未だ目的もわからぬ脅威に真っ正面から立ち向かおうとする、熱気バサラ。

彼はたった一度だけその機体に装備されている実弾を使用した。
敵に囲まれ多くの人が命の危機に晒され、八方塞がりになった最後の最後で、歌う為ではないボタンを押した。

それは決して間違った選択ではない。
守る為には戦わなければならない時もある、あれはまさにその時だった。

だが彼は激昂した。
歌を聴こうとしない敵に、そして武器を使ってしまった自分にも。

彼は相手を感動させたい、その為だけにプライドどころではなく文字通り命を賭けていた―――






5・この孤独に誰がさわってくれるだろう






「また来ましたね、熱気バサラ」
「っ!」

戦闘に乱入してくるのは赤いバルキリー、バサラの歌だ。
アッシュは既にBGMとしてリズムに乗りながら戦闘しているらしいが、リュシアは別だった。

――「俺に撃たせやがってぇ!!」――

以前、民間の脱出ポッドを救う為に彼は初めて攻撃を行った。
今までどんなに敵に追われても歌う事しかしなかった彼が武器を手にとったのだ。
あの時気付いた。彼は戦えないんじゃない、戦わないのだと。

ただ歌を聴かせる為に彼は敵の前へとその身をさらす。
バサラの言葉は何だか胸に刺さった。

――「戦争なんかくだらねえ」――

敵をかいくぐりながら歌い続けるその姿はリュシアを咎めているようで。
暴力は無意味だと、リュシアのやっている事はくだらないのだと言われているようで。

「……くっ!」

攻撃をかわして何とか殲滅させるが、命中率が確実に下がっている。

バサラの歌が悪い訳ではない、彼の歌声の素晴らしさを知っているが故に、
思わず聞き入ってしまおうとする自分がいるのが駄目なのだ。
良い歌なんだ、疑うはずもなく。
激しい曲は心の靄を吹き飛ばすように強く、体を熱くさせて。
しっとりと歌い上げる曲はこの身すら焦がしていくように。

だけど歌がリュシアを責める、戦う意義を問われているかのような彼の行為。
戦うなと、そう言っている。

(……それでも、私は……っ)

「っ、RD1より各機へ!通信機が故障した、これよりフォーメーションCで応戦、殲滅させろ!以上!」

リュシアは一方的に通信機のスイッチを切った。
途端にコックピット内には無が押し寄せ、周りの景色だけが音をなすように流れていく。

(戻れ私……私は、それでも軍人にしかなれない……!)

精神を研ぎ澄ませたリュシアは閃光の中へ突入した。
















「ああ、リュシア大尉!」

ふいに名を呼ばれリュシアが振り返ると、
ダイアモンドフォース第1小隊のフィジカが天の助けとばかりに駆け寄ってきた。
戦線離脱したドッカーの補充として配属された彼は、エリートなのだが少し弱気な性格が見た目にも表れている。

「どうしたの、フィジカ」
「ガムリン中尉がおかしいんです!」
「おかしいってのは?」
「女性が恋人に嘘をつくのはどういう理由かって……
以前書物で読んだ話を引用してアドバイスしたんですが……どうも失敗したようで」

何か良くない事でも起きたのだろうかと身を固くさせていたリュシアだったが、
予期せぬ話題に一瞬呆気にとられながらも頷いて話を聞いてやる事にした。
男同士で悩み相談でもしていたのだろうが、狼狽えているフィジカからどうやら本気で思い悩んでいるのだろうと見てとれた。

「……ちなみに、どうアドバイスしたの?」
「恋人に嘘をつくという事は、すなわち恋人の事を本当に愛していないという事だと……」
「…………」

リュシアは頭を抱えたい気持ちになった。

リュシア大尉なら女性の気持ちがわかると思うんです!」
「まぁ……そうね。わかったわ」

フィジカの助言が完璧な回答でない事は女でなくともわかる。
だが頼まれたら行ってみるしかない、リュシアはとりあえずガムリンの部屋の前まで来た。
上官として私情に挟むのはいかがなものか、そう思ったが多少の好奇心もあり呼び鈴を鳴らした。

リュシアアルヴァ大尉です。入っても?」
「な、リュシア大尉!?え、ええ……どうぞ!」

何やら物音がした後に取り乱したガムリンが出迎える。

「ど、どうかなさったんですか!?」
「いや……フィジカに様子を見てくれと頼まれてね」
「な、フィジカに……?」
「どうやら女性の事で悩んでいるようだったから」
「あ、そ、それは……」

ガムリンは言葉に困ったのか俯いて動揺していた。

「察するに、ミレーヌ嬢の事なんじゃない?」
「…………は、はい」

ガムリンは、ミレーヌが自分の事を好きではないかもしれないと悩んでいるのだろうか。
あんなに見合いを薦められた時に困惑していた彼が、最近では頻繁に休みを取りデートに行っていた。

どうやらガムリンはミレーヌを気に入ったらしい。

「……女の気持ちなんて複雑だからね、潔く確かめてみるのが一番だと思うよ」
「そ、そうですか……」

リュシアは自分の言葉に心底呆れた。

(……引っかき回してどうするんだって、ね……)

そう思っていても、自分を止める事はできなかった。

「……大尉?」
「……ガムリンも、ちゃんとした人を好きになれるようになったのね」
「あ、あの、大尉!」

リュシアを遮るようにしてガムリンが叫んだ。

「自分は確かに、ミレーヌさんとお見合いをしましたけど……じ、自分は……本当は……っ!」
「…………」

苦渋に満ちた表情でガムリンは自分を見ていた。
それだけで何が言いたいのかが何となくわかってしまった。

「……でも、ミレーヌ嬢も気に入ってきてるんでしょう?」
「!そ、れは……っ」
「だったら、彼女を好きになってあげた方がいい。可愛いらしい子じゃない」
リュシア大尉だって、じ、自分にとっては十分魅力的です!」
「、……」

予想に反してガムリンは告白ともとれる言葉を振り絞った。
魅力的だなんて、そんな風に女として自分を見る人間は久しぶりだった。
素直に嬉しくてリュシアは微笑んだ。

「ありがとう……貴方ぐらいね、私を女として見てくれる人は」
「……っ!」
「だけど私はやめておいた方がいい。ミレーヌ嬢との方が幸せになれるよ」


――だから、早く私から離れた方がいい。

誰かに好かれたい、ただそれが欲しいだけの欲深い女だから。











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タイトル配布元――ジャベリン


ヒロインはガムリンに幸せになって欲しいとは思ってるんです。
気持ちに応えてやれそうもないけど、ただずっと懐いてた人がいなくなるとやっぱり寂しい。

ヒロインにとってガムリンはそんな存在。