離別は突然にやってくる。

目の前で彼の人生が一瞬にして終わりを告げる。
何も成し遂げられないまま宇宙の塵になって無に漂う。
軍人であるならば誰もが逃れられない宿命。


どうして私達は戦うの?敵を殺して、味方を殺されて。
それでも生き抜く為に引き金を引き続ける。

彼は敵を殺したい訳でも戦争がしたい訳でもなかった、守りたかっただけだ。

残した愛すべき人と、小さな家族……ただ普通の幸せを守りたかっただけなのに。
現実は無情にも、死ぬべきではない人から……散っていく。


「フィジカーーー!!!」

ガムリンが機械の腕を伸ばし、そしてリュシアも必死に手を差し伸べようとした。
だが閃光はフィジカの機体を貫き、そして一つの爆発となる。

「おのれぇぇえ!!!」
「ガムリン下がりなさい!主砲までもう時間がない!!」

残された者は傷つき、悲しみ、怒り、全てをぶつけて敵に突進していく。

だが、もうすぐ時間が終わる。
この手で仇討ちをする機会すら与えられない。

「もういいガムリン!!それは貴方の任務じゃない!!」

時計の針が、止まる。
築き上げてきたものが崩れていく音が、命の音が、フィジカの刻が。

カウントダウンが聞こえる。

「ガムリン!!!」

敵を追い続けるガムリン機を羽交い締めにして緊急旋回を行ったと同時に、目の前を破壊の光が走った。
敵と呼ばれた多数の機体が、フィジカと同じようと弾けていく。

命が、消える。


残ったのは家族へのプレゼント……想いが焦げた、小さなオルゴールだけ。







6・ノイズ混じりのオルゴール






―――あの時の、不安そうにしながらも凛と笑った彼の顔が忘れられない。

シティ7に残しているという幼い子供が近々誕生日を迎えるそうで、
プレゼントを用意したのにそれを当日に渡せそうにないと、辛そうに外を見つめていたフィジカ。
いつだって、戦争が大切なものを引き離す。

「大丈夫よ、フィジカ」
リュシア大尉……」
「気合いを入れなさい。そんなんじゃこれからも家族を守っていくなんて無理でしょう?」
「はい……同じような事をガムリン中尉にも言われました」

リュシアはフィジカの肩に手を置いた。

「貴方は他のDフォースメンバーとは少し違う、他の人にはない優しさを持ってる。
優しさを持てる軍人は貴重よ?しっかり生き抜いて、奥さんと子供を守ってあげなさい」
「……はい、大尉」

気弱そうな眉が少しだけ上がったのを見据えて、くすりと微笑む。

「今度の休暇にはきっと会える、そうしたら久しぶりに家族と過ごすといいわ」
「そうですね。その為にDフォースとして恥じない働きをします!」
「家族がいると強くなれる。羨ましいよ、フィジカ」

彼の両手の中にあるオルゴールから微かに聞こえたのは、懐かしいバサラの曲だった―――






「いつまで握り締めている気?遺品はまとめて移送するわよ」
「……はい」

それでもガムリンは名残惜しそうにオルゴールを見つめ、ようやく金竜に渡した。
初めて目の当たりにした近しい仲間の死だ、辛くない訳がない。
ヤクモも調子者のアッシュも今はただ静かに佇んでいた。

だけど感傷に浸る時間などない。
残された人間には、せわしない現実が押し寄せてくるのだから。

リュシア
「はい」

自機に乗り込もうとした時、金竜がすぐ下まで来ていた。
リュシアは梯子を下り、同じ目線に立った。

「これからさらに戦況は厳しくなるだろう、だが何としてでも生き残らねば我々に明日はない」
「はい」
「お前は第2小隊隊長としてよくやってると思うぞ。だから、最後まで仲間を導け」
「……了解しました」

だが金竜は立ち去ろうとはせず、少しだけ苦笑してリュシアを見下ろした。

「なあリュシア
「はい?」
「確かに俺の方が年も上だし隊長職も長いが、今は同じ階級なんだとわかっているのか?
俺に対してはそんなに気を張らなくてもいいんだぞ?どうだ、次の作戦が終わったら敬称も抜きで酒でもやらないか?」

彼と出会って随分が経つ、だがリュシアが入隊した頃には既に金竜は隊長として皆をまとめていた。
同じ隊長職でも同じ階級になったとしても、リュシアが彼を上官として敬意をはらうのは変わらない。
それだけ彼とリュシアの戦闘経験には雲泥の差がある。

だが金竜はそれも承知の上でリュシアに敬語をやめろと命じた。
不調続きのリュシアへの気遣いもあるのだろうが、2人はきっと気持ちを共有しているのだろう。
未知の敵との対峙、次々と仲間達が倒れていく中、おそらく彼も気を使わない相手が欲しかったのかも知れない。

対等にはなれないだろうが、せめて戦友として同じ物を見れたらいい。
リュシアはくすりと微笑むと頷いてみせた。

「……ええ、楽しみです」





―――そうして、彼までもが敵の餌食になった。





金竜を戦闘不能にした正体不明の球体を撤退させた後、リュシアはガムリンが入院しているという病院へ向かった。
シティ7へ到着後すぐに事後処理やら報告書やら、金竜が離脱した分怒濤のように仕事が振ってきたが、
それらを一時保留にしてリュシアは飛び出してきた。

「ガムリン、調子はどう……って」

ベッドは既にカラだった。
着ていたはずのパイロットスーツがなくなっているから、それを着て出て行ったのだろう。
オロオロしている看護師を落ち着かせるとリュシアは市街地へ探しに向かった。

(何処行ったんだ、ガムリン……)

まさかミレーヌの所かもしれないと思いアクショも疑ったが、果たしてあのケガでそこまで行けるだろうか。
アテはなかったが、いたる所を探しているうちに一つの公園に出た。
戦争中だという事もあり人影は少なかったが、それでもかけがえのない毎日を必死で生きようとしているのか、
まだ若い母親と小さな子供、そして優しそうな父親らしき人がいる。

(……あの人と子供……まさか……)

何度も写真で見た事ある人物そっくりだった。
彼が大事に持ち歩き、そして時々嬉しそうに見せてくれた写真に写る美しい人が、あそこで微笑んでいる。
頻繁に会えないせいかあまり懐いてくれないと嘆いていた子供が、男性に駆け寄って嬉しそうにはしゃいでいる。

フィジカではない男を囲み、さも家族のように幸せそうに振る舞う光景は一体どういう意味か。
だがその真実に行き着いてしまいそうになる思考がどうしても嫌で、リュシアはその場から離れた。

そうしてしばらく行った先のベンチで、ガムリンが俯いていた。

「……ガムリン」
リュシア大尉……」

傷口が開くような無理をしたのだろう、額に巻いた包帯が血でにじんでいる。
だがそれ以上にガムリンは両手にあるものを見下ろして、傷ついた目で佇んでいた。

「それ……」
「渡そうと思ったんです……渡そうと……」
「………」

間違いなくガムリンも見たのだ、あの3人を。
ああ、フィジカに何て言えばいい。ただ家族の事だけを想っていた彼に何て報告すればいい。

力なく項垂れている肩が震えている気がして、リュシアはそっとガムリンに触れた。
ガムリンは生真面目だ、何としてでもフィジカの家族に彼の死を伝えオルゴールを渡すつもりでいたのだろう。
使命感の強いガムリンの落ち込んだ姿はとても直視できるようなものではなかった。

フィジカの愛していた家族が、既に新しい家庭を築いていたという事実も。

「ガムリン……」
リュシア大尉……っ!」
「っ……」

いつもより近くなった互いの体に耐えきれなくなったのか、 ガムリンは上官だという事も忘れリュシアにすがりついた。
突然の事に驚くばかりだったが、内心で泣いているだろう彼の気持ちはよくわかる。
悲しみの渦に巻き込まれている彼をなだめようと、リュシアは優しく肩を抱き寄せた。


――辛かったね、苦しかったね、ガムリン……
なくした物は大きかった。


リュシアは病院にガムリンを連れ戻すと、出歩くなときつく命令した。
そしてその足でアクショに走った。一心不乱に、助けを求めるように。

「はあっ……はぁっ……」

遠くからでも聞こえてくるのは今やもう一瞬でわかってしまう、男の声。
馴染みのない曲だけど、それでも始めから心に染みてくる旋律。

本能的にその音を追い、次第に大きくなるそれにリュシアの胸は高鳴りを増していき。
荒い足取りで屋上を駆け上がると、バサラは相変わらずな様子で振り返った。

リュシア……どうした?」
「……ううん、何でもない」

続けて、と促すとバサラは不審に思いながらも再び空に向かって歌い出した。
夕日を浴びてギターを奏で続ける背中が、今は何よりも尊いものだった。
歌い続けて欲しいといったのは歌が聴きたかったから、そしてこんな顔を見られたくなかった。

リュシアはゆっくりと近づいて、そっとバサラの背中に触れた。
反射的に振り返ろうとしたバサラだったが、それができないように強く抱きしめた。
続けて、そう言うと切なく広がるギターの音。


――貴方の歌で、私はこんなにも……弱くなる。
突きつけられた現実はあまりにも辛い。


「ぅ……ふ、っ…」

ずっと溜め込んでいたものが全て背中に溢れた。
バサラのタンクトップで顔を隠しながら、リュシアは嗚咽を漏らし続ける。

「、…う……っ!」
「……リュシア……」

バサラの背中が、熱い涙で濡れた。

一曲分を泣きながら聴き、歌が終わったと同時にリュシアは顔を離した。
そして「ありがと」と一言だけ残し、屋上を出て行こうとすると。

「もう行くのか」
「うん……」

バサラが珍しく心配そうにこちらを向いた。
その言葉が嬉しかったけど、リュシアは泣きそうになる気持ちを抑えて笑ってみせた。

「頑張ってね、一躍有名になったバサラさん」
「………」
「冗談だよ。ちゃんと聴こえてるから……歌ってね、バサラ」

あからさまに嫌そうなバサラがおかしくてまた笑えた。
最後にそれだけ言うと、彼は小さく返事をしてくれた。

(……本当は、バサラの所にいたいんだけどね)

金竜が動けない今、自分がしっかりしなくてはいけない。
ガムリンのバルキリーの修復も急がせなくてはいけないし、とりあえず今後の戦闘方針を考えなくてはならない。

泣いている暇などない、歌を聴いている暇などない。

(ダイヤモンドフォースを率いるのは、もう私しかいない)

だから、バサラにただすがりついて泣いてただけの自分は、いらない。











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タイトル配布元――ジャベリン