目が覚めた自分は城の中にいた。
あの場に放り出されず手当されているという事は、従軍を許されたのかも知れないと綾葉は結論付けた。

しかし、素性も武功も何も晒していない自分はやはりただの雑兵のようで。
おそらく怪我が完治すれば次の戦いにでも自分は前戦送りだろう。

何度も自分は前戦で血と泥にまみれて戦ってきたから、今更そんな事で怯んだりはしないけど。
どうして自分はまだ生きているのだろう、そればかりを考えながら。
だけど、もう苦汁を舐める日々から抜け出せるのかもしれないと考えると、不思議と暗い気持ちにはならない。


「本当運がよかったよ、あんた」


軍医らしき人にそう笑われた。
ほぼ全滅の戦の中で生き残り、さらに三成様に助けられた事を言っているんだろう。

石田三成……あの、赤みがかった鷲色の髪は長く。
表情を崩すことを知らぬような、冷たい目。

此処に来て、三成様が羽柴秀吉の小姓として仕えていると知った。


まさか……羽柴秀吉の軍に入る、なんて……
いや、考えまい。直接的には、彼ではないのだから。


必死で三成様に従軍したけど、まさかずっと避けてきた名前に辿り着くとは思いもよらなかった。

今更逃げる事なんてできない……秀吉、様がどんな方かわからないけど……
三成様は……義の方だ。
その三成様が仕えているのだから、まだ決めつける事はできない。

秀吉様が義の方か、前戦から見極めさせてもらえばいい。




ここは……最初の地であり、また最後の地なのだから。






2・始まりと終わり






傷が治ると、綾葉はすぐ戦線へと飛び込んだ。
愛槍であったものは先の戦いで壊れてしまったために、新しいものを拵えた。
なくなっては、また新しいものを手に入れる。
愛着がなかった訳ではないのに、じきに新しいものへと体が慣れていく。
新しいものへと、自分は適応していっている。

この戦いと同じだと思った。
人を斬り、一小隊倒せばまた新たな小隊が現れる。
全てが等しい命のはずなのに、次から次へと命を散らして。
初めて戦に出た頃はその散っていった命に涙を流した。
夜も眠れずに、怖くてずっと震えていた。

そんな時に、優しくあやしてくれたのは―――


「……っ!」


いつになったら、私は死ねる?

この槍を投げ捨てればすぐにでも死ねるはずなのにそれができない。
死にたいのに、生き残りたい。
何かを待つかのように、未だに私の腕は人を殺し続ける。

喉が熱くてザラザラする。
キィンという嫌な金属音を立てて周りの敵を一層すると、チラリと山の上にある赤い旗を見た。


ただ………私の生に、意味がほしいだけなのかもしれない。









「ほぉ~あの者やるではないか。あんな雑兵の中に逸材がおったとはなぁ」
「はい、使えます」

遠い山の上からでもわかる、一人だけ身にまとうものが違う人材。
あれほどなら小隊を任せてもいいぐらいの腕だ。

「三成が連れてきた娘子というのはあれか?」
「……そのようです」

戦いが始まるまで完全にその存在を忘れていた三成。
軍に入りたいと言うので入れてやったまでだが、彼女がどこまでの腕かなど全く気にも留めなかった。
おそらく、こうやって活躍している所を目の当たりにしなければ永遠に忘れていただろう。

「今度はもっと近くで見たいもんだな」
「………は」

それは、彼女をもっと上の地位に上げろという秀吉からの打診であった。
三成も彼女ほどの腕の持ち主をただの一兵卒にさせたままになどもうする気はない。






戦いが圧勝で終わった後、私だけが三成様に呼ばれた。
久しぶりに近くで見る、茶色がかった髪とその感情のない目に綾葉は緊張を隠せずにいた。

「お前、名は?」
「……綾葉と申します」
「俺の下で、義を同じくし、その力を振るう気はあるか」

その言葉を聞いたとき、何故だか笑みがこみ上げた。
嬉しくなかった訳じゃない、だけどそういうものではなく、どこか自嘲に似ていた。

この人に仕えれば、私は正義を貫ける。
不義で死んでいった人達の為に、そして最後まで義を重んじた人の為にも、世を直さなくてはならない。

この方なら、できる。


「……もとより、誰でもなく三成様に仕え戦う事が私の喜びだと存じております」
「………そうか」


この方……三成様に仕えていれば、おそらく私は笑って死んでいける。



「ならば付いてこい」



最後まで笑顔だったあの人のように。











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まだこの頃は三成様、そんなに有名じゃない(はず)
真田幸村も直江兼続も左近も出やしない。
会ったばかりなのでヒロインも色々と誤解してます。

まだ暗い。そのうちちゃんと明るくなります(はず)