初戦で武功をしらしめたらしい私は、狭いものの城下に一室を与えられた。
三成様が女(しかも戦う女)を連れてきた為に城の中が軽く騒ぎになったらしい。
秀吉様のご正室のおねね様など「三成もとうとう身を固める気になったのね」なんて喜んでいた(三成様はきっぱり否定していた)。
余談だけど、おねね様はとても優しくて尊敬できる方だった。

城での生活はほとんどが稽古だった。
力で物を言う巨漢や、腕の覚えのある武将達が大勢いる中で槍を振るった。
そしてやはり私が「三成様が連れてきた噂の女武士」という事で何度も手合わせを申し込まれた。
それに関しては特に嫌でもなかった、強い武将と戦えばより自分の力を磨くことができるから。

でも汗を流した後、彼らは決まってこう言うんだ。

「三成殿もとうとう嫁をもらったかぁ!」
「さすが三成殿の寵姫!」

「……だから嫁じゃないんですけど」






3・襖障子の向こう






稽古が終わると、皆各々の空き時間を過ごし出す。
またもう一汗かこうと剣を握る者、部屋にこもって物書きや読書をする者、主の傍に戻る者など。
不幸な事に、綾葉には空いた時間を埋めるような有意義な趣味は持っていなかった。
また稽古をしてもいいのだけれど、何度も手合わせした後なのでそんな気にはならない。
城に来て間もない為に碌な書物も持っていない。

……あと残るのは。



「三成様」
「誰だ」
綾葉です、お茶をお持ちしました」
「……女中でもないお前が?まあいい、入れ」
「はい」

静かに襖障子を開けると、あの鷲色の髪の主は書状をしたためていた。
どうして女中じゃないのかって、それは女中が貴方に怯えているからだと思うんですけど。
三成様は特に私の方も見ようともせず終始筆を動かしていた。
私がいてもいなくても特に興味なさそうな主。

静まりかえった室内、筆の音だけが微かに存在する。

「お茶を出すことぐらい、女中じゃなくても主に仕える者なら当たり前ですよ」
「……そうか」

返事が返ってこなくてもいいと思って言った言葉だったけど、主は一言だけ反応した。
数日、この主に仕えて少しだけわかった気がする。
彼は確かにぶっきらぼうだし、無表情だし、さらに喋る言葉には棘と皮肉だらけ。
だけど女中が過剰に怯えるほど真に冷酷冷徹という訳ではないように思う。

……とりあえず、粗相をはたらいて斬り捨てられるという事だけはなさそう……


私は彼を嫌いではない。
それはそうだ、義を貫く為の主として決めたのだから。
それに城に士官する前に必要な事を聞かれた以外、
彼は私の生い立ちなどを詳しく聞いたりしなかった(というか事務的な話以外した事がない)。
自分の駒には興味がないだけかもしれないが、根掘り葉掘り聞かれるよりかはよっぽどよかった。
私は結局、家が仕えていた家が滅んでしまったので各地の城を転々としていた後、
義勇軍に入ったという経歴でおさまった。

「……何か用か?」
「いえ、失礼します」

その辺にいる武将に、(向こうは気遣ってくれているのかもしれないけど)やれどこの武将に仕えただの、
やれ出身はどこだなどと寄ってくるより、この静かな何もない空間のほうが嫌いじゃない。


空になった湯呑みを盆に乗せ、入ってきた時と同じように退出する。
主は最初から最後まで私の方を一度も見なかった。



……でも私は別に主が冷酷な人間でもいいと思う。

私はたぶん、三成様の冷たい目が気に入っているのだと思うから。











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今回短め。

ヒロイン、主と決めたからには律儀なんです。
暇だと思ったら主の為に働く人。