ゆらいでゆれる 恋心に――――






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「兄さんフェリアは!?」

フェリアの事が気がかりでいてもたってもいられなくなり、
アルが宿を飛び出そうとした矢先に、目の前のドアが開いた。
戻ってきたエドにアルが詰め寄るが、期待していた表情が兄にはなかった。
俯いて、眉を潜めて、それでも無理して平気な顔をする揺らめきが代わりに乗せられていた。

一瞬で希望から絶望に堕ちていく感覚がした。


「……フェリアは?」


信じたくなかった。
こんな事実は認めたくなかった。


フェリアは……来ない」
「何で!?」

立ち塞がるようにして兄を見下ろすも、エドは床を見つめたまま笑っていた。

「俺達とは……もう一緒に行かない」
「そんな!兄さんはそれを説得しに行ったんじゃないの!?」


そう、だからわざわざ兄1人で行かせたんだ。
もしかしたら、フェリアの気持ちを変えさせる言葉を告げてくるかもしれないと、淡いような苦い期待があったから。

兄の役目だと思ったから、彼女は自分じゃなく兄の言葉を待っているのだから。


「説得したんだよ!だけど……『1人で考えたい』って……」
「だからってノコノコ帰ってきたっての!?」
「しょうがないだろ!?」

エドは怒気を含んだアルの手を振り切り、部屋の奥へ歩んだ。
途中で立ち止まり、アルに背中を向けたまま再びエドの顔が下を向いた。

「……俺達はフェリアを振り回してんだと」
「そんな事……信じたの?そんなの……本心で言ってる訳ないじゃないか!」
「でもあいつは叫びながらそう言ったんだよ!んなら帰ってくるしかねぇだろ!?」

大股でアルとの距離を取ると、ベッドの隣の椅子に腰を掛けた。
半分身を起こしかけたウィンリィを制し、おでこに左手をあてた。

「大丈夫か?」
「え、う、うん……だいぶ……熱は下がったけど……」
「兄さん!!」

アルは震えるくらい拳を握りしめた。


信じられなかった。
兄がフェリアを連れ戻さなかった事も、
ウィンリィの前で何事もなかったかのように至極穏やかに看病を始めた事も。

これ以上もなく苛立ちが募る。
あれだけ自分も大佐も兄の背中を押したのに、そのフェリアを連れて帰ってこれなかった目の前の兄に。


「エド……どういう事?フェリアは?ねぇ……何で帰ってこないの?」
「……フェリアは……俺達とは別の道を行く事になった」

風邪のせいではない青い顔でウィンリィはエドの腕を掴んだ。
エドは言葉を濁らせながらもこのいきさつを説明していた。

「な……何でそんな急に……!?」
「随分前から……そう考えてたらしい。フェリアにとって……俺達は重荷になるんだ……」


諦めきって話す兄が心底憎らしかった。


「兄さんはそれでいいの?本当にこのまま別れていいの?」


僕はよくない。
いつでも、どんな時もフェリアが一緒にいないと嫌だ。


「……兄さん……フェリアに言わなきゃいけない事あるでしょ?」
「…………」
「とても……とても大事な事……あるでしょ?」


その一言でフェリアの世界が変わるくらいの。


「ずっとずっと……フェリアと初めて会ったその時から……ずっと言ってない事あるでしょ!?」

そう……あの時から素直になってれば、こんな溝など生まれはしなかったのに。


「……ね……ねぇよそんなの……」


エドは目を見開き、驚いた表情でアルを見る。
だけど、次の瞬間には困ったように笑い、首を横に振りながらそう言った。

兄の吐き出すように言ったセリフに、鎧の体にもかかわらず全身の血が沸騰するような感覚さえする。
今まで溜め込んだ全てのものが、両の拳に込められて壊れそうなほどギリッと音を立てる。

本当は今すぐにでも自分が言って説得したい。
行動しようとしない兄じゃなく、自分がそれを告げてフェリアを連れ戻したい。

でも兄じゃなきゃダメなんだ。
僕じゃ……ダメなんだ。


「……兄さんがそんなんだから……フェリアは帰ってこないんだよ……!」
「…………」
「言って来なよ!今すぐ!」
「……お、俺は別に……」


何故この兄は動こうとしないのだろうか?
何を躊躇う事があるのだろうか?


「兄さんじゃなきゃダメなんだよ!」
「いや、俺は……」


その態度が、みんなを振り回してるって言うんだよ!
兄さんのあの時の態度から、全てがおかしくなってしまったんだから!


「兄さん!行きなよ!言ってきなよ!」
「……言わなきゃいけねぇ事を言うのは……アルの役目…だろ……?」
「!!!」


どこまでも、兄が憎くて憎くて……悲しかった。

僕が……そんな事できる訳ないのに。


「何で……何でだよ!兄さんには……あるじゃないか……
フェリアに触れられて、抱きしめてあげられる生身の腕と体が……兄さんにはあるじゃないか!!!」
「……っ…!アル!!」

騒がしい音を立てて、鎧の弟は部屋を飛び出していった。
思わず立ち上がって、茫然としたままその足音だけを聞いていた。

「…………アル……」

「エド……?どういう事?言わなきゃいけない事って……何?」
「……ん……」

ウィンリィの質問には、曖昧な返事だけを返した。
俯いてふと見下ろすと、ゴツゴツした鋼の腕の反対には、血色のいい人間の手が空気に晒されていた。

ゴソゴソと衣擦れの音の方を向くと、ウィンリィが額のタオルを抑えながら起きあがっていた。
状況がよくわからない、という顔でエドを伺うように見上げていた。

フェリア……そんな事、私には一言も話してくれなかった……エドとアルは……知ってるの?」
「いや……俺もさっき聞いたばかりで……」


エドが茫然と立ち尽くす部屋には暗い雰囲気が流れていた。


「……エド……言わなければいけない事があるなら……言った方がいいよ?」
「……なっ……」

ウィンリィがぽつりと呟いた言葉に、エドは一瞬動揺を見せる。

「それが何なのかわからないけど……それでフェリアが戻ってくるかもしれないんだよね……?」
「……ウィンリィ……」
フェリアは大事な、本当に大切な友達なんだから……そりゃあフェリア自身がそう言ったなら仕方ないけど……
……言いたい事は言っておかないと……後悔するよ……?」
「…………俺は……」

エドは金色の瞳を揺らしながら自分の拳を見つめた。
ウィンリィにわからない角度で、その頬には色が灯っていた。

「でも……フェリアを振り回してたのはやっぱり私かもしれない……」

怪訝そうなエドを余所に、ウィンリィは白いベッドのシーツを無気力にキュッと掴んだ。

「リゼンブールにエドとアルが戻ってきて、また旅立つって時に……私、フェリアも道連れにしてエド達に付いてきたから……」
「ウィンリィ……」
「ためらうフェリアを強引に誘って……フェリアは笑いながら一緒に来てくれたけど……本当は別にやりたい事があったのかも、しれない……ね……」

消えそうな声で、ウィンリィは眉をしかめて笑った。

エドが片膝をつきウィンリィの肩を支えると、ウィンリィは涙を浮かべた瞳で見上げた。

「これは……避けられない事なのかな……?みんな……こうやって別れていくのかな……?」
「…………!」


弱々しく笑ったウィンリィを見下ろすと、奥にフェリアの不安そうな顔が一瞬浮かんだ。

小さな頃から………俺の前でそんな顔ばかりしていたフェリアが。


本当は……笑顔が見たかった。






―――「本当にこのまま別れていいの?」―――






「…………よくねぇ……んなこと……俺は……認めねぇ……!」
「……エド?」


エドは首を振り、何かを払拭するように立ち上がった。
少し金色の瞳は強い眼差しを帯びていた。

「俺は……俺は……!」


『ずっと言えなかった事』で、彼女が立ち止まってくれるなら――――











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今回ちょっと短めでゴメンナサイ。

エドがヘタレになってます(苦笑)
ウィンリィが可愛くなってます(汗)