未知なる敵部隊に、新たな脅威が現れた。
それは人型であり女と見られる、明らかに生命体だという。
自身が張り巡らしているのだろう光の球体に覆われ、真空の宇宙を飛び回る。
"女"は他の敵と同じように人間の生気を吸い取っていく。
金竜はそれに襲われ、離脱した他のパイロット達と同じように植物状態になってしまった。
残された人間は必死に生き抜こうともがくが、この戦争の先は全く見えず。
同時にシティ7では市長を狙うテロが起こされようとしていた―――
7・黒く沁みてゆく焦燥
「出力を上げられる?」
「これ以上はキツイですね。もう既にグレードアップを重ねてますからね」
「そうね……」
リュシアは整備士の渡してきた能力値ボードを見つめていた。
「あの不思議な球体のスピードを避けるのがやっとか」
「ダイヤモンドフォース第1小隊の隊長がやられてしまうぐらいですからね」
「……隊長は、女と言っていたわね。確かに人型だった」
バサラの歌で撤退してしまった光の球体。
今後もあれが出てくるとなると正直被害は増えるばかりだろう。
「……仕方ないわね。とりあえずはガムリン機を修復させる事が最優先ね」
「はい、急ピッチで進めてはいるんですが、なにぶん部品が少なくて」
「……」
上手く事が進まない、リュシアは大きく溜息をついた。
そんな時、またしても敵襲のサイレンが艦内に響いた。
「私が出ます!」
「リュシア大尉!」
「ガムリンが来ても出させないように!」
そう言付けするとリュシアは漆黒の宇宙に単機で飛び出した。
敵は既にシティ7を包囲していて、だが全面攻撃という訳ではなさそうだった。
「嫌な陣形……またフォールドさせる気か」
敵は此方を殲滅するのではなく、どうやら捕獲を目的としているようで何度もシティ7を狙ってくる。
攻撃をくぐり抜けながら一機ずつ落としていると、またしても赤いバルキリーが乱入してきた。
「おい、そいつに乗ってる奴!やめろ!」
「っ!」
突然通信に入ってきたのはバサラの声だった。
こちらの映像は流していないから、これに乗っているのがリュシアだと知られなかったのは幸いだった。
(今、なんて……!?)
バサラに怒鳴られた事など初めてで、思わずスロットルを握りしめていた手が金縛りにあった。
そんな事言われても撃たなければやられる、負けるはすなわち死を意味しているのに。
それでもバサラは歌い続ける。
リュシアは戦うなと言われて、ただ避けるしかできなくなっていた。
「リュシア大尉!」
昔よく見た機体と同系列の、バサラ機とは違う赤いバルキリーがもう1機戦線に現れた。
声からしてガムリンなので、どうやらミリア市長のものを拝借してきたのだろう。
「バッキャロー!違うんだって!邪魔すんじゃねぇ!」
バサラがまた苛立つように叫んだ。
――ならばどうしたらいい?
軍人の私は戦う以外、どうすればいい?
混乱したリュシアは戦えなかった。
(どうして……どうして、バサラ……っ!?)
武器を持って当たり前のように戦場で戦ってきたリュシアにとって、バサラの言葉は全てを否定されたようだった。
凡人の考えを凌駕するようなバサラ、だけどリュシアは武器しか持てない軍人、
いつか自分がそういう存在だと知られた時に失望されるのだろうか、それだけが怖くて。
現れた光の球体はバサラの歌によって再び消えた。
リュシアは、撃墜されたガムリンのコックピットを回収する事だけしかできなかった。
本来バトル7を旗艦とし、軍上層部からの命を受けているバルキリー部隊だが、
何度かの戦闘でバトル7とシティ7は離ればなれになり、
リュシアとガムリンだけがシティ7と合流している状態だった。
バトル7と連絡が取れない今、2人の行動はシティ7市長に一任されており、街中の警護を任されている。
物資も戦力も少なく、敵との戦闘で機体は損傷していくばかり。
悩みの多いリュシアに突如入って来た情報も、ストレスを増やす要因の一つであった。
「シティオフィスでミリア市長が人質に!?」
「はい、犯人が数人立てこもっているようで……」
「……わかりました。見過ごす訳にはいきません」
リュシアは銃を手にすると素早く弾倉やバレルのチェックにかかった。
「大尉お一人だけで行かれるんですか!?」
「シティポリスが大々的に包囲しているでしょう?ならば少数で侵入した方がいい」
シティ7所属の整備班が狼狽えていたが、構わず冷静に答えた。
リュシアは通信機を開くと、数秒も経たないうちに声が聞こえた。
「ガムリン?」
『リュシア大尉!』
休暇中の彼には気の毒だなと思いつつも、事情を知っているなら話は早いと言葉を続けた。
「私はこれからシティオフィスに潜入する、貴方も来られる?」
『はい、今現場に向かっています!』
「じゃあ中で合流しましょう」
通信を切ると、リュシアは借りたバイクでシティオフィスへ走った。
「陣形はバラバラ……あまり統制された組織じゃないね」
裏の通気口からオフィスのビルに侵入し、身を潜ませながら確実に敵を狙撃していくリュシア。
後々黒幕などを供述させる為にも極力殺さないようにし、脳震盪で落としていく。
リュシアはパイロットであったが、白兵戦も厳しく訓練されていた。
ダイアモンドフォースとは本来、様々な事態にも対処できるほど鍛え込まれているエリート部隊だ。
統率のとれていないテロ犯を仕留めていくのはお手の物だった。
「む、何だ……ぐあっ!」
この辺りを見張っていた男の足を打ち抜き、痛がっている間に首に衝撃を与える。
銃声を何とも思わない自分は……やはりどこか狂っているのかもしれない、そんな事を考えた。
最上階に近づいてくる頃、ようやくガムリンの足音がやって来た。
「ガムリン!」
「リュシア大尉っ」
ガムリンは仲間を見つけたからか安堵の表情で駆け寄ってきた。
「状況は?」
「このあたりの人間は全て沈黙させました。
おそらくあの階段から上っていくのが得策かと思われます」
「そうね――」
リュシアは顔を上げて息を詰まらせた。
ガムリンだけだと思っていた背後から現れたのは、ガムリンの見合い相手であり、
艦長でありかつての教官と市長の末娘……バサラのバンドメンバーの少女だった。
「リュシア、さん……?」
「、ミレーヌちゃん……」
ミレーヌは信じられないという表情でこちらを見つめていた。
状況が理解できないガムリンだけが互いの顔を見比べていた。
「た、大尉、お知り合いですか?」
「……ええ、そんな所……」
「ガムリンさんの上官さんって、リュシアさんの事……?」
隠していた訳じゃない、聞かれなかったから教えなかっただけだ。
別にミレーヌに知られても大した事じゃない、だけど……この詰まるような胸はどういう訳か。
――怖いのか、ミレーヌを通してバサラに知られるのが。
軍人を好いていないバサラに知られて嫌われるのが……怖いのか。
だが今この状況で悠長に説明している暇もない。
リュシアは諦めたように軍人の顔で微笑んだ。
「自己紹介が遅れたね。私はリュシア・アルヴァ大尉。
ガムリンと同じ統合軍ダイアモンドフォース所属のパイロットよ」
「パイロット……」
「申し訳ないけど今はこんな事を話している場合じゃなかったわ。ミレーヌちゃん、ここから先は危険だけど大丈夫?」
「……だ、大丈夫よ、ママを助ける為に来たんだから!」
リュシアは頷くと社長室へと続く階段を上った。
ありがとう、そう言うミレーヌと別れを惜しむようにガムリンは照れくさそうに笑った。
市長を保護する任務を無事に終え、リュシアはそれを見届けると「帰るわよ」と言って先に踵を返した。
「あ、あの……リュシアさん!」
案の定ミレーヌはリュシアを呼び止めた。
振り返るとピンクの髪の彼女は何かを言いたそうで、でもそれを躊躇っていた。
無理もない、ミレーヌからして見ればバサラの所に出入りしていた人間が統合軍の軍人だった訳だ。
あそこにいるリュシアはほとんどの時間を彼のベッドで過ごし、常に怠惰な動きで彼に我が儘を言っていた。
大尉として銃を持ち敵を冷徹に殲滅していく姿とは、全くの別人かと思うほど違いすぎる。
彼女は恐らくバサラとリュシアの仲を疑っていた。
きっとミレーヌは戸惑っている、だから聞きたくて仕方ないのだろう。
こればかりは口止めしたってしょうがない、いつかは知られるものだともわかっていた。
だからリュシアは、やはり諦めたように微笑んだ。
軍人のものではなく、どこか……悲しそうに。
「バサラは知らないよ……何も……」
リュシアはそれだけ言うと夕日の中に消えた。
後を追うガムリンだけが疑問に満ちた表情で、沈黙が耐えられないのか言葉を必死に絞り出して。
「大尉……ミレーヌさん達と、お知り合いだったんですか?」
「……実を言うと、艦長からお嬢さん――ミレーヌちゃんの動向を報告するように命令を受けていたの。
だからFIRE BOMBERも知っていたし、もちろんミレーヌちゃんもバサラもね」
「は、はは……それなら言っていただければよかったのに」
「特命だったからね」
合点がいって安心したガムリンがもう一つ疑問を浮かべる頃にはリュシアの姿は既になかった。
(ならどうして大尉は、熱気バサラが戦線に現れると集中力が乱れるのだろう……?)
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タイトル配布元――ジャベリン
ぼやかしてますが、この辺りはシティ7が行方不明でバトル7が探してばかりなんですよね。
今はちなみにガムリンとヒロインだけシティ7に合流している状態です。
その辺の事情を描写すると長くなるのでもの凄くカットしてます。
原作沿いに自分で書いたものもさらにカットしてます。