「……そうか」

詳しい説明の後、長い長い間を置き、土方はそう答えた。

このまま時が停止してしまいそうな、弦が切れる寸前の楽器のような、
張り詰めていた空気が土方によってようやく解放される。

現実、という時が押し寄せる。

「遠い距離をすまなかったな」
「い、いえ……」

激しく感情的になる事もないまま土方が苦笑すると、
遣い役を任された隊士が申し訳なさそうに頭を下げた。

(……やっぱり)

待ち望んだようでいて本当は望んでいなかった報告。
ああ、きっと先視の通りの事が行われたのだろうと、紫苑は俯いて涙を零す。
この場の誰もが静かにその事実を受け止めようとしているのに、
自分だけ泣き喚く訳にはいかないと、必死で声を押し殺しながら。


――慶応4年、4月25日。新選組局長が板橋にて斬首。


嘆願書も、何も届かなかった。
単独で彼を助けようとしていた沖田もきっと、叶わなかったのだろう。

しかも処刑された日は、紫苑達は会津へと移動している時だった。
つまりは紫苑が先視をした頃には、既に近藤は処刑されていたという事だ。

(もう、終わっていた……っ)

先視は、未来の事しか視られないと思っていた。
能力について詳しい事を知らないので、過去の事も視られるのは意外だったが、
結局は何もできなかったという後悔だけが紫苑には残った。

「……現在、首の行方も捜索しています」
「ああ、頼む」

処刑された近藤の首は数日間見せ物として置かれ、
さらに京にまで送られ三条河原でも晒された後、それからの行方がわからないらしい。
誰が持っているのかを追っていると隊士は続ける。

せめて首だけでも、と土方は言う。
そんな会話を、紫苑はどこか遠くの出来事のように聞いていた。

近藤さんが死んだ、その事実を受け入れるので精一杯だった。
生々しい先視の光景、そしてほぼ毎日彼が打ち首にされる夢を見ている紫苑にとっては、
斬首の瞬間はほとんど目の前で行われたようなものだった。

(近藤さん……っ!)


――「紗矢ちゃん」――


彼の声が簡単に蘇る。
紫苑を受け入れてくれたあの日のままの、眩しい笑顔で。



――「紫苑」――


女であろうが関係ないと言いながら、
普段は男所帯の中で唯一の女の紫苑をとても甘やかしてくれた。

歳の離れた、兄のようだった。

大好きだった。
恋愛感情とかでなく、純粋に人間として好きだったのに。


新選組の頭が欠けてしまった。
"新選組"を形成する大きなものが、失われた。
これから自分達はどうやって生き抜けばいいのだろう。

いや、もう"残党"に成り下がっている新選組はこの先、散っていく道しか残されていないのかもしれない。
彼のように捕まり、誇りすら踏みにじられて、滅んでいくのか。


紫苑。大丈夫か?」
「っ…………はい」

土方に声をかけられ、気が付けば報告をしに来た隊士はもう既にいなかった。
いつの間にか話は終わっていて、微動だにしない紫苑を心配した土方が近い距離から覗き込む。

声は出さずに泣き続けていた紫苑だったが、咄嗟に大丈夫ですと返事をする。
グイッと目をこすり、平静を装おうとしていると土方が苦笑する。

紫苑の頭に、彼の温かい手が乗せられた。

「って……そんな訳、ねぇよな」
「……っ」

(土方さんが、震えてる)

紫苑の髪を撫でた指先が、彼の押し殺した感情を物語っていた。
どうしよう、きっと彼も限界だ。

紫苑は咄嗟に土方の手を握り締め、そしてまた泣いた。
こんなになっても彼が我慢をしている、その事すらも悲しかった。

「、うぅ……っ!」

抑え切れない嗚咽が漏れる。
溢れ出て、もう止まらない。

近藤さん、近藤さん、と土方の手に縋りながら。
泣けない鬼副長の分まで、紫苑が子供のように咽び泣いた。

「……紫苑

掴まれた方とは逆の手でなだめようとしていた土方だったが、
紫苑の涙に呼応されるように喉が熱くなって。

優しく触れてやるつもりだった体を、片手で力いっぱいに閉じ込めた。

「、……っ!」

彼の表情は紫苑から見えなかったが、きっと泣いていると思った。
だから紫苑は、自身の泣き声で、彼の涙が隠れればいいとも思った。

(泣いてもいいんですよ、土方さん)

ここには紫苑しかいない、だから無理なんかしなくてもいいからと。
彼の心情を想って、また新たな涙が溢れた。

二人傷を舐め合うようにして、いつまでも泣いていた。
次に顔を上げるときは、一生懸命前を向くからと。

だから、今だけは。


――「俺に何かあったら……トシを頼む」――


肩口でじわりと広がる熱さを感じながら、紫苑は彼の声を聞いた気がした。






浅葱 八






近藤が処刑された。
先視が現実となってからも、紫苑は変わらず近藤の夢を見た。

大きな戦なんてない平和だった日々で彼が笑い、首が刎ねられた所で目が覚める。
ああもう近藤さんはいないんだ、そう思って絶望する。

春の柔らかい陽気はとっくに過ぎ、汗ばむ季節になってもそれは変わらない。
新緑が青々と太陽を反射させ、その生きる強さに思わず紫苑の目が眩んだ。
自分だけ、世界から置いていかれたような気分だった。
自分は何故ここにいるのだろうと、時々考えて虚しくなってしまうくらいに。

(そんな訳ないのに)

すぐ近くには土方もいる。
彼は少しずつ怪我を快復させながら、今も新政府軍を戦う準備をしていた。

彼は、前に進もうとしている。
なのに紫苑は毎日変わらない夢に絶望し、自分だけ変われずにいる。

あの日から時間が止まってしまったようだった。

何度も何度も、無限に繰り返す光から闇への転落。
わかっていても眠らなければならないからと、今日も諦めて目を瞑る。
きっとまた起きたら泣くのだろうなと、思いながら。

だけど、その日は少し違っていた。

夢にはいつもの如く近藤が出てきて最後には首が飛んだが、
夢の内容が仲間達と一緒に楽しく騒いでいた頃の事で、何となくそちらの方が印象に残った。

(今日は、左之さんがよく出てきたな)

斬首の光景を振り払う為に窓際に寄りかかり、障子を開け放って太陽の光を浴びる。
ほとんど日課になってしまっているそれをすると感じるのは眩しさと痛み、
その苦痛で紫苑は現実を体に思い出させ、夢を忘れようとする。

(……今、何してるんだろう左之さん)

現在、紫苑の大事な仲間達の中で一番消息がわからないのが原田だった。
彼だけが単独で行動している為、特に心配な気持ちが大きい。

戦の時代においては、知らない所で仲間が息絶えていてもおかしくはない。
現に、紫苑と土方達が移動している間に近藤は処刑されてしまった。

(江戸にいるって、言ってたな)

生きていてくれればそれでいいんだけどな、と。
ぼんやりした意識でそんな事を考えていると、ふいに異様な音がした。

(、え?銃声……?)

遠くで木霊のように響く、いくつもの銃声。
清水屋の近くで何かあったのかと慌てて辺りを見渡すが、此処からでは判別がつかない。
そして隣の部屋にいるはずの土方が動いた気配もない。

だけど幻聴にしてははっきりしすぎている、そして今も絶えず聞こえている。
何が起こっているんだと動揺を隠せずにいると、次は紫苑の視界が闇に包まれた。

「、な……!?」



――その闇は夜だった。

見渡す限りに広がっているのは、不穏な空気に満ちたどこかの森。
辺りを覆い尽くす、夜の深淵。

鳴りやまない銃声。
いくつもの足音、甲高い金属音、
それから生き残らんとする者達の雄叫び、果ててゆく者達の命の叫び。

極限まで振り絞られた感情がぶつかり削り合う、戦の音がする。

その森の奥深く、命の奪い合いを終えたばかりの二人の男が木の下で座っている。
項垂れた一人の男を、隣の長髪の男が銃をしまいながらチラリと見る。

「終わったな……お前ぇはどうするんだ?」
「そうだな……、新八が、待ってるから……早く、会津に行かねぇ、とな……」
「…………そうか」

訊ねた男は表情を崩さないまま、だけど束ねた長い髪が寂しそうに揺れていた。
見つめる視線の先では、赤く染まった腹部を押さえる指が震えている。

血は、止まらない。海が広がっていく。
誰が見ても助からないとわかる深手だった。

だけど彼は、手から離れてしまった愛用の赤い槍を取り戻そうとしている。
必死に顔を上げて前を見据えているのに、その焦点が次第に合わなくなって。

荒い呼吸が、鼓動が、落ち着いていく。
静かになっていく。

立ち上がる事ができないまま、ついに。


命の灯火が、消える―――



「っっっ!!」

忘れていた呼吸を取り戻すと、ザアッと砂のように闇が霧散した。
目の前には清水屋の平和な光景と静寂、そこには銃声も戦の気配もない。

紫苑は目を見開いて、震える上半身を抑え込んだ。

(……左之さん……っ!)

間違いなく、あの怪我をして項垂れていた人物は原田だった。
隣にいたのは恐らく、風間と一緒にいた鬼の不知火だ。

夢であってくれればどんなに良い事か。
だけど紫苑は、これがただの夢ではない事がわかるようになっていた。
これだけはっきりと生々しく見える感覚は、もしかしなくても先視だった。

(どうしよう……左之さんが死んじゃう!)

彼は永倉と一緒に会津には来ていない。
やり残した事があると言って江戸に残ったと聞いた。

そこで、戦になったのだろう。
どういう訳かわからないが不知火と共闘して、そして……

(嫌だ……!)

紫苑は跳ねるように立ち上がると、寝間着を脱いだ。
そして女の着物ではなく着慣れた男の洋装を素早く身に着けると、そのまま清水屋を飛び出した。

土方に相談しようかと一瞬だけ頭をよぎったが、それよりも体が外に出る方が早かった。
どうしたって彼は此処から動けないし、とにかく夢中だった。

(この先視が、過去か未来かわからないけど……!)

何もできないなんて嫌だ。
もう、誰かが死ぬのはこりごりだ。

紫苑は清水屋から一番近い幕府軍の陣営を目指した。
とにかく馬を調達しなければならなかった。

だけど、本当は焦っていた。

(此処から江戸なんて、遠すぎる……!)

今すぐにでも原田の所に行きたいのに、江戸までの距離を馬で行ったとしても、
果たしてこの体ではどこまでもつのだろうかと。
加えて今は太陽が煌々と輝く昼間、走っているだけで紫苑の体は痛みに蝕まれていた。

闇雲に飛び出したものの、考えれば考えるほど不安が募っていく。
怖くて仕方がない。原田が死ぬ事も、色々な事が怖かった。

(それでも、じっとしていられない!)

全速力で走って半ばふらつきながら陣営に辿り着き、急ぎ馬が必要だと説明する。
単独で来た紫苑を知らない兵達は少し警戒していたが、
有無を言わせない態度で参謀の名を出せばそれ以上口は出さなかった。
そして馬に乗ろうとした所で、声をかけられた。

「おう、どうかしたのか紫苑?そんなに慌てて」
「っ、新八っつぁん……!」

その頼もしい兄貴分が現れた瞬間、堰が切れたように堪えていた涙がボロボロと零れた。

「お、おいおい……どうしたんだよ、何かあったのか!?」
「左之さんが……左之さんが……っ!」
「左之が、何だって?」

思わず縋るように永倉の袖を掴み、紫苑は先視で原田が命を落とす瞬間を見た事を告げた。
場所の詳細はわからないが、森の奥深くでの戦闘の事、不知火といた事を涙ながらも少しずつ話すと、
永倉はまさかという顔をしていたが、先視の事を知っているだけあって次第に深刻な顔付きに変わっていく。

「……それは、本当にこれから起こる事か?」
「……たぶん。ほぼ、間違いなく」
「…………」

紫苑の話を信じてくれたらしい永倉は押し黙って何かを考えている。

「だから、早く行かないと……!」
「……わかった、俺が行く」
「え?」

誰かに打ち明けて少しだけ落ち着いた紫苑が、涙を拭いながら再び馬に跨ろうとした時だった。
予期せぬ言葉に振り向くと、彼は決意に満ちた力強い表情をしていた。

「助けに行こうとしてたんだろ?だったら俺が行ってやる」
「でも……」
「大丈夫だ。俺は誰よりも体力には自信があるんだぜ?羅刹のお前と俺とじゃ、俺の方が早く着けるだろう?」
「え……でも新八っつぁんは……」

彼はもう、厳密には紫苑達とは別の隊だ。
こちらの都合で彼を動かすなんて事はできない。
それに、紫苑の先視を彼に任せるのは申し訳ない気がした。

「流石に靖共隊全部は俺の権限じゃ動かせねえけど、俺だけでも行って、左之に張り付いてりゃいいんだろ?」
「そうだけど……でも……」
「いいんだって、俺だって左之の事が気になるしな」

勢いで馬にまで乗ろうとしていたが、紫苑は土方の了承すら得ていないし、何より彼の看病をする人間がいなくなる。
確かに永倉が行ってくれた方が早く着くだろうし、頼りになる。

「不知火といたのか……水くせえよな、あいつも。行ってくれれば付いていったのによ」
「…………」

いいのだろうかと迷っていると、永倉は一人でブツブツと恨み言のような言葉を吐いた。
そうか、彼は原田の事を特に心配しているのだろう。きっと、紫苑よりもずっと。

だったら、任せた方がいいのかもしれないと紫苑は思った。
できる事なら紫苑の手で原田を救いたいが、現状を考えれば永倉の方が救える可能性が高いのだろう。

「……新八っつぁん……本当に、いいの?」
「ああ、むしろ俺が行きてぇ。俺が、左之を助けてやる」
「……うん……ありがとう……、お願い」
「おうよ!」

永倉は安心させるように紫苑の背中をポンポンと叩くと、
仲間達に事情を説明した後に馬で駆け抜けていった。
















無我夢中だったとはいえ無理して日中に走ったせいで、帰り道は行きの倍の時間がかかってしまった。
後ろ髪を引かれる思いで清水屋に戻ると、土方が仁王立ちをしていた。

紫苑……何処に行っていた、そんな恰好で」
「……!」

土方の顔を見て、まずい事をしてしまったと紫苑はようやく気が付いた。
彼に何の相談もなく勝手に陣営に走って、永倉を江戸に行かせてしまった。
先視に左右されるなと、以前から言われていたのに。

「物音がしたから様子を見に行ったがお前はいねぇし、刀もない……どれだけ心配したかわかるか?」
「……すみません」
「俺は何があったんだって聞いてんだ」

まだ快復しきっていないのに、階段を登る音を聞いて待ち構えていたのだろう、
少しだけ息を切らせて此方を睨んでいる。
紫苑が男の陣羽織の恰好をしている以上、何の言い逃れもできない。
視線の威圧に耐えかねた紫苑は腹をくくると、重い口を開いた。

「実は……」

先視の事、陣営で馬を借り江戸に行くつもりだった事、
紫苑の代わりに永倉が行ってくれた事を躊躇いながらも全部話した。
その間、かなりの剣幕でじっと見下ろされていて、紫苑は生きた心地がしなかった。

(でも、どれだけ考えても自分が悪い……)

考えの浅い奴はいらないと、昔言われたではないかと自身を責める。

「どうしてお前はそうなんだ……」
「……すみません……」

ああ、また見放されてしまうと思った。

「……はあ……本当にお前は、よくよく背負い込む奴だな」
「、え……?」

怒りか呆れか、これ以上悩ませるなと言わんばかりに土方は呟いたが、
次に溜息で何かを吐き出してからはもう彼の声は底冷えするような低いものではなかった。

「どうせお前の事だから勝手に思いつめて突っ走ったんだろ」
「…………」

意外だった。
絶対に怒られると思ったのに、彼は渋々ながらも仕方ないとでも言いたげな顔をしていた。

「だが実際……先視の事を聞かされたとしても俺は身動きとれねぇし、
別の人間に頼むにしても、先視をどう説明すればいいかも難しい所だからな」

何処にいるかもわからねぇ人間が死ぬかもしれないから守ってくれなんて言えねぇだろと、土方は頭を掻く。

紫苑が打ち明けてからの眉根を寄せた長い沈黙はもしかすると、
彼ならどう動いたかという事を考えていたのかもしれない。

「だから、誰かが行くとするなら新八が一番適任だったかもしれない。
もう俺達の軍とは違う左之助を助ける為に、軍の兵士を割くことはできねえしな」
「…………」

結果的にはよかったかもしれないとまで言われてしまうと、逆に恐縮してしまう。
紫苑は土方のように色々考えて動いたんじゃない。
ただ思いつくまま、助けようと走っただけだったから、彼の言葉をもらうには何だか悪い気がする。
褒められるような事を、紫苑はしていないはずなのに。

「……怒って、ないんですか?」
「そりゃ俺に一言も言わなかったのは腹も立ってるが……
俺がどんなに口煩く言ったって、どうせお前は止まれねぇだろ。もう諦めた」
「…………」

諦めた、というのはどういう意味なのか。
悪い意味にも良い意味にも考えられるから、悪い方だったら怖いと紫苑はビクりと肩を強張らせた。
だがそれは、どうやら杞憂だった。

「それに、近藤さんの事もあったからな……今度こそは自分がって、思ったんだろ?」
「……っ」

彼は紫苑の行動を理解して、あまつさえ受け入れてくれたのだ。
勝手に動いたのに、こんなにも自分の事をわかってくれている。

じわりと、何から来るものかよくわからない涙が滲んで、紫苑はそれを必死に抑え込んだ。

「だがな……俺だって、これ以上仲間が死ぬのは嫌だが……他人の人生までお前が引き受けなくていいんだよ」

紫苑の心情をわかった上で、土方は言い聞かせるように諭す。
その口調は、どちらかというと優しいと呼べるものだった。

「左之は左之の考えがあって江戸に留まってたんだろ。
それで結果死ぬ事になったとしても、あいつは自分の行動を後悔したりしねぇと思うが?」
「……わかってます……でも、左之さんは新八っつぁんと合流するつもりでいて……でも、その途中で……だから……」
「だから助けるってか?とりあえず、新八が行って助けられれば儲けもんかもしれねえが、
それで新八が別の危険に晒されるって可能性もあるからな」
「っ……!」

そこまで考えが及んでいなかったと、紫苑はハッと息を呑む。
確かに、原田が命を落としてしまうような激戦ならば、永倉だって危険に決まっている。
二人とも死んでしまうかもしれないし、原田の代わりに永倉が……という事も当然あるだろう。

以前に近藤の狙撃を阻止した時、代わりに肩を撃たれたのは紫苑だった。

(どうしよう……新八っつぁんまで死んじゃったら……っ!)

「キリがねぇんだよこういうのは。だから最初に言っただろ、左右されるなって。
まあ……そうやって、しなくていい心配をするのがお前って事なんだろうがな」
「…………っ」
「仕方ない。お前の見た未来か、違う未来になるかは、あの二人に任せるしかない」
「……すみません」

やはりとんでもない事をしてしまった、永倉まで巻き込んでしまったと、
深刻な顔をして沈んでいく紫苑に土方は少しだけ気遣うように苦笑した。

「本当に難儀な奴だな……別に先視に振り回されるお前が悪いって言ってるんじゃねえ。
先視ってのはつまり、近藤さんとかが斬られる瞬間が間近で見えちまうって事だろ?
俺だってそんなの見たら、多分おかしくなる。どうにかしてそれを阻止したいとも、思うだろうな……」

大事な人間であればあるほどな、と土方はどこか自嘲気味に笑った。
近藤の事を考えているのだろうと思ったら、こんな状況なのに紫苑の胸が痛んだ。

「……お前の一族が滅んだ理由が何となくわかるよ。
背負いきれなくなって、自分で自分を追い込んで、潰れていったのかもな。
だから未来っていう余計なものが視えても、良い事なんてねえって事だ」
「…………」

紫苑の母親も、そうだった。
父親が病死する先視をして、どうにもできなくて絶望して、自ら命を絶った。

土方が言う通りなのかもしれない、未来が見えても良い事なんてないのだろう。
だけど実際、見えてしまうから困るのだ。

紫苑が今此処にいて土方の傍にずっといるように、何かせずにはいられない。

「無理だけはするなよ?抱えきれねぇんなら、俺でも、誰かでもいいから吐き出せ」
「……はい……ありがとうございます、土方さん」

(いつか……私も壊れるのかな)

母親のように耐え切れなくなっておかしくなるか、羅刹としての期限が来るのが先か。
どっちにしろ滅びの道しか見えない気がして、紫苑は諦めたように口角を上げた。


――自分はどうなっても構わない。だから二人は、どうか無事で。


今はそれだけを願った。











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あまり喋らない主人公。