私の嘘つき。
friends5
「……どうした?今日はさらに元気なさそうだけど……」
エドが私に話し掛けてくれた。
それだけで高鳴る心臓の音がうるさい。
素っ気ない質問の中に優しさが含まれるエドの言葉。
私には言葉数が少ないからいつも噛みしめて聞いていた。
だから今も、私に向けられる金色の瞳に吸い込まれそうになる。
―――「ずっと前から……エドが……好き」―――
それももう……素直に喜べなくなるんだ。
私はこの優しさに浸ってはいけないんだ。
完全に浸ってしまったら……彼女を悲しませてしまう。
「え?そんな事ないよ……?」
これからも続けなくてはいけない『平静を装う』。
「……寝てないのか?」
「え……?」
いつもなら「そうか」で終わるエドの言葉が続いた。
「な、何で……?」
「目の下、クマできてる」
「あ…………」
フェリアは目を押さえた。
自分では見えないけど確かに瞼も少し腫れてる。
「……ちょっとね……色々考え事してて……」
「…………そうか」
「…………?」
……エド?
何でそんな困ったように笑うんだろう……?
「はいは~い!もう~エドってば!」
「な、何だよ……」
「あんまり乙女を困らせちゃいけないよ~?」
ウィンリィは助け船として私とエドの間に入り込んだ。
私とエドの間を裂かれた……何て思っちゃいけない。
「(恋する乙女は夜に寝られない事もあるのっ!)」
「(……わかってるよ……)」
私をよそに内緒話が展開される。
ウィンリィはほんとに自然で。
エドの傍に当たり前のようにいる。
ウィンリィは時々花が咲いたように笑う。
桜色の頬が何とも可愛らしくて、私は苦笑するしかない。
ウィンリィはエドが好き。
それがありありと感じられて、2人から離れた。
ウィンリィの幸せそうな顔の意味を知って、平気でいられる程強くない。
だって……どうしたって私の入る余地はないじゃない。
仮に入ったとしても、それは華やかなウィンリィの表情を曇らす事になるんだ。
「……フェリア?」
「…………」
私は無意識にアルの鉄の腕を掴んだ。
何かに縋りたかったのかもしれない。
「……あ!ね、ねぇエド!」
急にウィンリィのわざとらしい台詞が聞こえた。
「……何だよ」
「あ、アレアレ!」
「アレじゃわかんねぇって」
「いいから来てってば!(鈍感なんだから!)」
「(あ、あ~……そういう事ね……)……あ、おい!そんな引っ張んな!」
エドの腕を引いて街の出店の方に入り込んでいった。
急に何事かと顔を上げると、ウィンリィがこちらを向いてわざとらしいウィンクをした。
それとエドの棒読みな台詞から引き出される答えは……
「…………」
「…………」
協力するって……こういう事?
私にはその2人の並んで歩く姿しか目に入らないのに?
でも……これは私が引き起こした事なんだよね。
私が嘘を付いたからこんな事になってる。
当然の報いだよ。
私が悪いんだから……。
……何で私……好きな人に応援みたいのされてるんだろ。
どうしろって言うのさ。
あの時本当の事を言ったらウィンリィが困るのは明らかだった。
いいんだよ。
こういうのは慣れてるから……
ほんとに…………馬鹿な私。
私はたぶん泣きそうな顔をしてたと思う。
ウィンリィのホントわざとらしい事。
あれで本人は結構真面目だから始末が悪いのかも。
しかも兄さんまで何ノってんのさ。
「…………」
「…………」
ほら、フェリア泣きそうな顔しちゃってるし。
兄さんのせいなんだからね。
「…………?」
兄さんが一度こちらを向いた。
そんな、眉間に皺を寄せて笑っちゃって。
笑いたくなければ笑わなければいいのに。
フェリアは……今の見てなかったみたいだね。
……よかった。
「……フェリア」
「ん…………」
フェリアは絡ませた腕をするっと解いて僕の一歩前を歩いた。
……無気力なフェリアだった。
痛まないはずの胸が躍った。
「アル……じゃあ、どっか……行こうか?」
振り返りながらそんな辛そうな笑顔をしないで。
ここには僕しかいないから。
僕はフェリアを悲しませたりはしないから。
僕の前では泣いていいんだから。
そしたら、また昔のままの柔らかい笑顔に戻れるから……。
僕にしかしない笑顔に。
……でも、そんな無理して笑う顔も、僕は独り占めしたいんだよ。
「……そうだね」
……ごめんね、フェリア。
僕はみんな知ってる。
「……何だ、図書館行ってきたのか?」
夜の宿、僕と兄さんの2人部屋。
シャワーから出てきたばっかの兄さんはまだ髪から水が滴っていた。
……大量に持ってきた本を見て苦笑した。
結局、フェリアと行ったのは図書館で、錬金術の話ばかりしていた。
その時にはもう彼女は無邪気な笑顔に戻っていた。
「そだよ。他に行くとこもないし」
「……そうか」
「兄さん達こそ何処行ってたのさ?」
「え?!い、いや~ウィンリィに振り回されて色々とな……」
あくまでもシラを切るつもりの兄さん。
僕とフェリアをくっつけさせようとしてるくせに。
それなのに、僕に背を向けて暗い顔でソファーに座ってるんだから面白いよね。
そんな兄に腹が立つ。
「……もう~兄さんってば!髪ぐらいちゃんと拭いてきなよ!」
「う、うるせぇ!髪ぐらいどうって事ねぇんだから!」
「はい!やったげるから!」
「い、痛ぇって!やるなら優しくやれよ!」
「はいはい」
兄さんの長い金髪。
雑に扱ってるのにこんなに綺麗でサラサラしてる。
兄さんは大人な考え方してるくせに子供みたいな感性してる。
そんなギャップが、皆兄さんに惹かれていく原因かもしれない。
「…………」
フェリアも、そんな兄さんが好きなんだ。
……それは初めて会った時から知ってる。
どうしてフェリアがずっと僕達の輪に入れなかったのか。
何であんなに泣いてばかりいたのか。
全て……僕の兄さんとウィンリィのせいなんだから。
「……なぁアル」
「何?」
「…………」
拭いてるタオルで兄さんの顔は見えない。
「お前……フェリアの事……どう思う?」
「え?」
「だ、だから……フェリアの事どう思ってるかって……」
「…………」
またウィンリィにでも吹き込まれたのかな?
ウィンリィも恋とかに敏感なのか鈍感なのかわかんないよ。
「…………」
沈黙が部屋を包んだ。
「……好きだよ」
「……え……?」
「だから、フェリアの事好きだよ」
「そ……そうか!……なら…………よかったよ……」
兄さんの頭がさらに俯いた。
そういう兄さんに余計に腹が立つ。
好きだよ。
誰よりもフェリアが好き。
兄さんなんかよりもずっとフェリアが好きだ。
……ずっと、見てきたんだから。
兄さんは知らないでしょ。
フェリアが人一倍寂しがりやだって事。
今でも少女のような可愛い笑顔をするんだって事。
フェリアは全然大人しい子じゃないんだって事。
……昔から兄さんはフェリアに辛い想いしかさせてないって事。
でも、そんな顔も抱きしめたくなるくらい愛しいんだって事、
兄さんは知らないでしょ。
―――「……ねぇ、フェリアはさそわないの?」―――
幼い頃の僕と兄さんとウィンリィ。
鎧に定着している僕の魂の中で、一番鮮明な思い出。
この場に1人足りなくて、僕は兄さんにそう聞いたんだ。
「だって……フェリアっていつも離れて見てるだけだから、こういうの嫌いなんかなって……」
「エド~!早くのぼろうよ~!」
「木のぼりなんてさ、フェリア嫌いだよ……」
「…………」
「アルも早く~!」
小さなウィンリィが遠くで手を振っていた。
「……ごめん。兄さんとウィンリィの2人でやりなよ!」
「あ、アル!どこ行くんだよ!俺も―――」
「エドってば~!」
「お……おう!わかったって!…………」
「……やっぱりここにいた」
「…………」
縮こまって膝を抱えている、僕の好きな人。
「ねぇ、木のぼりしようよ!上からだとすっごく気持ちがいいよ?」
「……いい」
「……何で?」
理由は知ってたけど、あえて聞いた。
「……だって……っ……エド……さそって……くれなかったもん……」
「フェリア、泣かないでいいから……」
「う……っ……ひっ……く……!」
仲間外れとか、そういうレベルじゃない。
ほんのささいな、すれ違い。
この時はまだ限りなく小さかった2人の溝。
「……じゃあ、僕とだけで遊ぼうか」
「……っ……で……でも……」
「フェリアは僕の大事な友達だもん。僕はフェリアと遊びたいの」
「ひっ…く……ほ……ほんと……?」
「ほんとだよ。じゃあ……あそこの木に2人でのぼろうよ」
「う……うん……!」
「……フェリアは、木のぼり大好きなのにね……」
「……え…えへへ……アル……ありがと……」
そう言って泣きながら笑った小さなフェリアを忘れる事はなかった―――
みんなみんな、僕しか知らないフェリアの素顔。
兄さんが絶対知る事はないフェリアの表情。
僕は……みんな知ってる。
フェリアは兄さんが好きだ。
だけど、兄さんなんかに教えはしない。
あの時から、すれ違ってフェリアを悲しませてるだけの兄さんなんかに、フェリアを渡しはしない。
兄さんなんかに……
「…………」
「…………」
ここで黙ってるだけの兄さんに、教えはしない。
だって……
僕は兄さんよりも、誰よりもフェリアを好きだから。
だから……ごめんね、フェリア。
僕、フェリアにも教えられない事……知ってるんだ。
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…………。
な、何かアルが黒くなってきました。
もう、ヒロインも素直にアルを好きになればいいのに。