「「「乾杯!」」」

アルトの入隊祝いは娘々にて盛大に行われた。
オズマの妹のランカがバイトしているという事もあり、宴会はここでやる事が多い。
主役はアルトだったが、皆はただ酒盛りがしたかったようで大勢の隊員が参加した。

リチェルの席も例に違わず、戦闘の事を忘れるように盛り上がっていた。

リチェル、お疲れ様!」
「格好良かったです!」
「うふふ、ありがとー!」

オペレーター3人娘は皆リチェルを労ってグラスを合わせた。

「で、どうなの新入り君は?」
「ああ、アルト?」
「この中じゃリチェルが一番近くにいるんだから、ちゃんと情報流してくれないと」

3人が気になるのはもっぱら前の模擬戦で晴れて入隊となったアルトの事らしい。
ミーナやラムはいいとして、真面目なモニカも逐一リチェルの反応を窺っていた。
いつの時代でも新入り、特に若くて美形であれば注目の的になるのだろう。

「まだまだ荒削りだけど筋はいいよ」
「やっぱり若さだよね~」
「……ミーナ、それボビー大尉みたい」

モニカはすかさず突っ込んだ。

「あとは負けず嫌いかな?若いからっていう事もあると思うよ」
「そうだよね~リチェルとクラン大尉の猛攻撃に遭っても負けてなかったもんね」
「そうそう、普通はすぐ撃墜されます」
「この2人は敵に回したくないよねぇ」
「……まぁあれぐらい頑張ってもらわないとねー」

ミーナは意地悪い笑みでリチェルを一瞥するが、それが本気ではない事は皆わかっている。
リチェルもたまには上官っぽく振る舞おうと強気の言葉を返した。

でも確かに自分とアルトの飛び方はまるで違っていると、リチェルは思う。
技術的な面はいずれリチェルに引けを取らないほど強くなるだろう。
そうではなく……精神的な面では。

「……何かね、憧れる」
「へ?」
「アルトの飛び方って決して天才的でも綺麗でもないんだけど……一生懸命で、羨ましい」
「「「…………」」」

突然天を仰ぐように呟くので3人は驚いてリチェルを凝視した。
視線を下ろしまっすぐ見た先にはアルト他、若い学生隊員達がいる。

リチェル、もしかして……」
「ん?」
「それって……好きって事ですか?」
「違うよー。何だろう……ランカみたいな存在かな?弟ができたみたいな」

疑いの目を向けられてもリチェルは顔色を変える事なく呑気に笑っていた。
しかしそれで納得する女達ではない。

「でもそこから恋愛に発展するって事も……」
「無きにしもあらずです」
「そう、かな?そんな風に思った事ないけど」
「うん……でもそろそろリチェルにも浮いた話の一つや二つないと」
「ええー?」

唯一ミーナとラムを止められるモニカすら話題に乗ってきた為、話はあらぬ方へ脱線していく。

「戦闘機大好きもいいけど、恋愛してこそ女の道!」
「女は恋して綺麗になるって言いますしね」
「そうね……恋は大事よ」

ジェフリー艦長に現在絶賛恋愛中のモニカはうっとりしたように微笑んだ。
この手の話になると、皆びっくりするくらいしつこくなる。

「んーでも私、正直よくわからないし」
「駄目よリチェル!これだけ男がいるんだもの、誰でもいいからときめくぐらいの気持ちでいかないと!」
「そ、そうなの?」
「それは言いすぎでは……」
「いいえラム!このご時世何が起こるかわからないのよ?だから今のうちに女を謳歌しないと駄目よ!」
「うん……わかる気がするわ」
「………」

珍しく興奮したミーナを助長するようなモニカ。
このまま此所にいたらずっと標的にされかねないと、リチェルは早々に席を立った。

「あ、席が空いたみたい!じゃあ私、主役君に乾杯してくるねー!」
「あっ、リチェル!」

気付いた頃にはリチェルは既に少年達の間に交じっていた。

彼女はいつだってそうだ、あまりこういう話題には参加しようとしない。
だから余計に構って弄ってみたくなる。

逃げられたと呟きながらも、リチェルらしいと、3人は一様に笑った。






3・友に還るもの






女達に囲まれたリチェルは離れた席に座りながらも、主役であるアルトと話をする機会を伺っていた。
ちょうどミハエルとクランが追いかけっこを始めたのをきっかけに、気を取り直してアルトに話しかけた。

「アルトー、晴れて入隊おめでとー!」
「あ、あのリチェルさん……そこ、ミシェル先輩が……」

リチェルがさも自分の席のようにして座ったので、ルカは恐る恐るそれを伝えた。
だがリチェルは全く気にせず手をヒラヒラさせた。

「いいのいいの、ああなったらしばらく戻ってこないんだから」

店内ではマイクローン化して幼児体型になってしまったクランが宿敵ミハエルを追いかけ回していた。
ミハエルも怒りをさらに助長させるようにからかっては器用に逃げる。

リチェルには何だかそれが可笑しかった。

「あはは、知ってる?ミハエルはねぇ、クランに構ってもらえるのが嬉しいんだよ。
だからいっつもクランを怒らせてるんだよ、意地っ張りだよねぇ」
「はあ……」

未だ戦闘時のリチェルの事が頭から離れないアルトは、このリチェルの差が消化しきれず曖昧な返事をした。
こんなフワフワした人が本当にあの鬼神のごときバルキリーに乗っていたとは。

「はい、かんぱーい!」
「あ、どうも……」
「ああ……それもミシェル先輩の……」

目の前にあったドリンクを飲み干すリチェルに、ルカだけがハラハラしていた。
アルトはこの雰囲気に飲まれないようにと、少し鋭い目付きで上官を見据えた。

「……まさかあの黒い機体に乗ってるとは思わなかった」
「うん、よく言われる。新入りの人みんな"騙された!"って」
「………」
「私もわかってるんだよ、乗ってない時と乗ってる時で差がある事。
普段はやっぱりこんな感じだし、でも機体に乗ると何て言うか……癖があるでしょ?」
「いえ……別に、驚いただけです。機体の操縦は凄かったし」
「本当?ありがとう、アルト」

最初は飄々と話していたリチェルだったが、
新入りに両極端の表情を見せた時は、いつだって性格の差を受け入れてもらえるか心配になる。
しかしアルトがたどたどしく笑ってくれたので、嬉しくなって笑顔を向けた。

そんな時、緑の髪の少女が蒸籠を手にやってきた。

「お客様ー、娘々名物まぐろまんはいかがですか?」
「ランカー!聞いたよ、ミス・マクロスコンテストに出たんだって?」

リチェルが手をヒラヒラさせるとランカはうっと声を詰まらせた。
ランカはどうやらアルトと面識があるようで、気まずい視線をアルトに送った。
今年のミス・マクロスの報道がテレビで流れる中、その事を知らなかったリチェルは2人の顔を見比べていた。

「残念だったな……最後まで見られなくて悪かった」
「ううん、最初から無茶だったんだもん」

(……ん?もしかして、これは良い雰囲気ってやつ?)

敏感に空気を察したリチェルは、どうやら同じ事を考えていたらしいルカと目配せするとこっそりと席を外した。
隅に寄ったリチェルとルカは思わず小声で2人を見守っていた。

「何々?アルトはランカと友達なの?」
「そうみたいです、いつの間にか」
「ふぅ~ん、みんな青春青春っ」

リチェルはうんうん頷くと、誰も手を付けていないらしい酒を拝借してきて飲んだ。
ルカは少し意地悪がしてみたくなって聞いてみた。

リチェルさんはどうなんですか?」
「んー内緒♪」
「……本当にミシェル先輩と付き合ってるんですか?」

そういう噂がある事は知っていたし、何度か一緒にいる所を見た事もある。
だけどミハエルの彼女の入れ替わりが激しいのは確かであり、
その様子もミハエルの態度から判断しても"女遊びの一環"のように思えてならない。
彼女は、そんな関係を了承したというのだろうか。

遠くで何かが割れる音がした。まだ追いかけっこは終わりそうもない。
リチェルは特に何も考えていなさそうな顔でルカに笑った。

「うん、そうらしいよー」
「そうらしいって……」
「ルカだって好きな子いるんでしょ?ミハエルから聞いたよー」
「……もう、ミシェル先輩ってば……」
「青春だね、みんな健全健全」

うんうんとまだ何か頷いているリチェルだったが、
スッと目の前が暗くなったかと思うと、手に持っていたグラスが奪われた。

リチェルさん、俺の飲んだでしょう?」
「うん、飲んだ」

ニヤッと笑うと眼鏡が光り、ミハエルはリチェルのドリンクを飲んだ。
私の分がなくなる……そんな事を考えているうちに、微笑と共に両手にグラスが戻された。

「仕返し」
「……ああ、私のお酒が」
「こらーミシェル!!リチェルに何をするー!?」

遅れをとっていたらしいクランが猛スピードで突進してきたが、ミハエルはそれをヒョイと避けてみせた。

「何って、間接キス」
「な、な、な……何だとー!!!」

クランはリチェルの両肩をガシッと掴み、必死な形相で覗き込んだ。

「無事かリチェル!?何もされなかったか!?」
「うん、大丈夫だよクラン」
「おのれ~私の大切な親友を……っ!ミシェル!金輪際リチェルに触れるな!」

だがミハエルは挑発的な言葉をやめない。

「そうは言っても、触れてないだろ?ただ間接キスしただけで」
「やめろー!!リチェルが穢れる!!」
「はは、冗談だって」
「冗談で済む話ではない!!」

そうしてミハエルとクランの痴話喧嘩がさらに激化するのを、 リチェルはのほほんと笑って観賞している。

「あはは、楽しいねクラン」
「楽しくない!楽しくないぞリチェル!」


(内緒、か……)


解せない表情で、ルカは呑気なリチェルを見るばかりであった。











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非戦闘時の日常。こういう雰囲気好きです。

オペレーター3人娘の違いを出すのに苦労します。
誰のセリフかは、まぁ適当に当てはめて下さい。
特に支障はないですから。