金髪の三つ編みに、少し濃い金色の瞳、そして覚めるような赤いコート。
それを……捨てなければいけないの?
friends9
「……ねぇ、ここに薬が置いてあるんだけど、何なの?」
アルはドアの外に置いてあった薬袋を持ち、部屋に入った。
中にはベッドに横たわるウィンリィと、傍の椅子に座る自分の兄がいた。
何となく2人の態度がよそよそしいのは気のせいだろうか。
「あ……そう言えばフェリアが薬をもらいに行ってくるって……」
「フェリアが?」
エドが窓の外を仰ぎ見ると、外は随分暗くなっていた。
「それ……いつ頃の話だ?」
「え……?」
ウィンリィはエドの強い目に見つめられて思わず俯いた。
「えっと……お昼ごろ……エドが来る前に……」
自分が来た後の事を思い出したのだろうか、エドは一瞬目を泳がせた。
その2人の変化をアルは見逃さなかった。
「じゃあ……ずっと帰ってきてないんだね兄さん?」
「……まさか……何かあったとか!?」
エドは慌てて立ち上がって動揺を見せている。
アルは手に持った薬袋を見つめた。
そこには、強く握ったであろう跡があった。
その跡をギュッと握りしめた。
「僕探してくる!!」
「お、おいアル!」
アルはもの凄い勢いで飛び出していった。
「……エドも行って!」
「ウィンリィ……でもお前風邪が……」
「私はいいから!フェリアに何かあったのかもしれないんだよ!?早く行って!」
「お、おう……!」
エドは躊躇いながらも部屋を後にした。
「アル!!」
「兄さん……」
振り返ると兄が走り寄ってきた。
「……っ……いたか!?」
「ううん、こっちにはいない」
「くそ、何処行ったんだ!まさか本気で誘拐とかされてんじゃねぇのか……!?」
エドはアルを追い越して再び走り出した。
アルはその場に立ち止まったままだった。
「何してんだアル、行くぞ!」
「う、うん……」
違う、違うんだよ兄さん。
フェリアは聞いたんだ。
兄さんとウィンリィの間にあった何かを。
だから……
「くそ、ラチがあかねぇ……!」
エドは悪態を付いた。
「……大佐に頼るのは癪に障るが……仕方ねぇか……!」
足を速めて夜の街中を駆けた。
アルもそれに続いた。
バァン!
「大佐ぁ!」
「何だね騒がしい」
エドが勢いよくノックもなしに駆け込んできた為、明らかに不機嫌になるロイマスタング。
とは言っても、こんな風に入ってくる人物は1人しかいないが。
「はあっ……はぁっ……さ、探してほしい人がいるんだけど……!」
肩で息をしながらも睨むように頼んでくるエドに、ロイは内心で笑った。
「フェリアの事か?」
「!何でそれ……!」
「知ってるんですか!?」
後ろから全く疲れていない鎧のアルがひょいと顔を出した。
ロイは偉そうに手を組んだ。
「あぁ、私の所にいる」
「はぁ!?何で大佐のトコにいんだよ……まさか、大佐が誘拐したんじゃ……!」
「馬鹿を言うな。中尉が連れてきたんだ」
「……ふぅん」
エドは怪訝そうな顔をした。
「ふ……そんなに睨む事はないだろう?」
「べ、別に睨んでなんか……!」
「慌てなくてもフェリアはきちんとこちらで保護する」
「……は?」
一瞬で不機嫌になったエドの表情を見て、ロイは更にニヤついた。
「どういう意味だよ……?」
「そのままの意味だが?」
「………!」
エドは一心にロイを睨み付けた。
「……何寝ぼけた事言ってんだよ……!フェリアは俺達と――!」
「一緒に旅をしている、とでも言いたいのかね。君からそんな台詞が聞けるとは思わなかったな」
「さっきから……何が言いたいんだよ大佐……」
ロイが嫌味っぽく肩を持ち上げた行為がさらにエドの神経を逆なでする。
「……フェリアは君達と距離を置きたいそうだ。それが彼女の希望だ」
「な……フェリアが?何で!?」
「それは君の方がよく知っているのではないか?」
「俺が?」
エドは記憶を辿らせてみる。
しばらくして、訳がわからないと訴える顔がみるみる赤く染まった。
「……ま、まさか……あの時の話聞いて……!」
「ほう、何か心当たりでもあるのか?」
「あ、いや……その……」
赤面して俯く表情は思春期の少年であった。
「だ……だけど何でそれでフェリアが距離を置きたいって言い出すんだよ!」
「それは私に聞かれても知らん。言っただろう?彼女の意思だと」
「………っ!」
困惑しきって下唇を噛んだ。
漆黒の瞳と金色の瞳が交ざり合い、少年の燐光が揺れた。
「……フェリアはどこにいる……?」
「それを聞いてどうする」
「決まってんだろ!フェリアと直接会ってくる!」
「連れ戻すのか?」
「当たり前だろ!」
「無理だな」
「あ!?」
「少なくとも、今の君では」
エドは机に詰め寄り、両手を思い切り叩き付けた。
「どういう意味だ!」
しかし、それで動じるロイではない。
「そのままの意味だ。それがわからないうちは、フェリアは君の元には帰ってこない」
「訳わかんねぇよ!そもそも何で俺らの問題にフェリアが出て行かなきゃならないんだよ!」
「……わからんか?……子供だな」
「……っ!」
今まで笑っていたロイが突然真顔になった。
射抜くような目にエドは一瞬たじろいだ。
「……いいだろう、フェリアの所に案内させてやる」
大佐はふっと嫌に笑う顔に戻り、背もたれに体重を預けた。
「行ってくるがいい、鋼の。君のせいでどれだけ周りの人間が振り回されているか、理解するんだな」
「!?俺のせいで……?」
ロイがすっと手を上げると、1人の案内役という人が現れた。
「連れて行ってやれ」
「ちょっ……待てよ大佐!まだ話が……大佐ぁ!!」
反論の言葉を上げる暇もなく、エドは半強制的に連れて行かれた。
エドの叫びは廊下に消え、司令室にはようやくの静寂が訪れた。
「……君は行かないのか?」
未だそこにいる、兄とロイの言い争いをただ見ていただけのアルにそう告げた。
静かに鎧の首が項垂れる音がした。
「は、はい……兄さんだけで行った方がいいかなって……」
「そうか、兄思いな弟……違うな、フェリア思いか」
ロイは目を細めて鎧を見据えた。
「それで……君は幸せになるのか?」
『幸せ』という言葉が出て、思わず自分に笑ってしまった。
「……僕は……」
「だが……フェリアはどうしたら幸せになるんだろうな。君も、鋼のも、もう1人の彼女も……」
「…………」
誰もが幸せになる方法なんて、あるのだろうか。
「……随分とエドワード君にたきつけましたね」
静かになった司令室で、リザは背を向けている上官にそう言った。
「あれぐらいしないと、動こうとしないだろうからな。……彼は子供だ」
「……よくご存知で」
「ふん……鋼のがここに来るたびに彼女の話を聞かされてれば、嫌でもわかる」
「……そうですね」
リザにも思い当たる節がある。
「それに……観光などと言って、一度4人でここに来た事があっただろう。
その時の雰囲気で大体状況は把握できる」
躊躇う兄、戸惑う弟、明るい彼女、遠慮がちな彼女。
すっと立ち上がり、大佐は窓の外を見た。
外は暗く、外灯の明かりしか見えなかった。
「……嫌だな、大人というものは。客観的にしか恋愛というものを捉えられなくなる」
「…………」
「悩むがいい、今の内に……誰もが幸せになる方法を必死で探すがいいさ……」
そんなもの、ある訳ないのだから。
「……ふぅ」
フェリアは熱い紅茶を飲み干した。
大佐に与えられた部屋は最低限生活していく用品が揃っていた。
そういえば、1人でこうやって落ち着いたのは久しぶりかもしれない。
「……私は……いつまでエドと一緒にいられるんだろう……」
大佐に言われた事をずっと考えていた。
幼なじみって言ったって、それぞれの人生は違う。
確かに大佐の言う通りだと思う。
エドはこれからも元の体に戻る為に旅を続けるだろう。
だけど……私は?
私は、錬金術の勉強の為に無理矢理付いてきた。
「私には才能がないからなぁ……限界かもしれないね、もう……」
錬金術自体、エドに近づきたくて勉強してたみたいなものだから。
それに――――
コンコン……
ふいに遠慮がちなノックの音がした。
「……はい?どなたですか?」
「…………俺」
「エ……エド!?」
私は胸が高鳴った。
当のエドがやってくるとは思っていなかったから。
だけど次の台詞で、私は別の意味で鼓動が強く打ち付けられた。
「……こんなトコで何してんだよ」
エドの目が……怖かった。
「何してるって聞いてんだよ」
「あ、えっと……ごめん……」
「ごめんじゃなくて」
「え……っと……その……」
「よりにもよって何で大佐に……!……って……違う……こういう事が言いたいんじゃなくて……!」
エドは詰め寄りかけて、何かをかき消すように首を横に振って俯いた。
言葉が見つからない、というような顔付きだった。
その表情を伺いながら、私は口を開いた。
「……ごめん……しばらく距離を置きたいの……色々考えたくて……」
「……ここに残るって言いたいのか?」
「…………うん」
エドが見れなくなって私は俯いた。
「……考えたいの。このまま旅を続けてていいのかとか、これからの事とか……
……ほら、私達は結局他人なんだし!いつかは別々の人生を歩まないといけないんだし……!」
必死に弁解した。
これ以上一緒にいられなくて逃げました、なんて言えない。
「……いい機会かなって。東部なら中尉も大佐もいるから、相談に乗ってくれると思って……」
「…………」
何か言ってよ、エド。
……でも、何も言って欲しくないよ。
このまま……何も言わずに帰って。
「……フェリア……さっきの聞いたのか?」
「え……?」
「その……俺と……ウィンリィの話……聞いたんだろ?」
「………!」
「そうなんだな……」
私が聞いてた事……知ってる!?
「…………うん……ごめん……」
それしか言えなかった。
「その……聞いてたなら知ってると思うけど……俺は―――」
「違うから!気まずいからとかそう事じゃないから!」
エドは何かを言おうとした。
だけど……もう聞きたくないのよ。
特にエドの口からは……
もう、苦しみたくない。
「前から元々考えてた事だから、エドとウィンリィの事は関係ないの!」
「……フェリア聞けよ」
「1人で考えたかったの!1人になりたかったの!」
「フェリア!」
「だからお願い……帰って……!」
笑いながら叫ぶ私の肩に置こうとしたエドの手が止まった。
「……何だよ……じゃあ理由は何なんだよ!」
「だから―――」
「俺達はずっと一緒にやってきたじゃないか!確かに俺とアルだけで出て行った時期もあったけど、
それ以外はずっと一緒だったろ!何で別れる必要があるんだよ!?」
「エド……」
何だろう……初めてエドに必要とされてる気がした。
「でも……これからもそうだとは限らないでしょ?」
「それは……!」
「いつかは別れるんだよ?私達、大人になっていくんだよ?
大人になってもエドとアルには錬金術がある。ウィンリィには整備士がある。じゃあ私は?」
「お前にだって錬金術が……」
「私にはもう限界なの、錬金術は……だから、私はからっぽ」
「そんな事……」
「だから考えたいの、1人で……」
嘘じゃないよ。
これは本当に思ってたんだから。
「……んなんで……納得できるか!」
「エド……」
「いつかは別れるかもしんねぇけど、だからって今別れなくたっていいだろ!?」
……優しいね、エドは。
弱い私をこんなにも引き留めようとしてくれる。
「せめて……俺とアルの体が元に戻るまでは一緒にいろよ!それから将来の事考えればいいだろ!?」
だけど……その優しさが、今はもう辛いのよ。
「……ごめん……帰って……」
どうしていいかわからなくなるから。
「フェリア!」
その優しさを、もう一度欲しいと思ってしまうから。
「もう……私を混乱させないで!」
私は……そんなに強くないの。
「フェリア……!」
「……1人にさせてよ!私は……強くなりたいの!自立したいの!」
遠くで見てるしかなかった。
付いていくしかなかった。
そんな弱い私は……もう嫌。
「エドがいると、私は何もできなくなるの!」
緊張して、泣いて、素直になれなくて、何もできないの。
ウィンリィとの仲すら応援する事もできなくて。
エドにただ付いていく自分が嫌。
ウィンリィに憧れるだけの自分が嫌。
アルに頼りっきりな自分が嫌。
……もっと……強くなりたい。
「もう……誰にも振り回されないで、1人で生きられるようになりたいの!!」
「………っ!!」
「だから……帰ってよ!!!」
言い切った後で私は我に返った。
「あっ……!」
エドに酷い事を言ってしまった。
エドの優しさを跳ね返してしまった。
……私の全てだったエドを拒絶してしまった。
「ご……ごめっ……!」
エドは俯いたままだった。
「……初めて聞いた、フェリアがそんなに叫ぶの」
「……え……?」
エドは笑っていた。
……とても苦しそうに。
「……さっき大佐に言われたんだ。俺のせいで振り回されている人がいるって」
「え………?」
「俺は……フェリアも振り回してたんだな……」
エドは拳を握りしめた。
微かに震えていたのは……見間違いだろうか?
「ごめん……そういう意味じゃないの……!」
「お前は……俺達といても楽しくなさそうだし……俺といても、心から笑わないし……」
「それは違っ……!」
「今まで一緒にいたのは……たぶん俺がわがままなだけだったのかもしれない」
違う……!
「……ごめん、フェリア。もう……無理しなくて良いから」
「エド!」
違うよ……!
「もう……振り回したりしないから……」
エドは部屋のドアを申し訳なさそうに開いた。
傷ついた顔をして、必死に私に笑いかける。
「違うのよエド!私はエドが嫌なんじゃなくて―――!」
「じゃあな……フェリアはフェリアの道を行けばいい……」
「エド!待って!!」
「今まで……ありがとう」
「エドっ!!」
私の声は遮られた。
視界にあった眩しい金髪と鮮やかな赤いコートが、今は無機質なドアの色だけになってしまった。
「エドーっ!!!……うっ……っ……!」
違うよエド……
違うのよ……
お願いだから……私を捨てようとしないで……
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うわ~~ぁ~~ぁ~~!
し~らないっと(オイ……/汗)
……しかし、大佐を「ロイ」と表記するのがめっちゃ恥ずかしい(笑)
大佐は「大佐」なんだけどなぁ………客観的って難しいですね(ハハハ)