に突きつけられ。
予期せぬ脅威にいとも簡単に仲間達は傷ついていく。

「くそ、何なんだあいつは!」

ガムリンは憎らしそうに壁を殴りつけた。

「落ち着きなさいガムリン。上層部が彼の事を調べているはずよ。今貴方がするべき事は違うでしょう?」
「ですが大尉……あいつの行動は我々軍人を侮辱しています!」
「ガムリン」

リュシアの鋭い目で睨み付けられ、ガムリンはぐっと言葉を詰まらせた。

「貴方の言いたい事はわかる。だけど私達の任務は違う。それ以上何か言うのなら士気に関わる」
「……はい、申し訳ありません」
「わかったなら、貴方はドッカーの見舞いにでも行ってきなさい」

ガムリンの返事も聞かず、荒い足取りでその場を去った。
動揺も確かにあったが、それ以上に苛立ちが隠せなかった。

(ドッカーをああしたのは、私だ……っ)

突如現れた未知の敵が放つビームのような光線を避けさせる為に、ガムリンに回避するよう叫んだ。
ガムリンは無事だったが、結果的にドッカーにその光線を浴びせる事になってしまった。
もっと他に良い方法が、違う対処の仕方があったはずなのに。

「お前の責任じゃない」
「……金竜隊長」

曲がり角から現れた金竜は内心を見透かすようにリュシアの肩に手を乗せた。

「どうせお前の事だから、ドッカーが撃たれたのは自分のせいだと思ってるだろう」
「そう、思いますから」
「気負いすぎだリュシア、それでは戦争を生き抜けられんぞ」
「……はい」

リュシアは苦虫を噛みつぶした表情で拳を握りしめていた。

「それと、ドッカーの状態なんだがな」
「どうなんですか?」
「これまたよくわからないが、生気が失われているそうだ」
「生気?」
「怪我はないが意識はなく、生命維持に支障をきたす程に体が衰弱しているそうだ。
あの攻撃を受けた兵は皆同じ症状だ」
「そんな……」

あの光線は人間の生気を奪いとるようなものなのだろうか。
一体何の為にかはわかるはずもない。

「それと……作戦中に紛れ込んだ赤いバルキリーの事だが、構わず俺達は与えられた命令を遂行せよ、とのお達しだ」
「………了解しました」

自分達は気にするな、上層部はそう言いたいのだろう。

「初出撃だったがよくやった。今は体を休めろ」
「はい、ありがとうございます」

最後に軽くポンと肩を叩かれてリュシアは自室に戻った。
予期せぬ戦争の為に訓練をしてきたリュシアだったが、敵というものと対峙したのは初めてだった。
エースパイロットと言われてきた自分にとって抜かりはなかった、
自分は小隊を指揮できていたし確実に敵を仕留めていたはずだ。


――あの歌が聞こえるまでは。


(あの赤いバルキリーは、バサラのアパートの外にあったものだ……)

本当にバサラなのか?何故バサラがあんな所にいたのか?
そんな疑問ばかりが浮かぶ一方で、赤いバルキリーは歌いながら攻撃を回避してみせた。

軍用の通信回線にも無理矢理割り込んで、耳から脳を刺激するのはバサラの声。
自分を自分でなくしてしまうバサラの歌、これを聞くと無条件で解放させてしまうもの。
それが、油断が命取りになる戦闘中に。

らしくないとまでアッシュに諭されて、初めて自分の集中力が途切れている事に気付いた。
部下もいる、あんな所で"ただのリュシア"に戻る訳にはいかなかったのに。

敵機が全て撤退した後も、彼はずっと歌っていた。

「……バサラ……」

戦争が始まってしまったのだからしばらくは非番などないだろう。
彼の真意を知りたくても今はどうしようもない。

バサラの目的はわからない。だけどあの歌は駄目だ。


あれは、リュシアを弱くする。
















戦時中なのに、いや戦時中だからこそ人は結びつこうとする。
いつ死ぬかわからない、だから人は愛を育もうとするのだろうか。
この話を聞いた時、リュシアはそんな事を考えた。

「ガムリンが、お見合い?」

飲んでいたドリンクを離し、リュシアは思わず大きな声で言葉を返した。

「さっき金竜隊長に聞いたんですけどね。どうやらミリア市長に呼び出された時にその話を出されたらしいです」
「本当にそういう話題好きだな、お前……」

至極面白そうに喋るアッシュとは反対にヤクモは白々とした目で呆れている。
ヤクモはガムリンに似て真面目だが彼ほど堅物ではない為か、咎める事まではしていない。
リュシアはそんな2人の顔を見比べつつ、どこか感慨に耽っていた。

「へえ、あのガムリンに……それで、受けるって?」
「まだ返事は保留ですけど、金竜隊長は一度会ってみろって打診したそうです」
「…………」

ヤクモは、ガムリンがリュシアに淡い想いを抱いている事を知っている。もちろんアッシュも。
リュシアもそれに気づいていないはずがないと思っていたので、それでどう反応するかが2人の気になる所だった。
だけどリュシアは顔色変えずに、特に興味なさそうに「へえ……」とだけ答えた。

どうなのか?ガムリンは完全に脈なしなのか?

「お、噂をすれば」

タイミングがいいのか悪いのかガムリンがラウンジにやってきた。

「おーガムリン!ミリア市長の末娘と見合いするんだって?」
「なっ!お、お、お前……っ!」

噂好きのアッシュが嬉しそうに手を振るので、ガムリンは慌てて彼の口を塞ごうと思ったが遅かった。
なんせ彼らの目の前には、紅一点のリュシアが座っていたのだから。

「あ、あのリュシア大尉……まだ受けたと決まった訳では……っ」
「いいじゃない、会ってみれば」
「な……っ!」

リュシアは平然と言ってのけた。

「それに市長からの頼みなら断れないでしょう?」
「そ、それは……」
「市長の娘なんだから、きっと可愛いわよ」
「あ、大尉……!」

リュシアはトレイを返却すると、そのままラウンジを後にする。
残されたガムリンは絶望に打ちひしがれ、他メンバーが気の毒そうにそれを慰めているのを横目に見て。

(……引き留めても、ねぇ…)

リュシアは誰にも見えない所で溜息をついた。

ガムリンが自分に好意を抱いている事は何となくわかっていた。
憧れの眼差しで寄ってくるガムリンには部下として好意を持つが、それは仕事の上でだ。
自分が彼を好きでないのなら、良い条件である見合い相手を薦めるべきだ。
その方が彼にとっては良い選択だろうし出世の道も広がる。

だけど正直な所、好かれるのは嫌いじゃない。
この先もしもガムリンが本当に見合い相手を好きになったのなら、彼はもう自分の所へは来なくなる。
そうすれば自分を女として見てくれる存在が失われるという事であり、それは少し物寂しい。
好きになるかはわからないが、ある程度好かれていたいのだと、ある日気付いた。
きっぱり断ってもやれない、全力で応援してやれないなんて、どこまでも利己的で我が儘な性格だと自分を呪った。

(だけど、ミリア市長の末娘って……)

リュシアの脳内に一人の少女の顔が浮かんだ。
見合い相手というのは十中八九ミレーヌの事だろう。
市長がミレーヌに内緒でこの縁談を組んだのだろうか。

(もしかするとミレーヌちゃんは……)

それすら言葉にできない自分はやはりエゴの塊だと、リュシアは自嘲を吐き出した。











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タイトル配布元――ジャベリン


ここからアニメ本編。
マクロス側にとっては敵が全て未知だから、描写すると訳がわからなくなる。