始まりは、数年前の雨の日だった。
friends7
「フェリア~風邪だって?」
「大丈夫、フェリア?」
「あ、ウィンリィにアル……」
霞んだ視界で私は部屋にやってきた2人を見た。
アルがまだ、生身の体の頃だった。
みんなと友達になったばかりだったと思う。
「はい、フェリアにお見舞い!」
「ばっちゃんのシチューと~、リンゴと~、あとしゅくだい!」
「え、宿題……!?」
「うん、あの先生いっぱいしゅくだい出すんだも~ん!」
「ど、どうしよう……」
「だいじょうぶだよフェリア!元気になったらこのウィンリィちゃんがしっかり教えてあげるからね!」
「僕も教えてあげるよフェリア!」
「あ……ありがとう、ウィンリィ、アル……」
そう感謝しながらも、私はキョロキョロと辺りを見回した。
「……エド君は……いないの?」
それだけが気がかりだった。
初めは、苦手だった。
だって……いつも私には笑ってくれないし、あまり話し掛けてくれないから。
エドは私が嫌いなんだと思ってた。
「う~ん……それがどこにもいなくてさ~」
「兄さんどこ行ったんだろうね……?」
それを聞いて安心したんだ。
また、むすっとした顔を見なくて済むから。
「あ、じゃあ……あんまりじゃましたら悪いよね?」
「そうだね、もう行こっか」
「じゃあねフェリア!早くよくなってね!」
「うん……ありがとう……」
ウィンリィとアルは好き。
仲良くなれて良かったって思う。
私は、嬉しくなってベッドに潜り込んだ。
ふいに、ノックの音がした。
もう辺りは暗かったから、あれから数時間は経っていたのかも知れない。
「う~ん……だれ?」
「……俺」
思わず飛び起きてしまった。
「エ、エド君……!?」
「……入って……いいか?」
「え、う、うん……」
私は慌ててシーツを顔まで被ったんだ。
エドと、どんな顔をして合えばいいのかわからなかったから。
「…………」
「…………」
雨の音がやけにうるさい。
気まずい雰囲気が流れてたと思う。
やっぱり怖かった。
「……これ」
「え……?」
エドは手に持っていた木の欠片みたいなものを床に置いた。
そして、その回りに円とか文字を書き出した。
「……エド君?」
聞いても答えてくれない。
訳がわからなくて、ただ書き終わるのを待っていた。
バシッ!!
「うわっ!」
青白い稲妻が走ったかと思うと、一瞬のうちに木材は馬の置物に変わっていた。
「……す、凄い!馬だぁ!」
キラキラした瞳で覗き込んでいると、エドは私の手に木馬を乗せた。
両手で包めるほどの大きさで、目が可愛いと思った。
「……やる」
「これを……?」
顔を上げるとエドはそっぽを向いていた。
「……早く良くなれ」
絞り出すような声だった。
私は呆気にとられていたと思う。
だって、いつも私にはしゃべってくれないエドが「よくなれ」って………
「……あ、ありがとう……エド君……!」
私は誤解していたのかもしれない。
本当は……
「……なぁ」
「何……?」
「……その『君』っての……やめろよ」
「エ……エド君?」
「だからっ……何で俺だけ……」
確かに、エドだけ『エド君』だった。
「だって……エド君、私の事嫌いなんだと思って……」
「そんな訳ないだろ!?嫌いだなんて……思ってない」
「じゃあ……『君』なしで読んでいいの?」
「当たり前だって!」
身を乗り出して大声を上げたのに、不思議と怖くなかったんだ。
もしかして、本当は……
「じゃあ……エ、エド……」
様子を窺うように見上げると、エドは吊り上がっていた眉を降ろして笑った。
そして、私の手にある木馬の鬣を撫でた。
「……これで……やっと友達になれたな、フェリア……」
多分、本当は……とても優しい人なんじゃないかって、思ったんだ。
もう、怖いとは思わなくなった。
「ありがとう……エド!」
満面の笑顔をプレゼントしたんだ。
そしたら、エドは少し驚いた顔をした後、私に向かって優しく笑ってくれたんだ。
金色の髪と少し濃い金色の瞳が光って、とても綺麗だったんだ。
本当は、優しい人なんだ。
そうなんだよね……エド君?
あれから、エドは苦手な人じゃなくなった。
そればかりか、気が付けば私はエドばかり見ていた。
もう一度、私の前でも優しい笑顔を見せてくれないかなって。
私だって……頑張ったんだ。
ただ……見たかったんだ。
それでも、ウィンリィ達に見せる顔は私にはしてくれなくて。
ウィンリィ達の前では、あんなに一杯笑ったり怒ったりするのに。
何で私には笑ってくれないんだろうって、悔しかった。
何で私にはしゃべってくれないんだろうって、寂しかった。
笑ってほしかったんだ。
少しでいいから、ウィンリィ達に向ける笑顔を私にもして欲しかった。
あの木馬は宝物になって、部屋の目立つ所に飾った。
でもしばらくして、私があの木馬を貰うより先に、ウィンリィが2人から人形を貰っていたという事を知った。
宝物なんて……もう言えなくなって奥にしまい込んだんだ。
もう一度、私に笑ってほしかったんだ。
エド君は、優しい人なんだってわかったから。
エド君が、言ってくれたんだから。
私とエド君は『友達』なんだって。
―――もう一度……私を見てほしかっただけなのに――――
「……はぁっ……はぁっ……!」
走るたびに雨が顔を濡らす。
髪から滴る水が、私の熱い涙を洗い流してくれる。
逃げた。
幼なじみが、好きな人に告白する場面から。
耳障りな雨の音が私の聴覚を侵す。
さっきも、こうやって何も聞こえなければよかったのに。
大きな雨粒が私の目にも入り込む。
どんな時も、こうやって何も見えなければよかったのに。
エドが笑った顔なんて、忘れればよかったのに……
フェリアは立ち止まって首を横に振った。
「……嘘……無理だよ…っ……忘れるなんて……!」
忘れられないから………笑ってくれなくても、仲間外れにされても、耐えてきたんだ。
今度こそ、私に笑ってくれるかもしれないって………
数年が経って、エドは時々笑ってくれる。
その時紡がれるエドの言葉は、やっぱり優しくて。
嬉しくて涙が出そうになった時もあった。
でもウィンリィと話す時は、それ以上に笑顔で、表情豊かで。
……また、涙が出そうになったんだ。
「もう……どうしていいか……っ…わからない……」
諦めないといけない。
でも、その度に私の中の『エド君』が笑うんだ。
「もう……帰れない……」
これ以上、優しい笑顔なんて見たくない。
もう決して、私には向けられなくなるんだから……
雨が冷たい。
あの時は、とても温かい雨だと思ったのに。
「………フェリア……ちゃん?」
私の回りだけ雨が止んだ。
顔を上げると、こちらを伺ってくる女性がいた。
「……ホークアイ中尉……」
もう、雨の日に『友達』が来てくれる事はなくなった。
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過去編も混じり。
まぁた主人公が暗い……。
ただ引っ込み思案なだけじゃないんです。
今までの積み重ねが重くのし掛かってるんですよ。
彼女とエドのすれ違いが、ここまで溝を作り出しましたとさ(暗っ)
でもだんだん……主人公の気持ちがこんがらがってきました(汗)
……子供時代のクセにエドが大人っぽい。