この日、格納庫では久しぶりにEX-ギア無動力歩きの罰をさせられている2人がいた。

「なんだって、こんな……新米みたいな事を…っ!」
「テメェが、……シェリルを連れ込んだりするからだろうが!
おまけに俺が教えた、女連れ込む裏技までゲロしやがって……!」

前の戦闘でシェリルがブリッジに上がってしまい、それでアルトが一般人をS.M.Sに連れ込んだ事が露呈された。
さらにミハエルの過去の犯行までも知られ、罰を受けるに至った。

「喋る余裕があるの!?ならあと5週追加!」

キャシーがどこぞの教官よろしく、仁王立ちで懲罰を追加させていく。

「鬼」
「だから男が寄りつかねぇんだよ」
「ふぅん……坊や達、良い度胸ね……プラス5週!」
「な……っ!」

(あーかばいきれない……ごめんねアルト、ミハエル)

「ごめんね、キャシー」
「いいのよ、私の役目だから。あの坊や達にはきっちり体で覚えてもらうわ」
「う、うん、そうだね……」

ミハエルが罰を受ける事に対してはリチェルにも身に覚えがある為、非常に後ろめたい。
謝りつつも内心で2人に頑張れと思っているが、きっと彼らには伝わっていないだろう。

そんな時、オズマがやってきて真剣な表情でキャシーを呼んだ。

「後でちょっといいか?」

何かを察知してキャシーは頷いた。

その雰囲気に、またしてもリチェルは嫌な悪寒を感じていた。


懲罰の終了を見届けると、リチェルはオズマではなくキャシーの部屋へと向かった。
キャシーは統合軍所属、オズマは元統合軍に在籍していた縁で、きっとあの2人は秘密裏に何かをやろうとしている。
恐らく軍に関する事で調べを進めているのだろう。

ドア越しに住人に声をかけると、彼女自らが部屋から出てきた。
少しだけ覗いた部屋は暗く、散らかってるようだったので中を見られたくなかったのだろうと思う。

リチェル……どうかした?」
「……キャシー、オズマ隊長が何をしようとしてるか教えて」
「どうし……」

どうしてそれを、と言いかけてキャシーは言葉を呑み込んだ。
リチェルが険しい顔と切迫した目で訴えてきたからだ。

「……怖いの」
リチェル……」

彼女の表情は歪んでいた。

「何だか最近の隊長……生き急いでる…」


正式な家族にはなれなかったけど、心では既にかけがえのない存在になっている。
遠くに行って欲しくない、置いて行かないで欲しい……自分を置いて、死んで欲しくない。


「だから教えて……隊長は、ランカの為に動いてるんでしょう?」


親とはぐれた子供は、必死に名を呼んで、探して歩いていた。


親に近づきたいのに子供にはまだ早いと、真綿に包まれて。






25・迷い子の心






―「俺が全てを賭けて守ってやる」―

オズマの言葉はリチェルを不安にさせるには充分だった。

それは自分だけで解決するという意味が込められていた。
つまりその先に何が待っていようと、自分はどうなっても構わないという事だ。

ランカが戦場に出る事をいつまでも彼が許す訳がない。
その思惑通り、ランカの事も含めて動きのおかしい新統合軍の内部を探っているとキャシーは口を開いた。

「オズマ隊長!」

まさに何処かに行こうとしていたオズマに詰め寄ると、
少し驚いた様子を見せながらもリチェルの表情に気付いて顔をしかめた。

「私も行きます!ランカの事で軍を調べてるんですよね?私も手伝わせてください!」

隊服を握り締める力が強いと、オズマは感じた。

「お前は待機のはずだろう」
「私だって、ランカを戦場に出させないようにする為なら何でもしたいんです」
「駄目だ、帰ってろ」
「…………嫌です。此処で何もしないで待機してるだけなんて、嫌です」

彼女は、いつの間にこんなに主張するようになったのだろうか。

「お前は首を突っ込むな、これは上官命令だ」
「2人で行動すれば何かあったって回避できるじゃないですか……っ」
「お前に守られる程落ちぶれちゃいないし、お前がいたら足手まといにしかならん!」
「何でですか……私だって一人前に働けます」

こんなにも、自分の意思をぶつけてくるようになった。

「ガキは兄貴の言う事聞いてればいいんだ!」
「もう子供じゃない!隊長一人で行かせたくないんです!」

自分と妹の為に、彼女は必死になって。

「……事態はもう、ランカの事だけじゃなくなっている。
お前の気持ちはわかるが……パイロット乗りの中尉には課せられない任務だ」
「単独行動が主任務の"ファントム1"でも?」
「お前は宇宙を飛んでればいい、地を這うのは俺だけで十分だ」
「でも……っ!」


彼女の心の声が、今なら聞こえる。


リチェル
「……っ」

柔らかい髪を包むように撫でると、彼女は痺れたように動きを止めた。

「……行かせろ、これは俺の意地だ」
「……っ…………、はい…」

長い逡巡の後、彼女は心底悔しそうに俯いた。
狡いのは自分だ、こうすれば従わざるを得ないのを知っているから。

「悪いな……お前には、苦労させたくなかったんだがな」


S.MS.に入れた時点で苦労する事は目に見えていたのに、矛盾しているだろうか。


車中で、シンデレラガールと呼ばれるランカが笑顔で喋っていた。
テレビ向きとも言えるその表情を横目に、オズマはハンドルを握り締めた。

「あいつ……感情が戻ってきてる……気付いてはないだろうがな」


リチェルの心を開かせたのは、一体誰なのだろうか。


「ランカの夢も、リチェルの心も……俺が守る!」


兄である自分には、それしかできないのだと呟きながら。











ふと顔を上げると、表向きは恋人で通っている男が立っていた。

リチェルさん……」
「あ、ミハエ―――っ」

突然ミハエルは腕を掴み、人気のない場所まで連れて行くとそのままリチェルの唇に噛み付いた。
少し強引ながらも溶けるように甘い愛撫が数刻の間続き、ゆっくりと銀糸が離れた。

「な、急に何……?」
「……何ででしょうね、こうしなきゃいけない気がしたんで」

いつもと変わらない様子で首を傾げて見せたミハエル。
思わずリチェルから洩れた表情は、恐らく自嘲だった。

「……優しいね、ミハエルは」
「そりゃ大切なリチェルさんの為ですから」

……彼はいつも自分を甘やかして、逃げ場所をくれる。
囁かれる言葉も、顔には出していないけど実は動揺していて。

それが本心ならどんなによかった事か。
貴方のその優しさが、本物だったならどんなに嬉しかった事か。

嘘でもいいと思ったのに、もうわからない。


どこまで本当か、信じられない。


「……そんなミハエルが、私は好きだよ」
「……リチェルさん?」


同時に、こんなにも貴方の事を憎いと思う。
遅すぎたんだ、何もかも。

こんな事なら、恋人なんかにならなければよかった。



……だって……これが恋だなんて、誰も教えてくれなかったじゃない―――











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珍しいオズマ視点が入ってます。

短いですが切ります。