「やっぱりフェリアちゃん……よね?」
ホークアイ中尉は私に傘を差し出しながら微笑んだ。
いつもとは違って、降ろした長い髪が肩にかかっていた。
「……はい」
度々エドが東方司令部に出向く時、私も一緒に付いていった事があった。
その時に中尉とは初めて会った。
仕草も言葉も、大人の女性だなぁと憧れる人だった。
「どうしたの?こんな雨の中にいたら風邪引くわよ?……エドワード君達は?」
最後の言葉で私はビクッと肩を強張らせてしまった。
その僅かな変化を中尉は見逃さなかった。
「……とりあえず、何処かに入りましょう」
俯いてる私の肩を支えながら、中尉は歩き始めた。
てっきり食べ物屋とか宿に入るものだと思っていたら、中尉は東方司令部近くの自室に私を招き入れた。
……ここが東部だという事を完全に忘れていた。
部屋に入ると、中尉は柔らかいタオルを差し出してくれた。
「ありがとうございます中尉……それと、ごめんなさい……」
「いいのよ。早く拭かないと風邪引くわよ?」
「……はい……」
手触りのいいタオルからは良い香りがした。
「……何かあったの?」
中尉は私の冷えた頬に手をやり、涙の跡をなぞった。
『泣いているわよ?』と暗喩に言われている。
中尉とは数回しか会った事がないのに、何もかも見透かされているようだった。
「……何でも……ないです」
「何でもないことはないでしょう?ここには私とフェリアちゃんしかいないから……大丈夫よ?」
優しい……お姉さんみたいで、私は耐えきれなくなった。
もう、限界だったんだ。
ほんの小さなきっかけでも、私はもう……壊れる所だったのかもしれない。
「……っ……中尉ぃ……私、もう……どうしたらいいか……!」
中尉が拭ってくれる指の上に、さらに熱い涙が伝った。
「フェリアちゃん……」
数年間溜め込んだ涙は、いとも簡単に溢れてしまった。
friends8
「やあ、久しぶりだなフェリア」
東方司令部で一番偉い人、中尉の直属の上官、
ロイ・マスタング大佐は私をにっこりと出迎えた。
中尉には「エド達の宿には帰りたくない」とだけ言った。
すると悩んだ中尉は、涙の引いた私を東方司令部の大佐の部屋に連れてきた。
「あの人はあれでも頼りになる人だから」と付け足して。
「どうしたんだねこんな夜に?鋼の達が心配するぞ?」
嫌な人だ。
わかっていてそんな質問するんだから。
「……帰りたくないんです」
「ほう……何故だね?」
「…………」
私は思わず笑みを漏らしてしまった。
尋問を受けてるみたいで、私の弱さがさらけ出されるみたいで。
この際尋問されて全て出してしまう方が楽な気さえもした。
「私は……逃げ出したからです」
あのドアから逃げたんだ。
ふっと大佐の表情から笑顔が消えた。
こういう時の大佐は格好いいのに……なんて他人事のように思った。
「君は……鋼のが好きだったのだろう?」
「……知ってたんですか?」
「私を誰だと思っている」
「……それもそうですね」
大佐は椅子に背中を預けた。
「私の見る限りでは、君は鋼のが好きだった。そして、もう1人の彼女も……」
何でもお見通しなんだ。
私が何から逃げたしたのかも。
「もう……疲れたんです」
ウィンリィの応援をする事も、エドを好きでいる事も。
堰を切ったような止まらない想いを、大佐は全て聞いてくれた。
大佐に申し訳ないと思いながらも、私はもう我慢する事が出来なくなった。
「私は……彼女には勝てないんです。初めて会った時から」
リゼンブールに引っ越した時、引っ込み思案な私は中々友達が出来なかった。
そんな時、最初に私に声を掛けてくれたのが……ウィンリィだった。
向日葵のような笑顔で私に手を差し伸べてくれた。
きっと、一生彼女には敵わない。
「……君は、壊せないんだろう?」
そう、壊せないんだ。
エドとの今の友達の関係を壊す事も、
ウィンリィとの今の友達の関係を壊す事も。
「でも……結局は私が弱いからなんですよね。告白する勇気もなくて、彼女の応援もできなくて……」
そんな自分に笑ってしまう。
「もう……どうしたらいいかわからないんです……」
透明な涙がフェリアの頬を伝った。
「…………」
大佐はしばらくの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「フェリア……しばらく離れてみてはどうだ?」
「え……?」
「君は、幼なじみという限りなく小さな世界にいて苦悩している。
君にとっては全てだろうが、私にしてみれば何とも小さな世界だ」
「…………」
大佐は、からかっているのかそうじゃないのか、何なんだろう。
「幼なじみと言っても、これからも一生一緒にいる訳ではない。いつかは……離れる事になるんだ。
所詮は他人だ、それぞれ別の人生がある」
……そうだ、このままエド達の所に戻っても、ずっと一緒にいられる訳じゃないんだ。
私達は、何があっても、いつでも一緒に行動するんだと思ってた。
でも、私には……私だけの人生があるんだ。
エドにはエドの人生があるみたいに。
「1人で、ゆっくり考えてみてはどうだ?」
大佐はゆっくりと腰を上げると、フェリアの前まで来て見下ろした。
「近くに君の部屋を用意させよう。答えが出るまでそこにいるといい」
答えなんてわからないけど……宿に帰るよりかはいいかもしれない。
「…………はい……」
ふいに大佐は私の肩に手を置いた。
「全てを知ったとき、君は……どんな答えを出すのだろうな」
「え………?」
「君は自分の想いよりも他人の想いを尊重しすぎる。少しは……自分の気持ちを表に出してみたらどうだ?」
「…………」
答えは……見つかるのだろうか?
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大佐&中尉特別出演。
大佐が何故かマジメです(笑)
幼なじみではない、第三者の立場が欲しかったので出しました。
それと……その他采配を振ってくれる人がね(苦笑)