不動堂村に屯所を構えてから半年、次第に寒さが厳しくなる頃にその知らせはもたらされた。

事の発端は徳川幕府が発表した大政奉還にある。
幕府が長年持ち続けていた政権を朝廷に返上し、名目上はその権利を失うというもの。

それは"幕府"という政治的組織がなくなった事を意味し、佐幕派にとっては大事件であり大問題だった。
だが実際は将軍という権力はそのままで、未だ幕府が世間を動かしている事には変わりなかった。

そんな目まぐるしい変化の中、土佐の坂本龍馬が暗殺されたというのだ。
しかもその現場には原田左之助の鞘が落ちていたという。

「なんだ、左之さんが斬ったんだ?僕も呼んで欲しかったなぁ」
「馬鹿言え。問題の俺の鞘はここにあるんだぜ?」

珍しく体調の良い沖田が冗談めかすのを原田は不機嫌に眉を潜めた。
彼が嘘を言っているのではないと、皆承知している。
だが新選組以外は原田が下手人だと思っているだろう、それを想像して紫苑は拳を震わせた。

「誰だよ、俺らを出し抜こうとしてる奴は……っ!」

坂本は大政奉還を主導させた人の一人として有名だった。

新選組でも幕府を揺るがす者として彼を探していた時期もあったが、今は手出し禁止の命が出ている。
どちらかと言えば武力で幕府の全てを潰したがっている討幕派と少し違い、
彼は幕府の権力を残しつつも朝廷に政権を返そうとしていたのだから、新選組が駆り出される理由はない。

逆に言えば、大政奉還で戦う機会を失ってしまった薩長にとっては坂本は気に入らない存在であっただろうし、
純粋に坂本を恨んでいる佐幕派もいるだろう。

敵が多いが故に、新選組に罪をなすりつけようとした者がいるのは明白だった。

「っ、許せねぇ!」
「まあ落ち着けって紫苑。お前の気持ちはわかるがな」

やっていないのに仲間が犯人扱いされるのは許せない。
真犯人を捕まえてやると、刀を握り締めて今にも飛び出して行きそうな紫苑を原田が引き止めた。

「喧嘩売られたんだ、新選組も何らかの行動をとらなきゃならねぇ。だが今は命令があるまで待ってろ」
「ぐ……っ」
「新選組の仕業にしたい奴もいるだろうしなぁ。つっても、俺達が知らない以上、新選組が手を下した訳ねぇよ」
「山南さんが勝手に動いたんだとしたら、別ですけどね」
「…………」

がりがりと頭を掻きながらぼやいた永倉であったが、
次の沖田の冗談なのかわからない発言で場は静まり返ってしまった。

「……山南さんは大丈夫なのか?俺らから見ても、最近の夜の巡察はやり方がひでえぜ……」
「でも俺は山南さんじゃないと思う。左之さんを犯人に仕立て上げる意味がわからない」
「まあ、そうだよなぁ……」

確かに最近の山南はどこかおかしい。
以前に紫苑が顔を出した時も、ゆらりと動いて虚ろな目で「ああ、藤沢君ですか……」と薄く笑った。
いつもと同じなようでいて何処か違う空気が少し怖かった。
山南の巡察の帰りに出くわした時には、獣に睨まれたように本当に悪寒が走った事もある。
狂ってしまった羅刹のような凶暴性は見られないが、いつそうなってもおかしくない雰囲気は持っていた。

だが、だからと言って今回の騒ぎが山南達羅刹隊のせいだとは思えない。
万が一、もしそうであったとしても仲間を陥れる理由はない、むしろ自分達の首を絞めるだけだ。

それだけはないと信じている、だから紫苑は強い口調で否定した。

「山南さんの事は俺らで気をつけるしかねえよ。羅刹隊の存在を表に出すわけにゃいかねえし」
「その件についてだが」

この場にはなかった土方の声に顔を上げると、近藤と斎藤も一緒にいた。
御陵衛士として袂を分かち、新選組との接触を禁じられた斎藤がだ。

「斎藤!?何で此処にいんだよ!?」

予想もしなかった人物に、紫苑を除く一同は驚愕の声を上げた。






翡翠 十二






(一君……戻ってきたんだ)

誰もが呆然と大口を開けている中、事情を知っていた紫苑は嬉しそうな目を向けた。
斎藤は一瞬だけ紫苑と目を合わせ、そして静かに口を開く。

「俺は元々、伊東派ではない」
「斎藤君はな、トシの命を受けて間者として伊東派に混じっていたんだよ」

近藤が付け加えるように言うと、何だそうだったのかと皆は安堵の息を吐いた。
幹部達にも極秘にされていたせいで少し不満そうな声を上げはしたものの、
それでも志を再び共有でき、戻ってきてくれた事に対しては素直に嬉しそうであった。

だが事態はそんなに明るいものでもない。
斎藤が新選組に復帰するという事は、伊東派の何らかの動きを掴んで戻ってきたのだろう。
それを報告し、何かしらの行動をする為に。

「この半年、俺は御陵衛士として活動したが、伊東達は新選組に対して明らかに敵対行動を取ろうとしている」
「伊東の奴は幕府を失墜させる為に、羅刹隊の存在を公表しようとしてやがんだ。
その為に薩摩を手を組んだって話もあるな」

斎藤の言葉を受けて土方がそう言う。
羅刹隊を足掛かりにして、いよいよ伊東達は倒幕派へ回ろうとしている。
新選組から分かれた幕府の組織であるにも関わらず、薩摩と通じようとしているのならば完全なる離反だ。

「そして、より差し迫った問題がもうひとつ。伊東派は新選組局長暗殺計画を練っている」
「局長……こ、近藤さんを……!?」

不安そうにしながらも静かに聞いていた千鶴が、耐えきれないというように声を上げた。
近藤を始め皆難しい表情で黙っているが、穏やかな話ではないから無理もないだろう。

「御陵衛士は既に新選組潰しに動き始めている」

土方が言うには、原田が坂本龍馬を斬ったという噂を流したのが御陵衛士なのだそうだ。
紀州藩の三浦休太郎が新選組に依頼して原田に殺させたと、ふれ回っているらしい。
誰が犯人かわからない状況では噂はすぐに知れ渡り、新選組の痛手になるだろう。

羅刹隊の公表、坂本龍馬暗殺の噂、そして局長暗殺計画。
誰もが考え始めている事……それは、新選組を揺さぶる者を野放しにはしておけないという事。

「伊東甲子太郎……羅刹隊を公にするだけでなく、近藤さんの命まで狙ってるときた」

土方の声は底冷えするように冷たかった。
次に何を言うのかはもう予想できる、彼は新選組や局長に仇なす者を絶対に許さないから。

「残念な事だが、伊東さんには死んでもらうしかないな」
「う……む……止むを得まい……」

伊東を殺せ、その命令が下された。

紫苑は一度だけ目を閉じ、土方の言葉をゆっくりと噛みしめていた。
胸の奥にある感情は、伊東と過ごした日々の思い出から湧き上がる少しの感傷。
だが後悔も躊躇いも不安もない、残念だよと別れの言葉を伊東に向けて心に呟くだけ。

彼を斬らなければ新選組が脅かされる、それによって何も知らない一般隊士まで危険に晒される。
仲間を脅かすなら、斬るしかない。

「まず伊東を近藤さんの別宅に呼び出す。その後、伊東の死体を使って御陵衛士の連中を呼び出し、斬る。
実行隊は……永倉、原田、それから藤沢。お前らに頼む」
「……はい」

紫苑は覚悟を決めて顔を上げた。
女とは思えないような人斬りの思考で、人斬りの目で。

「で、土方さん。僕は誰を斬ればいいんですか?」
「お前は寝てろ。変な咳をしやがるし、体調も悪いんだろ」
「……恨みますよ、土方さん」

沖田の軽い口調を耳にしながら紫苑は思う、これで御陵衛士を終わらせるなら藤堂はどうするのだろうと。
離隊する時に土方に大見得を切ったものの、できるなら旧友を斬りたくはない。

その矢先、同じ事を考えていたらしい千鶴が恐る恐る口を開く。

「あ、あの土方さん。御陵衛士の……平助君はどうするんですか……?」
「……刃向かうようなら斬れ」
「え……?斬れって、そんな……!」

千鶴の悲痛な声を無視して、土方は表情も変えずに部屋から出て行ってしまった。
そう言うだろうとは思った、だから紫苑も眉根を寄せて俯いた。

「斬れって……平助君を斬れって事ですか!?平助君がどうなったっていいって……!」
「そんな訳がなかろう!トシだって、本心では助けたいと思ってるんだ」
「っ……すみませんでした、取り乱して……」

仲間を斬れと言われて普通ならば容認できない、千鶴の感性が一番まともなのだろう。
近藤の言う通り彼も平気な訳がない、だから逃げるように去ってしまったのだ。

(伊東は斬れるのに、平助は斬れないなんて……俺は中途半端だな……)

紫苑自身も土方の命令に胸が痛んで、内心で自嘲していた。
何度も何度も言葉を反芻させて呑み込もうとしたけど、できなかった。
だがそのおかげで、土方の冷酷な命令の裏にある意図に紫苑は気付いた。

「……近藤さん、説得すればいいって事ですよね?
刃向かわなければ、戻って来るなら斬らなくていいと」

彼は刃向かうなら斬れと言った、つまりは刃向かわなければ斬る必要はない。
紫苑の強い目を映して近藤は少しだけ頬を緩ませた。
君は本当にトシの事をよくわかっているんだなぁ、と嬉しそうに呟きながら。

「ああ……平助を見逃してやれ。できるなら、戻るように説得して欲しい」
紫苑さん……」
「心配なんだろう平助が?だから俺が説得する、任せてくれるか?」
「……はい、お願いします」

最後の望みが生まれて、表情を明るくさせた千鶴に紫苑は笑いかける。

こればかりはどうしようもないかもしれない。
だけど、戻ってきて欲しいのだ。できれば一緒に、来て欲しい。

「やれるか、紫苑
「平助を任せるぜ」
「ああ、やってみせる。千鶴は、留守の間総司を頼むな」
「はい!」
「別にそういうのいらないんだけど」

原田や永倉に肩を叩かれ、千鶴の元気な返事に沖田は苦言を漏らす。
目を合わせた斎藤が小さく頷いたのを見届けてから紫苑は立ち上がる。

「それでいいですか、土方さん」

障子を開け放って、少し行った先の廊下を見遣れば背中を向けた副長がいた。
いなくなった振りをして全てを聞いていたであろう彼にそう言えば、頭部で括った長い黒髪が風に揺れた。

「……好きにしろ」

















決行の日、闇夜に紛れて御陵衛士の屯所の近くまで突き進む。
斎藤に待っていろと言われ、人に見つからないような物影で紫苑は息を潜めた。

やがて呼び出された藤堂が斎藤と一緒にやって来たのを見計らい、一歩進み出るように姿を見せた。

「な……紫苑!?」
「ああ、久しぶり」

どうして、という目を斎藤に向けたが彼は何も言わない。
妙に落ち着き払った紫苑を凝視して、予想通りに藤堂は困惑した表情で立ち尽くす。

「今夜俺達が動く、御陵衛士を潰す為に。その前に会いに来たんだ」
「はあ、御陵衛士を!?何でだよ!」
「坂本龍馬が殺された事は知ってるよな?なら、左之さんが殺したんだという噂が流れている事は?」
「っ……」

知っているようだ、そして誰が流したのかという事も。
顔を歪ませて目を逸らしたという事は、彼自身はその行為を良く思っていないのだろう。

「それから、伊東さんが近藤さんを暗殺しようとしている事は?」
「な……!」
「本当だ。伊東さんは薩摩と手を組んだのだ」

驚いた藤堂は慌てて斎藤を振り返るが、追い打ちのように伝えられる言葉。
悔しそうに眉を潜めて、呆然と俯いてしまった藤堂の絶望は相当だろう。
信じてついてきたはずの人が信じられなくなった瞬間、人は恐らく弱くなる。

そこに付け込もうとしている自分達は狡いのかもしれない、紫苑は不意に思った。

「……伊東さんを斬る、そう決まった」
「ま、待てよ紫苑!」
「笑うか?殺される前に殺してしまう俺達を。だけど俺は許せない、左之さんを犯人にしようとしてる奴らを」
「そりゃ……俺だって、間違ってるかもって思ったさ……でも」

だからと言ってほいほい見捨てられるような性格でないと、紫苑も知っている。
紫苑はゆっくりと納得させるように、言い聞かせるように静かに告げた。

「帰ろう、平助」

何処に、とは言わなかったがそれは新選組に他ならない。
藤堂は俯いたまま声を震わせた。

「何言ってんだよ……俺は、伊東さんに付いてった人間だ。
伊東さんを斬るって言うんなら、俺はお前等に刀を向けなきゃいけねえ……」
「平助が本当に伊東さんを信頼に足る人だと思ってて、伊東さんの為に命を捨てようと思ってるならそうしろ。
でも……迷ってるなら、戻って来て」
「っ、戻れる訳ねぇだろ!?あんな裏切り方してっ!」

彼は、どちらにも行き場をなくしているようだった。
伊東派の方が己の志に近いと新選組を抜けたのに、今度はその伊東派が志とは関係なしに離れていく。
どうしたらいいのかわからない、藤堂の悲痛な叫びはそう言っていた。

「それは道が違えば仕方のない事だろ?だけど俺達は、それでも平助に戻って来て欲しいんだとはわかって」
「……っ」
「俺達は……俺は、平助が欲しいんだ。失いたくない」

はっきりと口にすれば、勢いを弱めてしまった藤堂が悲しそうに笑った。

「俺だって、戻りてぇよ……でももし新選組に戻ったって、今の俺は何の為に戦えばいいのかわからねぇ……」
「……それを新選組で考えるってのは、駄目なのか?新選組に戻れば、少なくともその時間はある」

何の為に戦うか、それは本人でないと見つけられない。
彼にとって新選組にそれは存在しないのかもしれないが、御陵衛士として生きるなら待っているのは死だけ。

「それが本懐ならばいい、だけど違うなら……まだ迷うなら、生きてくれよ」
「……んとに、無茶苦茶だよな……こっちの都合なんかお構いなしで……」
「ごめん」

自分勝手だとはわかっている、相手の気持ちを無視している事も。
だけど、それでも、生きていて欲しいのだ。こんな所で斬りたくなんて、ない。

紫苑が少しだけ目を伏せて謝罪を口にすれば、くすりと小さな苦笑が漏れ聞こえた。

「俺が御陵衛士を選んだら……お前、また泣くんだろ?」
「、……泣かねぇよ、俺は」
「いや、どうせあの時だって泣いたんだろ?お前は、そういう奴だからなぁ」
「…………」

離隊した時、喚き散らしはしたが藤堂の前で涙を零してはない。
なのに見抜かれていてばつが悪い、ふいっと顔を逸らしながらも藤堂の横顔を盗み見れば、彼は僅かに笑っていた。

「そんな紫苑とか、左之さんとか、新八っつぁんがいるなら……俺は―――」

藤堂の言葉は荒々しい足音で掻き消えた。
血相を変えて走ってきたのは御陵衛士の隊士だろう、彼らは藤堂を見つけると声を張り上げた。

「藤堂、早く来い!」
「何かあったのか!?」
「油小路で伊東先生が新選組にやられた!」
「っ!!」

ついに決行されたのだ。
後はその死体で隊士を誘き寄せて、全てを斬り捨てるだけ。

「平助、行くな」
「……っ!」

御陵衛士として行ったら確実に殺される。
殺したくないと思いながらも、新選組の誰かが決死の覚悟でやるだろう。

死んで欲しくない、殺させたくない。
大事な、仲間だから。

藤堂の震える背中に何度も願った、だけど。

「っ、ごめん!!」
「平助っ!!」

彼は行ってしまった、御陵衛士の隊士達と共に。

(くそ……どうしようもないってのかよ!)

紫苑は唇を痛いくらいに噛み締めた、血がにじんできたが構わなかった。

悔しくて悲しい、だが人の意思に他人が介入する事はできないのだ。
いくら叫んでも、願っても、それが相手の志に反していたら無理なのだ、それを思い知らされた瞬間だった。

「おい、お前……見た事があるぞ。新選組の者だな!?」
「……だったら何だってんだよ」

気付けば紫苑の周りを御陵衛士の隊士達が取り囲んでいた。
だが、その敵意にもうんざりだった。
八つ当たりと言ってもいい、とにかく腹が立って仕方なかった。

「新選組で……何が悪いっ!」
「、が……っ!!」
「くそ……こいつ!」

斬りかかってきた男を紫苑は避けようともせず刀で受け止めて、押しのけて頭部を突き刺した。
十分な悲鳴も上げられずに絶命した男に、他の隊士達が顔色を変えた。

今自分が殺した男は他の者にとっては大事な仲間であったのかもしれない。
ならば自分は相手にとっては悪者になるのだろう。

斬られそうになったから斬ったのだ、それで逆恨みされても困る。
だがもし自分の仲間が誰かに斬りかかって逆に殺されたら、自分はその相手を絶対に許せない。

何が正しくて、何が間違っているのかわからない。
ただ、仲間を守りたいが為に刀を振るっても、それは誰かの仲間を殺しているに他ならなくて。

どうして今そんな考えが頭を巡っているかもわからない。
無性に、苛々する。

紫苑、無茶をするな」
「わかってる……!」
「斎藤……貴様、裏切ったな!?」
「うるさい!一君も、平助も……俺達の仲間なんだよ!!」

紫苑は涙目で叫びながら刀を振りかぶる。

仲間を奪われたくない、ただそれだけなのに。
どれだけ人を殺しても、どれだけ頑張っても、大事な仲間一人救えない自分は非力だ。

「うああああっ!!」
「ぎゃああああ!!」

刀を弾き返して、獣のように吼えながら男の肩から力任せに斬り下ろす。
轟いた叫び声と一緒に溢れる血潮、その赤色が紫苑の視界を埋め尽くす。

「……っぅ!!」



―――きん、と耳鳴りがすると同時に視界は闇に包まれ、その奥に、血まみれの平助がいる。

聞き覚えのある声が周囲で何かを叫んで、力の入らない平助を抱きかかえて。

平助はぼんやりと視線を彷徨わせて、笑いながら息絶えようとしていた―――



紫苑、どうした!?」
「っ……へ、平助!!」

急に頭や胸を抱えて蹲ってしまった紫苑を守るように斎藤が全ての男を斬り捨てる。
心配そうに振り返る斎藤など目に入っていないような形相のまま、紫苑は走り出した。

紫苑!」

駄目だ、それだけは駄目だ。
新選組に斬られるのであっても、御陵衛士にであっても、死んでは駄目だ。

今のを信じるならば彼は確実に死ぬだろう、あの出血量では助からない。

(お願いだ……間に合ってくれ!)

紫苑は必死に駆けた、あんな光景など見たくはない。
どうして意地でも引き止めてやらなかったのか、
たとえ彼の心を壊す事になっても生きていてくれれば希望が見つけられたかもしれないのに。

「頼む……生きて……生きていて……っ!」

走り続けた先に見えた油小路。
そこはもう既に戦いが終わっているようで、死体がいくつも転がっていた。

それは何処か奇妙で、新選組と御陵衛士の隊士だけではないように思える。
風体が若干違うようで、一体此処で何が起こったのかというのだろうか。

だがその奥に見えた現実に、紫苑は思考を停止させた。

「平助!!!」

浅葱色の隊服に囲まれた中央で、さっきまで笑っていた仲間が倒れていた。


――お前、また泣くんだろ?お前は、そういう奴だからなぁ――


困ったように微笑んだ彼の声が、頭で響いた。






――おしなべての盛になりにけり

山の端ごとにかかる白雲――











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