八年間、探していた。


本当の主をなくした時も、
滅ぼされるのを恐れるために敵に屈しなくてはいけなくなった時も、
私を拾ってくれた老父が盗賊に殺された時も、
護衛していた城の男達に襲われそうになった時も、
酷い取り立てをする領主に抵抗して殺されそうになった時も、

何度も執念で立ち上がってきた。
守るべきものを守れなかった自分は、もう世を変える事しか残っていなくて。

あの人を殺した世を変えてからではないと、死ねない。
ずっとそれができる人を待っていた。

義を義だと貫き通し、それを実行に移すだけの力を持った人を……探していた。


「…………誰……?」






霞む景色の中、彼の軍旗であろう赤い印が目に入った。






「貴様等を不義により処罰いたす」





きっぱりと言い放ったその言葉に、涙が出そうになった。





この屈辱を裏返した、初めての人。
その時、私は既にあの方だと決めていた。

正しき者が住まい、誰にも侵食されない平和な地。
それが、あの方になら成し遂げられるかもしれない。


あの方が死んだら、私も死のうと決めた。
ここまで強い人が無理ならば、もう不可能なのだろう。

この地で出会った事がきっと天命だったのだろうと、諦めよう。




ようやく……見つけられたかもしれない。






1・最後の主






地響きと共に前方から無数の馬の音が聞こえたと思った。
しかしその次の瞬間には、もう敵はほとんど残っていなかった。

私達がこれほど惨敗した相手を、新たに現れた部隊はいとも簡単に攻め落としてしまっていた。

数はそれほど多くない、でもここからでもわかるほど連携のとれた戦法。
迷いのない圧倒的な策。

ほどなくして、笑みを浮かべていた領主は、縋るように馬上の将軍に命乞いをしていた。








「遅かったか」
「そのようです」

領主の言葉には全く耳を貸さず、縄で縛り上げてさっさと連れて行かせた。
あの者が賄賂などで不正を働き、さらにそれに対抗する義勇軍とで争っていると聞いて来たが、
一足遅かったようでもうほとんど生き残っている者はいない。

しかし、見渡す限り義勇軍の死体の平原で、折れた槍を支えにしながらこちらに向かってくる人影が見えた。
即座に反応する護衛達に「待て」と命令し、三成はじっと待っていた。

「……女?」

その細い足腰から、生き残りの護衛の少年かと思っていたが。
全身血まみれで容姿などはわからなかったが、その双眸は間違いなく女だった。

今にも倒れんとする体で、だが瞳は真っ直ぐに三成を見据えていた。

「……ありがとう、ございました……」
「義勇軍の者か」
「は、い……あの……貴方さま、の……お、名前は……?」
「…………石田三成だ」

名乗った直後に崩れ落ちたので気絶したかと隣の護衛が狼狽していたが、
それは気絶ではなく、伏礼だった。




ずっと、待っていた……義を、貫こうとするお方を。
この方の元に仕えれば、世は正しくなる……そんな人を探していた。

本当はどんな人かわからない。
どこの将軍様にでもいるような、血も涙もない人かもしれない。
今この時に初めて会ったばかりの人なのに。

でも、それでもよかった。

頭では冷静になれとそう言ってるのに、体が勝手に動いて口が震える。
悔しくて八年もの間彷徨っていた……それももう、終わりにしよう。



おそらくこれは必然的だった。




「どうか、私も……三成様の軍で…使ってください……お願い、します……っ」
「…………」


ゆっくりと顔を上げると、馬上の三成はただ無表情でこちらを見下ろしていた。
返事を聞く事もできず綾葉の視界は真っ暗になり、そして意識を手放した。




冷たい目、それでもいいと思った。

だって、それならばあの人とは正反対だから……それがいい。





ようやく、私は死に場所を見つけられたのかもしれない。



正義の名のもとに死んでいけるのならば、それでいい。











Back Top Next



ヒョイヒョイ話が飛んで申し訳ないです。
こんな感じでテンポよく進んでいきます。