もう、何から逃げてるのかもわからない。

ただ大事にしてたのは、友達の想いと……友達との距離。






friends6






「ウィンリィ~?いい加減起きようよ~」

私がウィンリィの肩を揺らしても、その主は『うん……』とだけ。
いつもはこんなに寝起きが悪くないのに。

「……ウィンリィ?」

嫌な予感がして、無理矢理布団を引っぺがし赤い顔に手を乗せた。

「ウィンリィ!熱があるじゃない!」
「う~……そうみたぃ……」
「どうして言わないの!?」
「ぅ……だってぇ……」


ウィンリィの気持ちはわかる。

どんな状況であれ、エドに迷惑はかけたくない。
ここで風邪だと言ってしまえば、優しいエドとアルの事だから絶対心配する。
エド達には……自分達のやるべき事だけをやっていてもらいたい。

……私にもその感情はいつでもある。


「…………」


本当にウィンリィはエドが好きなんだ。
同じ人を好きな私達の、同じ気持ち。

どうしようもなく不安だった。
私の全てをウィンリィがやってしまう。

エドに愛されるという、ただ一つの願いすらも。


「じゃあ、大人しく寝ててね。今タオル濡らしてきてあげるから。
それと……エドとアルには言わないでおくから……」


フェリアが精一杯笑うと、ウィンリィは少し驚いた表情をしたが、その後弱々しく笑った。


「ありがと、フェリア……」

可愛いな、と素直に顔を綻ばせた。






あれから、フェリアはパタパタと2つの部屋を行き来し、慌ただしく動き回った。

『ウィンリィは疲れちゃったみたいだから寝かせてあげてね?』と、エド達を諭し見送った。
何か言いたそうな顔をしたエドだったけど、そうか……と言って出て行った。

そして食堂でお粥を作ってもらい部屋に持って行く。

「はいウィンリィ。お粥なら食べられるでしょう?」
「……ありがとう……」

額に濡れたタオルを置いたウィンリィは目を潤ませていた。
それが熱のせいだと解っていても可愛らしく見上げてくる瞳は、女の私でも鼓動が速くなる。

「……エド……何か言ってた?」
「ううん……何も……」
「そう……」


ウィンリィは嬉しそうな顔をしながら、どこか寂しそうな目をする。


「…………」

私にはわかる。


――迷惑をかけたくなくて自分が風邪を引いている事は黙っているけど、本当は少しでも心配してほしい――

そうウィンリィの瞳は語っていた。


……どこまでも、私と同じ感情を持っているんだね。


「……ウィンリィは……本当にエドの事が好きなんだね……」
「え……何、急に?」

ウィンリィの顔は幾分か赤さを増した。

フェリアは俯いて顔が見えない。

「……ずっと……好きなんだね……?」
「…………うん」

熱で掠れた、だけど強い声が返ってきた。


私と同じ。
彼女と同じ。

だけど、私と彼女には決定的な違いがあった。

……行動に起こしているか、という事。

私は……彼女が好きで、憧れて、羨ましくて……恨めしい。


「……ウィンリィなら……エドを支えていけるかもしれないね……」
「え……?」


負けたくない。

けど、とっくの昔に負けていたんだ。


初めて、ウィンリィに遠慮してしまった時から。

いつも仲が良かったエドとウィンリィに……私が入っていけなかっただけ。
ウィンリィの想いが強すぎて……何もできなかったんだ。


私は……役立たずだ。

ここにいたって、私のやるべき事などないんだ。


「……何でもない……私、近くのお医者さんに薬もらいに行ってくるね……大人しく寝ててね」
「う、うん……ごめんね……?」
「いいんだよ……」


それぐらいしかできないから……






「すいません、薬を……」

フェリアは町医者の扉を叩いた。

近くに大きな病院がある為、この小さな診療所はそこまで繁盛していない。
だけど、こういう医者との距離が近い病院の方が安心できてフェリアは好きだった。

「あ、フェリアさん!どうしたんですか?」

助手の看護婦が迎えた。
彼女とは街でよく会うので、お互いに顔見知りだった。

「友達が風邪を引いて……」
「あ、はい!すぐに先生が来ますのでソファーに掛けて待ってて下さい!」

にっこりと笑って奥に入っていった。

フェリアはあたりを見回した。
ここは宿と違って喧騒に満ちてはいない。
病院という独特の雰囲気が、静けさを導くのかもしれない。

ゆったりした気持ちになれる。


「こんにちは、フェリアさん」

顔を奥に向けると、随分白髪が交じった優しそうな男性が笑っていた。
フェリアは深々と頭を下げた。

「あ、こんにちは先生」
「今日はどうされました?」
「友達が熱を出してしまいまして、薬をいただきに……」
「そうですか。それでそのお友達はどんな状態ですか?」

フェリアはウィンリィの症状を事細かに説明した。
先生は頷いて、助手の彼女に薬の指示を出した。

そして、どっこらせ、とフェリアの隣に腰掛けた。

「お友達と旅をされてるそうですね?」
「あ、はい……私は錬金術の勉強の為ですけどね……」
「そうですか…私も昔、錬金術を学んでいた事があるんですよ?」
「へぇ~……そうなんですかぁ!」
「でも私には才能がなくてねぇ……諦めてしまいました」
「…………」


私も……才能がない。


「それに……それ以上にやりたい事が見つかりましてねぇ」
「やりたい事……?」
「それはですね――――」
「先生ーーー!!」

先生が何か言おうとしたと同時に、勢いよくドアが開いた。
入ってきたのは、松葉杖に体を預けながら器用に駆けてくる女の子だった。

「先生見て見て!!こんなに元気になったよー!!」

女の子は満面の笑みでギプスのはめてある右足をブラブラさせた。
先生は嬉しそうに女の子の頭を撫でた。

「そうか……よかったね」
「うん!先生のおかげだよ!ありがとう!!」
「先生こそリアラの元気な姿が見られて嬉しいよ」

リアラと呼ばれた少女は松葉杖をカツカツ言わせて、待合室中を走り回った。

フェリアも顔を綻ばせた。
少女は本当に嬉しそうで、見ていて微笑ましくなる。

「リアラ!そんなに走り回ったら怪我が治らないわよ!あ、まぁまぁ先生!騒がしくってすみません……!」

母親らしき人物が慌てて入ってきた。

「大丈夫ですよ、お母さん。もうすっかり痛みもなくなったようですし」
「そうそう!もう痛くないもーん!」
「リアラ!……先生、本当にありがとうございます……ほら、もう行くわよ!」
「え~?もうちょっとぉ~!」
「ダメよ!先生だってお仕事があるんですから!」
「……ちぇ~……」

先生を余所に、母親は少女を引っ張った。
外の通りに出た所で親子はこちらを振り返った。

「先生……どうもありがとうございました……!」
「先生!またね~!!」
「あぁ、またねリアラ……」

先生はどこまでも優しく手を振っていた。
少女が何度も振り返り、見えなくなるまで、いつまでも。


「私は……神の如き錬金術よりも、自然の命に生きがいを感じたんです」
「自然の……命?」

先生は入り口から通りを眺めていた。
通りでは人が行き来し、ある人は先生に頭を下げていった。

「錬金術は確かに素晴らしい技術です。
物質を分解、再構築し、形を変える……私達は神の技術を手に入れました」


錬金術は……神の技術。
そう呼べるほど、錬金術に出来ない事はほとんどなかった。


「それよりも私は……『笑顔』の方が誇らしかった」
「……『笑顔』……?」
「そう、リアラのような純粋な笑顔の方が……」

先生は再びソファーに座ると、古いそれはギシッと音を立てた。

「『命』は……自然の中の流れにある。死んでしまったら、もう戻る事はない。
それは……錬金術でも侵す事の出来ない循環なんだよ」


唯一できない事は、人体錬成。
神に近づきすぎた者は、罰を受ける。


「医者という仕事は……その『命』を治す手助けができる。
死んでしまったら、やはりどうする事もできないけれど……少しであっても、『笑顔』を守る事はできる」
「……そうですね」


通りを歩く人で先生を知っている人は皆、笑顔で先生に挨拶する。

腰が痛いだの、もう病気は治っただの、話す内容は違うけど、皆笑顔だった。
それを笑いながら聞いている先生は本当に嬉しそうで。


「何か難しい事を言ってしまったけど……理由なんて簡単だよ。
限られた力でも、目の前にいる人を助ける事ができる。少しでも私の力が役に立つ。
そして、あの小さな『笑顔』が……何より私の心を満たす」


リアラという少女の向日葵のような笑顔が心に残って。
ただ見ていただけの私でも、何だか心が温かくて。

確かに……錬金術よりもずっと価値があると思った。


フェリアさんも……自分が何をしたいのか、自分にとって何が幸せが、よく考えてみなさいね」
「先生……」


先生の表情はとても柔らかくて。
こんな人物になれたらいいな、なんて私は笑い返した。

そんな事を考えていると、ちょうどタイミングよく薬を渡された。

「すみません、話しすぎて遅くなってしまいましたね。早くお友達に飲ませてあげなさい」
「……はい。色々と、ありがとうございました……」











「う~ん……」

ウィンリィは寝返りをうった。
額のタオルがはらりと落ちた。

ぬるくなったタオルを冷やそうと、だるい体を起こした。


―――と、コンコンという木の音が部屋に響いた。


「……誰?フェリア?」
「……俺」

入ってきたのは、金髪金目の少年だった。

「なっ、エド!?な、何で……!?」
「……フェリアの様子がおかしかったからな」

そう言い、ウィンリィのすぐ隣まで歩みよった。
ウィンリィは顔を真っ赤にさせて慌てて布団を鼻まで被った。

エドはすっと額に手を当てた。
左手のひんやりとした感触が気持ちよかった。

「やっぱり風邪引いてたんだな。何で言わないんだよ」
「……だってぇ……エドとアルに迷惑かけたくなかったんだもん……」

エドは溜息をついた。

「何言ってんだよ。んなもん迷惑になる訳ないだろ?」
「でも……今こうしてる間にも図書館で本を読む時間が減っていくんだよ?」
「これぐらいどうって事ねぇよ」
「でも……」
「いいから黙ってろ……少しは看病させろ……」

エドは少し怒った顔でぬるくなったタオルをとり、氷水の入った桶で冷やした。


ウィンリィはそれをじいっと眺めていた。

怒りながら、自分の額にタオルを当ててくれる、幼なじみを。

エドはベッドの隣の椅子に腰掛けた。
その仕草も、ウィンリィには胸を躍らせるだけで。


「エド……」
「何?」
「エドって……優しいね……?」
「……んな事ねぇよ」


何を思ったのか、ウィンリィは布団を頭まで全部被ってしまった。
だけどしばらくすると、真剣にエドを見つめた。

「…………それは……私だから……?」
「え……?」

ウィンリィの顔が真っ赤だった。
それが熱のせいだけではない事は……さすがのエドでもわかった。

「わ、私……私ね…………!」


ウィンリィは布団をぎゅっと掴んだ。











……命と……笑顔か……


フェリアは俯きながら宿までの道を来た。
先生に聞いた話が、ずっと心に響いている。

「あ……!遅くなっちゃった!」

はっと我に返って、フェリアはいそいそと宿の階段を上った。
寝てるウィンリィを起こさないように、音は限りなく小さく。

ふと、私達の部屋の前まで来て、中から話し声がするのがわかった。

……?誰だろう?


ノックの音を止めて、耳をすました。


「わ、私……私ね…………!」


ウィンリィ……?


「……ずっと……ずぅっと……エドが、好きだったの……」
「!!!」


全身が金縛りにあった。


「小さな時から、ずっと……エドが好きなの……!」
「……ウィンリィ……」


エドがいるの……!?何で……!?


頭が真っ暗になる。
足が震えてガタガタ言いそう。
ノックをしようと上げられてた腕が痙攣してる。


ウィンリィはエドが好き。
エドはウィンリィが好きかもしれない。

それが……確信に変わっちゃう!

……やだ!最後の望みを消さないで!
私を置いて行かないで!


グルグルと駆けめぐる。

そして、頭によぎる未来。
幸せそうに笑うウィンリィと、そして……優しい表情をウィンリィに見せるエド。


見たくない……!
もう何も見たくない……!


『恋人』という、彼と彼女を見たくなくて……


私は逃げた。
エドが返事をする前に、走り出した。


全てから逃げた。


ドアの片隅に、強く握り跡が付いた薬袋を置いて……











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あちゃ~逃げてしまいました主人公(笑)

頭ではわかっていても、心がついていかなかったようです。
その辺の心理は、次回ぐらいに詳しく。

……でも、だんだんイライラしてきました(自分で書いといて……)