※この話には18禁相当の性描写がありますのでご注意下さい。











「え……ミハエルが?」

その知らせを聞いたのは、別任務から帰ってきた時だった。
バジュラとの戦闘でミハエルが照準を外し、ビーム砲がアルトに命中しかかったそうだ。
どうやらそれで逆上した2人が殴り合いの騒ぎを起こしたらしい。

「それで、アルトは?」
「全治2週間の怪我、アルトの方が重傷だな」

カナリアはやれやれといった風貌で両肩を竦めた。

(ミハエルが殴るなんて……)

よっぽど琴線に触れる事を言われたのだろうか。
アルトも激情型だから、売り言葉に買い言葉でそんな事態も否定はできない。

(フレンドリーファイアか……ミハエルには一番のトラウマなのにね……)

ミハエルがS.M.Sに入隊した頃、ざっと生い立ちや身辺を記した資料は目に通した。
統合軍ではなくS.M.Sに入隊した理由、それとスナイパーを選択した理由も。
余裕な態度の奥の、本当のミハエルはどれも彼の姉に関する事だった。

だから彼は今、きっと苦しんでいる。


ミハエルが再び訓練に出ていると聞き、リチェルはVF-25Sを起動させた。
様子を伺おうとバトロイド形態で静かに訓練地点に向かうと、ミハエルは誰かと喋っているようだった。

(……クラン?)

罪悪感を感じながらも別の環境艦に隠れるようにして通信を傍受させた。

『それとも何、クラン?お前が今夜相手をしてくれるとでも言うのか?』
『な……っ』
『っと、無理か。マイクローンになったお前に手を出したら淫行罪で捕まっちまう』
『……っ!』

クランのビンタが青いバルキリーの頭部に直撃した。

『っ、何すんだよ!』
『馬鹿!』

泣いているようだったクランが行ってしまったのを見て、 気づかれないうちにとリチェルもドックに戻った。


(……本当に、馬鹿なミハエル……)


冷めた目を静かに閉じた。






10・鮮血から零れるものは






シャワールームから出てきたミハエルを待っていたのはリチェルだった。
笑っていながらもどこか悲しそうな目で、何故ここに立っているのか検討がついた。

「……中尉も、俺の事が心配で来たんですか?」

それはいつもの優しい言葉じゃない。
目は笑っていなかったし、言葉の端々に冷たいものを感じた。
体全体で、全てのものを拒絶していた。

リチェルはできるだけ険しい顔を作ると、ミハエルの緑の瞳を見据えた。

「意地っ張り」
「……っ」

開口一番そんな事を言われると思っていなかったのか、ミハエルは一瞬言葉を詰まらせた。

恐らく誰よりもミハエルの事を知ってるクランが心配していたのに、挑発的な態度で泣かせた。
クランの不器用な想いをミハエルは仇で返した。

クランだって自分だって、ミハエルの姉の事を知っている。
今、ミハエルが苦しい事も悔しんでいる事も知っている。

「辛いなら辛いって言えばいい。それだけの仲間がいるでしょ?」

アルトとだって、あんなに仲違いしなくてもよかったかもしれないのに。

「……仲間だなんて」
「思ってないって?そう思うのは、ミハエルが本心で付き合ってないからでしょ?」

そうやって心を開かずに人当たりの良い顔をしているから、相手を信じる事ができないんだ。
うわべだけで人と接している以上、本当に仲間なんてできやしない。

幾分か温度の下がったミハエルはリチェルの隣を通り過ぎようとした。

「……放っておいて下さい、一人になりたいんです」
「嫌。だって今一人にしたら本当に独りになるじゃない」
「放っておけって言ってるだろ!」

上官に対する物言いではなかったと、ミハエルはハッとして振り返った。
それでもリチェルは怯まず、ただ笑っていた。

「お生憎様、独りになんかさせない。絶対に、させない」
「……俺は気が立ってるんです、悪いですけど今は貴方の相手をしていられない」
「相手にして欲しいなんて言ってない、私がミハエルの相手をしてあげるって言ってるの」

明らかに苛々しているミハエルは地を這うような重い溜息をついた。
本当にうんざりしている、そんな顔色だった。

「わからないですか?そんな隙だらけで立ってたら、何されても文句言えないですよ?」
「ならそれをぶつければいいじゃない」
「………っ」

爪が食い込むほど拳を握り締めた後、突然腕を引かれたと思ったらミハエルの唇がぶつかった。
息をする暇はなかった、押さえ込まれて苦しいほどの強い力。

食らい付くように唇を貪り、そのままリチェルの部屋に連れ込んでベッドに放り投げた。

「い…ぁッ!!!」

唇の端を思い切り噛まれ、痺れるような痛みと共に流れていく赤黒い血。
構わず舌をかき回すものだから2人の口元はどんどん赤く染まって、顎までも濡らしていく。
わざと音を立てて血液を舐めとると、完全に我を失ったミハエルが薄く笑っていた。

「どうですか、俺に食われる気分は?」
「ぁ……ミハ、エ…っ」

ゼントラーディの血が混ざっていると、時々こんな風に箍が外れるのだと聞いた事がある。
元々戦闘種族だった為に、興奮状態になったり攻撃的になったりするのだと。

唇を赤く染めたミハエルの鋭い目は、まさしくそれだと思った。

「……俺に近づくから、こうなるんですよ」
「は……ん、ぁ…っ」

普段とは全く違う、優しさの欠片もない指先。
所々爪と歯を立てられては痛みが走り、それを冷たく見下ろす獣。

上着で両手を固定すると、乱暴にズボンと下着を下ろして足を開かせた。
ミハエルは何も受け入れる準備ができていない秘部に押し進んだ。

「い、ああ……んぁあ!」
「痛いですか?そりゃあ痛いですよね、濡らせてないし」

部屋に響くのはリチェルの辛そうな呼吸だけだった。
痛みで目尻ににじむ涙を、ミハエルはさも面白そうに指ですくった。

「ねぇリチェルさん……どんな気分ですか、傷つけられて?」

自分はこれぐらい傷ついたのだと、言っているようだった。
顔を血と涙で濡らしながら、それでもリチェルはふわりと微笑んだ。

「っ……痛いのは…ミハエルも一緒、でしょ…?」

今だって、潤滑剤がないのだからミハエル自身だって痛いに違いないのに。
そう返されると思っていなかったのか、翡翠色の瞳は僅かに開いた。

ミハエルは苦しかった。

壊してしまえ、さらけ出してしまえと思う心の奥が、痛かった。
リチェルが怖い。見透かされてるような終始穏やかな目が嫌だ。

「……もう、俺の中に入ってこないでくださいよ」

こんなに傷つけられたのだから、これに懲りてもう近づくな、そう揶揄するように。

「都合の良い事ばっかり……人の中には…どんどん入ってくる、クセに……」
「生憎俺は他人に興味がないんで、深く接したつもりはないですよ。そんなの……後々面倒になる」

リチェルとも深く接しているつもりはないと聞こえた。


いくら親しくても他人には触れられたくないものがある。
それはリチェルとしても同意見だった。

だけどそれが多ければ多いほど、人は孤独になるんだと思う。

リチェルはS.M.Sに入隊して、オズマ隊長やボビー達に救われた。
リチェルの触れられたくないもの、彼らはそれを包み込みながら温かく接してくれた。

触れられたくないもの、それを暴こうとしたのはミハエル。
それを先にしてきたのは……ミハエル、貴方でしょう?


「だから私がいる……そうしたら、寂しくなんてないでしょ?」


遠慮なんていらない。


傷を舐め合う関係、それだっていいじゃない。

それが貴方の本心ならば。






――「ごめん……リチェルさん……っ」

落ちそうになる意識の中でミハエルの声だけが鮮明に聞こえた。
それはいつもの優しい響きに、後悔の念が混ざっていた。


ねぇ……どうして謝るの?


傷つけて、追い打ちをかけたのは私。

そうして抉った傷口から微かに漏れる、貴方の本当の気持ち。
赤い血に溶け合うように、滲む本心を覗こうとした。

傷つければいい、それをしたいのならば。

私にそうさせるように、貴方だって縋ればいい。



だから私は喜んで傷つけられる、受け入れてあげるから。




……私は嬉しいんだよ、ミハエル。











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フレンドリーファイア話です。
性的表現はゆるめにしときました、苦手な方には申し訳ありません。

ミハエルは確かゾラ人の他にゼントラーディの血も混じってましたよね。
人間みたいにバルキリーをチョコチョコ動かせるミハエルは相当器用なんだと思います。