「だいぶ良くなりましたね」

清水屋に来たばかりの頃は酷いものだったが、塞がってきた傷を眺めて紫苑は安堵で頬を緩めた。

薬を塗り、包帯を巻き直す作業も随分慣れたものだった。
紫苑には本格的な医術の心得がなかったため、
松本良順が診察に来た時に詳しく処置の仕方を教えてもらった。
役に立ったようでよかったと紫苑は思った。

「ああ、毎日悪いな」
「いいえ~元小姓ですからね。ちまたでは色小姓扱いされてましたけど」
「何だそれは」

はははと笑いながら軽口を叩けば土方もそれに倣う。
本当は時々零れる感謝の言葉を素直に受け止めるのが何だか恥ずかしくて、つい誤魔化してしまう。
最初の頃は痛ましい傷口に眉を顰め、ただ早く治るようにと祈りながら処置をしていたが、
今はこの状況が別の意味で少し辛い。

よくよく考えれば想い人の肌をこんな至近距離で見つめ、さらには触れてしまっているのだ。
処置の為とはいえ、心の奥底で僅かに意識してしまっている自分がいて、
それを隠したくて紫苑は雰囲気を壊すような事ばかり言っている。

(これ以上何かを悟られて、また気まずくなりたくない)

紫苑の中で未だにずっと燻っている、余計な感情を。
流山の一件以来、二人の関係はかなり改善された。
土方も紫苑をある程度理解してくれるようになり、互いに弱い部分も見せていると思う。
大鳥に誤解されるくらいには打ち解けられている気がするが、
だけどそれと色恋云々は別の話だと紫苑は思う。

(それに……最近は、よくわからない)

土方の事はもちろん、言葉では言い表せないくらい誰よりも大切に思っている。
だけど他の新選組の仲間だって、とても大事なのだ。
彼らが危険な目に遭いそうになっていたら、それこそ命を賭けて助けたくなるくらいには。

"好き"という感情で表すならば、きっとみんな好きだ。
それを考えると、土方だけに特別な感情を抱いている訳ではないのかもしれない。
そう思えてきて、紫苑は自分自身の感情がよくわからなくなってきていた。

全てが大事すぎて、優劣が付けられなくなっている気がする。

「もういい加減に動けるだろ。いつまでも斎藤に任せておく訳にもいかねぇからな」
「それはそうですけど、すぐに刀振り回さないで下さいよ?完全じゃないんですから」
「ああ、わかってるよ」

(もうすぐ、終わりか……)

この調子でいけば、近いうちに軍に戻れそうだ。
怪我が快復するのは喜ばしいのに、この表向きだけでも平和な日々が終わってしまうのは少し寂しい。

その上、戦に戻れば自分達は劣勢の立場に置かれていて、きっとこの先も楽に生きられない。
土方も紫苑も、いつ戦で倒れるか、もしくは羅刹として滅ぶかわからない。

本当は戻りたくない。
だけど戻らねばとも思う。

土方の代わりに現在新選組を動かしているのは斎藤だ。
紫苑達が療養している間も戦況は動き、戦が続いている。
彼だって、その最中にいつ死んでしまうかわからない。

仲間達をこれ以上死なせたくない、ならば行くしかない。
早く仲間の所に行かなければ、と紫苑は平和慣れしていた思考を振り払う。

「土方さん、この後――」
「う……っ!」

処置の道具をしまいながら振り返ると、突然土方が呻き声を上げた。
ブルブルと耐えるように震え、押し殺しきれない荒い息を吐き出す。

「土方さん!」
「あ……!?く、来るな!」

見開いた彼の目は、血の色。
漆黒の艶やかな髪が、じわりと白色に染まっていく。

紫苑もよく知っている、羅刹の吸血衝動だ。
思わず駆け寄ると、土方は紫苑の肩を押しのけた。

「いいから!ぐ、ぁ……外に出てろ!」
「わかってます。けど、だからと言って見てるだけなんてできません」

羅刹の衝動に襲われ暴れている、獣のような姿を見られたくないのだろう。
それは理解できるし、実際紫苑だってできれば見られたくない。
いつか狂気に負けて自分を失い、すぐそばにいる人を襲ってしまうかもしれないから。

だけどそれと同時に、一人にさせてはいけないとも思う。

羅刹である紫苑は知っている。
永遠にも感じられる時間を独りで耐える事がどんなに辛いのかを。

紫苑は構わず土方の顔を覗き込んだ。

「血を飲んで下さい。鬼の血なら狂気が収まりますから」
「ば、馬鹿な事言ってんじゃねえ!」

その冷静な声に土方は僅かに動揺し、そして苦しみながらも激昂した。
だが拒否される事など百も承知、紫苑は土方の返事を待たずに袖をまくる。

「でもこのままじゃ悪化していくだけです。鬼の血じゃないと駄目なんです」
「っ、お前だって……飲んでねえだろ!俺、だけ……ぅぐ…楽になれるか!」
「……私は構いませんから」
「俺が、嫌なんだよっ!」

紫苑は鬼の血を飲んでいないから、自分だけ飲む訳にはいかない。
そう言われるのは少し意外だった。
こんな状態なのに言葉の意味をしっかり理解し、さらには紫苑の現状すら指摘するとは。
さすが聡い彼だと、閉口した。

彼の意志に反する事はできればやりたくはない。
だけど、紫苑には羅刹の狂気を抑える術がある。
それを使わずに見ているだけなんて、それこそ紫苑の意志が許さない。

「すみません土方さん。でも、お願いですから……」
「っ……やめろって、言ってるだろ!」

刀を差せない代わりに護身用に所持している小刀を懐から取り出し、
自身の腕に当てた瞬間、土方が紫苑に飛びかかる。

小刀が弾かれ、その勢いのまま、どたんと畳に押し倒された。

「はあ……っ、はあ……!」
「…………、」

ゼエゼエと荒い息の、険しい顔をした白い獣に組み敷かれている。
腕を切らせないように紫苑の両手が拘束されている姿はまるで、捕食されるのを待つ獲物のようだった。

赤い目が、ギラリと紫苑を見下ろしている。
だけど怖いとは思わなかった。

彼になら捕食されてもいいと思っているからか、紫苑もまた彼と同じ獣だからか。
ただ、哀しい生き物だな、とそんな事を考えて紫苑は呆けたように土方を見つめ返していた。

「……わかりました。なら、せめて薬を飲んで下さい」
「……っ、」

ここまで彼が嫌がるなら、これ以上無理強いはできない。
根負けして、だからと紫苑が言えば、しばらく真意を窺っていた土方はやがて力を緩めて体を引いた。

動けるようになった紫苑が持っていた薬を差し出すと、土方は一気に口に入れた。
そしてしばらくすると、効いてきたのか色のない髪が漆黒に戻っていった。

土方が衝動を抑え込んでいる間、紫苑は向けられた背中を支えていた。
それ以外何もしてやれないし、あまり心配しすぎても煩わしいだけだろうからと、
僅かに触れる程度だったが。

貴方は独りではないと、ここに人がいるからと、それを伝えるように。
振り払われるかと思ったが、どうやらそこまでの余裕はなかったらしい。

「こ、これが、羅刹の衝動ってやつか……」

初めてだったのだろう、落ち着きを取り戻すと自嘲気味に笑った。

「すまねぇな、紫苑……」
「いいですよ。私は慣れっこですから」
「はっ、こんなのに慣れてんじゃねぇよ」

ついに彼もそうなってしまったか、と紫苑は何となく複雑な気分になりながら、
鬱々とした空気を払拭させるように冗談めかせば、土方もまた笑い飛ばす。

彼の性格を思えば、きっと心配する素振りを見せたって大丈夫だと言い張るのだろう。
普通の状態ならば、弱気な所を見せて紫苑に余計な心配をかけさせる事なんて絶対にしないはずだ。
そういう所、紫苑と土方は少し似ていた。

だから紫苑にできるのは、何でもないという空気を装う事ぐらい。

「とにかく、無理はしないでくださいよ。羅刹って事は自覚しておいてくださいね」
「わかってるよ。まぁ、いざとなったら薬でも飲むさ」
「…………」

薬は、いつか効かなくなる。
それは言えなかった。

言えば、紫苑もそういう状況だと知られる事になる。
そうなったら彼はどういう顔をするのだろう。

それに、

(薬が、残り少ない)

着物の中で、山南にもらった薬包がかさりと音を立てる。
これがなくなったらどうなるのだろう、それは考えたくなかった。






浅葱 九






さくさくと、土を踏みしめる二つの足音。
一歩一歩、ゆっくり歩む自分達に照り付ける、"生命"の光。

こめかみに滲む汗を拭い、紫苑は数歩先を行く土方の背中を見つめた。

「行きたい所がある」

だから付いてきて欲しいと言われ、
行き先も告げられぬまま紫苑は土方の後を追い、しばらくが経った。

互いに、会話はない。
不機嫌な訳ではないのに押し黙っている土方にいつもとは違う雰囲気を感じ取り、何も聞けない。

治ったばかりの体を時折ふらつかせながら、それでも進むのをやめない。
険しい、というよりは必死と形容できる顔付きで、
前に行かなければならない、そんな使命感のようなものすら感じられた。

(痛い……)

今日は特に天気がよくて、鮮やかな空の青色を薄めるような強い太陽が、容赦なく羅刹の体を刺す。
加えて紫苑は今でもほぼ毎日近藤の夢を見ていて、常に寝不足の状態だ。
軽い眩暈をやり過ごして、疲労の溜まっている足を動かしている。

だが土方だって寝不足なはずだった。
どれだけ休みをとってと訴えても寝ようとしないのだから。
だから条件は二人とも同じなのに、この足取りの違いは何なのだろうと紫苑は内心で毒づく。
離されないようにするので精一杯だった。

聞こえるのは、ひたすらに土と砂利と、風に擦れる草木の音。

城下の騒がしい街並みを離れ、人や建物もまばらになった山の麓から、さらに続く山道。
こんな事なら男の恰好をしてくればよかったと、紫苑は苦笑する。
女の着物よりあの洋装なら、もう少し歩きやすかっただろうにと。

石段を一段ずつ登り、自身の重みを感じながら、もう一段。
いくら鍛えているといっても、僅かに乱れていく息を誤魔化して視線を上げる。

(土方さん……止まらない)

彼だって羅刹で、ずっと療養していて体力も若干衰えているはずなのに、歩く速度は一向に緩まない。
彼の意地には本当に驚かされながら、だけど置いていかれる訳にはいかないと紫苑も足に力を入れた。

終始無言のまま登りきると、開けた場所にあったのは寺院だった。

「ここは……」
「天寧寺だ」

鶴ヶ城の東に位置するその寺は、
格式高くありながら世の中の喧騒など嘘のように静かに佇んでいる。

「行くぞ、こっちだ」

てっきり寺に用があるのかと思っていたら、
土方は本堂は軽く参拝しただけですぐに裏手の方へと回った。

横にはまだ山奥への道があり、しかも先程よりも細くて傾斜がきつい。
綺麗に整備されている訳でもなく、どちらかというと獣道に近いそれを、また無心で登っていく。

(この先に、何があるっていうの……)

太陽が煌々と照る昼間のせいもあり、本調子ではない紫苑にとっては辛い道のりだ。
だけど彼の真剣な眼差しを見ていると、付いていかなければならないと思う。

じわりと、全身が熱い。
時折小石やぬかるみに足をとられそうになりながら、それでも上を目指した。

そうして辿り着いた山道の終着点。
本堂のように大きく開かれているのでもなく、木々に隠されているように姿を現したのは、墓石だった。

「これは……?―――っ!」
「…………」

まだ真新しいそれは、今まで通り過ぎてきた他の墓よりも立派に作られている。
初めは誰のものか紫苑にはわからなかったが、次第に疑問が確信へと変わっていく。

目を惹いたのは、"純忠誠義"と刻まれた戒名。
そして、土方があんなにも切なそうな表情で立っている、その答えは。

「……近藤さん、の……ですか?」
「……お前に聞いた時は信じたくなかったが……それが本当だと知ってから、建てさせた」

清水屋から出られない状態だったのに、いつの間に話が進んでいたのだろう。
土方の手際の良さに紫苑は驚くばかりだったが、きっと建てたくなかったのだろうなとも思った。

ポツリと呟く寂しそうな声が、いかに近藤を惜しんでいるのかを物語っていた。

「まだ近藤さん自身はいねえが……いつかちゃんと埋葬させる」

現実主義でありながら、彼は斬首された現実を本当は認めなくなかったはずだ。
だが"罪人"として処理されてしまった以上まともに弔われる事はない、そう思って墓を用意したのだろう。

せめて首だけでも、墓だけでも、と。

「…………」
「…………」

墓石を見つめたまま時間だけが過ぎて、言葉が出てこない。

どれだけ目を凝らしても"誰もいない"石は無機質で、
否が応でも紫苑に突き付けられるのは、ああ、近藤さんは本当に死んでしまったんだという事。

鮮明に蘇るのは彼と過ごした記憶、それから絶命した瞬間。
思い出さないようにしていたその事実に、視界が滲んでいく。

「……覚悟してたんだ、もう会えないかもしれないと」
「…………」
「だが近藤さんの意志は生きている。俺の中に」

土方の言葉は紫苑に言っているようであり、彼自身に言い聞かせているようだった。
涙を堪えたかったのにできなくて、紫苑は思わず顔を背けて俯いた。

「見ろ、紫苑
「……っ」

これが俺達の生きた証だと、彼は言う。

背後にいるから泣いて俯いている事など見えていないはずなのに、
土方の声は逃げるなと言っているようで、紫苑は恐る恐る顔を上げる。

見えるのは土方の背中と、"忠誠"の文字が入った墓石。
太陽に照らされた木々が風に揺れ、時折墓石に小さな影を作る。

「俺だって、何度も近藤さんの夢を見る。
あの時ああしていればよかったかもしれないと、何度後悔したかわからない」
「…………」
「正直……今でも考える」

それは夢を見て魘される紫苑へ向けられた言葉だった。
彼は紫苑の為に、そして恐らく自分自身の為に、ほとんど見せない内心を吐露して諭してくれている。

「だが俺達は……少なくとも俺は、近藤さんがいなくても近藤さんの気持ちがわかる。
近藤さんがこの先どうしたかったのか、そして俺にどうして欲しいのか、わかるから今生きている」

まだ死ねねぇんだ、と彼は呟いた。

(近藤さんが、どうしたかったか……)

彼は、その身を挺して、死にに行こうとした沖田と紫苑を止めた。
生きて欲しいと、ただその一心で。

「っ……!」

涙が、溢れた。

何故、彼を犠牲にして自分が生きているのだろうと何度も思った。
自分が死ねばよかったとも思った。たぶん今でも思っている。

だけどその気持ち以上に、彼は紫苑や沖田が生きる事を望んだ。
自分達の命を惜しんで、望んでくれたのだ。

大切な近藤が大切にしたのは、自分達だった。

(だったら……生きるしか、ないじゃない……っ!)

どんな事をしても、生きなければならないんだ。
幕府の為、誠の志の為、色々な理由もあるけど、恐らくそれ以上に、純粋に"生き残る"為に。

大事にしなかったら、きっと彼に怒られるのだろう。

「……紫苑、お前が夢に見る近藤さんはどんな顔をしてる。
恨んでるか?怒っているか?……笑ってるだろ?」
「……、」

笑って、ます、と喋れそうもなくてそうだと頷いた。
そうだよな、あの人の事だからどうせ笑ってるんだろうな、と土方は答えも聞かず苦笑する。

「俺達は辛いが、近藤さんは後悔してないって事だ。
……笑って死ねる、人生だったと……そういう事なんじゃねぇか」

そうかもしれないと思った。

土方はゆっくりと、時には途切れさせながら、そう結論付けた。
彼もまた、その言葉を自分に言い聞かせて、納得しようとしていた。

「だから、お前も笑え。近藤さんの意志を背負って、前へ進め。
俺達が死んだら、それこそ近藤さんが本当にいなくなっちまう」
「……、はい…っ」
「近藤さんが笑ってるのに、俺達がいつまでも立ち止まっている訳には、いかねぇよな……」

それは、二人の決意なのだろう。

紫苑と同じく、近藤の死に囚われて動けなくなっていた土方が先に進む為の。
これから再び戦に身を投じる自分達が、越えなければならないものだろうから。

ずっと墓石を見つめていた土方が、振り返る。
ぼろぼろ泣いている紫苑を真っ直ぐ見つめて、頷いた。

「夢に恐れる事なんか何もねえ。近藤さんが夢に出てくるのは俺達が弱いからだが、それはもう仕方ねえ事だ。
だから近藤さんが傍にいて、お前の力の糧になってくれる……そう思えたら、少しは楽になれるんじゃねえか」
「……力の、糧に……」
「ああ、近藤さんは俺達を絶望させようとしているんじゃねぇ、生きさせようとしているんだ。
だから近藤さんの為にも生きてやろうと、その感情を武器にできたら……お前は強くなれる」
「…………っ」

涙が、頬を流れていく。
悲しみの雫が太陽に反射して、光のように輝いた。

(近藤さんが、力に……)

伝えたい事を言い終わったのだろう土方が、黙ってじっと此方を見守っている。
悲しい気持ちと、言われた言葉でいっぱいになった頭を少しずつ整理させると、
ようやく踏み出して、"近藤"と対面してみようという勇気が生まれた。
ずっと動けなくなっていた足を動かすと土方の横も通り過ぎ、紫苑は近藤の墓前に立つ。

自然の音だけが満ちているこの山で、誰もいない彼の墓はそこに証として立っている。
背景に背負っているのは青々と生い茂る草木と、そこから透ける太陽に薄まった空。

まるで、浅葱色だ。

(近藤さん……っ)

優しかった人、自分を受け入れてくれた人。
豪胆で、真面目で、真っ直ぐだった人。


――紫苑――紗矢ちゃん――


忘れる事なく耳に残っている、彼の声。


――トシを、支えてやってくれ――


彼がいたから、自分は今こうしている。
竹刀を握り、刀を握り、そして仲間に出会えた。

そして、生きている。

「近藤さん……っ、……ごめんなさい」

どうやったって忘れられるはずがないのだ。
夢になって現れるのなんか、当たり前だ。
紫苑の今の人生を形作った、そのうちの一人なのだから。

そしてこれからも、彼はずっと紫苑の世界にいつづける。

だから、無理に振り切る必要はないのだ。
彼の意志を背負いながら、少しずつでも前を見て、歩いていかなければならないのだろう。
感情を武器にしろ、とはその事を言っているのだと思う。

立ち止まっていて、ごめんなさい。

まだ完全には整理できそうもなくて、ありがとうとはまだ言えなかったけど。


「近藤さんに助けてもらった命……無駄にしません、から」


だから生きます、最期まで――


心の中で誓い、顔を上げると、太陽の日差しがチカリと眩いて目に入る。
痛いと思ったけど、それが近藤の激励のような気がした。

止めどない涙を拭い、口角を上げた。
そのまま紫苑は土方に振り返る。

「ありがとうございます土方さん、連れてきてくれて……もう、たぶん、大丈夫です」
「……そうか」

土方自身のけじめの意味もあるのだろうが、
近藤の夢を見続ける紫苑の為にも、此処まで連れて来てくれたのだろう。

(土方さん……近藤さんの夢を見ないようにしろとは言わなかった)

夢を見るのは自分が弱いから、強い心であれとは言わなかった。
弱いなりに、それを糧にして強くなれと言ってくれた。

そんな土方の不器用な優しさに触れて、彼の言うようにせめて笑おうと思った。
濡れた目で無理して微笑む紫苑に、土方はそれ以上何も言わなかった。

ただ、仕方ないやつだな、とでも言いたげな、柔らかい顔で目尻の涙を拭ってくれた。


太陽が眩しい日だった。


その日を境に、近藤が斬首される夢を見る事はなくなった。











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すごく書きたかった話なんですが、かなり難産でした…。