僕はずっとフェリアの事が―――






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「……フェリア?」

意を決してノックをして中に入ると、彼女は驚いたように目頭を擦っていた。

「……ア、アル……?」
「……泣いてたの?」

彼女は笑顔を作って首を横に振った。
でも確実に瞼は赤く腫れていて。

「無理しなくていいから……」


彼女はこんなに泣いている……


「兄さんから聞いたんだけど……本当に一人で行くの?」
「……うん……本当に前から考えてた事なんだ」

彼女は立ち上がり、窓の外に広がる景色を眺めた。
どこかすっきりした表情に、僕には言いようのない不安が押し寄せる。

「ずっと教えてもらってたアルには悪いんだけど……もう錬金術に限界を感じてたの。
もともと私には才能がなかったし、ずっとエドとアルの足を引っ張ってる訳にもいかないし」
「そんな!僕も兄さんもそんな事思ってないよ!」


ねぇ、お願いだからそんな晴れた顔で言わないで。


「うん……でも、もう無理なんだ錬金術の勉強を続けるの」
「どうして……?どうして無理なのさ!」


そんな優しい眼差しで僕を見ないで。


「ごめんね、アル……」


そんな言葉を聞きたい訳じゃない。


茫然と立ち尽くしていると、彼女が近づいてきて僕の大きな両手を手にとった。

「アルとエドには悪いけどね……」


こんな時にさえ僕は、俯く彼女の長い睫と滑らかな黒髪に目がいってしまう。


「今ね、私すっごく違う勉強がしたいんだ」
「……違う勉強?」
「うん……錬金術とか機械鎧とかじゃなくて、生きてる人の傷を治す事ができる……医者の手伝いがしたいの」
「な、何で医者に……?」


そして、彼女の瞳はいつもの涙の奥で輝きを灯していた。


「昨日ね、ウィンリィの薬をもらいに小さな診療所に行ったんだけど、その先生がね……」


彼女は言った。

科学の証である錬金術と、自然の証である医者。
互いに人間の死までは補えない事は同じ。

錬金術は何でもできる。
医者は患者を治す事しかできない、と。

「だけどね、笑顔ではしゃぐ女の子を見る先生の顔が本当に嬉しそうだったの……
みんな笑顔で、みんな楽しそうで、とても温かいと思った」
「……でも錬金術だって――――」
「私は見てきた……錬金術に狂った人も、錬金術に虐げられる人も。……エドもアルの事も」
「…………」
「エドは右手左足がなくて、アルは体がなくて……!」


彼女の瞳が震えていた。
僕の腕に重力をかけ、彼女は俯いて肩を揺らした。


「錬金術の良い所も悪い所も、ちゃんと見てきた……!」


……それが、君の離れていく理由?


「……錬金術より……価値があると思ってしまったの……」
「……医者という仕事に?」
「……うん……」


……だから、君は僕から離れていくの?


「ごめんね、アル……」


本当に?


「私……みんなとは違う道を歩こうかな……」





「……そんなに兄さんが好き?」
「え………?」
「自分から離れていこうとするほど……フェリアは兄さんが好きなの?」


僕は知ってる。


「え、な、何言って……」
「僕がわからないとでも思うの?」


こんな時にでも君は『兄さん』を出すだけで反応するんだ。


「医者の手伝いがしたいっていうのは嘘じゃないと思う……でも……違う」
「出て行くのとエドは関係な―――」
フェリアは……兄さんとウィンリィのために出て行こうとしてる!」
「…………!!」


君は弱虫だから。

君は泣いてばかりいるから。

君は恐がりだから。

君は寂しがりやだから。


「僕はフェリアの事なら何でも知ってる!!」


でもそれは兄さんがいるから。

君の中に兄さんがいるから。

君が兄さんを好きだという事だから。


「何で……何でそんなに兄さんがいいのさ!昔から兄さんはフェリアには何もしてあげなかったじゃないか!」
「……アル……」
「兄さんは……兄さんは……!フェリアを泣かせてばかりいたじゃないか!!」


笑ってよ。

それが本当の君なんだから。


「……わかんないよ、アル……」
フェリア……?」
「どうしてエドが好きかなんて……わからない。
ただいつのまにか目で追ってて、いつのまにかエドばかり見てて、いつのまにか……好きになってた」


それでも兄さんは君を幸せにはしない。


「だからって……フェリアが出て行く事なんてない!!」
「もう……私には無理だから……」
「……ウィンリィがいるからって……フェリアは気を使わなくてもいいんだよ!?」


君は笑いながら、これ以上は言うな、って顔してる。


フェリアが考えてるような事、兄さんとウィンリィの間には―――!!」
「アル、私は……自分の想いと友達、どっちを選ぶと聞かれたら……私は迷わずウィンリィを選ぶ」


君は幸せになれない。


「でも私は弱虫だから……一緒にいるのを見るのは耐えられない」


それでは君は幸せになれない。


「だから……ごめんね?」


『兄さん』では幸せになれない。
『兄さん』では君を笑わせる事などできない。


「……僕は嫌だ」
「……アル?」
「僕は嫌だ!フェリアがいなくなるなんて嫌だ!!」


君は僕が守る。


「僕は知ってる!フェリアが泣き虫な事も弱虫な事も!全部!!」


君は僕にはいつも笑ってくれる。


「兄さんに近づきたくて錬金術を始めた事も!」


僕は君の近くにいられて嬉しかった。


「兄さんに近づけなくて部屋に一人で籠もってた事も!」


でも君は僕には甘えてくるんだ。


「だけどいつも!フェリアの心は『兄さん』『兄さん』!!」


君は一度でも……僕を見てくれた事があった?


「僕は……!!僕はずっと……ずっとフェリアが……っ……!!!」


ずっと好きだった。


兄さんじゃなくて僕を見て。

僕は君を泣かせたりはしない。

君は僕が守る。

君の傍にいる。


初めて会った時から僕はずっと……フェリアが好きだった。


「ずっと……ずっと……!!!!」


この気持ちを伝えられたらどんなに良いだろう。


でも僕は……僕の体は鎧だ。


君を優しく抱きしめる事なんかできないんだ。

君を温める事なんかできないんだ。

今君に触れても僕は君の肩の冷たさなんかわからないんだ。

僕では駄目なんだ。


僕は冷たくて、硬くて……からっぽだから。


僕でも君は幸せにできないんだ。


拳を握りしめるとぎりっと音がする。
君を見ようと顔を上げると小さな君が伺うように見上げてくる。


触れてはいけないのに、君の頬に触れてしまった。


震える手で髪を掻き上げる。
優しく優しく、壊れ物に触るように。
少しでも力を入れてしまえば、君は簡単に割れてしまうから。


冷たくて、でも温かくてすごく柔らかいなんて……僕は夢でも見ているのかな。


何度も何度も、ありえるはずがないこの感触を忘れないように。
この手を離せば僕はまた人間ではなくなるから。

息を止めないと飛び出してしまう言葉を何度も何度も飲み込んで。

言ってはいけない、言っちゃいけないから。



「…………アル?」

僕は扉に手をかけた。
背後で不思議そうな君の声がする。

「……わかった、ゴメン……フェリアは新しい道を行くといいよ」
「え、アル!ちょ、ちょっと待って!」


外はまた雨が降っていた。


「……じゃあ……元気でねフェリア!!」
「……アルっ!」


……僕はフェリアが好きだよ。

ずっと、これからも……


でも、絶対言えないんだ。










「!アル!!」

雨の中でアルは一人たたずんでいた。
ばしゃばしゃと音を立てて近づいて、エドが呼びかけても俯いたままぴくりとも動かない。

「何やってんだよこんなとこで!フェリアは!?」

エドは自分の弟の顔を覗き込んだ。


雨が顔を流れて、泣いてるようだった。


「アル!!」
「……遅いよ兄さんは!!!」
「なっ……おい、アル!!」

視線も合わせないでアルは走っていってしまい雨に消えた。


耳障りな雨の音と、アルの泣き叫んだ声が、どうしようもなく耳に残る。

























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アルーーーーー!!!(アル夢かこれは)

一瞬「これアル夢にしちゃおうかな……」なんて思ってしまったさ!(号泣)

アルはヒロインがずっと好きなんですけど、その頃からもうヒロインはエドばかり見てて。
最初はそれでもよかったんです、ヒロインはアルには笑ってくれますから。
兄弟ってのは、だいたいどんな面でも弟は兄に勝てませんから、
ヒロインがエドを好きでいるのもしょうがないなっていう感じで。

でも、だんだんそれでは良くなくなってきて、ヒロインの涙を見るたびにもどかしくなる。
いっそ、自分の事を見てくれればヒロインはいつも笑っていられるのに、と思うようになります。
だけどその頃には自分はもう鎧の体で、大きな負い目を感じてしまい告白はできません。

好きだと言えない、だけど自分を見てほしい。

兄は相変わらずのぶっきらぼうで、ヒロインは暗い顔ばかりする。
そんな悲しそうな顔は見たくないんだけど、兄のその態度のおかげでヒロインは自分を慕ってくれる。

辛い思いはさせたくない、だけどその思い故に自分を見てくれる。

ちょっと複雑ですけど、アルはずっとこんな事を考えていたと思います。
結局、アルはヒロインに告白はできませんでした。
それは、自分が鎧だから、冷たさしか伝えられない体だから、不完全な人間だから。
アルに「振られるかもしれない」という不安はあまりありません。
「自分といてもヒロインは辛い想いしかしないかもしれない」という不安の方が何十倍も大きかったんです。

全て、ヒロインの為の結論です。

……く~~~!!!アルぅ!(抱き付きっ!!)